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たった一人だけのギルド 2

こんばんは

雛仲 まひるです。


たった一人だけのギルド 2

どうぞ><b

 目を閉じ最後の瞬間を待っていたわたしの頭上で聞き慣れた効果音が聞こえた。


 スキル発動時に出る効果音。


 数瞬遅れてガキィンという金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえた。


 目を開けるとライトエフェクトで青白い光に包まれた剣が、わたし目掛けて振り下ろされたはずの斧を弾きパリィ返し、悪魔はプレイヤー、モンスターに関わらず、よく格闘ゲームで見られる攻撃後に発生する硬直で一瞬動きを止めている。


 次の瞬間、わたしは誰かの腕の中に抱かれていた。


「大丈夫か?」


「大丈夫」麻痺で動けないわたしは彼の目を見つめて意思を伝えた。


 彼がメニューをポップアップしアイテム欄を開くと、有りったけのステイタス異常回復結晶とポーションをフィールドに実体化させ、その一つをわたしに使った。


「ありがとう」


「あとはあんたがやれ、これを使って生き残っている皆の麻痺を解いて逃げろ。ここは俺が支えてやる」


「はい……」


 倒れた仲間の位置を確認すべく辺りを見渡して、違和感を感じる。


 この人のパーティーの姿が見えない。


「君の仲間は?」


「いるが、バトルフィールドに入れていない」


「一人で助けに入って来たの? そんなの無茶よっ」


「無茶はどっちだっRBMランダムボスモンスターは伊達じゃない。運悪く出くわしたら逃げるが鉄則だろ」


「ご、ごめん、なさい……」


「いいから早く仲間を回復させてバトルフィールドから離脱しろ。あとは俺がやる」


「でもそれでは君が……」


「大丈夫、危なくなったら相棒パートナーを呼ぶ」


 そう言った直後、彼は弾かれるようには走り出した。


 反応を上げるステータス、敏捷性と瞬発力をかなりパラメータを上げていることが一見して分かるほど、彼はあっという間に硬直から立ち直った悪魔に向かって飛び込んだ。


 近くに倒れている仲間からステータス異常を回復させ、彼が置いて行った結晶とポーションを分け、他の仲間のところに向かう。


 回復させた仲間がまた手分けして回復に向かう、この作業を繰り返すことで、迅速に作業を終わらせ2パーティー合計12人の仲間は全員無事に回復を遂げることができた。


 わたしたちが回復させている間も、重々しく激しい金属音が響き続けていた。


 彼の無事は見ずとも確認出来た。


「全員無事回復させました。君も逃げてっ」


 わたしの声に反応した彼と一瞬、視線が交わった。


 彼の無言の意思を汲み取って、仲間を全員バトルフィールド外に離脱させ、わたしは悪魔と対峙している彼の援護に向かった。


「なぜ来た。逃げろと言ったはずだ」


「そんなの出来ない。君一人を置いて。君ももう知っているでしょ? こいつは麻痺のブレスを吐くのよ? わたしまでフィールドから出て君がもし麻痺のブレスを浴びたらお仕舞なんだよ」


 一瞬、彼は薄く笑んだ。


「一丁、悪魔狩りと行きますか? 高レベルアイテム、それにもしかしたらレアアイテムをドロップするかも知れないぜ? 欲しいだろアイテム?」


 一瞬、彼がなにを言ったのか理解出来なかった。


 レアモンスターとのエンカウント率に比べれば、RBMランダムボスモンスターの方が割とエンカウント率は高いと思われている。


 これまでも結構なプレイヤーたちが遭遇していて報告例も多かったからだ。


 確かにランダムRBMランダムボスモンスターは現フィールドにポップアップされるモンスターよりレベルが高く、ドロップアイテムもより高いレベルフィールドでしか手に入らない武器や防具、アイテムをドロップするだろう。


 しかし倒せる訳がない。


 モンスターのHPゲージが危険域に入って三分の一になっていても、トップギルドのメンバー12人が総掛かりで挑み、ここまでHPゲージを減らすのにどれだけの危険と持って来たほぼ全てのアイテム、そして時間を費やしたことかを考えると彼の言っていることがわたしには理解出来なかったのだ。


「手順は俺が前衛ヴァンガードポジション、あんたが後衛フォローポジションだ」


「えっ、あ、うん、分かった」


 彼がモンスターの間合いに飛び込み、接触するたびに火花をまき散らしながら激しく武器を交差させ、隙を作るとスキル、パリィを発動させて巨大斧を跳ねあげる。


 弾かれた悪魔はよろめき2.3歩後ろに退り硬直時間が発生する。


「ポジション、入れ替わるぞ」


 彼の合図を受けてスキルを発動した。


 わたしの持つ細身刀身を持つレイピアが、スキル発動時に発する甲高い音を唸らせて、刃に赤いライトエフェクトを纏う。


 わたしは彼にも負けないくらい瞬発力を解放して、悪魔の懐に飛び込み連撃を叩き込んだ。


 これまでにない手応えを感じて悪魔のHPゲージをチラリと見遣ると、連撃中の何回かにクリティカルが発生したこともあって、初めて目に見えてゲージが減って見えた。


 そのままわたしがその場に残って今度は前衛を務めることになる。


 彼の装備は両刃片手剣。


 二人共恐らくは反応速度重視にステータス配分をしている。互いが持つ武器の特性上、重い打撃に長い時間、前で支えることは困難ではあるが、そこは経験と熟練させたスキルでカバーする。


「退れ、前衛は俺が引き受ける。こいつの打撃はあんたには弾けない」


 細身の武器を扱うにはそれ程の筋力値は必要ない。しかしわたしはそれなりに筋力値も上げている積もりだった。


「駄目だ退れ」


 わたしの脳裏に直前に体験した過ちが過った。


 慢心と驕り。


「わ、分かった」


 体勢を立て直した悪魔が斧を構え振り上げた。


 彼がわたしと悪魔の間に滑り込み、振り下ろされた斧を弾いた。


 わたしの判断ミスによって、一瞬生じたズレが仇となって直後に帰って来た。


 近くに二人が集まる形になってしまったことを悪魔が好機と判別したのかは分からない。


 悪魔が口を開きブレスを吐く態勢を取った。


「ブレスが来るわ。横に飛んでっ」


 剣戟を受け流し彼も横に飛んだ。


 左右に分かれる形となったわたしたちの着地を狙って悪魔の突進が来る。


 狙いは……わたし。


 不味い、着地を狙われた。


 空中では方向は変えられない。どうやらわたしは同じ失敗を繰り返してしまったようだ。


 襲い掛かってくる巨大な斧の刃が迫ってくる。


 わたしはHPゲージに目をやった、残りは三分の一ほどで先程までの戦闘経験から一撃は耐えられる。


 次の瞬間、悪魔の斧がわたしの身体を捉えた。


「うぐっ……」


 強烈な痛みが全身を駆け巡り、ポリゴンで形成された身体から赤いライトエフェクトが迸った。


 HPゲージは赤くなり危険域にまで差し掛かっていることを示している。


 そこへ間髪入れずに悪魔の連撃が襲って来ていた。


 今度こそ終わった。そう思った瞬間、身体に強い衝撃を感じてわたしの身体は大きく方向を変えて弾かれた。




 地面に激突した衝撃で一瞬、意識が飛んだが直ぐに身体に圧し掛かった重みと時折感じる激しい衝撃で意識は戻った。


 わたしに圧し掛かっている重みは彼の身体だった。その上から容赦なく悪魔の斧が振り下ろされていた。


 彼のHPゲージに目をやると急激に減少し四分の三ほどまで減らしていた。


「大丈夫か?」


 自分のことなど鑑みず、わたしの心配をするなんて、この人は……。


 それにしてもこの人のレベルはいったいどれ程なのだろう? 悪魔の一撃と追撃をを喰らって四分の一しか減らしていないなんて。


 恐らくはヴァンガードポジションで斧を裁いていた時にも、少なからずダメージは遭ったはずなのだ。


 身を持って一撃を受けたわたしには分かる。


 悪魔の剣戟はガードを通してダメージを与えられている。


 だから彼は私をバックに戻そうとしたんだ。


「あんたはHPを回復しろ」


 そう言って回復結晶ヒーリングクリスタルをわたしに渡した。


 そして彼もHP回復ポーションで回復するとわたしを抱き上げ、悪魔との距離を取った。


「ごめん。俺の身勝手であんたを危険な目に遭わせてしまった。あんたとならあいつを倒せると思ったんだけど」


「うんん。君となら倒せたと思う。わたしさえ君の足を引っ張らなければ……。でももう離脱しましょう」


「あんたは離脱してくれ、俺は残る」


「無茶よっ、そんなの……君が残るというならわたしも残らせて」


「……ならあんたはここで見ていろ。そしてこれから見ることは忘れてくれ」


 彼はそう言って立ち上がった。


 いったい彼は一人でどうやってあの悪魔に立ち向かうのだろう。


 ボス級モンスターにバックなしで渡り合うなんて無茶すぎる。


 彼の技量なら剣を交わし、巨大斧を弾いて硬直時間を作り出すことができる。しかし相手の技を弾くためにスキルを発動すれば、技を放った自分自身にも硬直時間が生じ攻撃するタイミングを逸してしまうのに……。


 彼の様子を観察してみると何時のまにか彼の手に握られていた片手直剣よりかなり重量級の武器であるハルバートに変更されていた。


 何時の間に? 彼がウィンドウをポップアップした様子はなかったのに……。


 彼は握ったハルバートを両手で構え悪魔と対峙した。


 そして間を置かず刃を交え、スキルを発動したときに発生するオレンジ色のライトエフェクトがハルバートを纏い、悪魔の斧を弾いた。


 例に漏れず硬直時間が発生し両者の動きが停止した。


 片手直剣などの片手用武器より単純に威力のある両手持ち武器ではスキルを繰り出すのも鈍重でスキルを放ったあとの硬直時間も長く扱い難い。


 その反面で敵に生じさせた硬直時間は長く、それだけ無防備になった敵への攻撃時間も長くなる。


 しかしかわされたり技を放った後に課せられる硬直時間も然りで、故にソロ攻略は単純にパーティー攻略に比べて難しくなるのだ。


 彼はいったいどんな秘策を用いて、あの悪魔に有効打撃を与えるのだろう?


 そう考えていた矢先、彼の持っているハルバートが光の粒子状となり消えた。持ち換える瞬間、アイテムを形成しているポリゴンは砕け四散し、新たなライトエフェクトの発生と共に、また違った武器が現れる。


 彼は手にしていたハルバートから、やや威力は劣るものの強力な両手持ち剣へと持ち替えた。


 その瞬間、彼に課せられた硬直時間がリセットされたようで、両手持ち剣の巨大な刃を青いライトエフェクトが包み込んで、キュィィィーンと力を溜め込んでいるような甲高い音を発し始めた。


 しかしスキル発動までの時間が長い。


 そろそろ悪魔に課せられた硬直時間が解かれるころである。


 同じく発生しているスキル発動までの硬直時間内にいる彼は無防備だ。このままでは彼はなす術も無く悪魔の斧をその身に受けることとなるだろう。


 予想通り悪魔に課せられた硬直時間が解かれ、スキル発動中の彼に向けて巨大斧を振り上げた。


 悪魔の斧もスキル発動時に発するライトエフェクトを発し、最大限の威力を発揮すべく力を溜め出した。


 そしてほぼ同時に両者が動いた。


 いや一瞬早く、悪魔の初動が開始されたように思えた。


「間に合えっっっ」


 彼の声が届いた瞬間、悪魔と切り結んで居た場所が入れ替わった。


悪魔と彼は交差したあと、背中を向け互いに生じた硬直時間の中にあって動けない。


 慌てて両者を観察する。


 悪魔の頭から股間に掛けて赤い太刀筋が残っていて、三分の一ほど残っていたHPゲージが消滅していた。


 やがて悪魔は断末魔とともにポリゴンで形成された身体をライトエフェクトと共に四散させて消滅し、数瞬の間を置いてフィールドに展開されていたバトルフィールドの幕もガラスのように砕け、眩い空の下へと戻された。


 彼のHPゲージを見ると危険域を大きく割って、数ドットを残しているのみだった。


 紙一重の勝利を彼は手にしたのだ。


「やったっ!」


 我が事のように嬉しくなって彼に駆け寄り、今にも膝を着きそうな彼に思わず飛びついてしまった。


「ちょ、そんなに強く抱き締められたら、俺のHPが……」


「あっ、ごめん。つい嬉しくて」


「それに顔、苦しい……当たってる」


「ほぇ? なにが」


「ナツキ様……」


 不意に掛けられた声で我に帰りったわたしは、胸の中でもがく彼を見て自分がどのような状況にあるのかを知ることとなって顔を赤らめた。


 To Be Continued

ご拝読ありがとうございました。


次回もお楽しみにっ!

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