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80ストライク 試験日和


 青々と澄み渡った空で歌い遊ぶ小鳥たち。

 春の風は葉擦れの音たちの手を引いて、雄大な緑の山々を軽やかに撫でていく。

 大地の全てを見守る太陽が優しく春の陽射しを向けるアネモスの街は今、春を迎えて活気づき始めていた。


 外で体を動かすには持ってこいの陽気の中、ベスボル協会アネモス支部の横に併設されたグラウンドでは一際熱気を放つ男がいる。

 彼の名は、ヘイム=スコールズ。

 自称"インビジブル"の二つ名を持つ彼は、これからベスボルの歴史に名を刻むべく協会の門を叩いた野望に満ち溢れた男である。



「……あのクソガキ、痛い目を見せてやるぜ。」



 下劣な笑みを浮かべ、彼は打席に立つ金髪少女を見る。自分を馬鹿にした金髪の生意気な少女に対して、怒りと下卑た視線で威嚇する。

 そんな彼の視線に気づいて、まるで視姦されているような悍ましさを感じたのか、さすがの金髪少女も身震いは抑えきれなかった。



「……なんだあの眼、気持ち悪っっっ!」



 ヘイムの視線に虫唾が走り、舌を出して嫌悪感を露わにしていると、グラウンドの隅に設置されたベンチに座るミアから声援が届く。

 

 

「ソフィア〜!頑張るにゃ〜!!」



 彼女に手を振り返し、気を取り直して改めてマウンドに視線を戻す。相変わらず気持ち悪い顔をこちらに向けてくるヘイトを無視していると、受付嬢のマリーが二人のちょうど中間あたりにやってきてルールの説明を始めた。



「まず初めに、これはあくまで試験の一環ですから、相手を故意に傷つけた場合はその場で即失格としますのでご注意を。勝負は投打を交互に一度ずつ行ってもらい、その結果を踏まえて私が判断いたします。勝敗はあまり考慮しないつもりですが……まぁ、結果が顕著であればそれも判断の要因になりますので……」



 そこまで告げたマリーは「では準備ができたら始めるように。」とだけ言い残してミアがいるベンチへと戻っていく。その背中を見送っていると、タイミングを見計らったようにホームベース上にSゾーンが構築され、開始前のブザーを鳴らす。



「はぁ……さっさと終わらせよ。」



 ソフィアは小さくため息をつくと打撃の構えを取った。目の前の男が大したスキルを持っていない事はすでにわかっているから、あまりやる気が起きない。だが、舐めてかかるつもりは一切ないので、バッターボックスの後方に位置を取って相手の出方を窺う事にする。

 それを見たヘイムも笑みを深めて持っていたボールを軽く投げ上げるど、落ちてきたところをグローブでキャッチした。


 Sゾーンから開始の合図がなり、それに合わせるようにヘイムは大きく振りかぶった。




「はぁ……本当に嫌になるわ。」



 マリーはベンチに座り、組んだ足に肘を置いて頬杖をつくと、目の前の光景に視線を向けた。

 成り行きで試験をするなんて言ってしまったけれど、この勝敗はすでに見えているのだから、全くをもって気が乗らない。たとえアマチュア選手同士であっても、心踊る勝負は過去にたくさんあったし、今回もそんな勝負になるならよかったのに……

 結果がわかっている勝負を観なければならないなんて、自分に好意を寄せているとわかっている男の相手をするようなものだと、マリーはさらにため息を深めた。


 ヘイムは水属性と光属性の魔力持ちで、得意なスキルはそれらを掛け合わせて行う物体の隠蔽のみだが、あの金髪の少女は違う。なにせ、ここにくる途中にこっそりと眼を通して確認してみると、彼女は魔力を5種類も持っていたのだから。

 この世界の生き物は、最低でも2種類の魔力を持って生まれてくるのが定説だ。だが、ごく稀に3種類の魔力を持っている者もいて、そういう者は神童などと呼ばれ、多方面から重宝されるし、ベスボル界でなら各チームから引く手数多、まさに売り手市場状態となる。

 なのに、彼女は5種類……そんな人間、今まで見た事も聞いた事もないし、過去に読んだ文献にもそんな記録はなかったはずだ。


 だが、驚く理由はそれだけではない。

 自分はこれまで何人もの選手を見極めてきた。この力で数々の選手をベスボル界に送り出してきたし、それによりベスボル界に貢献してきた自負がある。

 もちろん、時には厳しさも見せてきたが、それは彼らの適性を的確に見抜き、導く事こそがその者自身の将来にも繋がると信じているからだ。

 しかし、彼女には自分の力が及ばない。

 確かに所持する魔力の数は見通せたけど、その属性はわからなかったし、なにより魔力とは違う得体の知れない何かをあの少女から感じ取ったのだ。

 その正体が何なのかも今のところはわからないが、それらの情報を踏まえて考えれば、あの金髪少女は只者ではないということになる。



(とりあえず、今のところ害はなさそうだし、まずはお手並み拝見と言ったところかしらね。)



 隣では金髪少女と一緒にいた獣人族の少女が声援を送っている。それによれば、あの少女は"ソフィア"という名であるらしい。


ーーーどこかで聞いた名前だな……


 そう感じつつ、鳴り響くSゾーンのブザーに視線を向けた。

ソフィアの勝ちを確信するマリーの能力も気になりますが…


とりあえずヘイムとひと勝負。

完全にヘイムさんは噛ませ犬!!


ごめん!

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