13-12
++++++++泰雅(鳴海)side
食堂で有紀と転校生の愛川澪梓を見かけた。
愛川は、俺の前だと怯えてたくせに有紀には笑顔を振りまいてて、ちょっとムカついた。
だから声を掛けた。したら、やっぱ愛川は怯えやがった。
俺と有紀が喧嘩してたら、また愛川はまたまた怯えた。
有紀が焦りながら謝る。それを見た愛川が可笑しそうに口元を緩めながら
『だいじょぶ、です』って舌足らずな言葉でそう言った。
俺はそれを見て、我慢が出来なかった。
だから、愛川を引っ張って俺の部屋に連れて行こうとした。ら、また有紀が邪魔しやがった。
んで有紀と言い合いしてたら愛川が涙目になりながら、離せと叫んだ。
そういえば愛川の腕を掴みながら言い合いしてた。思い出して掴んでいた腕を離す。
また有紀が必死で謝ってる。
さっきはすぐに許してたけど、今回はそう簡単にはいかないみたいだ。
何回も有紀が謝ってるのに愛川はそれを無視してる。段々と有紀の顔が曇る。
もう今にも零れだしそうなほどに瞳に涙を溜めて、愛川の名前を呼ぶ。
愛川も根負けしたのか、有紀を許す。
したら、有紀が愛川に抱き付いて、愛川は有紀の頭を撫でる。
ちょっとしたら、有紀が鋭い目つきで俺を睨みあげて、
さっき愛川を何処に連れて行く気だったのかと聞いてきた。
だから、正直に話した。話してたら段々有紀の顔つきが険しくなってて、それが面白くて
また口を開く。
処女か?だの、淫乱だの、色々言った。有紀の顔がまた険しくなる。
次は何を言ってやろう。そう考えてたら、愛川が震えてるのに気がついた。
有紀で遊ぶのが楽しくて、愛川の存在を忘れていた。
愛川に目をやると、有紀に劣らないくらいに険しい顔つきだった。
それに、普段でも真っ白な肌が、青白くなっていて、細っこい体がカタカタと震えていた。
少しからかいすぎたかと、今更ながらに後悔する。
ちょっと反省してたら、愛川の小さな唇が、震えながら開いた。
『…め…なさ…』この最初に発せられたその一言は、本当に小さくて、聞き取れなかった。
後ろに立っていた有紀も聞き取れなくて、『…澪梓?』て言ってたくらいだし。
でも、そこから愛川はハッキリした声で叫び始めた。
ごめんなさい、とか、許して、とか、いやだとか、色々叫んでた。
大きな緑の瞳からは輝きが消えていて、ただ涙を零すだけ。
『ひ、ろさんっ、やだ』
不意に愛川がそう叫んだ。有紀は、弘さんはここに居ない、と言っていた。
弘さん?誰だ。そいつが愛川をこんなに怖がらせているのか?
多分そうだ。けど、きっとそれを思い出させたのは、---俺。
有紀は、愛川を落ち着かせようと抱きしめた。けど、今は逆効果みたいで、愛川は有紀を突き飛ばした。
すると愛川は驚いたように瞳を丸めて、また泣き出した。
俺は、唖然としてその姿を見ていた。俺には何も出来ない。否、俺がこうさせたんだ。
理玖が焦ったように有紀にどうにか出来ないのかと、珍しく声を荒げて問いかけていた。
理玖が焦るところなんて、数えるほどしか見たことない。
ただ、それほど今の状況が大変なこと何だろう。
有紀は理玖にそういわれるなり、どこかに電話を掛けた。
数分してから、有紀の兄の山中達紀が来た。
有紀と話してから、澪梓に近づいた。澪梓はそいつの存在を確認するなり、そいつに
『助けて』と泣きながら訴えていた。山中は、両手を広げて愛川を待ち構えて、
そこに愛川は飛びつく。なんども怖いと呟く愛川に
山中は、大丈夫、と優しく囁く。
それでもなかなか泣き止まない愛川に、山中は
愛川の頭を2,3回撫でてから、
『澪梓、大丈夫だから。泣くな。』って囁いた。
愛川はそれを聞くなり、泣き止んで山中にもたれかかった。
山中は愛川を壊れ物を扱うように大事に抱え上げ、愛川の瞼と頬に軽くキスを落とす。
数秒したら、愛川から、『…スー』と寝息が聞こえた。
言っておくが、俺は愛川が好きだ。少し苛めてやろうとは思ったが、
少なくとも此処までやろうとは思っていなかった。
多分、俺が言ったことは愛川には言ってはいけなかったことなんだろう。
-----泣かせたいわけじゃない。
-----けれど、泣かせてしまった。
-----好きなのに……。
13騒動 終