先輩はモヤモヤしている
「あ」
「え?先輩、どうしました?」
「いえ、なんでもないの」
「そうですか?先輩、言いたいことあっても直ぐに止めちゃうから、違ってたらちゃんと教えてくださいね?」
「大丈夫よ、説明、簡単にしかしていないのに、ここまでわかってたら、これ以上私から言うこともないわ。いつも通り、一の説明で十も理解して、貴方はちゃんと、こなせてるわ。」
「ホントですか?先輩は直ぐに私をおだてるんですから。私を褒めても何も出ないですよ??」
「もう、貴方に何か貰おうなんて思ってないわよ。むしろ、いつも助けてくれる貴方にこちらが感謝しているくらいなんだから、渡す方よ?」
「どうしたんです?先輩、今日はやけに褒めてくださって、何かありました?」
「と、特にないわよ。ただ、貴方から言い始めたから、返したのに…」
「でも、元はと言えば先輩が急に声を出すから、気になったんですよ??」
「それは悪かったけど、ちょっと、家のもの、買うのを忘れてて思い出しただけなのよ?」
「なんですか、それ。先輩の思い出した声に驚いたら、私が褒められる状況って、よくわからないですよ?」
そんなこと言いながら、あの子はフフッとはにかんで。あぁ、今日も笑顔が可愛いなって身惚れてしまって。でもそれは、バレたら全てがダメになるから。
「私もわからないわよ、どうして私の買い物から私が貴方を褒めることになるのか」
フウッてため息をつくフリをして、自分も困った風に装った。
だって。本当に、危ない。綺麗と、言ってしまうところだった。あの子が耳にピアスをしているのはわかっていたけど、その項垂れる髪を耳にかける仕草が、とても艶っぽくて、それから覗く銀色に光るピアスが、燦然と輝いてあの子の耳下を照り返すから、とても蠱惑的に首筋が映ってしまって、あぁ、この子のする、一挙手一投足、全てが綺麗で、その姿が愛しくて、好きだなって思ってしまった。
だけど、唯の先輩、後輩だから、伝えることはおかしくて、あの子は私の持つ気持ちに気付いてなどいないから。ここで不覚にも「綺麗」「好き」なんて、言えないから。
そんなことを言ってしまえば全てが壊れて、嫌われてしまうから。そんな先輩が気持ち悪いって、思われてしまうことが怖くて、ホントに怖くて、その場に留まるしかなくて、ホントに何も言えなくて。。。
それだけじゃない、あの子もこの仕事にやり甲斐があるっていっているから…
あぁ、本当に、あの子のことなんか考えないで、全部、全部ぶち撒けたい。そしたら私は楽になってしまえるのに。。。
それでも…私の一言で、あの子が持つやり甲斐を、キラキラしてる気持ちを、簡単に壊すことも出来ないから。私のせいで、この未来の歩み方を変えさせることになんか、そんな事、なって欲しくないから。
だから、不意にする、あの子のその仕草に心を動かせられないように、慎重に言葉を選んでやり過ごすけど、突然魅せるその仕草に惑わされて、あぁ、言葉にしてしまいたいって、どれだけ思っているか、あの子は知らないし、知られたくない。
本当に、あの子の全てにモヤモヤする。
先輩、気づくかなって。今日のピアス、新作だったのに、似合うね、とか可愛いとか、なーんにも言ってくれない。先輩は優しくて、いつも私を見てくれているから。何か言ってくれないかなって期待してたのに、何故かおウチの買い物なんか思い出して。本当は、私のことなんて見てなんかいないんだ、なんて思ったのに、急に褒めだすんだから。
現金な私はそれだけで嬉しくなって、先輩が褒めてくれるから、また明日も頑張って仕事するぞって、持ち上げられて。
ほんとーに先輩は、私の扱いが上手だけど、私がホントに欲しい言葉はくれなくて。
いつも先輩の全てに一喜一憂してること、先輩に知ってもらいたい。だけど、先輩は、わたしをちゃんとなんて見てくれないから、気づかない。
あーあ、ほんとに先輩は、なーんにも、気づかなくて、モヤモヤしちゃう。




