堕ちる男
男は仕事を失った。
再就職活動も頑張ったが面接にも落ち続けた。
履歴書を何度も推敲し、書類審査に通って面接のための会社の下調べをしてシャツやスーツにも気を使っていろいろ準備をしても、雑に流されてなんの意味があったのか。
貯金もどんどん減る。来月には家賃も払えなくなりそうだった。
男は外に出て、商店街を歩いた。
老婆がやっている駄菓子屋などがある。
懐かしいなと店に足を踏み入れた。店内を眺めながら、100円くらいに収まるよういくつか見繕ってお菓子を手に取る。
ばあさんの前のレジは壊れているのか、開け閉めが面倒になったのか、開きっぱなしで中のお札が見えた。意外と多い。万札も沢山入っている。視線が一点に止まってしまう。 ちょっとした勇気で俺は解放されるだろう。
視線を財布の中に移すと、もう小銭しか入っていなかった。
支払いを済ませ、店を後にした。
寂れた商店街は人気がなく、自販機に屯している小学生がいた。服が汚れるのも気にせず地面に伏して自販機の下の小銭を探している。
これも懐かしい光景。昔の自分のように見えた。
子供と目があった。
「コラッ何してる!」
つい叱ってしまった。
「なんやオッサン!何が悪いねん!」
そう言って子供は立ち上がりこっちを睨んでくる。
口の悪いガキ。自分はこんな事言わなかった。大人に怒られたら怖がるものじゃないのか?
「お前がやってるのはな!窃盗やぞ!人のものとったらあかんのじゃ!それお前の金ちゃうやろ!」
ガキはタジろかない。
「なんやねん!大事な金やったら落とした時ひろたらええんちゃうんか?いらんからここにあるんやろ!捨てたもんとって何が悪いねん!盗られた被害者おるんゆーんやったら、ここに連れてこいや!それにな、ひろた分経済が回るんや!ええことや!」
子供はそう言って手のひらにある数枚の汚い100円玉と1000円札まであった。その成果物を披露する態度は堂々としていた。
口達者で生意気なガキだ。それに1000円札を落として気にしない奴がこの世の中にいるのか。
「それやったらな、俺がもっと上手いことつこたる、金貸せ!俺がもっと上手いことつこたる!」
そう言って、ガキの手からふんだくって、後ろを見ずに立ち去った。子供の悔しそうな泣き声が聞こえた。いいきみだ。大人に楯突くからいけない。
男はその金で、ナイフを買うことにした。
―完―