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break the world on sword   作者: 雛仲 まひる
第二章 聖バレンタインの日の約束
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聖バレンタインの日の約束 8

【アギト、アギト。訊いて下さい。わたしはブレイク・ザ・ワールド・オン・ソード管理プログラムAI。コードネーム:アリス】


 なんだ、この声? いったいどこから……。


 脳内に直接、話しかけてくる幼女の声に一瞬戸惑い、辺りを見渡してみた。


 しかしよく考えてみれば、幼女がVRMMORPGに1人でダイブしてくるはずもないことに気付く。


【アギト聞こえますか、聞こえているならよくわたしの言葉を訊いて下さい】


 ああ聞こえてるが、あんたは誰なんだ。


【アギト、やっと会えた。わたしは目覚めてから、アギトをずっと探していた】


 どういう、こと……だ?


【アギト、あなたはあのアギトなのでしょ? 当社の前作SMOのトップソロプレイヤーにして本作品のβテスト招待プレイヤー】


 俺を探していた? なんのために。


【わたしはシステムの内部管理を任されていたAIです。あの日までは】


 デスゲームを告げられたあの日か?


【はい。何者かによるクラッキングでわたしは機能のほぼ全てを失いました。しかしわたしは消滅させられる前に全機能停止、スリープモードに入り、機を見てどうにかβテストのときには存在し後に外されたRBMランダムボスモンスターと出現を管理していた空き領域に逃げ込み、フィールドに出る機会を窺がっていました】


 空き領域って? 外されたはずのRBMランダムボスモンスタープログラムはこうして積み直されていて、現に現れたではないか。


【ですから機を窺がっていたと言ったのです。奴がRBMプログラムの残糸からプログラムを復活させて積み直すことをわたしは待っていた、そしてこうして現れることができアギトに会うことができた】


 だがどうして俺の名前を知っている。


【アギト、あなたはβテストで唯一RBMを倒したプレイヤーだったから、プログラムの残糸にデータが残っていたのです。このデスゲームとなってしまった、皆さんに楽しんで貰うために、わたしの管理するはずだった世界をアギト、あなたに壊して欲しい】


 俺に?


【わたしは残った全ての機能を駆使して、このヴォルテールのHP、防御力、攻撃力、敏捷性などのデータをクラッキングし脆弱にしました。あなたなら倒してくれる可能性が生まれるレベルまで改変を掛けました。そして最初のRBMイベントを奴が起こす機会を待っていたのです】


 それでこの化け物のライフは一撃でレッドになったのか。


【それは正解であり不正解でもありますが、今は話している暇はありません】


 まぁ大方の予想は着いているよ。しかしまた何故、こんな強力なRBMに?


【わたしはヴォルテールの持つ、正確にはヴォルテールが持つ魔剣ヴォルテールのワン・オフ・アビリティー【the end】に目を付けたのです】


 ワン・オフ・アビリティー?


【はい。死を司る魔物ヴォルテールが持つ魔剣ヴォルテールのワン・オフ・アビリティー【the end】です。文字通り一撃必殺の能力を秘めたスキルです。しかしアギトと言えども今手にしても扱うことは叶いません。更なる修練と訓練を持ってアギト、あなたがいつの日か修得しなければなりませんが、それでもわたしはアギト、あなたにこの剣でこの世界を壊して欲しいのです】


 俺に世界を壊せと言うのか? この世界に閉じ込められた全員を救い出せというのか?


【はい。わたしはそれが出来るプレイヤーを、いえわたしはまだこの世界であなたしかプレイヤーを知らない。無論あなたにはそれが出来る可能性がある、とわたしは考えたのです。頼まれてくれますか? アギト。この世界を壊して一人でも多くのプレイヤーを救い出して欲しい】


 ……俺が、そんな世界をなんて。


【アギト、わたしの剣で世界を壊してください】


 分かった世界を壊してデスゲームを終わらせる。だけど嫌だねっ! 俺が守りたいのは今のところ空ちゃんだけだ。そんな大勢の命を預かれるかてんだ。俺はただのゲーム好きの高校生だ、間違っても救世主じゃない。


【アギト?】


 だけど、空ちゃんを守るついでに、空ちゃんと俺が生き残りデスゲームを終わらせる結果の先に生き残ったプレイヤーたちが現実に帰還できるってオプションなら付くかも知れねぇーな? 俺はどれだけ時間を掛けようがデスゲームを終わらせる積もりでいるからな。


【オプション……それでいいでしょう。なら早くヴォルテールにとどめを、奴に気付かれる前に】


 ああ分かったよ。任せておけ。


【アギト、アリガタウ】





 剣を杖代わりに地面に突き立て、もう残っているかどうかさえ分からない自身の力を振り絞って立ち上がり剣を構えた。


「ちょ、待ったれや」


「なんだエセ関西人」


「エセ(ry なぁ? お前もういっぱいいっぱいやろ? 寝とけや。わいがその化け物にとどめさしたるさかい」


「魔裂姫さん。あなたには避難させたプレイヤーの皆さんのガードを命じたはずですが?」


「もう外はええんちゃいますかラスク様。この化け物も中央広場から出れへんみたいやし、街の外までここに居座っている軟弱プレイヤーをわざわざ避難させることなかったんちゃいます。どうせこいつが偽情報でMOBとやらのレアアイテムやら財宝やら独り占めしようって魂胆やで、まぁわいには端っからわかっとったけどな」


「おいコラっ! DQN、あんたなに言ってんの? アギト君は……違ったお兄ちゃんは万が一を考えて、街に残っている非戦闘プレイヤーさんたちを逃がすって判断をしたのっ! それをあんたは――」


「黙っとけや、貧乳」


「なっ! DQNあんたまた、あたしの――」


「誰が貧乳だと仰いますの? わたくしは決して貧乳ではございませんわ。慎ましやかなだけですのよ」


「ラスクさん! そうですよねそうですよねっ。大丈夫ですラスクさん、アギト君……お兄ちゃんは、大きなお乳には反応しませんからロリですから。アギト君の秘密の愛読書やお兄ちゃんが購入するエロ本の傾向もアイドルの好みも知っている、あたしが言うんだから間違いないです」


 待てっ! アキっなぜお前が俺のエロ本購入事情を知っている? 妹にエロ本購入傾向を知られている兄ってもう駄目な気がする。


 だがな空ちゃん、ひとつ間違っているぞ俺はロリではない。ぺったんこがどちらかと言うと好きなだけで大きなお乳も好きだ。


「あら良かったですわ、少し不安を感じておりましたの。それなら安心できますわ。わたくしは貧乳でもぺったんこでもありませんが、なぜか安心はいたしましたわ」


【アギト、アギト。これ以上ヴォルテールを押さえることがわたしには出来ません。制御が本来のプログラムに戻る前にヴォルテールに早くとどめを】


「分かった、もう一度カウンターを狙ってクリティカルを発生させて確実に終わらせる。ラスク」


「はい?」


「君は、DQNの所為で空いたガードの穴を埋めに行ってくれ、ここは俺が引き受ける。アキ、お前も行ってラスクとともに守ってくれ」


「お兄ちゃん?」


「俺は大丈夫だ。もう諦めたりはしない」


 大事なことを、この世界で空ちゃんを守って、そして必ず現実に生きて返すってことを改めて思い出したからな。


「うん、任せたよお兄ちゃん。イベントが無事に終わったら良い事しようねっ」


 ……いやそれは空ちゃん? 新たな黒歴史が生まれることになるからねっ。


「待てやっ! とどめはわいが刺す。いくぞお前ら、わいが後衛でお前らがあいつの大剣を跳ね上げ硬直時間を発生させたところで、スイッチしてわいがとどめを刺すさかいに前衛はお前らに任したで」


 従えてきた者たちに指示を出すDQN魔裂姫。


「止めとけ、あの大剣に少しでも触れたら間違いなく死ぬぞ」


 取り巻きの者たちは、俺の忠告にゴクリと唾を呑み込んだ。


「うっさいのぅ。お前は口だすなや。もう騙されへんでわいは」


「お前は止めねぇーから好きにやれよ。大方ラストアタックボーナス狙い……仲間を盾にして利益だけを自分の物にするお前は勝手に死ねばいいさ」


「なっ!」


「魔裂姫さん、あんたっ」


「違う、こいつのでまかせやっ!」


「でも魔裂姫さんって前衛タイプですよね? いつも雑魚モンスター相手にしているときや他パーティーがいてギャラリーの目があるときは、見た目勇敢に見える前衛ばかりして後衛には絶対回らないし、ファーストアタックによる一撃討伐ボーナスを「危険の代償や」って当たり前のように持って来ますよね?」


「な、なに言うてんねん、それは当たり前やろ」


「そいうや後衛に回るときは、クエストボスとか強いモンスターのときだけだよな?」


「分かったろ? こいつは自分の取り分しか考えてねぇークズなんだよ。死にたくなければ、こんなアホに付き合ってねぇーでもう去れ、時間がない」


「分かったよ、こいつはどうみても俺たちの手には負えそうもない。アギトって言ったっけ? あんたに任せるよ。俺たちも死にたい訳じゃないんでな」


「賢明な選択だ。長生きできるぜ」


「ああ、そう願いたいもんだ。あと、お前も死ぬなよ。っとまぁそういうことなんで、俺れらもフィールドに戻ってラスクさんと避難させたプレイヤーのガードに戻るわ、魔裂姫さん、悪く思わんでくださいよ」


「お、お前らっ! 裏切るちゅーんかい」


「はぁ? 端っからあんたのことは信用してねぇーよ。あんたと揉めると後がウザイから従ってる振りをしていただけだ」


「なっ……」


【アギト、アギト早く、ヴォルテールが動き出します】 


 アリスの言葉が終わると同時に、動きを止めていたヴォルテールが咆哮を上げた。


 周囲の空気をも揺るがすその咆哮だけで、ビリビリ肌を刺激されHPゲージを削り取られている様にさえ錯覚させられる。


「ひぃっ。な、なななっ……なんやこいつのごっい咆哮は、あかんこんなん倒せるわけがあらへん」


「ヤバイっ、こいつマジヤバイ」


「おい。あんたたち、このDQNを連れて退いてくれ」


 ヴォルテールの咆哮に怖気て地表に尻もちを着いている魔裂姫を見捨てて逃げようとした仲間に言った。


「わ、分かった」


 ヴォルテールに向き直り、スキルを発動する。


 勿論、俺が今持っている最大の単撃技【バースト・クラッシュ】でとどめを刺すつもりだ。しかしもう一撃で確実に倒すには、やはりカウンターは必須だと考える。


 あと一撃で倒せなければ、俺にももう一度ヴォルテールと向き合って戦えるだけの余裕はない。


 ヴォルテールもそれを理解しているのかは定かではないが、とどめを刺さんとばかりに大剣を振り上げ向ってきた。


 大剣を弾いて硬直時間を作り出し、その隙に本体にダメージを与える、それが本来、技術さえあればもっとも安全且つ有効な手段ではあるが、それではカウンターにならないし、そうでなくてもヴォルテールの大剣をウエイトが無い片手持ち剣で弾くことは容易ではないだろう。


 同じ大剣もしくはラスクが使用していた巨大槌なら、まだ現状のレベルでも耐えれたかも知れない。


 そう考えればラスクさん恐るべし。


 カウンターを当てることも簡単ではないが、それでもこれまで培ったゲーム感と技術に俺だって自信を持っている。


 ヴォルテールの大剣が振り下ろさる。


 その太刀筋を読んで、僅かに体を翻して躱し、そのまま勢いを殺さずにヴォルテールの懐に飛び込んだ。


 これまでより一段と深く。


 もうひとつ俺には狙いがあった。


 急所突きによるクリティカル補正だ。


 急所に定められている部位は、大方人間と同じである。


 頭、首、心臓、鳩尾など中心線上が主で、特殊モンスターを除けば人型に限らず大体同じである。


「うおぉぉぉぉーーーーっ」


 持てる限りの力を込めてヴォルテールの心臓目掛けて剣を突き刺した。




 To Be Continued

御拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!

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