たった一人だけのギルド 4
こんばんは
雛仲 まひるです。
ブレイク・ザ・ワールド・オン・ソード
プロローグ4です。
次回から本編第一章に突入します。
キャラいきなり崩壊します。
どうしてこうなった(´・ω・`)
ではどうぞ><b
「そ、そんなの酷いよっ! あんたたちを助けに入ってRBMを倒したのはお兄ちゃんじゃないっ」
「なにを言う。彼一人で倒した訳ではないだろ? ナツキ様も最後まで戦っておられた。なにより我々全員でHPの大半を削ったのだ。分配は当然――」
「アイテム配分はいりません。いいですよねハーニングさん」
名前を呼んだ総髪の男は見た目二十代前半の容姿をしている。
ギルドでの指揮権は彼よりわたしの方が上ではあるけど、一応目上に対してさんを付けて名前を呼んで嗜めた。
肉体を量子変換してポリゴン化しているこのゲームでは、その他基本的な体系や年齢的なものはそのまま反映されてしまう。
一応性別もログインした初期設定で選択できたけど、デスゲームを告げられたあの日、髪と目以外のカスタマイズは外され、それが別のカオスを生み出した。
デスゲームを告げられ、基本設定は解除されてステータスまでランダムに弄られた結果、性別を偽っていたプレイヤーの真の姿が白昼に晒されたのである。
その様はまさにカオスだった。
VRMMORPGには性別を偽り成りすましたネカマと呼ばれるプレイヤーは多い。女性キャラの大半はネカマで……この先は思い出したくない。
わたしもちょっとだけ肉体の一部だけをカスタマイズしてたけど……。短い間だったけど理想のわたしの身体も、その日あるがままの姿となった。
嫌なこと思い出して涙が出てきちゃった。
ちょっと現実と違うくらい許して欲しかった。何処の部位をカスタマイズしてたのかは、乙女の秘密ね。
ちょっぴり切ない回想をしちゃって鬱が入っていたわたしの鼓膜を少女の怒声が激しく揺らした。
「ふざけないでよっ! チートチート、β上がりβ上がりってうるさいのよっ。あんたたちがお兄ちゃんのなにを知ってるって言うの? あんたたちだってあの日、デスゲームが告げられたあの日、自分のステータス見て驚いたはずでしょ?」
ハーニングを初めとした仲間たちの間に笑いが漏れた。
「なっ、なにがおかしいっ」
確かにどんなタイプにしようかと悩んで振分けた初期設定を弄られたけど、当時の話を聞いた範囲では、それ程大きく影響が出るほどではないものだった。
ああ悩んで振分けたのにっ! と確かに憤りと出鼻を挫かれた感はあったけど、デスゲームを告げられ、それどころではなかったのも確かで、ほとんどのプレイヤーは取るに足りない範囲のことだった。
「お兄ちゃんなんてHPが一桁台にされちゃうし、戦闘ステータスなんかも最悪だったんだもん。代わりにラッキーステータスとかステータス異常に関わる麻痺や毒耐性はやたらに高かったけど、当面の戦闘なんてノーダメージを毎回強いられてたんだからっ! それでもお兄ちゃんは心身を削る思いを続けて来て、今日まで妹のわたしを守ってくれて、眠る時間も惜しんで苦労してレベル上げをして強くなったんだからっ。お兄ちゃんの悪口を言う奴はあたしが許さないんだからねっ」
なるほど彼がフロアレベルに見合わないほど強い理由が分っちゃった。
最初は確かになんの役にも立たないように思えるラッキーステータスだけど、考えてみればレアアイテムのドロップ率やレアモンスターとのエンカウント率も上がるし、危険な戦闘から離脱出来る確立も高くなり、危険度の高いモンスターから逃げて生還出来る可能性も高くなる。
フロアレベルが上がるに連れてモンスターレベルも上がるし、ドロップされる武器や防具はNPCが開いている武器や防具屋で売られている各フロアレベルに応じた物より遥かに強力な物も少なくはない。
更にソロによる経験値は補正され、パーティーでクエストを熟したりフィールドやダンジョンに出て倒したモンスターから得られる経験値効率は格段に良く高効率となる。故にレベルは比較的早く上がっていく。
しかしレベルが上がるに連れ、自分のレベルより低くなったフロアレベルに応じたモンスターを狩り続けても、得られる経験値は補正され必ず頭打ちする時が来るし、戦闘時はパーティーより遥かにソロの方がリスキーであることに違いない。
しかしラッキーステータスが異常なほど高かったとしたら、レアモンスターとのエンカウントも上がり遭遇する機会も他のプレイヤーたちより圧倒的に多かったとしたら、彼のレベルが異常に高いのも頷ける。
本当のレベルは本人にしか見えないし聞いていないから定かではないけど、彼の戦闘を見た限り、その技術は高く戦闘センスもわたしが見た限りで攻略に参加しているトッププレイヤーたちより頭一つ飛び抜けていたように思えた。
そんな彼が高経験値を得られるレアモンスターを倒し、更に先ほどのRBMを比較的多く倒していれば話は別だ。
レアモンスターっていうのは遭遇しても直ぐに逃げるし、やたらすばしっこくて攻撃は当たらない。
しかしそんなに強いモンスターではないし、倒したときにドロップするアイテムも高価なものやレアアイテムも多く、得られる金額も経験値もレアモンスターによってはフロアボスを凌駕するほど高い。
「お兄ちゃんはのこと、なにも知らないくせにっ、知りもしないくせにっ……」
少女は可愛らしい顔をくしゃくしゃにして抗議を続けていた。
「もう止めなさい。これは命令です」
「しかしこいつらは――」
「黙りなさい。わたしたちトップギルドと彼らはなにが違うのかしら? アートリーの街で彼は確かに他のビギナーを見捨てたかも知れません。
しかし彼女の話を聞く限り、自分の生存もままならなかった状況下で妹さんを守りながら、他のビギナーも守り続けがら、このデスゲームを戦い抜くことが、彼と同じ条件下だったとして我らの内で何人の者が出来るでしょうね?」
βテスターではないけれど、わたしもギルドに入る前はソロで寝る暇も惜しんで狂ったようにレベル上げに興じていた。
絶対に生きて現実に帰りたい一日も早く、まだまだやりたいことがあるし、ささやかだけれど叶えたい夢だってある。
あの頃のわたしも一般プレイヤーが毛嫌いしているβテスターの人たちと同じだったと思うのだ。
誰だってこんな状況に置かれれば、きっと自分を一番に考えてしまう。それを誰が責められるというのだろうか?
口ではなんとでも言えるけど、たまにパーティーに誘われてクエストやフィールドや迷宮区でレベル上げをしたこともあるけど、いざ危機的状況に陥ったときに我先にと逃げ出すプレイヤーを嫌というほど見てきた。
「しかし決して彼らが許される行為をしてきたとは思えません」
「確かにそういった人たちもいたでしょう。しかし全てではないでしょ? 中にはビギナーを引っ張り導いてきたβテスターもいるでしょう。それに今のわたしたちトップギルドはどうでしょうね? 解放戦に忙しいからと言い訳をして初源の街に赴き、未だに怯えて外にでないプレイヤーたちを救いましたか? なにかを施しましたか救いましたか? 中間層にいるプレイヤーたちの育成に尽力を注ぎましたか? 効率の良い狩場を長時間ギルドで占領してはいませんか? 未踏区のマップ情報を一般にまで開示しましたか?」
「そ、それは我々には一日も早くこのゲームを攻略して皆を解放する使命があります。未踏区のマップを開示すれば、そこに眠るアイテムや一度だけしかドロップされないレアアイテムを奪われ――」
「黙れっもうお分かりでしょ? 一般プレイヤーたちから見れば、わたしたちがβテスト上がりの人たちをやっかむように、トップギルドの行いにそう感じているのではないでしょうか?」
「……っ」
「ごめんね? 助けてもらったっていうのに、こんなこと。君たちさえ良ければだけど家のギルドに来ない? 団長にはわたしから話すわ。それにお礼もしたいし、ね?」
「ナツキ様っ。いくら副団長のあなたの推薦でもこのようなこれまで利己的にやりたいようにして来たβ上がりを誇りある鉄血の白の騎士団に招くなど、他の者が許しません。それに我がギルドの栄誉が汚れ――」
わたしは強い視線をハーニングに向けた。
「……っ」
強い視線を向けられ口を閉ざしたハーニングを確認して、再び視線を少女に移した。
「どう? 悪い話ではないでしょ?」
「ねぇ? お姉ちゃん」
「なーに?」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんのこと狙ってるの?」
「にゃ……にゃっにゃっ、な、なにを言うのかしら? わ、わたしは別に彼が居てくれたらいいなぁーとか一緒に居て欲しいなぁーとか思って……、じゃなくて、今後のあなたたちのためにも、と思って……」
「な~んだ。てっきりあたしはお兄ちゃんのラッキーステータス狙いかと思ってたんだけどね」
「へぇ?」
「結構多いんだよレアアイテム欲しさにお兄ちゃんに近づいてくる奴ってさ。でもお姉ちゃんはそっちか~そっちだったか~あはっ♡ お兄ちゃんってカッコイイでしょ? あたしの自慢のお兄ちゃんだもん。それに細く見えるけど結構良い体してるよ? 適度に細マッチョ? あはっ」
「えっ? ちが……ち、違くて……、ソロ攻略には何れ限界が来るわ。そ、その時にやはり信頼の置ける仲間がいないと生き抜くことは出来ないと思うの。あなたたちには死んで欲しくないと思うのし……」
「ごめんね、お姉ちゃん。あたしこんな世界でも夢があるの。お兄ちゃんと一緒にギルドを立ち上げるのがあたしの夢なんだよね。あたし料理スキルとかいろいろスキルを上げて宿屋を本部に一階は酒場とケーキとお茶が楽しめるレストランとか、武器屋や他にも沢山の店を入れて沢山の人が集まって沢山の笑顔が生まれるギルドを作りたいの、あたし笑顔が好き。こんな世界でも、こんな世界だからこそ笑顔が溢れるそんなギルドを作りたいから、だからごめんね、お姉ちゃん」
笑顔で夢を語る妹の頭に手を乗せ、微笑ましげに見ている彼の笑顔はとても優しくて温かかった。
こんな世界でも、こんな世界だからこそ前を向いて生きようとしている兄妹がいる。
わたしは一日も早くこんな世界から抜け出したくて、この世界で一日が過ぎる間に現実世界で一日が失われていくことが怖くて攻略組みに身を置いた。
こんな世界はまっぴらだ。
でもこんな世界でも生きているんだと、彼女らの笑顔が雄弁に語り掛けてきた。
「そっか~残念だけど分ったわ。夢、叶うといいね」
「残念なのはお兄ちゃんがギルドに加わらないからでしょ? お姉ちゃん」
「なっ……」
「あははっ」
「もっ……おませさんなんだからっ! ま、また会えるといいね」
また会える。
それは生きているということ。
「うん。ありがとね、お姉ちゃん」
そう言って彼女は快活に笑った。
このあと暫くの間を置いてから5ヵ月くらいの間、わたしと彼らは故あって共に行動をすることになる。
しかし彼らがギルドに入ったわけではない。
あの時ソロ、厳密には兄妹二人のパーティーだけど、ソロ攻略の限界を解いて強引にでも彼らを引き止めるべきだったと後悔している。
恐らく彼らはそれでも同じ道を辿っただろうけど、きっと彼はソロでの限界も知っていただろうけど、それでもわたしは悔しくてならない。
彼らとの別離を経てわたしが再び彼に出会ったとき、気さくで妹思いだった優しい彼は変わり果てていた。
たった一人のメンバーしかいないギルド 名もなき漆黒の騎士。
騎士団ではなく騎士と名付けられた真意を、彼が攻略組に参加するようになってから、また幾度となくボス戦を共に戦ったけれど、なにがあったのかその真実を知ることが怖くてわたしは未だに聞けないままだ。
彼らは念願の【ギルドの権利書】を手に入れ夢を叶えたはずの彼の妹は、次にわたしが彼と再び出会ったときには彼の隣にいなかった。
きっと名もなき漆黒の騎士というギルドは、たった一人のギルドではなく、たった一人のためだけに、なんらかの理由で彼女が居なくなってしまった後に、彼が作ったギルドなのだろう。
願わくばそうでないことを祈っている。
「うん。ありがとね、お姉ちゃん」そう言って彼女がくれたあのときの笑顔をわたしは決して忘れないだろう。
たった一人だけのギルド おわり。
御拝読アリガタウ。
次回もお楽しみにっ!