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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
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第31話 天賦の才

 帰宅した恭子は部屋に戻ってくるなりベッドに倒れこんだ。

 色々な事があった一日だった。

 校門を出る前までは、きっと自分はときめいていたのだろう。

 対局中に恭子の悲鳴を聞いて、プールに駆けつけてくれた忠雄に、申し訳無さや恥ずかしさ、そして嬉しさを感じていた。

 自分だけに想いを寄せてくれている。

 そう思っていた。

 でも違った。


「私だけじゃなかったんだ……」


 如月さんにも彼は熱い視線を向けていた。

 それは別に悪いことじゃない。

 彼が誰かを気になったり好きになるのは自由だ。

 むしろ、お付き合いしているわけでもない自分が、口出しできる立場ではない。

 自分の周りの女子たちにも、気の多い子など幾らでもいる。

 恋心を向ける相手が一人では無かったとしても、珍しいことではない。

 それでも知りたくなかった。

 恭子はベッドの上で、ミースケに穴をあけられたクッションをぎゅっと抱いた。


 にゃー。


 恭子は顔を上げて鳴き声のした窓の方に目を向けた。

 夕暮れの美しい空を背景に、窓越しにミースケが蒼い目を恭子に向けていた。


「おかえり、ミースケ」


 窓を開けてやると、ミースケはぴょんと跳ねるように部屋に入って来た。


「おかえりキョウコ。どうした? なんだか元気無さそうだな」


 猫らしからぬ、なかなか鋭い洞察力。というよりも恭子が人一倍分かり易いだけなのかも知れない。


「もう、いいでしょ。一人で落ち込みたいから、ちょっと大人しくしてて」

「なんだかキョウコらしくないな。俺で良ければ話してみろよ」


 そしてモフモフの体を擦り付けて来た。


「もう、それに弱いの分かっててやってるでしょ。まったく、癒しの権化だわ」


 恭子はミースケを抱きしめて頬ずりすると、今日あったことを話した。


「フーン、忠雄がキョウコ以外の女子をねー」

「そうなの。さんざん気を持たせといてがっかりだわ。如月さんにも熱い視線を向けていたなんて」

「そんな器用な奴には見えないけどな」

「だから余計にがっかりしてるんじゃない」


 ミースケをあちこち撫でまわしながら、恭子はがっつり愚痴を聞いてもらっていた。

 ミースケは気持良さげげに目を細めて、キョウコの話に付き合っている。


「お土産なんて渡すんじゃなかった」

「なんだキョウコ。別に特別な気持ちじゃなくて、ただのお礼だって言ってなかったか」

「そうなんだけど……」


 図星だったので、恭子は口ごもった。ミースケは何でもお見通しだった。


「なあキョウコ、今の話、クラスメートから聞いただけなんだろ」

「ええ、そうよ。それが何?」

「忠雄からそう聞いたわけじゃないんだろ」

「そりゃそうよ。そんなの本人が申告するわけないじゃない」

「なら、確かめてみたら? 本人にさ」

「そんなことできるわけないじゃない!」


 キョウコはミースケを抱いたまま、オタオタし始めた。


「如月さんじゃなくって、私だけを見てたんでしょって確認しろっていうの? どんだけナルシストなのよ。死んでも言えないっての」

「ああ、そういうものか。面倒臭いしがらみだな。聞きたいことも聞けないのか」

「常識よ。あんたとは違うっての」


 どうやらミースケは、乙女心を理解していそうでしていない。


「なあ、キョウコ、もし忠雄がそういう奴なら、腑に落ちないことがあるんだ」

「なに? 腑に落ちないことって?」

「あれだよ。ハンカチのことさ」

「ああ、遠足の時の」

「そうだ。忠雄は如月カトリーヌのハンカチを、キョウコの物だと信じ切って渡しに来たんだったよな」

「うん。そうだけど」

「どうして、カトリーヌ本人に渡さなかったんだ?」

「それは私のだと勘違いしたからでしょ」

「どうして勘違いしたんだ? 如月カトリーヌに熱い視線を向けているんだったら、彼女の物だという可能性をどうして考えなかったんだろうな」

「どうしてだろう」


 論理的な推理を展開し始めた猫の質問に、恭子は真剣に悩みだした。


「論理的に考えて、導き出せる答は一つだ。忠雄は如月カトリーヌの名前を知らなかった」

「そういえば、そうだった。如月さんの下の名前を私が教えてあげたら、蚊取り犬っておかしなこと言ってた」

「あの日キョウコは俺と一緒に誰にも見つからない所で弁当を食べた。カトリーヌは普通に昼食広場で食べていたはずだ。ハンカチが如月カトリーヌの物かどうかすら確認もせず、あいつはキョウコを探してやって来た。つまり、名前を知らなかったという忠雄の申告は偽りのない事実だった」

「うん。そうだわ。ミースケの言うとおりだわ」

「おかしいと思わないか? 恋焦がれている相手の名前すら知らないなんて」

「確かに……」


 理詰めで難解な謎を解いていくミースケを、恭子は尊敬しつつ撫でまわした。


「自己申告しただけのカトリーヌに比べて、今までキョウコは忠雄からの恋のサインをいっぱい見て来たんじゃなかったっけ」

「確かにそうだわ……」

「あいつはどういうわけか、キョウコの好物の栗饅頭を知っていた。恐らくずっと前からキョウコのことを気にかけていたせいで、友達と話す会話とかから情報を得たんだろう。そして妹を巻き込んで並んで買ってきた。このこと一つをとっても忠雄のキョウコへの想いを語るには十分じゃないのかな」

「うん……」

「もっと言ってやろうか? そうそう、あんなこともあったな……」

「もう、やめてー」


 恭子は頬を紅く染めてミースケの口を塞いだ。


「もういいです。この話はこれでおしまい」

「え? もういいの?」

「うん。なんだか、ちょっと落ち着いちゃった。ミースケのお陰だよ」

「そうか。お役に立てて光栄だよ」

「ありがと」

「いつでもどうぞ」


 また猫相手に真面目に恋愛相談をしてしまった。

 しかし毎回のようにミースケは適切なアドバイスをくれる。


 これって天賦の才ってやつ?


 恭子は真面目に、このおしゃべりな猫には才能があると確信したのだった。

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