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世界最強猫と私  作者: ひなたひより
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プロローグ 早春の朝

 大きな欠伸。

 だいたい猫というものは欠伸をするとき、目を閉じて、耳を平たくし、大きく裂けた口を全開にして欠伸をする。

 つまりは人間と、耳を平たくする以外は似通っているということだ。

 朝食を食べ終わった後、部屋で制服に着替えを終えた私は、またスマホの写真を眺めていた。

 今は触れることのできない愛おしい存在。

 先月の末、十三年飼っていた猫が死んだ。

 私の生まれた一か月後に、お父さんが拾ってきた猫。

 典型的な捨て猫で、職場の近くに捨てられていたらしい。

 安直につけられた「ミケ」と言う名の雌の三毛猫。

 拾われてきたときミケが何歳だったのかは知らないが、私と共に十三年間生きて、たくさんの思い出を残し、私のベッドで旅立った。

 すこし冷え込んだ早春の朝、目が覚めると、あれほどグニャグニャしていた体は硬くなっていた。

 こんなに軽かったっけ。抱き上げた時そう思った。

 まるで魂にも重さがあったかのように、私の腕の中のミケは違う生き物を抱いているかのように軽かった。

 いつも気ままにすり寄って来ては、ゴロゴロと喉を鳴らした。

 家の中の何処ででも寝て、時々起きてはご飯をねだった。

 おまえは気ままでいいね。私はしょっちゅう、そう声を掛けていた。

 でも本当にそうだったのだろうか。

 ミケがいなくなって、私は彼女にまつわる、たくさんのことを思い出し、考えさせられた。

 好き勝手生きているように感じていたけれど、人間との微妙な距離感を測りながら、お互いに快適に暮らせるように気遣ってくれていたのではなかろうか。

 そう思うのは、きっとミケが特別な猫だったからなのだろう。

 ただ愛おしいと思える存在。

 私は生まれてすぐにそんな存在と出会い、そしてお別れをしたのだった。

 また今日も、階下から、母の声が聴こえてきた。

 

「きょうこー、早くしなさーい」

「はーい、今行くー」

 

 このところ毎日のように思い出してしまうミケの面影を革製の通学鞄にしまうと、私はそのまま部屋を出た。

 玄関を開けるといつもと何も変わらない春の朝。晴天の四月の光が目に飛び込んできた。

 その眩しさに目を細めながら、吸い込んだ空気の冷たさに、また一日が始まったことを感じるのだ。

 私はいつものように、見送ってくれる母に「行ってきます」と声を掛ける。

 そしてまた、いつもと変わらぬ母の「行ってらっしゃい」に送り出されて、新しい一日へと一歩踏み出すのだった。

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