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break the world on sword   作者: 雛仲 まひる
第二章 聖バレンタインの日の約束
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聖バレンタインの日の約束 6

 俺が不安視しているのは使い魔システムだ。


 βテスト時代、俺は出逢う事はなかったが、稀に小型モンスターを胸元に抱いたり肩口に乗せたりしているプレイヤーを見たことがある。


 話を聞いてみればバトルフィールドでエンカウントした際、擦り寄って来たらしく、様子が違う事に気付いて持っていた食糧を与えたところ、ウィンドが立ち上がり選択肢メニューが表示されたそうだ。


 モンスターでも例外を除けば、使い魔となったモンスターは主と共に“街の中に入る”ことが出来る。


 あくまでシステム上、フィールド以外でのプレイヤーに対する安全に関したロジックはクラッキングされていないようであるけれど、こういった例外を最初から組み込まれたものに関して、どういったバグが発生するかなど、この緊急時に置いてあれこれ考えるより“有り得る”と考え対処しておいた方がいいだろう。


 俺の不安が的中すれば非破壊オブジェクトである街自体に被害が出なくても、街に残されるNPCは殺され一度消え去って、またリポップアップされてくるだろう。


 しかし現れたRBMランダムボスモンスターを見たプレイヤーたちのパニックは避けられない。


 パニック状態で皆が慌てればそれだけで危険な状況になってしまうし、それぞれバラバラにフィールドに出られてはギルドメンバーの協力が得られていても、フィールドモンスターから全員を守る手立てを失ってしまう。


 パニックになる前に冷静に安全に行動できる内に、なんとかしなくちゃならないのに俺一人じゃもう手に負えないぜ。


「わたくしは聖杯与し銀の騎士団のラスクです。アートリーに住むプレイヤーの皆さん聞いてください。もう直ぐこのアートリーにくだんRBMランダムボスモンスターという化け物が出現すると情報がもたらされました」


 ギルド本部が面した広場、その南正門からそのまま入った場所に建てられた寺院の二階にある開けた踊り場から3人の女性メンバーに護衛されたラスクが呼び掛けていた。


「でも大丈夫です。冷静になってくださいな。情報は情報、必ずと言ったものではありません。安全圏の街中に何故? そう思うことはとても自然で当たり前のことです。しかしわたくしたちはもっとよく知らなければなりません、考えなければなりません」


 澄んだ歌声の様な声、人の心を溶かすとうな柔らかく穏やかな口調で、これまで耳を傾けようとしなかったプレイヤーたちを魅了していく。


 なんて君は人を虜にしてしまう魅力を持っているんだラスク。


 ラスクが言葉を続ける。


「わたくしたちは、そのことを嫌というほど我が身を持って体験している最中ではありませんか? あの日、12月23日に告げられたデスゲームの日のことを、もうお忘れですか? たかがゲームがたかが娯楽が、その想いは砕かれ今に至っているのではありませんか。絶対、有り得ないことなんて有り得ないことを、わたくしたちは認めなければなりません。もっとよく知らなければなりません」


 ラスク……惚れたっ。


「わたくしたちに情報をくださったアギト様アリガタウ。皆さん彼がいる限りフィールドに出てもなんの不安もありません。彼はお強く聡明で信頼にあたる人物です。さあ我々ギルドのメンバーの指示に従い慌てず速やかに行動に移ってくださいな」


 いつの間にか戻ってきたギルドのメンバーたち大よそ70人余りが正門辺りに集まっていた。


 彼らはいつの間に示し合わせたのか、自らに課せられた役割を知っているかのように行動に移った。


 俺は不思議に感じてラスクを見た。ラスクは意図を感じ取ってくれたかのように笑みで応えてくれる。


 ラスク、君のカリスマ性には驚かされてばかりだな。君は何れもっと多くのプレイヤーを導くことになる。


 それまでには沢山の困難もあるだろうし、避けられない争いに巻き込まれることもある。


 もしその時に俺の力が必要なら、俺は何時何処にいても、君のところに帰って君を支えにくる――!?


 俺がちょーカッコイイことを言った次の瞬間、信じられないことが、俺の予想だにしていなかったことが起こった。


 チャッチャラチャラララ チャッチャ♪ パフ


 チャッチャラチャラララ チャッチャ♪ パフ


 チャッチャーラ チャーラチャッチャッチャラッチャ♪ 


 チャラチャチャラチャ チャラチャチャラチャ チャッチャーチャラチャ♪ パフ。


 台無しだっ!


 俺がカッコイイ科白を脳内展開していたところに、メールの着信が届いたのだ。


 くそっ……こうなる事態が読めていたら、笑点の着メロにしておくんじゃなかったぜ。


 俺のメアドなんて知ってんのアキくらいなものなんだが? さては……こんのアマァー、お兄ちゃんが他の女の子に魅せられているのが気に入らなくて、絶妙のタイミングでメッセージ送り付けやがったなっ!


 隣にいるんだから直接話せってーの。まったく照れ屋な妹だ。


「もうっお兄ちゃんはっ! どうしてこうも空気読めないかなぁ~?」


 あれ? 俺の予想と違うリアクションが返ってきちゃったぞ。


「このタイミングでこれ? 折角ラスクさんが良い場面をあつらえてくれたのにっ、バカじゃん。……ってあれ? お兄ちゃんって、この世界であたし以外にメアド教えるほど仲良くなった知り合いっていたっけ?」


 なかなか賢い妹である。


 だがな妹よ。俺にだって仲の良い知り合いはいるんだぜ? ここの武器屋のおっさんとか、酒場のシンシアさんとか他の街にも良く話をしに行く人物がいるんだぜ。


「お兄ちゃん……それって皆NPCだよ。生きた人間じゃないんだよ?」


 いやぁっ違う違う違うっ。


 NPCだって学習型高性能AIを積んだこの世界の住民だ、生きているんだ友達なんだっ。


「アキ、NPCもな――」


「ごめんお兄ちゃん。アキが悪かったよ。もうなにも言わなくていいんだよ」


「待てっアキ、あのな――」


「もういいよ、もういいんだよお兄ちゃん。NPCと会話しなくちゃならない程、お兄ちゃんは病んでたんだね? アキが気付いてあげなくちゃいけなかったのにごめんね、おにいちゃん。でももう大丈夫だよ、例えこの世界でもお兄ちゃんが皆に見捨てられることになったとしても、お兄ちゃんがどれだけ痛い人になっちゃっても、アキだけはお兄ちゃんの傍にいて、いつだってお兄ちゃんの味方でいてあげるから、絶対にあたしだけは見捨てたりしないから、いつも傍にいてお兄ちゃんのとちゃんと見ててあげるからねっ。……ぐすん」


 いやっいやいやいやっ。


 お前のお兄ちゃんは痛くはないし、現実世界でもまだ見捨てれてねぇーよ。しれっと「この世界でも」とか言ってんじゃねぇー。


 でもありがとよ、アキ。お兄ちゃんお前の気持ち有り難く受け取っておくよ。


 メールボックスを開いて届いたメールを確認した。


 from ラスク♡ toアギト様♡


 タイトル ギルドの皆さんへ←こういうことですわ。


 内容 ギルドの皆さんへ。カクカクシカジカ、メールでお伝えした指示に従って速やかに行動するよう、お願い致します。


 ラスクからギルドメンバー全員に宛てた内容は、街に戻ってきたメンバーがすぐさま自分の役割を果たせるように、細かく指示した内容の物だった。


 えっ? なんでラスクが俺のアドレスを知っているんだ?


「あっ忘れてた。お兄ちゃんのメアド、緊急連絡用にってラスクさんに教えておいたんだった」


 いつの間に!? でもグッジョブ。マイ・シスター。


 なるほどそういうことだったのか、分かった。それでギルドメンバーの行動が速やかになったのか。


「アギト様そういうことですわ。特別にわたくしの頭をなでなですることを許してさしあげましてよ」


 俺と妹が漫才めいた会話をしている間に、寺院の2階から降りてきたラスクに目を向けると彼女はにこりと目を細めた。


 本当にこの人は頭を撫でて欲しいのだろうか? 単に褒めろと催促しているだけなのだろうか? 悩む。


「ラスク?」


「はい?」


「リアルのことを聞くのはマナー違反だけれど、これだけは知りたい、君ってもしかしてキャラ作ってる?」


「ええ作っておりますわ。わたくしリアルではコスプレイヤーですのよ。服も自前で作れますわ。宜しければアギト様の衣装もお作りいたしますわよ」


「ラスク、教えてくれてアリガタウ」


 うんやっぱりそうだったのかこの人レイヤーだったんだ。


「わたくし是非、アギト様にして頂きたいキャラがおりますの、何事もなく無事に事が済んだ後、その衣装を着て頂きたいのですが? 駄目でしょうか」


「あっえっ? 分った、俺のことを信じて協力してくれたラスクの頼みなら、それくらいのお礼は喜んでさせてもらうよ」


「わぁっ本当ですのアギト様? ではこ○わり君とパ○リロ、えとそれから――」


 古っ! そんなアニメ今知ってる奴っているの?


「あとは、フェ○リーテイルのグ○イに、そうですわね、○らのおとしもの智○なんていいですわね、楽しみですわ、わたくし」


 全裸率高っ! ラスク? 君は俺になにを求めているんだっ。


「あはは……また今度の機会にね、ラスク君の気持ちだけ受け取って置くよ、アリガタウ」


「どういたしましてアギト様。しかしまだ全員の非難は終えておりません、そろそろ日没が近づいて参りますわ。わたくしたちもフィールドに出た皆さんのガードに着きませんと――」


 ――刹那。


 まだ日没まじかの空に黒い影が飛来し、なにかが頭上を通り過ぎていった。


 そうか逢魔時って日没までの夕暮れだったよな。


「ちっ……漫才が過ぎたっ。急ごうラスク残りページ数に余裕がない」


「アギト様? なにを仰って……」


「ラスク、俺は中央広場に向う。そして奴を足止めする。その間に皆を安全な場所に」


「アギト様っ、おひとりでなんて無茶ですわ。わたくしも及ばずながらお手伝い致しますわ」


「ラスク様。ここは私が」


 先だって誘導指揮を執っていたカエサルが現れた。


「悪いがあんたと漫才をしてやる時間はない。それに足で纏いは要らないんだよ」


「アギト様。カエサルさんはお強いですわ、あなたのサポートくらいならば――」


「無理だよラスクさん。今現時点でお兄ちゃんのパートナーになれるのは、あたしだけだよ」


「悪いなアキ危険な目に遭わすことになる。だが今回ばかりは、お前の力が必要そうだ」


「うんうん。分ってるってお兄ちゃん♡ 言ったでしょ? あたしはお兄ちゃんを見捨てたりしない。あたしとお兄ちゃんは、くんずほぐれつ、一心同体、一蓮托生なんだからね。それにあたしが傍にいれば、お兄ちゃんの火事場の妹力シスコンパワーも出るしね」


「言ってやがれ。いくぜアキ」


「うん、お兄ちゃん♡」


「アギト様っ」


「なんだいラスク」


「戻って来てくださいね、必ずわたくしの下に……これを」


 ラスクが自分の首に掛けていたペンダントトップに指輪の付いたネックレス状のアイテムを俺は手渡される。


「これは?」


「ただの首飾りですわ。……でも大切な物ですから、きっと返しに来てくださいね、アギト様の手で」


 この人ノリノリで某ピンクを演じているよな。まぁ乗り掛けた舟だ最後まで付き合うさ。


「ああ、分ったきっと返しに来るラスク」




 アキと共に中央広場へと向かう。


 黒い影に気付いた者も少なからずいて、小規模ながらパニックも起こって、足早に逃げるプレイヤーたちの流れに逆らい、人混みを縫うように走った。


 漸く中央広場が見えた時、数人のプレイヤーが中央広場にいた。


 恐らくメッセージを正しく解読出来たパーティー集団だろう。


 しかし俺とアキはその集団には目もくれず、中央広場の中へと飛び込んだ。


 俺たちが来るのを待っていたのか、と思うほどのタイミングで奴は天から降ってきた。


「……なっ、こいつ」


 そのRBMランダムボスモンスターの異様な姿を見て、俺とアキは絶句した。




 To Be Continued

ご拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!


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