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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
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第34話 波動の痕跡

 恭子を守りたいという忠雄の申し出に、嬉しさのあまり同意しかけたものの、今後忠雄が危険な事に巻き込まれてしまうのではないかと思い直して、感謝だけを言葉にして一人で帰って来た。

 しかし、忠雄は恭子を見守るように、7メートルほど離れた状態で、ずっと家までついてきたのだった。

 当然気付かないわけはないので、家の前までついてきた忠雄に、お礼だけ言っておいた。

 そしてようやく慌ただしかった一日が終わった。



「だだいまー」

「おかえりキョウコ」


 帰宅後すぐにお風呂に入った恭子は、お風呂上りのせいだけでは無いようなのぼせたような顔で、ミースケの寛いでいる自室に入って来た。


「はー」

「なんだ? ため息なんかついて、また恋の悩みか?」


 直球で的に当たった。そのとおりだった。


「ちょっと色々あり過ぎて、頭の中が追いつかないの。なんとか整理しないと……」

「まあ、話してみろよ。誰かに話した方が整理がつくって言うぜ」

「うーん、そうかも。じゃあ言っちゃうけどさ……」


 そして恭子はミースケを膝に乗せ、今日あの後、何が起こったのかを詳しくミースケに聞かせた。


「ほう、それはおめでとう。カップル誕生ってことだな」

「そうなのかな? お付き合いとか、好きとか、そうゆうの何にも無かったんだけど」

「家まで送ってくれたんだろ。それにキョウコを守るってハッキリ言ったんだろ」

「そうなの。でも野村君を危険な目に合わせるわけにいかないじゃない。それなのにもうキュンとさせられちゃって、参ってるの」


 思い返しても顔から火が出そうだった。

 普段肝心な時に何も言えない少年の口から、あんな大胆な発言が出てくるとは思わなかった。

 そのことで余計に彼の自分に対する想いの深さを、知ってしまうことになった。


 昨日、如月さんの件で悩んでいたのはなんだったのだろう。


 恭子は昨日の自分が、疑いの目を忠雄に向けていたことに、恥ずかしさを覚えていた。


 好きになっちゃったかも……。


 ミースケには言わなかったが、こっそりとそう感じていた。


「なあ、キョウコ、今日の蛙のことなんだけど」

「え? ああ、蛙ね、大変だったよね」


 忠雄のことで頭がいっぱいになっていた恭子は、ミースケに言われてようやく蛙のことを思い出した。


「どうやらあいつは、最初に倒したやつの分身みたいだ。もともとこっちに来たのはあいつだけなんだけど、いくつか体を分離させていたみたいだ」

「じゃあ、まだあんなのがいるってこと?」

「多分。トラオに頼んでアンテナを張ってもらってるから、見つけ次第始末するよ」

「あいつはミースケを狙ってるんじゃなかったっけ」

「ああ、そのとおりだ」

「ならどうして学校に現れたんだろ? しかも二回も」

「それはな……」


 何だかミースケは言いにくそうに見えた。


「実はな、あいつらは俺の波動を辿ってやって来るんだ」

「波動を?」

「それで俺は波動の痕跡を極力消して、かく乱してるんだ」

「へえ、すごいじゃない」

「でもキョウコ、覚えたてのお前の波動は痕跡がすごいことになってるんだ」

「私の?」

「そうなんだ。それでお前の波動の痕跡を、特異点である俺のものと認識してあいつらは寄ってきている」

「なに? それってマズいじゃない。またあんなのに狙われちゃうってことでしょ」


 ミースケは不安げな恭子の顔を見上げて、口元を吊り上げた。

 猫独特の笑みだった。


「キョウコの痕跡を悟りにくくするために、俺はあっちこっちで波動の痕跡をマーキングして周ってるんだ」

「縄張りを主張するオス猫のおしっこみたいに?」

「小便もするけど、別に縄張りを意識してるわけじゃないからな。あくまでもキョウコを守るために頑張ってるんだ」

「ふーん。頑張ってくれてるんだね」

「そうだぞ。だからいっぱい撫でてくれ」


 おねだりするミースケの気持ちいい所を、恭子はいっぱい撫でてやる。


「攪乱したとしても、今日みたいに見つかっちゃうこともあるわけだ」

「だから、俺はいつも傍にいるわけさ」


 そう言われてもなんだか安心できない。

 けっこう一人の時も多い。

 お風呂の時は? トイレに入ってるときは? 授業中にあんなのが乱入してきたらどうなる? ミースケが乱入してきて始末した後、目撃したクラスの生徒全員を張り倒すの?


「ねえミースケ、私も波動の痕跡を消したりできないかな」

「それは無理。上級者向けの高等テクニックなんだ」

「じゃあどうしたらいいのよ」

「ある程度身を守れるようにしといたらいいさ。波動を纏っていればあいつの攻撃はキョウコには届かない」

「こないだのあれね。もっと練習しとかないと」



 夕食後、恭子はミースケに頼んでまた波動を扱う練習をしていた。

 もう真っ暗になってしまった公園で、恭子とミースケの一人と一匹は特訓に励んでいた。


「キョウコ、なんだかやる気に溢れてるな」

「そりゃそうでしょ。鍛えとかないと、またあんなのが現れるかもだし」


 波動の流れに集中しつつ、恭子はあることについて真剣に考えていた。

 恐らくミースケの言うとおり波動を纏っていれば取り敢えずは安全なのだろう。

 しかし周りにいる者はどうなるのだろうか。

 今日のようにうまく嚙み合えば良いが、相手が大暴れでもしたら多くの人が巻き込まれることになる。

 必死な面持ちで恭子を守ると言ってくれたあの少年も。

 波動の痕跡を消せないのだとしたら、自分が強くなるしかないのだと自覚した。

 そしてミースケやトラオに頼らずとも、何とかできるようにするのだと決心したのだった。


 恐らく彼はこれからも私を守ろうとするだろう。

 彼を遠ざけられないのなら、私が彼を守ってあげないと。


 ミースケの監督のもと、特訓は遅くまで続いたのだった。

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