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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
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第25話 キジトラとミースケ

 恭子は確信していた。

 ミースケは間違いなく、自分とあの少年をくっつけようとしていると。

 前からそうだろうとは思っていたが、いよいよ露骨に行動に移してきた。

 今日こそはその辺りのことも全部吐かせてやる。

 そう思って部屋で待ち構えていると、ミースケは窓からスイっと帰って来た。

 そしてそのあとに続いて、あの前に会ったキジトラも遠慮なしに入ってきた。


「あれ、あんたは……」

「にゃー」

「ああ、恭子、悪いんだけど喉が渇いちゃって。水を入れてくれよ」

「いいけど……」


 これから問い詰めてやろうとしていたところでキジトラがやって来た。

 ミースケの数少ない友達みたいだから、飼い主としては邪険に扱うわけにいかない。

 恭子は二匹分の水の入ったお椀と、スティックおやつを持って部屋に戻った。


「いや、疲れた。お前のせいだからな」

「分かってるよ。でも引き続き頼むよ」

「分かってるよ。約束だしな」


 ベッドの上に座って、話し込んでいる二匹の猫を目にして恭子は叫んだ。


「なに? キジトラもしゃべってるじゃない!」


 どう見ても普通じゃない珍客の登場に、恭子は問い詰めようとしていたことを完全に忘れ去ったのだった。

 このキジトラはどう見ても普通じゃない。

 一般的にどら猫と言えば、このキジトラを連想しがちな姿だった。

 いわゆるスタンダード野良猫といういで立ちであるこのキジトラ、やはりミースケの仲間だけあって、ただの猫ではなかった。

 ペラペラおしゃべりしているもう一匹の猫に、恭子は腕を組んだまま険しい眼差しを向けていた。


「しゃべるなんて聞いてなかったわよ」

「そりゃそうだ。言ってなかったしな」

「そういうのは先に言っときなさいよ」


 二匹は水をべろべろ飲んでから、喜んでスティックおやつを恭子の手から貰って平らげた。

 これだけ見ているとただの猫だった。


「ねえ、ミースケ、そんでこのキジトラちゃんは何者なの?」

「こいつか、こいつはトラオっていうんだ」


 別に名前を聞きたいわけでは無かったが、名前があるということは分かった。しかし見たまんまの名前だった。


「飼い猫ってこと?」

「いいや、その日暮らしの野良猫だよ」

「その割にはいい体格してるね」

「あの神社できっちり餌をもらってるんだ。それとあっちこっちで色々ご馳走してもらってるらしい」

「へー、それでね」


 丸々してるし、毛並みもいい。こういう色と模様なので、綺麗か汚いかは良く分からない。


「そんで二人の関係は?」

「想像に任せるよ」

「想像できないわよ。あんたたち普通じゃないし」


 その辺りは突っ込みどころがあり過ぎだった。

 ミースケと恭子のやり取りを傍観していたトラジマのトラオは、ここで話に割って入って来た。


「俺は本当はこいつと関わり合いたくないんだ。腐れ縁ってやつだよ」

「なに? そんなに古い付き合いなの? まさか兄弟?」


 恭子がそう言うと、二匹とも乏しい表情をそれと分かるほど歪めて、嫌そうな顔をした。

 先にミースケが吐き捨てるように罵った。


「こいつと兄弟なんてあり得ない。絶対ヤダね」

「それはこっちの台詞だよ。お前みたいなのと同類にされてたまるか」


 お互いに気に食わない者同士みたいだ。

 ならどうして一緒にいるのかが理解に苦しむ。

 苦々しい感じでそっぽを向いた二匹に、その辺りを訊いてみた。


「ねえ、じゃあ、あんた達は何で一緒にいるわけ?」


 二匹はそっぽを向いたまま渋い顔をする。

 そんなこと聞くんじゃねえ。トラジマのトラオは無言でそう語っていた。

 どうも険悪な感じのミースケとトラオの雰囲気に、部屋に居辛くなった恭子は、ごゆっくりと声を掛けてお風呂に行くことにした。

 その後、あの仲の悪そうな二匹は、まあまあ長い時間ミーティングをしていたようだった。



 翌日普通に学校へ行き、放課後の部活を終えた恭子は、体操着のまま給水機で水を飲んでいた。

 体育館の裏にあるこの給水機はいつも空いていて、大概ここで部活後水分補給をしていた。

 恭子は外回りを五周した後の、カラカラに乾いた喉を潤す。

 いくら飲んでも喉の渇きが収まらず、グビグビと給水機を独占していた。

 他の部員はもう着替えに行ってしまっていた。

 恭子はふと背中に気配を感じて顔を上げた。

 どうやら夢中で水を飲んでいて、後ろで待っている人に気付いていなかったらしい。


「お待たせしました。どうぞ……」


 振り返った恭子の見たもの、それは知らない中年の男だった。

 グレーのパーカーに、ダボっとした深緑色のズボン。

 白髪交じりの髪と酒に酔ったような赤ら顔。どう見ても不審な風体だった。

 学校の敷地内に見知らぬ男がいる。それは身の危険を感じるのに十分な動機だった。

 恭子は咄嗟に叫び声を上げようとした。

 しかしその声が出せなくなるほど、恭子はおかしなものを見てしまった。

 二メートルほど離れていた男が、一瞬で恭子の顔の前まで接近してきたのだ。

 目の焦点を合わせられないほど接近されて、恭子は言葉を失った。

 咄嗟に後ずさろうとした恭子の背に、給水機の硬い角が当たった。

 下がることも出来ずに、恭子はのけぞった。

 男の手がゆっくりと恭子に伸びてくる。

 恭子は力いっぱい男の体を突き飛ばした。

 ほんの少しバランスを崩した男の脇を通り抜けて、恭子は駆け出した。

 一歩、二歩、三歩。

 もどかしく脚を動かして、この場を去ろうとする恭子の肩に、強い力が加わった。

 男の手だ。

 振り払おうとした恭子はその異様なまでの力に、自分が逃げられないことを悟った。


「助けて!」


 恭子の口からやっと声が飛び出した。

 その時だった。

 視界の隅から飛び出して来た小さな影が、恭子の肩を掴む男の顔に飛び掛かった。


「ミースケ!」


 飛び出して来た影はどう見ても猫だった。

 一撃で不気味な男を五メートルほど吹っ飛ばしてから、クルリと一回転して二本足で立ちあがった。

 その丸っこいモフモフの姿はどう見ても猫であったが、目の当たりにしたその姿に、恭子は唖然と大きな口を開けていた。


「ミースケじゃない……」


 男を一撃で吹っ飛ばして、二本足で当たり前のように構えを作っていたのは、あのキジトラだった。

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