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力が手に入った

「はあ、めんどくさいな」

 いつものように、いつもの通り不平不満を吐く。

 独り言を聞かれていないか周りを見て確認――――よし、誰もいない。

 俺は暑苦しい個室で思い切り息を吸い込んだ。


「――――――――クックック、我が名はダルバスト・ハルキリス。20世紀を超えて、この世に現れた。貴様ら、我が力に屈服するが良い!」


 近くにあったデッキブラシを手に取り、体にまとわりつかせる様に回転させていく。

 そして、頭の中で作り上げた仮想人物を、これまた頭の中で作り上げた最強武器、ディヴァインソードで切り付けていった。


『デュクシュ!』


 脳内の効果音はさらに僕の勢いを増長させる。


『バシッ! ズサッ! ザシュッ!』


 反撃をしてこない顔無しの人物を次々と切りつける。

 そうやった、一方的な展開はいつもの事。

 僕は、額に汗をかき、それを体操服で拭おうとしたところ――――


「何やってんだ、春木」

「っ!」

 僕は思わず体をハネさせた。

「な、なんでもないよ」

「そうか? すんげー、ブラシ振り回してたけど」

「えっと、えっと。何かこの部屋、ハエがたかってたからさ」

 赤みがかった剣山のような髪を揺らし、僕の方に向かってくる。

「な、何、健人!」

 僕はバレていないことを心の中で願いながら、一生懸命に健人の瞳を見つめた。

「――――――」

 僕を不安にさせるかのように無言を突き通す。

「――――――――――――まあ、どうでもいっか」

 そう言って僕の横を通り過ぎた。

「俺は先にプール行ってるから。お前も早く来いよ」

「あ、ああ」

 去っていくところをしっかり確認し、僕はため息をついた。


 危なかったー!

 もう少しで、楽しい学園ライフが台無しになるところだった。

 …………じゃなくて――――クックック、我が秘密を守り通したぞ。貴様ら愚民どもに、俺様の力を見せるなんて馬鹿な事、するはずがなかろう。


 そう心でつぶやきながら、悪そうな顔をする。

 



 これは僕の一種のストレス解消法だ。

 人とは違ったことをすることによって、一種の優越感を得る。その優越感が僕の支えになってるといっても過言ではない。

 

 って、大体こんな感じなんだよね厨二病が発症するのって。

 憧れ半分、優越感半分。

 それが大概の原因だと思う。

 とは言うものの…………


「マジで魔法って使えないのかな」


 僕は心のおもらしを我慢できずにしてしまった。

 さっきと同じように周りを確認。もちろん誰もいなかった。

 

 無理だよな………………


 悲嘆しながらデッキブラシを近くの壁に立てかけた。

 そして室内にあるロッカーを開け、バケツと束子(たわし)を取ろうと手を伸ばした。


『――――――――ありますよ』


 …………はい?

 頭の片隅から聞こえるように女の子の声が脳内を揺らす。



『だから、ありますよ』


 ……………………何が?


『魔法です』


 僕はバケツと束子を、立てかけたブラシの横に置きながら脳内の彼女と話しを続けた。


 …………どこにあるのさ。


『私が差し上げます』


 意味がわからないのだが。


『すいません、今時間が無いんです!』


 時間?


『説明は後でもいいですか? とりあえず、私と契(ちぎり)を交わしてください』


 契ってなんだよ。


『脳内で、力をください、と言うんです』


 それだけ?


『はい』


 僕は、アホらしいと思いながらも、小さな希望を抱きながら、頭の中で「力をください」と言った。


 …………これでいいか?


『ありがとうございました、これで私たちには見えない糸で繋がれました。そして私が現れる条件は――――』


 僕は、何も起こらない状況に不満を抱きながらデッキブラシを手に握った。

『え、ダメっ――――――!』


 その言葉の通り、危うそうな光がデッキブラシから放たれた。

 目を焼き付けるように眩しく、その輝かしさはダイヤモンドを超えるほどに。

 数秒光ったところで、ブラシから輝かしさは消えていた。


 なんだ、僕、頭おかしくなっちまったのか…………


 自分の頭の異常さを心配しながらもデッキブラシを見る。

 すると、あろうもことか――――


「馬鹿なんじゃないんですか!」


 …………デッキブラシが喋った。


 …………いや、僕の幻聴かもしれない。確認しよう。


「あ、あのー」

「死んでください」


 幻聴じゃないっ!?

 

 僕はさらに声をかける。


「ど、どなたさまですか?」

「先ほどの者ですっ!」


 デッキブラシは確かに喋っていた。

 そして先ほどの者という発言から全てを察する。

 

 これって、さっきの脳内少女!?


「そうですよ」

「え、今の聞こえてた?」

「聞こえますよ。私たちは見えない糸で繋がってます。だから脳内で会話ができるんです」

「へー………………ってすごいなそれ!」


 さらりと流そうと思っていたが、脳内でよく吟味すると、あまりにもすごいことだと気づき、驚きの声を上げてしまった。

 あまりにもすごいことで、僕は次々と聞いてみたいことが頭に浮かんだが、それを口にする前に、何かが顔をかすめる。


――――――フィンッ!


 その”何か”は僕の後ろへと流れた。

 そして頬のあたりが、不思議と熱をこびる。

 僕は暖かくなった部分に手を当てる――――――――手には血がびっしり。


「――――――いったあああああああああいいいいいいいいいい」


 後からの激痛。

 困惑の状況。

 最悪の光景。


 頭が回らなくなり、ただ口だけが痛みを表す。


「落ち着いてください」


 デッキブラシはそんな現状でも落ち着いて指示をした。

 僕は、なけなしの理性を使い、必死に痛みをこらえながら答える。


「落ち着けるかっ! めちゃくちゃ痛いんだよ!」

「そんなはずはありません。落ち着いて、痛みを確認してください」


 そんなはずは…………

 そう思いながら改めて傷口を触りながら痛みを確認する。

 すると、先ほど感じた痛みは無くなっていた。


「あれ…………なんで」

「その話しは後で! 今は――――――――」


 その言葉と同時に同じ閃光が俺の頭上を過ぎていった。



「――――逃げてっ!」



 デッキブラシの合図と共に、俺は鈍い足を思い切り動かす。



「なんで、こんなことに」

「これが力を手に入れるってことです」


 そうなのかよ…………

 

「そうなんですよ」


 脳内までに干渉してくるデッキブラシが憎くなるが、今はこいつの言うことを聞こうと、とりあえず走った。



 倉庫を出て、左を進む。

 右側にはプール、左側には校舎。

 その直線の通路を過ぎていく。

 もちろん、プールには沢山の野郎どもが、一生懸命にブラシでプールを掃除していた。

 僕はそいつらに気づかれないか心配するが、不思議と気づかれずに通り過ぎることができた。



「一般人には、見えないから気にせずに走ってください」

「っ! このデッキブラシはおいちゃダメ!?」

「ダメですよ! これと接触していないと、私と会話することもできないし、一般人に見えるようになってしまいます」


 つまりこれを持つことによって、透明人間になれるってことか。


 少ない情報でこの場を理解し、納得しつつも足を緩めない。

 

 僕は直線を通り過ぎ、すぐ右の裏門を過ぎていく。裏門を出て左と直線の分かれ道。

 僕は大通りに出る直線を選んだ。


 先へ、先へ、先へ。

 足を交互に前に出す。

 そして体力を消耗していき、足の動きが次第に鈍くなっていく。


 疲れて地面に倒れ込もうとしたところで、再び恐怖の光が。


――――サッ!


 次は右肩をかすめた。

 もちろん激痛が走る。


「うっ!」

「大丈夫です! 一瞬だけこらえて!」


 その言葉通り、痛みは一瞬にしてひいた。



「そこの通路を左に行ってください」

「左!?」


 左は、駐車場。

 逃げ場のない広場である。


「いいから行ってください!」

「は、はい!」


 姉さんに怒られたかのように、反射的に返事をする。

 そして石と化した足を進め、左折をし、駐車場へと出る。


「そこの黒い車の後ろに回ってください」


 言われた通り、車の後ろに隠れた。

 それと同時に、光線が僕の傍らをすぎる。


 あぶなっ!


 危機感を感じつつも、安堵する。

 すると、不意に駐車場の入口から声がした。


「――――――――絶好のカモね!」


 そこには

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