【新作投稿しました!】嘘ばかり吐く婚約者に疲れ切っていた私、婚約破棄されたので自由に生きます〜あなたのくだらない嘘が世間にバレたからって、今更どうすることもできないでしょう?〜
新作短編も始めました!あとがきに書いていますので、よければそちらもお願いいたします
私、ナタリアにはずっと悩みがあった。些細なこと……そう片付けるには限度があった。
悩みというのが、私の婚約者である第二王子、ウォレス殿下がよく嘘を吐くのだ。私が「業務でミスをした」だとか、「王子の私物を盗んだだとか」。それはもう信じ切れないほどのデタラメを、彼は息を吐くように言う。
業務内容が、様々な人間と密に連携をする事務作業であるため、かなり困っている。
しかも、男爵家の生まれである私にとって、そのような名誉毀損は痛手だった。やはり没落貴族の娘は教養がなっていないと、周囲が陰口をこぼしているのを何度も聞いた。
面倒事を避けるために甘んじて受け入れてきたが、もうウォレス殿下には愛想が尽きている。
そんなある日のこと。
突然ウォレス殿下に呼び出されたかと思えば、彼は嘲笑しながら私に叫ぶ。
「今日をもって、貴様との婚約は破棄させてもらう! 理由は分かっているだろうな?」
彼の隣には、見覚えのある女が立っていた。猫のように甘ったるい表情を浮かべている——ニコラ伯爵令嬢だった。
私は一呼吸終えたあと、彼に聞く。
「分かりかねます。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
淡々とした、言うなればかなり冷めた言い方をしていたと思う。けれど、私にとってウォレス殿下はそれほどまで興味のないものだったからだ。
「同僚であるニコラの仕事の邪魔をし、悪評を広め、あまつさえ彼女を階段から突き飛ばしたようじゃないか! そんな人間など、俺の婚約者に相応しくないのだ!」
……少し考える。うん、全く心辺りがない。
彼の様子を窺ってみれば、私とはあまり目を合わせない。これは彼が嘘を吐く時の、いつもの所作だ。
ちらりとニコラを見ると、嫌らしい笑みを浮かべている。
「そうですわよ? あなたにいじめられて、わたしとっても辛い思いをしましたもの」
辛い思いをした人間が到底するとは思えない表情をしている。
しかしまあ……第二王子は嘘つきで、さらにその新しい婚約者も嘘つきともなれば、かなりのお似合いなのではないだろうか。私も少しばかりは応援してあげたいと思う。
これで私との関係も終わるだろうし、なんなら大歓迎だ。
「事実無根である、と言いたいところですが……その婚約破棄は受け入れます。どうぞお幸せに」
私はくるりと踵を返し、扉の方へと歩く。後ろから「よかったな!」「これでずっと一緒ね!」と甘い会話が聞こえてくる。寒気がするので、急いで出て行こう。
そんなわけで、私は無職となった。すぐに仕事は見つかるだろうが、しばらくは実家に戻って休暇を楽しむのが一番だろう。
何より……これで私は自由なのだ。あんな人権すらもない環境にずっといたら、体が持たなくなる。
ああ……最高かな。
◆
実家に戻り、私は何にも縛られない自由な生活を送っていた。暇な時間だけれど、実は一つだけ楽しみがあった。
それは宮廷での事務作業で色々な領地の人間と連携を取る中で、仲良くなったセシル公爵という人物との文通だ。
彼の声だとか、姿だとかは知らない。けれど、文体から発される教養の高さや優しさがとても素敵で、とても良い時間を過ごせていた。
もちろん、手紙のやりとりの中で宮廷での出来事を伝えていた。そして、婚約破棄をされて無職になったことも。
なんてこともない、他愛もない会話のつもりだった。けれど、セシル公爵は明らかに文体に怒りがこもっていた。
『ウォレス殿下の悪い話は、多少なりとも把握している。そんな極めて悪質なことをするとは、到底許せないものだ。ナタリアくん、どうだろう。君の有能な働きはこちらも把握している。よければ、私の領地に来ないだろうか』
この手紙を開いた時、すごく驚いた。どうしようかとも迷ったが、少しばかり彼に興味を抱いていた自分がいた。ここまで良くしてもらっているし、一度会ってみたい。そう思ったのだ。
私は会う約束を取り付け、すぐに支度をして向かった。
セシル公爵領に向かう馬車に揺られながら、どんな人なのだろうかと逡巡する。あまり文通の相手に期待するのはよくないかもしれないが、何故か信頼できる、そんな気がする。
セシル公爵領に入り、馬車は彼の邸宅の前で止まった。まず最初に思ったのが、大層な邸宅だと感じた。街も王都レベルに栄えている。
それもそうで、彼は大手商業ギルドを管理し、貿易で多額の資金を稼いでいるやり手だ。王家からも一目置かれていると聞いている。
少しばかり緊張しながら、門の前に立つ衛兵に用件を伝える。すぐに衛兵は頷き、公爵邸の中へと案内された。使用人たちの手厚い歓迎のもと、セシル公爵が待つ部屋まで向かう。
扉の前まで向かい、一呼吸置いてからノックをする。
「どうぞ、入ってくれ」
さながら音楽のような、心地の良い声音が聞こえてくる。扉を開くと、そこには一人の男性が執務机で本を読んでいた。
ゆっくりと彼が顔を上げると、すぐに笑顔を浮かべる。
「君が……ナタリアか。文章から可憐な人物だと思っていたが、想像以上だな」
椅子から立ち上がり、私の前まで来るセシル公爵。私はぺこりと頭を下げる。
「初めまして。私も、セシル公爵のことを見て同じ思いです」
金色の美しい髪に、澄んだスカイブルーの瞳。優しげでありながらも、堂々としたとても素敵な殿方だ。
セシル公爵は嬉しそうにしながら、こくりと頷く。
「わざわざ来てくれてありがとう。改めてなのだが、君には商業ギルドも含めて公爵家に関係する事務作業をやってもらいたいんだ。人は雇っているのだが、やはり高度なことをすることになる。だから、結構困っているんだ」
そう言いながら、彼は指をピンと立てる。
「もちろん、報酬はしっかりと出す。給与は宮廷の倍、残業代もしっかりと出す。私から言うのもおかしな話だが、人間関係もかなり良好だ。君の宮廷での惨状は聞いている、だから少しでも充実した場所にしたいと考えているのだが、どうだろうか?」
……あれ。なんだその条件。
——めちゃくちゃいいんですけど。
宮廷のゴミのような賃金が嘘のようである。ありえないと思いつつも、私は王子の婚約者として安く買いたたかれていたのだろうと思う。
「断る理由がありませんね……。ですが一つだけ。業務の効率化は積極的に行います。もちろん、他の職員たちにも扱えるものを組ませていただきます」
そう言うと、セシル公爵は嬉しそうに笑う。
「そうか! 本当に嬉しく思う! そうだな、だが君も現場の様子を見ないと最終判断はできないだろう。どうだろう、数日お試しで色々とやってみるのは。合わなかったら、とても惜しいが自由に辞める判断を取っていい。その時は私が別の職場を斡旋しよう」
試用期間ということか。しかも、私が自由に判断してもいいというのも。ここまでの好条件を提示してくれる職場もなかなかない。
「もちろんです。ぜひ、お願いいたします」
◆
初日。私は現場に出て驚いたことがある。職場のみんなが、とても優しい人ばかりだったのだ。私の悪い噂なんて全くしない。なんなら、セシル公爵から事情を聞いていたようで色々とよくしてもらっていた。
王家のことを信じず、私のことを信じるだなんて異例中の異例だ。
それだけで幸せを感じていたのだが、もちろん問題点も浮かびあがってきた。誰もが真剣に、真摯に仕事をこなしていたのだが、書類作成や他領他国とのやりとりにかなりの手間が生じていた。
このような業務は、とにかくテンプレートを作成し、自動化までこぎつけるのが大切なのだ。そのためには、簡単な魔法を一度覚える必要がある。
それは《自動筆記》というものだ。
私はある程度高度なものを使えるのだが、前提として今回の場合は誰もが使えるというものである。テンプレートを把握し、魔法を使うことによって誰でも資料作成ややり取りには困らないのだ。
以前の職場では、私の地位なんてなかったようなものだったから、誰も言うことを聞かなくて全部自分がすることになっていた。だけど……今回は違うはずだ。
だが、来たばかりの自分が言っても説得力がないしよく思われない。
だから実際に、披露して魔法の説明。簡単な取得までを興味がある方たちにお願いすることにした。
そして、その作戦は見事に成功した。
「す、すごい……! ここまで簡単に魔法を覚えられたのは初めてだ!」「たったこれだけで、テンプレートに沿って作成できるなんて……! 感動しました!」
まさに大盛況であった。全員がこれを導入することに賛成してくれたので、一人一人に丁寧に教えていく。
努力の末、次の日には全ての資料作成や他領他国とのやり取りがほとんど自動化させることに成功した。
かなりの業務改善に、セシル公爵は目を見開いて驚く。
「こんな……たった二日で劇的な改善を……!? ナタリア、君はすごい!」
興奮気味に彼が私の肩を揺さぶってくる。ここまで喜ばれるとは思っていなかったので、思わず苦笑してしまう。
「いえ……ここの人達みんな優秀だったからですよ」
「……気に入った。尚更気に入った」
セシル公爵は満足そうに頷きながら言う。
「ずっとここにいてくれ、ナタリア」
彼の熱い視線が私に向けられる。どうやら、かなり本気のようだった。もちろん私に断る理由などない。なんならこちらからお願いしたいくらいだ。
「永年雇用、期待しておりますね」
「当たり前だ。もう絶対に逃がさない」
そんな会話をしていた中。突然部屋に慌てた様子の使用人が入ってくる。使用人の手には、一通の紙が握られていた。
よく見てみれば、誰かからの手紙のようだった。
◆◇◆
ウォレスは心底焦っていた。どうしようもないほどに追い詰められていたからである。何故なら、ナタリアがいなくなったことで、宮廷の業務が全て止まったのだ。
あまつさえ、宮廷内では「ナタリアは間違ってなかった」「我々はウォレス殿下に騙されていた」という声が上がっていたのだ。
つまり、ウォレスの今までの嘘が露呈しかけていたのである。
だが現時点だとまだ言い訳ができた。けれどそうはいかなかった。
ニコラがウォレスよりも先に惨めな言い訳をしていたのだ。
「ナタリアがいなくなったのは私のせいじゃない。ウォレス殿下の虚言に言いくるめられたの」そんなことを言っていたのである。
ウォレスが愛していたニコラに、嘘によって自分が全て悪いということにされたのである。このままでは自分の地位は失墜する。
焦ったウォレスは更なる嘘を吐いた。
「ニコラという淫らな女に惑わされただけだ! 追求するべきはニコラである!」と。
お互いに嘘を重ね続けた。結果として訪れたのは、二人は誰からも信用されなくなったのである。
自分の保身のために、自分は悪くないと証明するために取った行動が、自分の首を締め付けたのだ。
立場も危うくなったウォレスは慌てて、ナタリアに手紙を書く。
「今なら貴様の全ての罪を許そう。宮廷にすぐ戻れば、立場ももう一度与える。そして、婚約ではなく正式に妃として迎え入れてやる。感謝するがいい」
その手紙は、ナタリアのためではなく、全ては自分のために書いていた。
◆◇◆
「はぁ……呆れを通り越して馬鹿らしく思えてきますね」
私は手紙を読みながら、そんなことを呟いた。結局彼は変わらなかった。傲慢なままで、私を都合の良い道具としか思っていない。
だが、私以上にセシル公爵が怒りを露わにしていた。
持っている手紙を奪い去り、目の前で破り捨てたのだ。
「とことん屑なやつだ! こんな人間、相手にしなくていい! 失墜するのも時間の問題だ。だから君は、今自分がしたいことを優先した方がいい」
その言葉に、私は頷く。なんなら、背中を押されたような気がした。
「当たり前じゃないですか。私、ずっとここにいます。だって、ここまで好条件な職場なんてなかなかないですからね」
セシル公爵ほふんと笑う。
「少しばかり、不安だった。君が何かの間違いで戻る選択を取らないかと。だが……杞憂だったようだな」
「当たり前じゃないですか」
こんな居心地の良い場所を手放すなんてことはしない。私は自由に、良い環境でセカンドライフを謳歌するんだ。
【新作短編投稿しました】
「お前とは遊びだった」と婚約破棄された私は、表情筋が死んでいる新しい婚約者と幸せになる。
強い女主人公が表情筋が死んでいるヒーローとともに、元婚約者にざまあする話です。
下記に添付してあるURLか、下の方にリンクを作っておりますのでそちらから飛べます。もしよければ読んでいただけると嬉しいです。
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