聖バレンタインの日の約束 1
こんにちは
雛仲 まひるです。
さて第二章です。
第二章では馴染みのキャラや馴染みの科白を仕込んであります。
ブレイク・ザ・ワールド・オン・ソード初のギルドのマスターは、あの人気某SFアニメに登場した。
某ピンk(ry――
キャラに扮した紛らわしい名前のキャラも何れ登場しますよw
ではどうぞ><b
2123年、12月24日。
最新技術を用いた次世代VRMMO。BWSに震撼が奔ったゲーム開始直後、クリスマスイベント用に装飾された華やかで賑やかな街並みのオープニングの真っ只中だった。
しかしその衝撃であるデスゲームの告知を受けてのパニックは事の外少なく、恐らくは理解がまだ追い付いて来ないっと言った感じだ。
危機感がない、ではないが娯楽ゲームの世界に飛び込んで来るや否や、余りにも唐突に告げられたデスゲームである。
この反応は寧ろ自然なことなのかも知れない。
長年娯楽と捕らえて来た認識は、根強くゲームイコール娯楽といった認識となっていて、すぐさま一変するものでもないのだろう。
しかし実際にこの先、自身の体感を持って、これはデスゲームなのだと知り長い時間を要して、そしてやがてこんな世界でも人間は馴染み慣れていくのだ。
アースガルズにある第2の街ラシーナー郊外のフィールドダンジョン。
「うおりゃっ!」
手にした棒っ切れを振り上げ対峙していたスライム系モンスターに斬り込んだ。
俺は幸いにも使用出来た初期から設定されている基本スキルを発動し、グリーンのライトエフェクトを発した棒っ切れを振り下ろした。
スライムは俺の一撃を受けて、上下左右にプルプル揺れている。
基本スキル【シェイク】を発動させ、攻撃を受けたスライムに数瞬の硬直時間を生じさせ動けない状態を作りだした。
「アキ、ポジション入れ替わるぞっ」
「任せて」
俺の合図でパートナーのアキが飢えた獣のように硬直状態にあるスライム目掛け、飛び掛り装備した双剣スキル【クロススラッシュ】を発動させ薄桃色のライトエフェクトを発しながら左右から振るった。
彼女は稀に見る初期ステータス異常が見られない平均的プレイヤーで、現時点に置いて頼もしいパートナーであった。
「でぇりゃっ!」
彼女の刃を受けたスライムに死亡エフェクトが発生しスライムを形成していたポリゴンは砕けて四散した。
二人の力を合わせての二人の始めての共同作業による勝利である。
「アギト君? モンスター退治を乙女の夢、結婚式でのケーキ入刀みたいに言わないで」
なんともおっさん臭のする頼もしい気合を発した彼女は、見た目は見た目だけは可愛いのに残念な奴だ。
「ねぇアギト君、あたしお腹減ってきちゃった。ご飯にしょ? ね、ダメ?」
アギト君って呼ぶな、お兄ちゃんと呼べ。
昨日のトラウマが蘇るじゃねぇーか。
俺のトラウマなど気にした風もなく、にこりと可愛い笑顔で俺の腕に身体ごと縋るように手を回して引っ張る彼女は俺の実妹でこの世界でアキと名乗っている。
うわぁうわぁうわぁ! 当たってる当たってるって、お前のちっぱいが俺の腕に当たってるんだって気持ち悪りぃ。
俺の心の内を知ってか知らずか、未発達の胸を押し当て腕の絡み付いてくる我妹。
おまぇーっ、わざとだなわざとやってやがるな? そんなにベビーフェイスが売りの草食系男子が売りの実兄のイメージを崩壊させて鬼畜兄鬼に仕立て上げたいのか。
だが、そのちっぱいを前作で揉みしだいたのは他ならぬお前のお兄ちゃんだがな。
こいつはバカなんじゃないかと兄として少々心配になってくる。
妹にだって昨日明らかになった、なってしまった衝撃の事実は相当なトラウマになったと思っていた。
知らずにとはいえ可哀想なことしたなぁ~とか昨夜一晩本気で悩んでいたのだが、どうやら俺の杞憂だったらしい。
昨日のカオスをもう忘れたのか? こいつは。
「いいじゃん別に兄妹なんだし。ここは仮想世界なんだから。それにあたしお兄ちゃん大好きだしパパやママもいないし、あたしたちそんなに似てないから誰も兄妹だなんて思わないって、寧ろ恋人に見えるんだから、ちょっとくらいキャフるのもいいじゃん、ね? アギト君♡」
お前なぁ~何度も言うけど実兄をアギト君って呼ぶな。それにキャフるってなんだよ? キャッキャウフフまで動詞ぽく端折ってんじゃねぇーよ。なんでもかんでも端折るんじゃないっ、これだから今の若者は……。
「お兄ちゃんジジ臭いっ。そんなだから友達が出来ないんだよ? ゲームの中でもNPCと普通に会話してるし、アキがいなきゃここでも、ぼっちだったんだからねっ」
「酷いことを言うなっ! アートリーの武器屋のおっさんは連れないところもあるけど、話してみればあれでもいい人なんだぞ。あとお兄ちゃんと呼べ」
その方が萌える。
「えぇーーーーっ。なんでなんでぇ~っアギト君って呼んじゃ駄目なの? 前作ではあたしたちあんなにも激しく愛しあったじゃん。それとも彰人って呼んで欲しい?」
「アキ、てめぇーNET世界で俺の本名晒すなやっ! お前がそのつもりなら俺も空って呼ぶぞコラっ、っつーかプレイヤーネームに本名の空を空って読ませて名付けていたのかよ、前作で気づくべきだったわっ」
「べ、別にリアルみたいに空ちゃん♡でもいいよ? 何時ものことだしお兄ちゃんがそうしたいなら……。あっでも一応、ここではあたしを本名で呼ぶときは二人っきりのときだけにしてね? 章人君♡」
ぎゃぁぁぁーーーー! いつもお前を「ちゃん♡」付けで呼んでることバラすなやっ。
それに実妹に「君♡」付けされて本名呼ばれると気持ち悪いもんだなっ、リアルでお前はこんな思いをしてたのか? ごめんお兄ちゃんが悪かった。
しかしなにが「二人っきりのときだけにしてね?」だよ。
昨日あれだけ泣き喚いて半狂乱になってたのに、一日経たない内にもう前作に引き続いてお前、兄だと知ろうが知るまいがノリノリで恋人気分全開じゃねーか。
でもまぁ妹が居てくれて助かったのも事実だ。
俺の改変されたあとのステータスじゃ、オンラインコミュ障の俺はソロでレベルを上げていかなくてはならかったから正直厳しかったと思う。
それでも死なない自身はあるけど、間違いなくもっとレベル上げに時間を要しただろうし苦戦していたはずだ。
それに俺の妹だけあってアキはゲーム感が良く結構頼りになった。
その後も頼りになる妹と俺の持つβテストで得た経験と情報力で俺たちは怒涛の勢いでレベルを上げて行った。
2ヵ月ほど後には俺のラッキーも手伝ってレアモンスターの出現にも恵まれた俺たちのレベルは気が付けば、改変後の苦労が嘘のようなステータス値まで達していた。
とはいえ最初が最初だけに俺たち、いや俺だけ何度も何度も死の淵まで行きながらも、他のプレイヤーたちより多く死の淵まで行ったそのお陰でかどうか偶然にも新たなスキルを手に入れ、第一ステージのフロア攻略をソロで出来るんじゃないかと錯覚してほどのレベルに達していた。
2124年 1月1日。
年が明け、第一ステージの国アースガルズの至る所で新年を祝うイベントが開催されていた。
最悪の事態に巻き込まれ塞ぎ込んでいる者も少なくはないが、前向きに捕らえて動き出したプレイヤーたちも多くいて、明るい話題作りと言って自主的に企画運営しているイベントや正規版にあらかじめ組み込まれていたイベント、それに……神を名乗った人物が新たに組み込んだイベントと思われるものもあった。
3番目のイベントは、年が明けた朝に知らされた。
生き延びている全プレイヤーのメッセージボックスに送りつけられてきたのだ。
“時は聖なる甘美なる日の魔物の刻。力の塔が示す場所に、死の宣告者が天より舞い降りるだろう。知恵と勇気を持って死の宣告者に挑む勇者は、困難を乗り越えた末に事が叶えば幾多の力と富を得るだろう。”
βテストのときにはあったのだが、テスターたちの意見を纏めた結果、面白くはあっても強過ぎて倒せない、などの意見も多く、RBMのランダム出現プログラムは正規版では積まれないことになった。
そのプログラムを積み直したようで、メッセージに書かれた暗喩を解き示された場所に行き指示された時間に出現するとのことだった。
危険を犯してまでデスゲームをおっぱじめた奴のイベントにノリノリで参加してやるほど酔狂なプレイヤーはいない。
しかしこうしたVRMMORPGを好んでプレイする人間の心を擽る特典を用意してやがったのだ。
現れたRBMがドロップするレアアイテムやレアな武器や防具を組み込んできやがった。
奴の意図する狙いは察することが出来た。恐らく奴の目的はひとつ、逆境に立ち向かうべく纏まり始めたプレイヤーたちの間に、不信感を芽生えさせることだ。
力を合わせて攻略に挑みゲームクリアを目指し、デスゲームを終わらせようと集まったプレーヤーたちがギルドを名乗り団結し始め、規模や目的、大小に関わらずギルドを名乗るパーティーが幾つ出来あがりつつある。
現時点で正式ギルドはまだひとつしか設立されていない。
正式ギルドを発起するには【ギルドの権利書】なるアイテムを入手しなければならず、その権利書はフィールドやダンジョンに置かれたトレジャーボックスにあったり、イベントでの入手やモンスターがドロップしたりすることもある。
最初に出来た正式ギルドは、聖杯与し銀の聖騎士団と名乗った。
アースガルズ全体で既にメッセージイベントのことでざわめき出していた。
多くのプレイヤーが我先にとメッセージの暗喩を解き、出現するRBMを倒し、レアアイテムを入手しようと色めき立ち、その光景は鬼気迫るものさえ感じた。
「ねぇ? お兄ちゃん……じゃなかった。アギト君はどうするつもりなの」
アキが例の如く嫌がらせも兼ねて名前で呼ぶと、心配そうに顔を覗き込んでくる。わざわざ言い直さんでも……。
「どうするかなぁ」
正直いうと悩んでいる。
βテスト時に出現したRBMは正直危険だった。
フロアボスを攻略出来るほどのレベルに達していたとしても、敵う敵ではなかった。
「んふふ。アギト君ほんとはめっさ行きたいんでしょ」
だからアギト君と呼ぶのを止めろ。
「別に」
「もっ素直じゃないな。出現する日時もポイントも目星は付けてるんでしょ?」
「……ん、まぁな、日はまぁ2月14日で違いない、場所は恐らく南の砂漠エリアにあるピラミッドだろうな、ピラミッドってほら力を集めるっていうじゃん。ピラミッドパワーとかさ」
「よしっ! その日その場所に行こう。別にRBM相手にしなくてもいいから、折角だしイベントに乗っかって場所だけでも見に行こうよ? 誰か挑む人がいるかも知れないよ? ねぇねぇねぇーってば見物しにこうーよぉー、お兄ちゃん、お願~い♡」
「見物ってなぁ危ないし趣味悪いだろそれ? 下手したら人が死ぬんだぞ」
「そんなに怒んなくても良いじゃん。あたしは別にそんなのが見たいわけじゃないもん……毎日退屈なだけだもん。バカ」
口を尖らせプイっと横を向いてアキは拗ねてしまった。
「じゃ行こうか? それまでにレベル頑張って上げとかなきゃな」
「やったぁー! アギト君だいしゅき♡ 」
余程嬉しいのかったのか妹が飢えた獣の如く俺に飛び掛って来た。
俺は咄嗟に突進して来た妹を両腕を差し出し阻止した。いみじくも俺の両手は発育途中の乏しい胸を掴む形となった。
「いやぁ~ん。お兄ちゃんのえっち♡ そんなに妹のおっぱいの感触が忘れられないの?」
てんめぇ~は俺を余程、社会的に殺したいらしいな?
「今のは事故だっ」
「うそばっかっ、わざとツンデレってあたしを焦らして、機を見てあたしを喜ばせて嬉しさの余り抱きついて来るのを待ってたんでしょ? 鬼いちゃん」
……お前って時折、凄い発想するよな? どうしたらその妄想に至れる。
経緯を知っている奴なら兎も角、ここから見た奴らにはどう見ても中学生の妹のお願いを焦らした上で聞いてやり、妹を良い様にしたいがために兄の俺が仕組んだ茶番を信じさせ妹に抱きつかせ、ハプニングと称して妹の胸を幾度となく揉んで来た近親相姦上等の鬼畜兄貴に見えるじゃねーか。
「あ、ありがとね、無理聞いてくれて。危険なのは解かってる……、お兄ちゃんがアキのこと心配してくれてるのも解かってる。だってお兄ちゃん夜中になると1人でレベル上げ頑張ってくれてるの知ってるもん。寝るとき1人になると凄く寂しくて、昼間は毎日毎日ミッションやモンスター狩りばかりだし退屈だったんだもん」
「そうか、ごめんなアキ。でも危険だと判断したら逃げるからな」
「うん」
元気な返事が返ってきちゃった。
本当はなんとかして諦めさせようと思っていた、出掛ける振りをして何処かで別の退屈凌ぎでも探してやろうと思ってんだけどな。
まぁ見物に行きたいというアキの気持ちは解からなくもない。
この世界は娯楽が少な過ぎるんだ。
To Be Continued
ご拝読アリガタウ。
次回もお楽しみにっ!