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一歩目

全寮制・光塚学園は都内外れの広大な土地に建設された由緒正しい私立高校だ。

通う生徒は皆どこぞの御曹司やご令嬢、という噂だが、あながち間違っていないだろう。

学園の駐車場には高級外車がずらりと並んでいた。


この学校のコンセプトが勉学集中、将来の自立のために全寮制にしているらしいが、いざ寮に着くと

後者は絶対に嘘だと思った。



「いやー、世話係りを置いておける寮はここくらいだからね!安心して息子を預けることができるよ!」




寮の玄関で誰かと話しているのは誰もが知っている大企業の社長だった。その息子は大柄な彼の影に隠れて姿は見えなかった。


生徒一人につき世話係り一人、それは知っていた。

しかし自立を謳っている学園なのだから、世話係りを連れてくる生徒は少ないと踏んでいたが、どうやら大半の生徒は同伴寮生活のようだ。

高校生にもなって、と思うが今まで春日井さんにお世話してもらっていた僕には何も言えない。

その横を通り過ぎると寮のエントランスにはリゾートホテルのごとく大理石の白で統一され、壁にはナポレオンの絵画が飾ってある。


「あの、1025室の一ノ瀬有希ですが、鍵をいただけませんか?」


僕は自分の部屋の鍵を受付で受け取ると、早速部屋に向かうことにした。


人の数だけある赤い糸は、廊下に無造作に散らばり僕の足に絡みつくような錯覚に陥る。

実際見えるだけで触れるわけでもないのに。


慣れたはずの光景に短く舌打ちをし、なるべく視界に入れないようにしながらこれから自分の家となる部屋に脚を踏み入れた。




間取りは事前に資料を見ていたが、まさかこんなに広い部屋とは、正直驚いた。

2LDKだが、広すぎる。

・・・光塚学園、恐るべし。

恐る恐る靴を脱いで、奥に進むと自分のネームプレートが貼ってある部屋を見つけた。どうやらここが寝室らしい。

物音一つしないということは、相部屋の相手はまだ着ていないのだろう。

そう思いながらそっと自室に入ると、そこには見知らぬ金髪男が僕の真新しいセミダブルのベッドで眠っていた。

本当は実家にあるベッドを持って行きたかったのだが、春日井さんが入学祝いに購入してくれたのでありがたく使わせてもらうことにしたのだ。

しかし僕より先に見知らぬ、恐らく同室のでかい男が眠っている。


「・・・あの・・・」


戸惑いながらも、恐る恐る声を掛けるが目の前の男はピクリとも動かない。

仕方なくベッドサイドに近寄って膝を着くと、恐ろしいほど顔の整った金髪男がぐっすりと眠っていた。

外人のような容姿に驚きつつ、再度声をかけてみるが無反応。

人のベッドで熟睡されても困る。


「・・・いい加減起きてください!」


意外と僕は短気らしい。

久しぶりに発した大声に自身もびっくりしたが、その勢いで彼を揺すってみた。


「ん・・・」


ようやくうっすらと目を開けてくれた彼は、僕に気づくと綺麗なエメラルドグリーンの瞳を見開いて勢いよく起き上がった。


「うわ!ここは女子寮じゃないよ!君間違えてるよ!」


慌てながらそう言う金髪男は、ベッドサイドで膝立ちしている僕の肩を掴んで揺さぶりながらそう叫んだ。

急に触れられ思わず身を捩ったが、思いのほか強く掴まれていたため振りほどけない。

重ねて失礼極まりない男だ。


「離せ!僕は男だし、ここは僕の寝室だ。」


「・・・え、嘘でしょ?・・・あ!あれでしょ!男装して憧れの先輩に会いにー・・・ってうち共学だから男装しなくても大丈夫だよ?」


未だに僕を女性と勘違いしている金髪男は何やら一人で盛り上がって、女だったら蕩けてしまいそうな微笑みを向けてくる。

てゆーかその設定・・・どこぞの少女漫画だ。


「・・・いくら背が低くても華奢でも、僕はれっきとした男だ。」


「・・・マジ?」


自分で言ってて悲しくなるが、加えて母に似たこの女顔。

幼い頃はよく女子に間違えられたが、他者との関わりを絶っていたのでそういったことも無くなっていた。

じろり、と睨みつけると、彼は申し訳なさそうな顔をしながらようやくベッドから立ち上がった。

どうやら僕が男だとようやく信じてくれたようだ。

しかし立ち止まったまま出て行く様子がまるでない。なぜ笑顔で僕を見るんだ。


「ここは僕の部屋だ。いい加減出て行ってくれ」


立ち上がって彼を下から睨みつつ、苛立ちを隠さずにそう言い放つが彼の笑顔は崩れない。


「まぁまぁ、同室なんだし仲良くしようよ!俺は嬉野耀司!よろしくな有希!」


無遠慮な発言と共に、同じように無遠慮な彼の右手が俺の頭をそっと撫でた。





久しぶりの他者との接触に、二回目は何故か反応することができなかった。





少し加筆&訂正しました。2013.12.19

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