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break the world on sword   作者: 雛仲 まひる
第二章 聖バレンタインの日の約束
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聖バレンタインの日の約束 4

 ポップアップされたバトルメニューに浮かんでいたOK? の文字がAre you ready? と表示が変わりカウントダウンが開始された。


 対峙した2人が半身を開いて長槍ロングスピアを前方に突き出し腰を、やや落として構えた。


 俺も腰の剣帯から片手持ち直剣を鞘から抜き、自然体に構えた。


 あいつらはバカだ。始める前からもう勝負は着いている。


 奴らはバトルをするに当たって重大なミスを犯した。自らのレベルを相手に晒してしまったのだから。


 刃を交える前から心理戦は既に始まっている。自分の力に奢り慢心していた奴らは己の力を誇示するために、一番手っ取り早い方法で俺を威嚇した、俺がレベルを知れば逃げ帰るとでも思ったのか、チビで細身の俺を見て脅せば逃げ帰るとでも思っていたのだろう。


 しかし俺は引かず、バトルを申し込んだ。


 2対1という不利にも関わらず。


 自分のレベルを明かすことは弱者相手には有効な手段ではある。レベルが高いことはそれそのものが力を誇示することになるからだ。


 その手段を最初に使ってきた奴らは、俺が予想したように自分たちより弱いプレイヤーたちを相手に威嚇しクエストや狩場を我が物顔で独占してきたのだろう。


 Are you ready? の文字はカウントダウンしていた数字がゼロに変わるタイミングでGOに変わった。


 「おりゃぁー」


 「てやぁー」


 気合一閃、スキル発動を示すライトエフェクトを発した矛先を向けて、同時に踏み込んできた。


 本当に馬鹿かこいつらは、これじゃまるで2対1で戦う意味がない。


 俺は矛先を見切って素早く一歩引き下がる。


 技をかわされ間合いいっぱいのところで矛先が止まったところで、硬直時間が発生し2人のプレイヤーは数瞬の間、動きを止める形となる。


 間髪入れずスキルを発動し止まった矛先を弾きパリィ跳ね上げ、追加の硬直時間を与えると、これまで地道に積み上げてきた敏捷性ステータスを制限無しに解き放ち、一気に懐に潜り込み、雁首揃えて呆気に取られた間抜け面の2人の首に刃を宛がった。


「ま、参った」


「っ、降参、だ」


 俺の現時点でのレベルは伏せておくが、レベルや力の差というより、完全な技術と経験の差の勝利だ。


 どうしてもオンラインコミュ障になる俺はこれまで、やってきたVRMMOでパーティープレイに馴染めず、ぼっちプレイヤーだった。


 それでも何人か……5人くらい? はこれまでのVRMMOで知り合い仲良くなった。


 その内の1人が先日、一番仲良く親密になった知り合いが、実妹であったことを俺は知ったばかりなんだがな。


 そんな俺はソロプレイヤーとして、結構他のVRMMOでも有名な存在になった、なってしまった。


 これは非常に悲しい事実である。


 だってゲーム攻略したければ自分の技術と力を上げ、レべリングを有効且つ最大に自分のスタイルに反映するように悩み苦労し考えて、ソロでも戦えるようになる他無かったんだから。


 やった! コミュ障害バンザイ~っ! なんて言うかチクショウっ。


 バトルメニューにYou are the winnerと表示され、俺の勝利が確定した。


 こいつらの敗因は明らかだ。


 基本を怠り2対1の有利を冷静さを欠いた戦い方をして無意味なものにしてしまったのだ。


 AIを積んだ対モンスター戦と意思を持つ対プレイヤー戦での違いはあるにしても、戦闘に置ける基本には大差はない。


 彼らは対モンスター戦での基本、前衛ヴァンガードポジション後衛フォローポジションに別れて挑むべきだった。


 ヴァンガードが俺と近接戦闘に持ち込み、スキルを用いて剣をパリィ、または俺の技をかわすか受け切りって数瞬の硬直時間が生じた俺にバックが攻撃しダメージを与える。


 それでも負ける気はしないけど、しかしこいつらは同時に突っ込んできた。


 アホだ。


「君に感謝する」


 バトルを静観していたカエサルが勝利者が決まるとそう言った。 


「ああ、いいよ」


 俺は短く答えた。


「んん? なんでお兄ちゃんが感謝されてるの?」


 なぜだか分らないと、きょとんと首を傾げて妹は俺を見ている。


「ギルドの仲間を傷つけないでくれたことに感謝したのだよ。君は素敵なお兄さんを持っているね」


 カエサルの言葉に妹は「えへへへ」っと両手で前髪を梳かしながら照れていた。


 そうだ。お前のお兄ちゃんは凄かろう。


「カエサルさんて大人でなんですねっ! 惚れちゃいますそうですっ、あたし……」


 顔を赤らめた妹に「あはは、それは光栄だね」と言ってカエサルは快活に笑った。


 なんだよこのロリサルめっ、ここが安全圏の街中でなければ、俺はカエサルをPKしているところだ。




 その後、カエサルは俺たちをギルドの中へと招待してくれた。


「こんな物しかないが飲んでくれ」


 俺たちの前に飲み物が運ばれてきた。


「どうぞ。この様な粗末なものしかございませんが」


 粗末と分ってたらだすなよ、と心の中で思いつつ飲み物を運んできた人物を見て驚いた。


「アリガタウ」


 腰の辺りまで伸びた桃色の髪に紫色の瞳をしたお姫様のと見紛うドレスを身に纏った綺麗さと可愛さを持ち合わせた女の子が、飲み物をテーブルに置くとカエサルの隣に腰を掛けた。


「紹介しよう。聖杯与し銀の騎士団シルヴァクロス代表のラスク様だ」


 おまぇーカエサル。ギルドのトップに、こんな可愛い子にお茶を運ばせたのかよ。


 って……えぇええええええええっ!?


「マジで? この子がギルドマスター」


 何処かで聞いたようなことのある紛らわしい名前のピンクのお姫様がにこりと笑んで答える。


「はい。わたくしがギルドを立ち上げました。大方のことはカエサルさんに任せっ切りになっておりますが、……その、わたくしVRMMORPGが初めてでよく分らなくて、そんなわたくしが【ギルドの権利書】などをドロップしてしまって、そのときに一緒にパーティーを組んでくださっていたカエサルさんが、手伝ってくれてギルドを発起したのですわ」


 こんな可愛らしい子が阿漕な遣り方をしているギルドのトップとは到底思えないが、人は見た目じゃない。


 警戒はしておくに越したことはない。


 ちらりと隣に座って出されたコップを両手で挟んで持ち、お茶を啜る妹に目を遣った。


 妹は頭に「?」を浮かべ、きょとんと俺を見てはにかんだ。


 …………。


 天使の微笑みに惑わされるな、警戒をしておくに越したことはないんだぞ俺、VRMMORPGに置いてそう簡単に信用することは馬鹿げている。


 HPゲージ(ライフの他に麻痺や毒などのステータス異常も示す)以外の表示、レベルが自分以外に見えないシステムは、自身より弱者を狙うPKからの防止策でもある。


 表示切替で設定を変更すれば、ポップアップしたウィンドが第三者も見えるオープン表示に出来るし、頭の上でクルクル回っているカーソルのところにLv○○といったように表示させることも可能だが、先ずやっている者は見ない。


 それだけ安易に自分の情報を他者に知られることは致命的になるケースが多く誰もやらない。


 この世界では奇麗ごとを言う奴にほど信用出来ない。


 例えば誰かを悪者にして最もな言葉を並べ人を誘導する。


 槍玉に挙げられるのは主にβテスターたちだ。


 誰もがゲームスタート時には対してパラメータに変わりないのだけれども、チートだの身勝手だの情報を独り占めしているなどとうそぶいて、劣等感を抱く者たちを強さに憧れ妬む者たちを巧みに誘導し、自ら弱者を導く指導者を装い、世界のボスを気取って膨大な恩恵を受けぬくぬく富を得て育つ奴らは少なくない。


 βテスターたちも余計に意固地になり距離を置くようになっていった。


 まぁ俺もなんだけど。


 全てのプレイヤーがそうではないにしても、お互いの認識が噛み合わず悪循環が生まれ、その溝は最早埋められないところまで来ている。


 楽しいはずの世界で揉めたり人を疑わなければならないことを避け、成り行きでパーティーを組むことはあっても、お互いに必要なら助け合うことはあっても、ソロプレイヤーとして誰とも慣れ合うことなくやってきた。


 それは俺がソロプレイヤーを名乗る上で、最早捨てることの出来ないどうしようもなく俺のアイデンティティーとなっている。


 利己的だ、卑怯だ、チートと呼ばれ疎まれようがβ上がりとやっかまれようが、このデスゲーム以外に妹がトラブルに巻き込まれるくらいなら、俺は“断固たる決意デターミネーション”を持って進んで修羅の道を往く。


 断じてコミュ障だからではないと思いたい。


 今回は守らなければ、守ってやらなければならない妹が傍にいる。だが俺がソロプレイヤーである根本たるそれらは変わらないし変えることはないだろう、これからも絶対に。


「ギルド運営が分らなければ自らギルドを立ち上げなくても、オークションにでも出せば大金が手に入っただろうに」


「そ、そうですね。ですがお金ではないのですわ。わたくしはデスゲームを恐れ怖くて戦えなくなってしまっている、この街に残ったプレイヤーさんたちを守ること、というまではわたくしには出来なくとも、安全に過ごせるために少しでも助けになればとギルドを起こしたのです。わたくしなど素人で、なにも分らないのに大仰ではありますよね?」


 神の造形といっていいほどの端正な顔に苦笑いを浮かべて小首を傾げてラスクは言った。


 新技術の肉体量子化は、髪の毛と瞳の色をカスタマイズ出来ることと変更出来ることを除けば、リアル本人の姿をそのまま形成し、身長、顔、スタイル全てはリアルの本人そのものの誤魔化しようのない自分自身の姿なのである。


「いえ立派なお考えだと思いますっ」


 か、感動したっ!


 ガタガターン。


 椅子を後ろに弾き飛ばして勢い良く立ち上がり、テーブルに突っ伏ような姿勢でラスクの手を両手で握った。


「えと、宜しければあなたのお名前をお教え願えますでしょうか」


 突然取った俺の奇行にも、柔らかい笑みを浮かべてラスクに名前を尋ねられた。


「俺の名はアギト、ラスクっ今日から俺は君だけの黒のナイトだ。君のためならチートでも無双にもなります。もうアギト無双やっちゃう覚悟です」


「ア、アギト様と仰いるのですか。お、お強そうで、なにより素敵なお名前ですわ」


 若干引かれつつも、にこりと柔らかく微笑みを絶やさないラスク嬢は可愛らしかった。


「結婚してください。俺はラスクと添い遂げるっ」


「あ、ありがとうございます、お気持ちは大変嬉しいのですが……、アギト様には素敵な彼女さん? が既におられるようですし、それに、わ、わたくしたち知り合ったばかりですし……直ぐにお返事は……」


「そんなラスク、こいつは――痛てっ」


「アギト様? どうかなさいましたか?」


「い、いえ、なんでも……」


 アキの野郎っ、今日買ってやったばかりのおしゃれブーツで俺のすねを思いっきり蹴りやがった。


 お前も俺とレべリングしてんだから、現時点で相当高レベルになってんだぞ! 加減しろよ加減っ。


 安全圏でなければ、あわやHPゲージが半分ほど削られてたのではないだろうか、と思うほど痛かったぞ。


 まぁ実際は少し減る程度だろうけど。


 アキは素知らぬ顔をしてお茶を啜りながら、ぽつりと小声でこう言った。


「お兄ちゃんのアイデンティティー弱っ」


 バカめ、奴は今し方死によったわ。


「ときに君は家のギルドに用があったのでは?」


 カエサルが俺とラスクの固く結ばれた手を引き剥がした。


 まったくKYで野暮な奴である。


 俺は視界の右上に表示されている時計に目をやると15:20分を表示されていた。


「今ギルドのメンバーは何処にいる。見たところ門番2人と本部にあんたとラクス、それに数人しか姿が見えなかったが」


「今日はメッセージに届いたイベントで、殆どのメンバーは、そこに向かったと思う。家は基本イベント参加は個人の意思でね、ギルドで参加しれば、そこで得られるレアアイテムが切っ掛けで起こり得るトラブルを先んじて回避している、ラスク様の要望でね」


「直ぐに集められるか」


「いや全員は無理だろうな。恐らくメンバーの殆どがアースガルズ南の砂漠にあるピラミッドに向かったはずだ。力を塔の示す場所にね」


 ちっ、なんてこった人も居ない時間もない。


 だが出来るだけのことを限られた人数と時間でやるしかない。


 アートリーに篭っている5000人を街の外へ非難させ、モンスターから守り抜かなければならない。


「ラスク、カエサル。10分以内に集められるだけの人数を集めてくれ、そしてこの街に来ている戦う決意をしたミドルクラスのプレイヤーを集めてくれ」


「一体君はなにをしようとしているんだ」


「この街に居るプレイヤーを全員、外に非難させる。日没、この街の中央広場にRBMランダムボスモンスターが現れるはずだからな」




 To Be Continued

ご拝読アリガタウ


次回もお楽しみにっ!

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