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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
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第23話 猫と特訓

 カーテン越しの眩しい光と胸の上のずしりとした感触。

 ベッドの上で目が覚めた恭子は、もうここが祖母の家でないことに気が付いた。

 昨日の遅くに家族と帰って来た恭子は、移動の疲れで気絶したようにベッドに倒れ込みそのまま朝を迎えた。

 ミースケはというと、移動中もさんざん寝ていたのにも拘わらず、やっぱり良く寝ていた。

 しかし恭子が目を覚ますと、ミースケはもぞもぞとモフモフの体を動かした。


「うーん」


 毎朝のことだが、グーっと伸びをした前足で恭子の顎を押してくる。


「おはようキョウコ」

「おはようミースケ」


 なんとなく、まだおばあちゃんの家にいるような感覚だ。

 たった三日しかいなかったのに、あっちに体が馴染んでしまっているみたいだ。

 時計を見ると朝の十時を過ぎていた。

 静まり返っているので両親もまだ布団の中なのだろう。

 まだゆっくり眠っていてもいい、ゴールデンウイークの最終日。

 特にこれといった予定もなく、堂々とだらけてもいい日だった。

 まだぼんやりしている恭子の胸の上で、ミースケはもう一度伸びあがった。


「あーよく寝た。キョウコ、今からどうする?」

「どうするって?」

「あれだよ。特訓するって言ってただろ」

「ああ、あれね、いいよ。やろうよ」

「よし、まずは朝飯だな」

「今日からはまたキャットフードだよ」


 両親はまだ寝ていたので、キョウコはシリアル、ミースケはカリカリのキャットフードで腹を満たして、河川敷の橋の下までやって来た。

 部活のジャージ姿でここまで走って来た恭子は、荒くなった呼吸を整えて、今日はどんなことをするのかと尋ねた。


「今日はまず川に向かって波動を飛ばす。波動は色々な使い方があってこの間やったみたいに直接飛ばしてぶつけたり、間接的に何かに反射させてぶつけたりもできる」

「ふーん。いまいちピンとこないのよね。お手本見せてよ」

「よーし、じゃあ見ててくれ」


 ミースケは二本足で立つと、右手の肉球を前にスッと伸ばして水面に向けて波動を撃ちだした。

 ミースケの手から放たれた波動は、一度川面に当たってから跳ね上がり、二十メートルほどはある川の向こうまで飛んで行った。


「これが波動を固めて飛ばした時の動きだ」

「この前のとは違うわけね」

「今回は波動を手元で練ってボールのようにしてから撃ち出したんだ。手元から飛び出した波動のボールは、ああいった動きで飛んでいくんだ」

「水面を跳ねたってことは、石で水切りをする感じみたいになったってわけ?」

「そういうこと。なかなか呑み込みがいいぞ」

「へへへへ」


 猫に褒められて喜んでしまった。


「前に廃工場で壁にぶつけてたのはいわばビームみたいな感覚かな。そんで今回のはボールって感じだ。ビームは直線的に飛んで行き、射程はその波動の強さで遠くもなるし短くもなる。一方波動のボールは弾力も練り方によって変えられるから、慣れれば反射させて目標に当てられるようになる」


 ミースケの説明は難解な単語を含んではいないものの、恭子の理解力をちょっとだけ超えていた。


「つまり、一度壁に当ててから誰かにボールを当てるって感じ。ある程度波動のボールはコントロールできるから慣れれば背後からでも相手に当てられるようになる」

「へえ。じゃあ、ちょっとあの向こう岸の白い大きな石に当ててみてよ」

「よし。見とけよ」


 ミースケは構えると、斜め上に向けて波動を発射した。

 橋桁に当たった波動のボールはそのまま跳ね返って白い石に簡単に命中した。


「波動自身に重さはないが、波動に含まれる水分がボールに質量を与えるから多少重力の影響を受ける。その辺を気を付けながらやるといい」

「分かるようで、分かりにくいな。理屈は後にして実践ね。どうやったらいいか教えてよ」


 ミースケは説明を諦めて、イメージの仕方や扱い方を丁寧に解説した。

 恭子は一応毎日少しずつ波動を扱う練習をしていたので、ミースケの解説についていくことが出来た。


「要はイメージってわけね。波動をボールみたいに丸く練っていくといいわけだ。そんでこうやって……」


 恭子は丸く練った波動を川面に撃ちだしてみた。

 白く光った波動の球は水面で弾んだものの、川向こうまで届かずに消滅した。


「あらら」

「いや、あれでいい。あとは回数だけさ」


 ミースケに励まされ、それからキョウコはどんどん波動を練っては撃ちまくった。


「なかなかいいぞ。時々水分補給もしろよ」

「やればできるもんね。やっと向こう側まで届くようになってきた」

「ああ、練り上げた波動の球の完成度が上がって来たのと、撃ちだすときの波動の乗せ方が上達した。大したもんだ」

「へへへ。先生がいいからだよ」


 恭子は謙遜しながら水筒の麦茶をゴクゴクいった。

 いつもそうだが、波動を撃ち続けると、とにかく喉が渇く。


「ねえ、ミースケ、一応周りには誰もいないけどさ、もし見られたらマズくない? 猫と人間から光の球が飛んでってるとこ」

「それは心配ないさ。波動は普通の人には全く見えない」

「え? そうなの?」

「ああ、俺達波動を扱う者には見えるけれど、その辺を通りがかる人には全く見えてない。つまり波動を撃って盛り上がっている恭子を目撃されても、頭のおかしな奴だって思われるだけさ」

「それはそれで問題ありね。知り合いに目撃されでもしたら、次の日には学校でイカれた奴って噂になってそう」

「ああ、学校中の人気者だろうな」


 このおかしな特技は、思春期の女子中学生が誰かにお披露目できる内容では無い。

 あくまで人知れず趣味として楽しむしかなさそうだった。


「キョウコ、じゃあそろそろ次に行こうか」

「次って?」

「今度はまた面白いぞ。波動を纏うやり方を教えてやる。よく言うオーラを纏うってやつだよ」

「オーラを纏うって、なんだか偉大に見えちゃうとか?」

「いや、そんなくだらないもんじゃない。体に波動を纏って外部からの干渉を遮断するんだ。つまり鎧を着るって感じさ」

「そういうことね。今までのは攻撃っぽかったけど、今度は守りってわけだ」

「そうゆうこと。じゃあやってみる」


 ミースケが構えるとモフモフの体全体が光に包まれた。


「すごい。ミースケがカッコよく見える」

「俺はいつでもカッコいいの。さあキョウコも俺の言うとおりやってみろ」


 ミースケにコツを教えてもらって早速やってみる。

 体の中に流れている波動は全身くまなく巡っている感覚だ。

 その流れの奔流を太く、速くしていくと、そのうちに体の外に波動の流れが膨らみ始める。

 それを続けていくと、やがて体全体をすっぽりと包み込む波動のベールのようなものが出来上がった。


「これでいいわけね」

「そうだよ。上出来だ」


 ミースケは満足げに何度か頷いた。

 そしてスタスタと流れる川の方に歩いて行った。

 何をするのだろうと傍観していた恭子の視線の先で、ミースケは目を疑うような芸当をしてのけた。

 信じられないことだが、二本足でミースケは水面を歩いていた。


「なにやってんの!」


 たまげて思わず叫んだ恭子に、ミースケは余裕の表情だ。

 いや、もともと表情が乏しい猫なので、恭子の目からそう見えただけだろう。


「キョウコも来いよ。その状態を維持したままな」


 おっかなびっくり、恭子もミースケの真似をして、流れる川面に足を出してみた。

 なんだか足裏にしっかりした感触がある。

 これはいけそうかもと、覚悟を決めて足を踏み出すと、なんと水の上に立てた。


「ちょっと、どうなってんのこれ!」

「フフフフ。面白いだろ。波動が水面をはじき続けているからこうして水の上に立てるってわけさ」

「マジ? こんなの漫画じゃない!」


 興奮して気を抜いてしまった瞬間だった。

 あっという間に恭子は浅い川の中にハマっていた。


「あちゃー」

「もう、やだー」


 尻もちをついてずぶ濡れになった恭子に、表情の乏しいミースケが気の毒そうな顔をした。

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