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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
38/55

第37話 猫、お披露目します

「片瀬さん」


 昼食後、カトリーヌから声をかけられた恭子は、少し緊張した顔で笑顔を見せた。


「うん、なに? 如月さん」

「ちょっと聞きたいことがあって……少しいい?」


 恭子はカトリーヌの言葉に、余計に緊張が高まってくるのを感じた。

 先日カトリーヌから忠男ことで相談されたのに、今彼となんだか仲良くなっている状態だ。

 自分も忠男のことを相当意識していることもあり、カトリーヌが質問してくる内容によっては、答えられないことも出てきそうだった。


「大した話じゃないの、あ、島津さんも聞いてくれる?」


 恭子は内心ほっとしていた、どうやらこの前のことではなくて、もっと軽く話せる話題のようだった。

 カトリーヌと気まずくなりたく無かった恭子には、その方がありがたかった。

 向かい合って座っていた恭子と美樹の隣の席に座って、カトリーヌはエレガントスマイルを見せた。


「島津さんって、片瀬さんと仲いいよね」


 カトリーヌにそう言われて、美樹は全く謙遜することなく肯定した。


「恭子と私は一心同体みたいなもんよ。ね、そうだよね」

「え? うん、まあそうかな……」

「やっぱり運動部の絆みたいなもの? お互いに苦しいことを乗り越えた、みたいな」

「まあ、如月さんが言うように、私と恭子は辛い練習を超えてきた仲だけど、まあそれより気が合うっていうか、ウマが合うって感じ」

「そうよね、分かる。二人ってまさにそういう感じね」


 聞きたいことがあると言ってきた割に、カトリーヌは当たり障りない話しか振ってこない。

 恭子はカトリーヌが何を隠しているのか、考えを巡らせた。


「私この前さ、学校で猫を見かけたんだ」


 カトリーヌは唐突に話題を変えた。

 恭子の顔に緊張が走った。


「それがね、片瀬さんの猫だって噂があって、私も猫好きなんで聞いてみようかなって思ったの」


 カトリーヌにミースケを目撃されていた。

 何時、どんな感じで見られていたのかは分からないが、あまりミースケの話題には触れて欲しくなかった。

 恭子はその話をやめて別の話題に変えたかったのだが、美樹は調子良くペラペラと猫のことを話し始めた。


「恭子んちの新しい猫のことでしょ。可愛いしお利口さんなのよね。この間も恭子を迎えに学校に来てたし」

「へー偉い子なのね。一度会ってみたいわ。どんな猫なの?」

「グレーの縞模様と白だったよね、恭子」

「う、うん。そうなの」

「ねえ、片瀬さん、私も猫好きなんだ。一度お邪魔させてもらって抱かせてもらえないかしら?」

「あ、私も抱きたい。本当は連休中に抱いてやろうって思ってたんだ」

「ねえ、片瀬さん。いいかしら?」


 できるだけミースケを人前に出したくは無かったのだが、こうなると断り辛い。恭子は渋々、話の流れで承諾したのだった。



 恭子が家に連れてきた友達に、母は目を丸くしていた。

 危うく運んできたお茶をこぼしてしまいそうな狼狽うろたえっぷりだった。

 如月カトリーヌ。

 いつ見てもエレガントだが、母のように初めて眼にする人は大概こうなる。

 ましてや、娘の部屋の扉を開けた瞬間なら尚のことだ。

 片瀬家に相応しくない高級な美少女を前にして、感心して見入っていた母を追い出し、恭子と美樹、カトリーヌの三人は紅茶の入ったカップに口をつけた。


「それで片瀬さんの猫はどこ?」


 カトリーヌに訊かれて恭子は、へへへと誤魔化すように笑った。


「今、近所をパトロール中。猫なりに色々やることがあるみたい」

「あ、それ分かる。雄猫って縄張りあるみたいだし、荒らされないように目を光らせてるんだって」


 美樹はそう補足してくれたが、実際ミースケは今、屋根の上にいる。

 友達が二人来ると聞いて、ごゆっくりと言い残し、窓から出て行ったのだった。

 どうやらあのキジトラのトラオとミーティング中らしい。

 このまま女子話で盛り上がって、適当に帰ってもらおうと恭子は考えていた。

 しかし恭子が思っていたより、この二人は手強かった。

 ミースケがなかなか帰ってこないので、遊びに出掛けようと美樹が言い出したのだ。

 普段なら恭子も悩むことなく出掛けるのだが、今はどこへ行くにもミースケかキジトラが付いてくる。

 それを見られるときっとマズいことになるので、恭子は躊躇った。


「きっともうすぐ帰ってきそうだし、もう少しここで待たない?」

「え? うん、いいけど、じゃあ、あともうちょっと待ったら出かけようよ」


 マズい。ミースケが帰って来ないと収拾がつかなくなって来た。

 仕方ない……。


「ちょっと、窓から呼んでみようかな」


 恭子は窓を開けて、屋根の上にいるはずのミースケに聴こえるよう声を上げた。


「おーい、ミースケ、帰っておいでー」


 とりあえず呼んでみた。あとは猫次第だ。


「にゃーお」


 五秒後にミースケは窓から飛び込んできた。


「おかえりミースケ。今お友達が来てんの。あんたも挨拶しなさい」

「にゃー」


 美樹はもうたまりませんという感じで、ミースケに絡んでいった。


「なに? このお利口さんは。滅茶苦茶可愛いじゃないの」


 早速、手を伸ばしてミースケを撫で始めた。


「片瀬さん、私も触っていい?」

「うん。触ってあげて」


 カトリーヌも手を伸ばすとミースケのモフモフの体を撫で始めた。

 カトリーヌは猫好きだと言っていた割に、あまり表情を変えずミースケを触っていた。

 触っているというよりも、観察している。そんな冷静さを秘めた目でカトリーヌはミースケを見ているようだった。

 猫を触るためにわざわざ家まで来たのにこの反応。あまりミースケのことを気に入らなかったのだろうか。

 それに対して美樹は、猛烈にテンションが上がってしまっていた。


「ちょっと、マジ反則よ。可愛すぎるっての」


 この間プールで張り倒されたことを知らないから言えるのだろう。

 相手の口を塞ぐため平気で人を殴る恐ろしい猫を、喜んで撫で回している。

 もしまた何かミースケのことを知ってしまったら、今日も容赦なく張り倒されるのだろう。


「ミースケくん、だったね」


 カトリーヌがミースケを撫でながら言った。


「君のこと、学校でみんな噂してるよ。可愛いって。ねえ、片瀬さん、この子けっこうスマホで写真撮られたりしてるの知ってる?」


 その言葉に、また恭子の表情が硬くなる。


「学校で猫が歩いてたら目立つもんね。私さ、友達からミースケくんの写真送ってもらったんだ」


 そう言った後、カトリーヌは恭子にスマホの画像を見せた。

 その画像に恭子は息を呑んだ。

 そこには二本足で立つミースケの後ろ姿が写っていた。


「すごい特技だね。まるで猫じゃないみたい」


 カトリーヌは何かを探るような目で恭子を一瞥した後、またミースケを撫で回したのだった。



 二人が帰った後、恭子は早速ミースケに不安げな顔を見せた。


「ねえ、ミースケ、あれってマズいよね」

「そうだな。気味の悪い女だったな」


 ベッドに座る恭子の膝の上に、ミースケはいつものように乗って来た。


「記憶は消せても、スマホの画像はあんたにも消せないでしょ」

「ああ。恭子の言うとおりだ」

「どうする? 如月さん、あんたのことに薄々勘づいているかも知れない」

「まあ、そうだな」

「如月さんの記憶を消したとしても、スマホの画像は残る。友達から貰った画像だって言ってたからそこにも残ってる。拡散されたら話題になって困ったことになりそう」


 表情の乏しいミースケが何を考えているのか計り知れないが、落ち着きなくソワソワしているのは恭子だけだった。


「ねえ、ミースケ、もう学校に来るの止したほうがいいんじゃないかな」

「そうはいかない。絶対行く。恭子が心配だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、如月さんの目があることだし……あ、そうだ、しばらくはあのキジトラちゃんに任せたら」

「あいつは頼りない。それにあいつでは敵に対応できない」

「どうして? 私を守ってくれたよ」


 恭子の目から見たトラオはなかなか頼りがいのある猫に映っていたのだが、どうゆうわけかミースケは渋い表情をした。

 とはいっても表情の乏しい猫のことなので、恭子がそう思っただけなのかも知れない。


「ああ。時間は稼げる。しかしトラオとあの怪物は同類なんだ。いくら闘っても決着はつかない」

「そうなの?」

「ああ。あいつらは特別製でな。波動でなければ消すことができないんだ」

「フーン、そうなんだ」

「あいつらに穴を開けられるのは波動だけ。穴を開けたらあいつらは内側にある元の世界に吸い込まれて消えてしまうんだ」

「それでいつも跡形もなく消えちゃうんだね」

「そういうこと。つまり、あいつは時間は稼げるが、倒すことができない。波動を扱う俺か恭子だけしか怪物を消すことができないんだ」

「じゃあ今度は私がやっつけてやろうかしら」


 恭子は鼻息荒くそう言って、ミースケの前で波動を撃つときのポーズをして見せた。


「いやいや、やめてくれ。恭子の習熟度ではキツイだろう。波動を乱射されたりしたら偉い被害が出そうだし」

「確かに、あんまし正確に当てる自信はないのよね。キジトラにあいつを押さえておいてもらって波動で仕留める。これでどう?」


 ミースケはブンブン首を横に振って恭子を止めた。


「トラオを殺す気か? まとめて消滅しちまいそうだよ」

「そうよね。きっとそうなるよね」


 なかなか良案が思い付かないまま、話は終わった。

 ミースケはこれからは気をつけるよと、サラッと言っただけだった。

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