2 一軍女子 宮埜紫晴
「ひゃーっ、今日も一軍が一軍してるねぇ」
「そのちゃんもだいぶ一軍だけど」
ちゅー、と紙パックのいちごオレを吸うギャルに未生が返す。
「うちは一軍じゃないよー、ほら、一緒にいてくれんのも向坂くらいだし」
曽野は未生のことを上の名前で呼んでくる。女子同士ではとても珍しく、呼んでくるのは曽野くらいだが、未生は曽野の呼び方がとても気に入っていた。
「うちにも、そのちゃんだけだよ」
「可愛いなぁ、こんにゃろーっ」
後ろから曽野に頭をわしゃわしゃ撫でられながら、未生は楽しそうに笑う。目線の先には、廊下際の一軍女子が映っていた。
クラスに一軍、二軍、とカーストがあるのは、きっと未生の高校だけではないだろう。生まれながらにしてキラキラの陽キャたち、物語の主人公たち。それが頂点、一軍だ。
未生の学校の一軍は、数人の男子と、それから。
未生は左から一人ずつ目線で追う。いかにも、というバスケ女子の見た目をした黒髪ショートの紗那。毎日巻いているのか天然なのか、ふわふわの茶髪の佳恋。お団子に桃色の髪飾りをつけている美姫、そして—。
焦げ茶と黒髪の中間のような、ブラックチョコレートのような艶やかなショートボブ。巻いたように綺麗なS字にうねる天然パーマ。三重にも見えるくらい、くっきりと深く刻まれた二重。長い睫毛は憂いているように下向きに伸びている。
宮埜紫晴。
麗、という漢字がこんなにも似合う女性を未生は紫晴以外に知らない。可愛い、恰好いい、の次元を超越した、人間的な美を感じているのは、未生だけではない。
「宮埜先輩」
紫晴に廊下の窓越しに男子が話しかける。
「今日、放課後とか、空いてますか」
「宮埜さん、また告白かぁ~」
未生のそばで曽野がつぶやく。
「ちょっとそのちゃん、聞こえるって」
「ダイジョブダイジョブ、一軍には最底辺の声は入んないし」
理由になってない、と思いながら未生も気になって紫晴の方を見直す。
「あー、ごめん。空いてないから、別のときにして」
「ひぇ~、一軍冷たっ」
「もう、そのちゃん!」
ぽこ、と未生は曽野の頭を軽く小突く。それじゃぁ、と後輩男子は気まずそうに去っていく。
「ねぇ紫晴、さすがに冷たすぎ。ちょっと可哀相じゃんかぁ」
美姫が紫晴の肩をつつく。
「告白って自分でもわかってるんでしょ?自分の可愛さ理解しちゃってるんだ?」
「別に可愛いも何も思ったことない。―ただ、今は興味がないだけ」
「興味、無いんだ……」
「ん?なに、なんか言った?」
首を傾げている曽野にいやべつにと未生は答える。
紫晴は恋愛に興味がない。
時事を知らせるチャイムの裏で、むず痒い感情の糸が未生の頭に引っかかっていた。
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