余話:雪
雪は嫌い。
寒いし、出掛けられなくなるし、
何よりも“あの日”を思い出すから。
「お嬢様、そろそろお勉強に向ませんと・・・。」
「えー!!やだ、行かない、まだお母様と一緒にいるもん!」
お母様は体が弱い人だった。
何故かはわからない。
なんの病気なのか、どんな薬なら良くなるのかさえ、わからなかった。
「ライラ、またお勉強したこと、お母様に聞かせて?」
お母様はそうやって私の頭を優しく撫でた。
そう言われてしまうと、イヤとは言い返せなくなった。
頬を膨らませて、全力で“行きたくない”ことを表現しても、お母様は「そんな可愛いことしてもダメよ」と、笑っていた。
1時間くらいの勉強の時間がすごく長く感じて。
理解できているのか、家庭教師の先生は聞いてくるが、なかなか質問に答えられないことが多かった。
この頃はお父様も優しかったと思う。
肩車もしてくれたし、お母様の体調が元気な時は一緒にお出かけすることもあった。
仕事は忙しいそうだったから、たまにだったけれど。
でも、そこには“笑顔”があった。
なんとなく、屋敷も暖かった。
本格的な冬が始まる頃、お母様の体調が悪化した。
何人もの公明な医者が訪ねてきては皆、首を振って「原因がわからない」と答えるだけだった。
徐々に家の雰囲気は暗く、冷たくなっていった。
そして、大変なのはこの家だけではなかった。
王様は国のお飾りへと変化し、貴族社会は幕を閉じようとしていた。
この家の領民も、「民衆」へと歩みを進め始めていた。
みんなが変わろうと躍起になっていた。
日常を離れるほどに。
その日、お母様の体調が本当に、とても悪かった。
看病の邪魔になるのはいけないとわかっていたから、自分の部屋で本を読んでいた。
お母様が元気になったら、内容を教えてあげようと思っていた。
部屋にノックの音がする。
「なぁに?」と、扉を開けると乳母が立っていた。
「お母様は良くなった?」と聞いても黙ったまま。
「・・・奥様がご危篤です。」
「キトク?」
「・・・・。」
乳母は直接的な表現はしなかったけれど、お母様が酷い状態だというのは理解できた。
したくなかったけど。
走って部屋まで行くと、執事が扉を開けてくれた。
いつもはニコニコしているのに、無表情だった。
お母様は、昼間はベッドの上に座っているが、この時は寝ていて、荒い呼吸が聞こえてくる。
「お母様!私よ!、ライラよ!、ねえ、聞こえる!?」
お母様はぐったりしていたけれど、私の手を握ってくれた。
「ライラ、ごめん・・ね。」
それがお母様の最期の言葉だった。
お父様は、所用で出かけていた。
雪が降っていたせいでお母様の最期には
間に合わなかった。
お読みいただきありがとうございました。
こちらの話とは関係ありませんが、「11番の檻」を
23時50分に投稿します。
よろしければ読んでいただけると幸いです。




