第22話 成敗する猫
恭子たちは買い物を済ませて商店街を後にした。
バス停で一時間に一便しか来ないバスを待つ。
おばあちゃんの家には、この路線バスに乗って二つ目のバス停で到着する。
恭子とミースケだけなら歩いてでも帰れそうだった。おばあちゃんも入院前なら散歩がてら歩いていたらしい。
どこにでも軽トラに乗せて連れて行ってくれたおじいちゃんが亡くなってから、おばあちゃんは自分の足で買い物などに出掛けていた。
そして今、一人で暮らすおばあちゃんは、バスに乗って孫の手を借りつつ買い物に来ている。
少し小さくなってしまった祖母に、恭子の胸がまた切なくなった。
路線バスの時刻表通りなら、あと五分程度でバスが来る。
その時、バス停の斜め向かいにあるコンビニの駐車場に、たむろしている少年たちがいるのに恭子は気付いた。
おかしな形に改造した派手なバイクが五、六台停まっている。
おばあちゃんが恭子の視線の先にある少年たちに目を向けた。
「あの子たちかねえ」
ぽつりと言った一言に、恭子は何かを感じ取った。
「なんのこと?」
「いや、最近夜中に県道を大きな音で走り回ってるバイクがいてね、時々私も夜中にびっくりして目を覚ますんだよ」
「そう……」
恭子は真夜中の騒音で目を覚ましているおばあちゃんを想像して、眉をひそめた。
見た感じ、いかにも田舎の暴走族といったなりで、話が通じる相手とは思えない。
地元でも手を焼いている連中なのだろう。
「にゃー」
腕に抱いていた柔らかなモフモフがひと声鳴いた。
目を落とすとミースケはパチリと一つウインクした。
言葉を話さなくとも、ミースケが何を言いたいのか恭子にはわかった。
その時、丁度路線バスが停留所に入って来た。
「ね、おばあちゃん、私ちょっとコンビニで買いたいものあるから先に帰っといてよ。荷物は私が持って帰るからさ」
「え? そうかい? でも絡まれたりしないかい?」
おばあちゃんは、たむろしている連中を気にしているようだ。
「大丈夫だよ。真昼間だし。すぐ帰るから家で待ってて」
「そうかい。気を付けるんだよ……」
心配そうなおばあちゃんをバスに乗せて手を振ると、恭子は道を渡ってコンビニの駐車場へと向かった。
「それでミースケ、作戦は?」
恭子は腕の中のミースケと打ち合わせをしておいた。
「全員気絶させてから、あの趣味の悪いバイクをぶっ壊す」
「マジで? ちょっとやり過ぎじゃない?」
「ああいう手合いは、とことんやっといた方がいい。おばあちゃんが夜中に爆音で起こされてもいいのか? びっくりしすぎて心臓麻痺なんてことになっても?」
「いや、それは絶対嫌だけど……」
駐車場まで行くと、そこに座り込んで大きな声でゲラゲラ笑い声をあげていた少年たちが一斉に恭子に注目した。
「見ない顔だな」
「へえ、ちょっと可愛いじゃん」
この辺りでは使いそうもない語尾を付けて、いきった金髪の不良の一人が恭子の全身を舐めまわすように見た。
恐らく高校生なのだろう。中学生の恭子に関心をあからさまに向けてくる。
「ねえ、きみ、どっから来たの?」
金髪のネズミみたいな顔つきの少年は、いやらしい目つきを恭子に向けていた。
「ねえ、聞こえてんの? ちょっと俺たちと話さない?」
恭子は周りを見た。みなこの不良たちを嫌がってか、周囲に人影はなかった。
「なあ、この辺の娘じゃあないんだろ。俺たちがバイクで案内してやるよ」
恭子は不良たちの程度の悪さにうんざりしながらも、確認のため自分から質問をしてみた。
「この辺りの県道で、夜中うるさく走り回ってるのはあなたたちですか?」
「ああ? なんだ? 説教たれに来たのか?」
しつこくまとわりついてきていたネズミ顔の態度が変わった。
最近こういった手合いと揉めたばかりなので、恭子はあまり変わり映えしないこの連中に、いい加減嫌気がさしていた。
「止めようとしたって無駄だぜ。俺たちは誰にも縛られないんだ。自由を愉しむって決めてんだ」
他人に迷惑をかけて、なんだか自由をほざいている。何を言っても無駄だということがはっきりした。
恭子は腕に抱いたミースケに声を掛けた。
「ミースケ。やっちゃいなさい」
「了解」
ぴょんと駐車場に飛び降りたミースケに、不良たちはいきなりうろたえた。
「なんだ? こいつ俺たち人間みたいに二本足で立ってやがる」
そう言われてミースケは乏しい表情で不快感を見せた。
「人間だって? お前らは自分が人間だって思ってる口ぶりだな。下等動物の分際で俺様を気安くかたるんじゃねえ!」
多分それから三秒以内に不良たちは意識を失った。
停められていた趣味の悪い五台のバイクは、駐車場の隅で原形をとどめぬスクラップにされてしまった。
これでしばらくは、おばあちゃんも静かに眠れるだろう。
もしまた新しいバイクを手に入れて乗り回しだしたとしても、夏になったらまた帰省してきた凶暴な猫によってクズ鉄にされてしまうのだ。
そして気の毒なのは、すべてを目撃したコンビニの店長だった。
記憶を飛ばすために、ミースケに張り倒されて頬を腫らした店長は、どうしてこんなに頬が痛いのか理解できないに違いない。
「いらっしゃいませー」
恭子は頬を腫らしたにこやかな五十代くらいの店長の立つレジに、紙パックのジュースを一つ置いた。
「ありがとうございましたー」
何も憶えていない店長は笑顔で恭子を見送ってくれた。
恭子は心の中で、にこやかな店長に何度も頭を下げたのだった。




