15
*15 可愛い弟
+++達紀side+++
澪梓を抱きかかえて、そこに居る奴らを見た。
悔しそうに唇を噛み締め拳を作ってる有紀。
焦りと困惑の色を含んだ目を俺に向けてくる副会長の三代。
何が起きたのか分かっていないのか、呆然と此方を見ているこの事件の犯人の鳴海。
俺はチッと舌打ちをしてから鳴海を睨んだ。
鳴海はそれで正気に戻ったのか、ハッとして俺を俺に焦点を合わせた。
「てめぇ、澪梓に何した。」
「……」
「説明することも出来ねえのか、屑が。」
「……」
「はぁ…話は後だ。とりあえず澪梓をどうにかしないと。有紀、お前の部屋連れてくぞ」
「…あ、うん」
俺と有紀が学食を出ようとすると、三代が遠慮がちに口を開いた。
「あの…。その、愛川くんは過去に何か…あったんですか?
例えば、襲われたことがある、とか…」
遠慮がちに開いた口に対して出てきた言葉は遠慮の欠片もない。
「はっ、てめぇに話してやる義理はねーよ」
俺はそう吐き捨てて有紀を引き連れ学食を後にした。
授業中だから人目につかなくて良かった。
そんなことを思いながら有紀の部屋に入り、俺の腕の中で規則正しく寝息をうつ
澪梓を、そっとベッドへ寝かせた。
そこで、有紀に話を聞いた。
電話で呼ばれたときは、ただ「澪梓が大変だから!早く学食に!」という声とともに、
後ろで泣き叫ぶ澪梓の声が聞こえただけで、何が起きているのかまったく分からなかったのだ。
有紀に聞く話によると、会長が澪梓を部屋に連れ込み犯そうとしたとか。
それだけじゃ満足せず澪梓に向かって、淫乱やらなんやら言ったのだそうだ。
俺はそれを聞いて一気に怒りが沸騰した。なに言ってくれてんだ、あの野郎…。
今すぐ殺しに行こう。会長としてはまあまあ出来はよかったが、
澪梓に手を出したなら、そんなこと関係ない。今すぐ殺しに行こう。
そう思い椅子を立った時に、澪梓の眠る寝室から呻き声が聞こえた。
俺と有紀はすぐに寝室へ向かった。
すると、苦しそうに眉を寄せた澪梓が、痛い、怖い、寂しい、助けて
と必死にそう言っていた。
俺は澪梓に顔を寄せて、安心させるように大丈夫だ、と声を掛ける。
すると、眉を寄せている顔が一変、助けを請うように涙を流しながら
助けて、と必死に訴えかけてきた。
俺はそれを見て、大丈夫だ、澪梓…と囁きながら澪梓を抱きしめた。
そしたら澪梓が俺を抱きしめながら、『怖かった。寂しかった。助けてくれて、有難う…』
と一筋の涙を流しながら俺にそういった。
俺はそれを聞くなり、澪梓をさらに抱きしめた。
すると澪梓は優しく微笑み『有難う、有難う---たつにい。』
と呟き、また規則正しく寝息をうった。
有紀と俺は安心して、はぁと息を吐きだす。
鳴海を殺すのはまた今度。今はベッドで寝ている
可愛い大事な弟を見守ることが先決だ…。
15可愛い弟 終