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73ストライク 勘違い


「着いたよ!あそこが俺の家!」



 その言葉が向けられた方へ視線を向けると、丘の上にポツンと立っている一軒家あった。

 木造で建てられ、年季を感じさせる二階建て。その横には薪を割る為の大きめの切り株と、洗濯物を干す為の物干し竿が静かに佇んでいる。

 獣人族の住まいよりも文明的ではあるが、人族にしては質素で古風な家の風体に、ミアは少し親近感を覚えた。





「ただいまぁ!」



 玄関を開けると同時にソフィアがそう告げると、中から別の少女がひょっこりと顔だけを出した。



「あっ、ソフィアおかえり。」


「ジーナ、ただいま!」



 ソフィアがそう返すと、ジーナと呼ばれた少女がゆっくりと部屋から姿を現した。



「今回も予定より早かったね。父さんからの課題はクリアできた?」


「もちろん。それに今回はブラックグリズリーも1体討伐したよ。」


「まじで?それはすごいね。あれってAランクの魔物でしょ?」



 ミアはそれを聞いて驚いた。

 ブラックグリズリーと言えば、その名を知らないものはいないほど高ランクの魔物である。冒険者ギルドではAランクに位置付けられ、名高い冒険者でもソロで挑めば手こずる相手。それなのに、ソフィアは平然と倒したと言うし、報告を受けたジーナもさほど驚いた様子はなく、笑いながら拍手しているのだ。

 二人とも、自分より少し年上くらいの人族の少女なのに……

 


「あれ?その子は……?」



 そんな規格外の会話に呆けていると、自分の存在に気がついたジーナが目を丸くしてこちらを覗き込んできた。



「あぁ、紹介が遅れてごめん!彼女はミアって言って、課題の帰りにブラッディウルフに襲われているところを見つけて助けたんだ。」



 ソフィアの紹介に合わせて頭を下げる自分を、ジーナは物珍しそうに眺めているようだ。下げた頭の後ろに視線を感じる。



「ふ〜ん、そうなんだね。でも、ミアさんは獣人族でしょ?クレス帝国領の、それもこんな辺境まで来るなんて珍しいね。」


「え?あ……そ……その……それは……」



 その疑問にミアはどう答えるべきか迷ってしまった。

 命の恩人のソフィア、それに短い間とはいえお世話になる彼女の家族にも、本当の理由を隠したままでいいのだろうか。大した話ではない。たかがベスボルの選手登録に行くだけ……

 そう考えたが、やっぱりバカにされる怖さの方が優ってしまい、自分から上手く言い出せずにいるとソフィアが口を開いた。

 


「まぁまぁ、理由なんてなんでもいいんじゃない?ミア、本当はアネモスを目指してたらしいんだけど、途中で迷っちゃったみたいなんだよね。」


「迷った……?あぁ、なんだ……そういう事か。」



 ジーナはソフィアの言葉に呆れた様にため息をついたが、ミアにはその理由がいまいち理解できなかった。

 ジーナのこの呆れ様は何なのか……まるで、ソフィアの考えを見透かしているかの様に肩をすくめるその態度に困惑を隠せない。

 もしかして、自分をここに連れてきた本当の理由は別にある?アネモスへ送ってくれるのは嘘で、それは自分をここまで誘い込む彼らの常套手段だったのでは?

 様々な憶測が妄想へと変貌する。

 まさか、彼らは獣人族を捕らえて貴族に売り捌いて生計を立てている奴隷商だとか?はたまた、獣人族など多種族の肉を好んで食べる美食家一族とか……?

 言う事を聞かない子供を大人しくさせる為に、幼少期によく聞かされた怖い話の数々が頭に浮かび、ミアの心が恐怖心で染まっていく。

 そう考えてしまうと、ソフィアもジーナも悪い人にしか見えなくなる。こちらを伺う彼らの表情がいつしか醜悪な魔物のそれに変わり、ミアの中の恐怖心が限界を越える。



「わ……わたしは食べても美味しくにゃいにゃ!!」



 ミアは無意識にそう叫び、頭を抱えてしゃがみ込んだ。自分はガリガリだから食べても不味いし、落ちこぼれで使えなから奴隷にする意味はない……そうぶつぶつと呟きながら怯えるミア。その一方で、突然ミアが叫んだ為、ソフィアとジーナは驚いてキョトンとしてしまっている。



「ミ……ミア……?急にどうした?」



 ソフィアがそう心配そうに声を掛けるが、ミアは怯えきってしまっており、とても話ができる状態ではなさそうだった。

 だが、どうしたものかと顔を見合わせて困っているソフィアたちに、玄関の扉が開いて救いの手が差し伸べられる。



「なに!?いったいどうしたの!?」



 騒ぎを聞きつけて家に戻ってきたニーナが、ソフィアとジーナにそう問いかけた。

 「実は……」とソフィアが切り出して、ことの顛末を説明していく。そうして二人から事情を聞いたニーナは、まずはミアの心を落ち着かせる為にあるスキルを展開した。

 温かな蒼光が辺りを包み込むと同時に、ミアは震えが落ち着いていくのが感じ取り、ふと顔を見上げるとまるで女神の様な美しい銀髪の女性がこちらに笑顔を向けている。



「め……女神さまにゃ……」


「……?大丈夫かしら?」



 慈愛に満ちた優しい言葉にミアがこくりと頷くと、ホッと胸を撫で下ろしたニーナはソフィアたちに指示を出す。



「さてと二人とも。ぼーっとしてないで、お客さまがいらしたのだからおもてなしの準備よ。」

ソフィアに連れられてサウスにあるイクシード家に来たミア。


想像が膨らみすぎて勘違いしてしまいました。

でも、ニーナはやはり誰にでも優しく映る様ですね!


少しイクシード家での話が続きますが、よろしくお願いします!

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