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break the world on sword   作者: 雛仲 まひる
第二章 聖バレンタインの日の約束
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聖バレンタインの日の約束 2

 2124年、2月14日。


「ふっふ~ん♡ なんか楽しいね、久しぶりにお兄ちゃんとお出掛けデート♡ イベントの場所に着くまでにいろいろ見てこうね? 美味しい物探しもしよっか?」


 鼻息を荒げてご機嫌な妹を見ていると「お願~い」を聞いてやった甲斐があるなぁ~、なんて思うかっ! 


 なにが悲しくて仮想世界まで来て妹と腕組んでデートしなくちゃならんのだ。


「お兄ちゃんも可愛い妹とデート出来て嬉しいでしょ?」


 別に嬉しかねぇーよ。


 でもまぁ確かに息抜きは必要かもな。妹の嬉しそうな顔を見ていると心底そう思う。


 こいつの生き生きした笑顔を見るのは久しぶりだ。


 妹が出掛けようと言い出さなければ、俺は今日もレベル上げに興じていただろう。


 でも他にやることないんだよな、この世界って。


 兎に角、この世界自体が娯楽ではあるが、その娯楽の中で日常を過ごすことは、それはもう娯楽ではなくなってしまっているのだ。


 生きていれば腹は減るし食べていくためには金が必要だ。


 ただ単に生活の場がリアルに約束された、本来のゲームとしてならば娯楽自体であるはずのクエストや狩りを楽しめても、リアルに帰還出来ずデスゲームを強いられ、この世界の中で生きていかなければならなくなれば、各ステージで請け負えるミッションも狩りも便宜上仕事、という方がよりプラチカルと言えるだろう。


 夜になれば寝る場所も必要で宿屋に泊まらなくてはならないし、寝るだけなら安全な街の路上でも公園でも何処でもいいのだが、それではHPは回復しても、肉体ごと量子変換されたフルダイブであるが故に、感じる疲れまでは十分に取れやしない。


 毎日のようにフィールドに出て狩りやミッションをしてレベル上げをするのは勿論、お金を稼ぐためでもあり、生きるためには必須だ。


 疲れを溜めたまま生きるために行うミッションや狩りに出掛けたはずが、その影響が出て死んでしまっては本末転倒も甚だしい。


 HPゲージは一晩眠れば、また回復薬や結晶で回復するけど、それは見た目の数値であって、見えない疲労やダメージの蓄積、メンタル面の消耗までは回復してはくれないからな。


 それにこんなのでもアキは女の子で、VRMMORPGなどのオンラインゲームでは男性プレイヤーに比べれば、圧倒的に少ない女性プレイヤーだ。


 犯罪防止設定や倫理設定など、被害に遭う前に阻止するための防犯が施され守られているとはいえ、例えシステム的に保護された街や安全地帯などのエリアでも野宿させるわけにはいかないよな? 


 もしアキになにかあったら、アキを傷つけた奴を全員PKみなごろしすることも俺は厭わないだろう。


 そうなれば防犯監視システム(SMS)に触れて犯罪者を示す、それも殺しなどの凶悪犯を示すレッド表示に変わる、あっこの頭上に浮かんでくるくる回っている四角錐の青い色のカーソルのことだけど、それ黄色または赤に変化することになる。


 倫理観念システム(EMS)は本人の意思で解除することが出来るのだが、それはその……なんていうかフレンド登録では解除は出来ないシステムになっている。


 パーティーを組んでミッションやフィールドモンスターを狩りに行くときに仲良くなったプレイヤーたちと単に連絡を取り合ったりするために自身のアドレスを教え合うことをフレンド登録、そしてフレンド登録した男女が更に親密になって告白をして相手が受諾すれば交わせるようになるカップル登録を選択でき、倫理観念システム(EMS)がメニュいに追加される。


 実際にこのシステムでカップル成立後、リアルで結婚に至ったプレイヤーいるらしい。


 また即席パーティーと言うものもあって、フィールドやダンジョン、ミッションなどで、その場限りのパーティーを組む際には、単にパーティー登録で表示されるペアプレイを承諾すればいい。


 そしてカップル登録に至ると、余りにもリアルになり過ぎた感覚を持つ肉体はリアル同様にセクハラやレイプなどの危険も孕んでいる為、そのような行為を未然に防ぐ為に、常時には性的犯罪防止機能が働いているのだが、カップル成立した当人同士の間だけ倫理観念システム(EMS)の頚木くびきが解除されOFF設定となって、つまりはなんだ……前作で俺とアキがやっらかしちまった男女の営みが出来てしまう、ということになんだよ。


 またカップル登録以上の設定にはいろいろシステム上で追加機能や特典が付いたりもする。


 カップル間には共有アイテムボックスがポップアップウィンドに追加され、共有アイテムボックス内に入れたアイテムや武器は当人同士間で自由に使え、またやり取りが交わせるようになるようになる。


 カップルの共有アイテムボックスとはまた違って個々の所有するアイテムやお金に至るまで、お互いが持つデータの全てが相手に開示されることになる。


 またカップルが成立したプレイヤーには特典が付く、その具体的な特典とも言えるのがカップル割引だ。


 カップル登録以上の登録をすれば通常一部屋に複数人で泊っても一人一部屋分の料金を支払うことになる宿屋の宿泊費が一部屋分で済み、しかもカップル割引きまであるし、宿屋に限ったことではなく、食事をするレストランや限定イベントなどにも反映されたりもすんだ。


 えと、倫理観念システム(EMS)だけ説明したけど、つまりなにが言いたいかというとだな? この仮想世界でも生きるためには金がいる、それ以外はやる事がなくちょー暇ってことなんだよ。


 金を得るにはモンスターを狩るかクエストをしなくちゃならない。


 また職人スキルのパラメータを地道に上げて、スキルを習得して商売をし金を得なければ、生きていくことが出来ないんだ。


 そうなればゲーム自体がミッションやモンスターを狩って名声やアイテムを収集して楽しむ娯楽であっても、その娯楽の中で生きていかなければならなくなると、それはミッションもモンスター狩りも娯楽ではなくなってしまう。


 つまり本来娯楽であるミッションやモンスター狩りは便宜上仕事をしているのと変わらなくなると、元々娯楽の中にいる分、システム上に組み込まれたイベント以外の娯楽は用意されておらず極端に娯楽の少ない世界で生きなければならず、ミッションや狩りに出なければ毎日がちょー暇なのだ。 


 しかしミッションや狩りに出続ければ疲労が溜まる、休みは定期的に設ける、ちょー暇の繰り返しになるんだよ。


 故に自主イベントを行うプレイヤーたちが現れたりもするのだ。


 つまり空ちゃん(アキ)は今日の休みにやることが無く、ちょー暇をしていて退屈になっているということだ。


 それ故にカップルが成立したプレイヤーたちは、休みになると宿屋ら持家やら人目の無い野外やら、場所を問わず猿化する。


 そうでなくても普通にログアウト出来た前作でも、俺と空ちゃんはゲーム後半飽きて来てゲーム内で会えば猿化したもんだ。


 無論その時はアキとなのるプレイヤーが空ちゃんだとは知らなかったんだけど。


 とまぁそんなわけもあって、この世界で男性プレイヤーより圧倒的に少ない女性プレイヤーは物凄くモテる。


 空ちゃんは見た目は無駄に可愛いもんだから、そんな妹を持ってしまったお兄ちゃんは大変なのです。


 別に俺はシスコンではないけど、特に娯楽も無く故に男性プレイヤーにとって女の子とのイチャイチャが唯一の娯楽とも言え、カップルともなれば退屈な日常で猿化する腐った世界で、デスゲームを強要されたこの世界で妹を守ってやらないといけないのです。


 えっ? なんだって? 俺たち兄妹がどの登録をしているか気になるだって? それはまた何れ解かるよ。




 ヨーロッパの田舎を思わせる長閑なフィールドをアキの手を引いて歩いて、目星を付けた場所へと向かっている。


 俺たちは二人だけで基本的には行動をしている、そのフットワークの軽さで、フロアボスの住処を探しながらアースガルズ国内は全て周っていた。


 メッセージにあった“力の塔”は広いアースガルズの国には一つのフィールドにしか存在していないことで容易に場所を特定出来た。


 最初の奴からの挑戦状イベントは比較的簡単に解く事が出来るものにしたのだろう。


 視界の右上に表示されたデジタル時計で時間を確認した。


 恐らくは気付いているプレイヤーも多く集まって……いや待てよもしかして。


 そこで俺は、はたとあることに気付く。


 あの野郎、やってくれやがるぜ。


 時刻は14:40分を示している。ここまで久しぶりの妹とのデーt――ゆったりした暇つぶしを兼ねて、10:30分頃に現在、攻略の起点としホームを置いている第5の街アースベルを出て、のらりくらり寄り道をしながら、初源の街アートリーに向っていた。


 転移クリスタルを使用すれば一瞬に任意の街まで転移出来るのだが、敢えて高価な転移クリスタルは使わず、折角の空ちゃんとのデーt……アキとの休日を満喫するため、もう一つの理由“イベントの事をアキに忘れてもらう”ためにアキが他の物に興味を示して時間を費やせば、RBMランダムボスモンスター出現時刻に間に合わなくなり、諦めて貰うつもりでいたのだ。


 しかし気付いてしまった、ちょっと考えれば直ぐに分かったことではあったのに、今頃になって見落としていたことに気付いてしまった。


 気付いてしまった故に状況は一変した。


「空ちゃん、急ぐぞ」


「えっ? どったの急に」


「急がないと沢山の人が死ぬかも知れない」


「それどうゆうこと? お兄ちゃん」


「あとで話す。兎に角走るぞ」


「う、うん、よく分んないけど分った」


 季節は冬、魔物の刻までそう時間は残されていない、急がなければ大変なことが起こる。


 


  To Be Continued

ご拝読アリガタウ


次回もお楽しみにっ!

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