たった一人だけのギルド 1
こんにちは。
雛仲 まひるです。
ちょっと気分転換に以前から書いたいと思っていたVRMMO物です。
本人余りVRMMOをやらないので、どんな物語になるのやらですが、
参考にした題材の舞台設定に近くなっていると思いますが、別物のお話です。
息抜きがてらの俺得作品ですまん。><
break the world on sword
デスゲームが始まってから1年が過ぎた2124年12月23日。72ヶ国目の最前線にてステージボス解放戦が本日行われる。
次の国に通じる国境を解放するには、ゲートを守護するボスモンスターを倒さなければ先の国に進行することは出来ない、これは戦争なのだ。
神を名乗った人物との生存圏争いであり、また現実世界を取り戻すための戦いだ。
デスゲームに終止符を打つために決して避けられない戦いに4大ギルドの内、3大ギルドを中心に大小様々なギルドが協力し国境ゲートを守るフロアボスの攻略に当たる。
72ヶ国目最大の都市リファインの大広場に集った、それぞれのギルドはこれまでもデスゲームの解放戦を潜り抜けて来た生え抜きのトッププレイヤーたちが組織する強力なギルドばかりだ。
その中にたった一人だけのギルドが参加していた。
ギルド:名もなき漆黒の騎士。
そのGMは見た目十代前半から半ばに見える。量子変換された肉体を包むポリゴンに覆われた肢体は細く頼りなく、お世辞にも強そうには見えなかった。
瞳は黒く、その瞳は何処か寂しげに虚空を見つめている様にわたしには思えた。
同じく髪の毛も黒く目の辺りに掛った前髪、耳の三分の一程度を隠す様に後ろに流し襟元くらいまで伸びた黒ずくめの彼は一見、不気味な雰囲気を他のプレイヤーたちに与えていた。
噂では彼はβ上がりのプレイヤーで、なんでもソロでこの腐った世界のサバイバルに挑んでいるらしい。
とりわけて彼の評判は余り良くはない。
彼が解放戦に参加してくれることは、正直なところ心強いとわたしは感じている。
しかし彼の参加を快く思ってないプレイヤーも少なくは無いのも事実だ。
βテスターたちの大半は先行して得た有力情報を隠している。このデスゲームに置いて彼らの行為は決して褒められたことでない。
このゲームはリアルに命を賭けたデスゲームなのだから、もっと手を取りあって戦いに望むべきではないのか? 当初のわたしもこの世界から早く逃れたくて、いや違う。この世界で生き延びるために、寝る間も惜しんでレベルを上げていたし、そのお蔭で今こうしてトップギルドに身を置くわたしには彼を責める権利はないのだけれど……。
156ヶ国、1250の主要都市と6250にも及ぶ大小の街を開放し現実世界に帰還する戦い。
デスゲームを告知されてから、1年の月日が過ぎた今ではサービス開始当初のパニックは収まり、それぞれこの世界で生きる、生き延びるために当初は嘆いていた多くのプレイヤーたちも考え始め、始まりの国アースガルズにある最初の街アートリーを出て各地へ散らばっていた。
当初の街には泣き叫ぶ者、発狂する者、ただ膝を抱えて絶望を抱く者より、現状を理解出来ずにただパニックになる者で溢れた。
デスゲームが終わりを告げることを祈りつつ、最低限の糧を得るため、生活のために仕方なくフィールドやダンジョンで狩りをする者やミッションに出る者、積極的にゲーム攻略に挑む者などさまざまではあった。
わたしも最初は宿に閉じこもり毎日泣いて日々を過ごしたけれど、なにもしなくてもお腹は減るし、ゲーム内の自身を構成している肉体はポリゴンで形成された肉体であると言っても肉体量子化によるフルダイブでポリゴン形成された肉体は仮想世界での外骨格に過ぎない。
その肉体は五感や食欲、睡眠欲、性欲に至るまでリアルに残し、そのままダイブするこのゲームでは、食事はリアルに栄養源となり、食べなくてもやがて餓死してしまう。
それになによりわたしは現実世界に帰りたい、そう思ってからのわたしも寝る間を惜しみ、レベル上げに邁進し、やがて今となっては最強ギルドと謳われる鉄血の白の騎士団に参加し最前線で攻略線を繰り返している。
まだ現実世界で沢山遣り残したこともあるしね。
だってわたしまだ17歳になったばかりの女の子なんだもん。
おしゃれもしたいし友達と美味しいスイーツのお店も行きたいし、それに素敵な恋だってしたいじゃない?
そうそうわたしの名前はナツキ、宜しくね。
半年くらい前に58ヶ国目の国境近くのフィールドで、わたしは彼と出会った。
わたしが攻略組最強と謳われる鉄血の白の騎士団に参加して間もない頃、フィールド上に稀に出没するランダムBOSSモンスターに運悪く出来わしてしまい、窮地に陥っていた騎士団の2パーティー12人を彼が助けてくれたのだ。
ランダムBOSSモンスターは、順を追って解放していく国々に割り振られたモンスターの適正レベルを遥かに超えたレベル設定のモンスターで、58ヶ国目攻略に必要なレベルでは到底太刀打ちできない相手だ。
出くわしたら最早逃げの一手しかない。
当時わたしたち白の騎士団の平均レベルは約70ほど。仮に攻略に必要なレベルより十分に安全マージンを取った数字を攻略国数にプラス10とすると、フロアボスやフィールドボス、ダンジョンに出現するモンスターを相手にしなければ、ソロでもミッションを熟せるレベルに達していたと思われる。
思われるというのは、なにからなにまでリアルに近づき過ぎ、進化し過ぎたネットゲームに置いて、それぞれ自分のレベルやスキルを決して他人に明かさないし個人情報の詮索はマナー違反というのが暗黙の了解だからだ。
その当時のわたしのレベルは78に達していて、恐らくは最前線でもトップクラスだったという自負があった。
それでもはトップギルドとはいえ、まったく箸にも掛らないくらいに圧倒的だった。
これまでRBM出くわしたことなど一度も無い、見た事さえない山羊の角と顔を持ち、背中には蝙蝠の様な羽、尻尾は蛇、身体は人の悪魔型モンスター、無論判断は逃げの一手である。
しかしそれが出来なかったのだ。
これまで強力なフロアボスを倒してきたという慢心と驕りがRBMごときに遅れはとらない、という油断を生み出し戦い始めてしまったのだ。
しかもその時に出くわしたRBMは、麻痺のブレスを吐きパーティーの殆どが最初のブレスによって麻痺に陥ってしまった。
仲間を見捨てて逃げるなんて出来るはずもなく、戦うしかなかったのだ。
よく考えれば結果は見えていた。
こちらの攻撃はRBMのHPゲージを僅かに削っていくのがやっと。
それでも前衛と後衛が連携を駆使し、前衛が隙を作って後衛が入れ替わり切り込んでダメージを与えるスイッチという戦術を繰り返し戦いを続けられたのは、やはりトップギルドに属したトッププレイヤーたちだったからだろう。
しかし麻痺のブレスは厄介極まりなかった。
回復してもまた誰かが麻痺に陥る、を繰り返した。
緊急離脱用の回帰結晶を使えば逃げることも出来たが、やはり麻痺に陥った仲間を残して立ち去ることは出来ない。
そして徐々にではあるが、少しずつ減らしたモンスターのHPゲージは半分辺りまで減っていてこれなら、わたしたちなら勝てる、と言った驕りが生じていたことも否めない。
モンスターのHPゲージが半分を割、三分の一に差し掛かりHPゲージの残りが危険域を示す赤に変化した時、生まれた驕りが仇となった。
なんとかなる。行ける、そう感じた時だった。
空気を震わす咆哮を上げたRBMに、一瞬怯んだ隙を突かれて、回避可能の内に麻痺のブレスを全員が浴びてしまったのだ。
全員麻痺状態。
誰かが誰かを回復する事もできない状態に陥ってしまった危機的状態だ。
それにもう12人全員を麻痺から回復させるだけの回復結晶もポーションも残って無かった。
あと少しで……。
その驕りは大きな代償となって自分たちに帰ってきたのだ。
もうわたしたちに出来ることと言えば、麻痺効果が切れて動ける様になることを祈るか、RBMの攻撃を喰らって死を待つしかなかった。
モンスターがわたしの方に顔を向けたとき、言い知れぬ死への恐怖に襲われた。
地響きと土埃を引き連れ一歩一歩近付いて来る悪魔を見ていると恐怖で泣き叫びたくなったが、麻痺した身体はそれすらも許してくれなかった。
悪魔はわたしの数歩先で歩みを止め、手に持った巨大な斧を天高く振り上げ、そしてやがて振り下ろした。
わたしは目を閉じた。
死の覚悟なんて出来ていない、出来るはずもない。
わたしは心の中で叫んだ。
誰か、誰か助けて――――。
To Be Continued
ご拝読ありがとうございました。
尚、本作品は「ちょっと? 九尾」の傍らに書いている物でして自身の都合により中断する可能性もありますので予めお伝えしておきます。
では次回もお楽しみにっ!