3話 優しい少女
そんなこんなで、このヴィトレイ家に来てから半年ほど経った。
最初は大変なことも多かったけれど、なんとかやれている。
しかし、貴族は洗濯物が多くて疲れる。
なんでこんなにシーツだの、なんだの多いんだか。
「なあ、お前ってほんとどうやってお嬢様に拾われたんだ?」
仕事をしながら、ソール(来た初日に案内してくれた少年)と無駄話が始まった。
でも、俺はこういうことが仕事の効率を上げるものだと思っている。
「どうやっても何もな。雪が降ってて寒くて死にそうなところを馬車に乗れって。」
「へえ。マジでお前お嬢様に感謝したほうがいいぞ。」
「そりゃしてるよ。」
これは本当。
あの日死んでたかもしれないし、何よりここの職場は思ったよりも環境がいい。
ご飯は美味しいし、寝床は一介の使用人程度でもふかふかだし、極め付けは給料。
そこら辺で働く3倍はいい。
「でも、お嬢様ってお前みたいに拾ってくる奴多いんだよ。」
「そうなのか?」
「まあ、お前みたいにマジで拾ってくることは珍しいけど、例えば、俺みたいに下級貴族の四男とか、あっちこっちで使えないって言われている子を引き取ったりとか。優しいんだろうな。」
「やっぱりそうか。」
あの日、お嬢様の気まぐれで拾われたと思っていたけど、本当に優しい子なんだなあ。
俺だったら得体の知れないやつを馬車に乗せるとか、絶対そんなことしないのに。
「貴方たち、無駄口を叩いないで早く次の仕事に行ったほうがいいんじゃなくて?」
後ろを振り返ると、重たそうな本を4冊持ったお嬢様が立っていた。
よく見るとちょっと耳が赤い。
「す、すみません。今終わったところで。」
「この本重いの。運ぶのを手伝って。」
俺とソールは顔を合わせたが、ソールの方が早かった。
「では俺はここを片付けるので、カリストが手伝いますね。」
「……っ!?」
「そう。じゃあこれを持ってね。」
渡された本は重いとは思っていたが、これは少女が持つ重さじゃない。
俺でも結構キツイ。
廊下を歩く。
窓からは初夏の少し強い日差しが照りつける。
「ここの暮らしはどう?」
「えっ。まあ、とてもいいです。はい。」
お嬢様に着いていくこと以外、ボーッとしていたので咄嗟に上手い返事ができない。
「そう。何か困っていることはある?」
「いえ、特には。」
「そう。」
お嬢様はまた黙って歩き続ける。
「お嬢様って優しいですよね。」
お嬢様が歩みを止める。
「あ、貴方ね、さっき聞こえてきた話もそうだけど、そんなこと言ったってお給料なんか上げないわよ!」
「いや、べつにそういうわけじゃ・・・。」
「あんまり生意気なこと言うと、お給料を下げたって」
「でも」
今更遅い。けれど。
「お嬢様には本当に感謝してるんです。その、お礼言えてなかったから。」
こんなところで言うのもなんだが。
「別に。大したことじゃないわ。」
お嬢様はそうかもしれないけれど、あの日は格別に運が良かった。
俺はお嬢様の優しさに救われたから。
「そういえば、なんで拾ってくれたんですか?」
話をしていたらお嬢様のお部屋に着いていたみたいだった。
お嬢様は俺からぶんどるように本を取った。
「猫や犬を拾うより、生産性があると思っただけよ。それだけなの!」




