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たった一人だけのギルド 3

「ナツキ様、なにをなさって……」


 壊れたブリキのおもちゃのようにギシギシとぎこちない動きで周囲を見渡すと、ギルドの仲間たちが口をあんぐりしてわたしたちを見ていた。


「ナツキ様の胸に顔を埋めるとは、こいつ……」


 堅く握った拳をフルフル振るわせた仲間たちが声を強張らせた。


「なんと羨ましい」


「い……、いやぁぁぁーっ」


 思わず懇親の力を両腕に込めて、鍛えに鍛え抜くとまではいかないが、それでもかなり上げた筋力値を最大に発揮して彼を突き飛ばした。


「ぎゃぁぁぁーっ! 俺の、俺のHPがっ」


 突き飛ばされ地面に激しく激突した拍子に数ドット残っていたゲージが微妙に削り取られ彼は絶叫を上げた。


「な、ななな、なにしてくれるんじゃー! 危うく死ぬところだったじゃねぇーかっ」


「ご、ごめんなさいっ。だって君がわたしの胸に顔を埋めてるから……」


「それ違うし」


 激怒する彼から渡されて使用していなかった回復結晶でHPを回復させようと慌てて駆け寄った。


「お兄ちゃん。大丈夫?」


 何処からとも無く女の子の声がして、声の聞こえた声の方に視線をむけると屈強な体躯をした仲間たちの背後に隠れていて気づかなかった、栗色の髪の毛に鳶色の瞳をした両サイドで髪の毛を結った見た目中学生くらいの可愛らしい女の子が、仲間たちの身体を押し退けながら姿を現した。


「よっアキ」


 少女が駆け寄り彼に声を掛けってきた。ってお兄ちゃん? 


「よっアキじゃないわよもっ! ほんとお兄ちゃんは無茶ばっかしてっ。まったくもうだよまったくもうこんなに怪我しちゃってHPもギリギリじゃない。直ぐに回復したげるからおとなしくしててよね。リーンお願い」


 そう言った少女の肩には鳥のような翼と孔雀のような尻尾、顔はトカゲをした小さなドラゴンが乗っていた。


 主の命令を察したドラゴンは、きゅるるとひと鳴きしてブレスを吐き出した。


 稀に見る使い魔を持ているプレイヤーを見掛けることがある。


 大抵のモンスターはアグレッシブ状態でフィールド上に展開されているが、極々稀にフレンドリー状態のモンスターが現れることがある。


 運よく手懐けることに成功すると、使い魔となって主に付き従う強力な味方となってくれるそうだ。


 そのようなケースは珍しく、フレンドリー状態にあるモンスターは小型のレアモンスターが大半で、遭遇するケースすら珍しく手な付けに成功することは、海岸の砂浜から一粒のダイヤを見付けるのに等しい。


「ほんとお兄ちゃんってばバトルマニアなんだからっ! 毎回付き合わされて心配しなくちゃならないアキの身にもなってよねっ。リーンもヴォルテールの心配してたんだよ? ねぇー」


 きゅるると主の言葉に答えた小さなドラゴンの喉を少女が撫でる。


 気持ちよさそうに目を細めてきゅるると鳴くドラゴン……か、可愛い。


 ってヴォルテールってなに? もしかしてまだ使い魔がいるの? 可愛いのかな? どんな子なんだろう。


「ところでお兄ちゃん? 人前であれ使ったの? 駄目だよ無闇に知らない人に自分のスキル明かしたりしたら。そう言ったのお兄ちゃんじゃん」


「悪りぃ。ついボスクラスのモンスター相手に試してみたくて」


 腰に手を置き口を尖らせ呆れ顔で彼を睨み付ける少女。


 わたしは彼が悪魔相手に使ったスキルを思い浮かべてみた。


 しかしあのようなスキルをわたしは聞いたことも見たことも無い。しかし特殊スキルを持っている人物をわたしは知っていた。


 この世界で恐らくは最強であろうその人物は、鉄血の白の騎士団団長その人である。


 団長の話によると特殊スキルには発現条件があるようだが、なにをどうやって修行しどのような条件を満たせば発現するのかは分からないものもあるらしい。


 一般に良く知られているレアスキルと呼ばれる特殊スキルは複数人に発現していて、その発現条件は大体に置いて予測され、予想を基に修行と鍛錬を繰り返した者が実際、発現に成功した例もある。


 例を挙げると片手持ち剣の使い手が、更に武器を絞って片手持ち片刃スキルを上げていけば、武器によって異なるスキル(技能)を順を追って習得していく。


 極めた先に更に上位に位置するスキルを手にいれられるのが【刀】スキルである。また双剣使いが双剣スキルを極めると【二刀流】スキルが発現する。


 【二刀流】発現した双剣使いが片手持ち剣にクラスチェンジして片手持ち剣スキルを上げていけば、やがて【二刀流】を使い熟なせるようになるというように、レベルアップによって得られる経験で獲得するパラメータの振り分けだけでは、現状のフィールドレベルでの習得は生半可なレベル上げをしても、それだけでは困難、いや不可能と言われている。


 しかしレベルアップとは別に修行や鍛錬をちまちま繰り返すことで、得られた数値を配分して任意のパラメーターを上げていく方法もある。


 例えば職人スキルがそうである。


 鍛冶屋を目指す者や料理人を目指したり多岐に渡る商人を目指す者は、それぞえ戦闘パラメータの他にある要素のパラメータを修行や鍛錬によって上げていくのであるが、戦闘スキルにおいて聞き及んでいるスキルでメジャーなものといえば、オートヒーリングや麻痺や毒のステータス異常に耐性を付けるアンチスキルが良く知られている。


 この二つのスキルもまた特殊な修行や鍛錬が必要なのだが、主にソロ攻略を目指すプレイヤーにはこの二つのスキルは必須といえるだろう。


 その修行方法が余りにも危険過ぎて、トッププレイヤーといえども進んで修行する者は少ないと聞いている。


 彼が見せた特殊スキルは団長が持つ特殊スキルの類で、団長曰く発現条件が定まらないスキルについては、事実上スキルと言うより条件を満たした特定のプレイヤーやレアアイテムの中でも稀有なドロップアイテムに付与されたりしているワンオフアビリティーと考える方が妥当だと言っていた。


「ほんとにほんとにもうっお兄ちゃんはっ! βテスターだってだけでもチートだの言われてやっかまれたり妬まれたりするのにっ」


 少女の言葉を聞いて、周囲が俄かにざわめき出した。


「あっ……」


 少女が自分の言葉に気づいて、気まずい顔をして俯いた。


 そんな妹の頭に手を乗せて「いいよ、気にするな」と彼は言った。


「助けてもらったことには感謝する。しかしβテスターだった君には君が発現したスキルについての発現に至るまでの情報公開及びレアアイテムの入手方法、それにその子が肩に乗せている使い魔入手方法まで洗い浚い情報公開を求める。初源の街でビギナーを見捨て情報を隠し利己的に生き延びてきた君たちβテスターの義務だ」


「ちょ! なにをっ……言ってるの? お兄ちゃんはなにも悪くないっ。なにも知らないくせに……なにも知らないくせに勝手なことを言うなっ! お兄ちゃんの苦労なんて知りもしないで……お兄ちゃんは……お兄ちゃんはあたしを――」


 仲間を睨み付け少女が声を荒げたその言葉を遮るように彼が少女の前に出た。


「いいぜ。スキルについては正直なところ俺にも発現条件は分からない。つい最近スキルに追加されていたんだからな」


「お兄ちゃん」


「俺が彼女に見せたスキルは【ラピットスイッチ】、そして悪魔を両断したスキルは【the end】だ。【ラピットスイッチ】はメニューをポップアップすることなく、アイテム欄から任意で武器やアイテムを呼び出して使うことが出来るスキルだ。戦闘に置いて武器換装を瞬時に行い状況に応じた武器に持ち替えて戦えるし、持ち替えたことによるスキル発動後に生じる硬直時間はキャンセルされ、次のスキル発動に繋ぐ戦法が取れる。【the end】については、俺の使い魔ヴォルテールが持つワン・オフ・アビリティーで名称の通り一撃必殺のスキルだ。俺が言えるスキルの詳細はここまでだ。あとは自分でやってくれ」


 よりざわめきは広がり、仲間たちは口々にチートだの、だからβテスター上がりはなどと言い出し始めた。


 わたしはこういうのって好きじゃない。


 自分も嘗ては自分自身の身を守ることで精一杯で、寝る間も惜しんでレベル上げに興じた時期もあった。


 だから人のこと言えないってのもあるけど、こんな世界で生き延びなきゃならいって聞いたら、誰だって先ずは自分の身を守ることを考えるでしょ? それって極自然な思考なんじゃないかなってわたしは思うんだもん。


 それに強くなければなにも守れないってことを、この世界で嫌というほど学んだ気がするよ。

 

 彼は別段気にした風もなく「ヴォルテール」と叫んで使い魔を呼び寄せる。


 主の呼びかけに応え姿を現したのは人型の姿にドラゴンの顔に体躯、そして背中には堕天使を思わせる12枚の黒い翼を持ったフロアーボスに登場しそうなほど、稀有的な姿をした合成獣キメラ型の竜人モンスターだった。


 少女の持つ使い魔リーンは少女の肩に乗るほどの大きさで約4~50センチで、対してヴォルテールは3メートルほどもある。


 これほど大型のモンスターが使い魔になったというのは噂にも聞いたことがない。


「アキの使い魔リーンはさっき見た通りヒーリングブレスを吐く。俺の使い魔ヴォルテールは両手持ちの大剣へとトランスホームする能力を持つというかこいつは使い魔ではあるが、もう随分前に倒したRBMランダムボスモンスターがこいつで、こいつがドロップしたレアアイテムそのものだ。その他のレアアイテムの出現についてとアキの使い魔とのエンカウントしたフィールドについてだが――」


 彼は紳士的とも思えるほど、我々に詳細に情報を開示した。


 そんな彼に向けられる視線は、妬ましい思いが見て分るほどに厳しいものだった。


「では先ほどの戦闘で得たアイテム分配の話をしよう」


 彼の情報を聞き出した直後、一人の仲間がそう言った。




 To Be Continued

ご拝読アリガタウ


次回もお楽しみにっ!

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