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69ストライク Tの取り方


 「タイムの取り方?そういえば、教えてなかったわね。」



 俺に尋ねられたシルビアは、立ち上がるとあるポーズを取り始める。



「試合中にタイムを取るにはこうするのよ。」


「え……マジで……?」





『おっと……?ここに来てイクシード選手、タイムのようです!』



 実況は俺の姿を見てそう告げた。

 今、俺は全身を使ってタイムを示している。両手を横に大きく伸ばし、両踵を揃えてまるで"T"の字を示すように……


 は……恥ずかしい!!

 マジでなんなんだよ、このタイムの取り方は!!普通に手を挙げるなりするだけでよくない?!まったく考案したやつ、誰だよ!!これじゃまるで、生前の世界の芸人がやってたギャグみたいじゃないか!!


 そう心の中で悪態をつきながら、苦笑いを浮かべているとSゾーンから承諾の合図が鳴った。それを確認した俺は、ポーズを解いてベンチへと駆けるその途中でチラリとユリアに視線を向けると、彼女も父の待つベンチへと戻っていくようだ。



「このタイミングでタイム?何かあったの?」



 ベンチに着くとシルビアがそう尋ねてきたので、俺は大きくため息をついた。



「いや……本当はユリアの為に取るつもりだったんだけど、少し状況が変わってさ。実はさっき投げる直前に顔の横に突然衝撃を受けたんだ。何をされたのかは不明だけど、犯人の目星はついているんだけどさ……またやられると厄介だからどうしようかと思って。」


「妨害工作!!!?皇帝が見ているこの試合で堂々とそんな事やるなんて……いったい誰の仕業なの?」


「それがさ……」



 俺がそこまで言いかけたところでニーナが口を開いた。



「それはマルクスの仕業でしょう?」


「え……!?」



 突然の発言に驚く俺をよそに、本人は平然と、そして淡々とユリアのベンチを見ながら話を続けていく。



「彼、なぜかベンチ残っているから何か仕掛けてくるかと思っていましたが、まさかあんなひどいスキルを向けてくるとは……私もさすがに予想していませんでした。ごめんなさいね、ソフィア。」



 え……なにひどいスキルって……?怖いんだけど!!!いったいどんなスキルなんだ……!?

 頭を下げるニーナの姿とその話の内容に俺は内心で動揺してしまう。



「マルクスはあの使用人を使って、あなたに隷属スキルをかけようとしたようですね。おそらくはあなたを操る事で、ユリアに勝たせようとしたのだと思われます。」



 頭を上げたニーナが指さすその先には、件のマルクスと女性のエルフが立っている。

 エルフは緑色のショートへアだけど前髪は長く右眼が隠れており、メイド服を着ていることからプリベイル家に仕える使用人だとわかる。策略が失敗した事をマルクスに罵倒されているようだが、遠くからでもわかるその鋭い目つきは四白眼で、あまり感情を読み取ることができなかった。その使用人を見据えていた俺の頭の中にある疑問が浮かぶ。

 隷属スキル……?そんな事までできるのかよ。魔力ってのは奥が深いんだな……しっかし、俺はそのスキルの影響を受けなかった訳だけど、それはなんでなんだ?

 すると、その俺の様子に気づいたニーナが申し訳なさそうに俺を見てこう告げる。


 

「正直に言うと、あなたを守ってくれたものが何なのかは私にもわからないの。普通、隷属スキルを防ぐには“聖”属性のスキルが必要になるの……隷属系のスキルはそのほとんどが“魔”属性に分類されるから、相対する属性は“聖”属性となる訳ね。でも、今回は誰も聖属性のスキルなんて使っていないのに、あなたは何かに守られて無事だった。」



 ニーナはそう言うと考え込んでしまった。

 俺もあの時の事を思い返してみるが、投げる直前だったからよく覚えていないのが正直なところだが、その時俺の頭の横で起きた衝撃……その正体があのメイドのスキルでありそれから俺を守ってくれた“何か”だった訳だ。

 いったい誰が俺を守ってくれたのだろうかと考えてみても、想像などつくはずもない。

 


「確かに今回の試合は通常とは違ってエキシビジョンで、しかも一対一の勝負だから、運営側も選手を守る“障膜”は発動させていないしな。マルクスにはそこを突かれた訳だが、もしかしてこの競技場内には我々以外にも仲間……いや、ソフィアのファンとかがいるのだろうか。」


「う~ん……それは考えにくいんじゃない?そもそも聖属性って、エルフの中でも数百年に一人現れるかどうかってくらい希少な属性だから、人族ではなかなか生まれないのよね。ここ数年の間でそんな属性を持った人間がいたって話も聞いた事はなかったし……」


「……となると、話は振り出しに戻る訳だ。」

 



 スーザンが肩をすくめてため息をつくと、ニーナもシルビアも考え込んでしまった。

 だが、俺はというと……



「とりあえずさ、その考察は置いといてマルクスたちの妨害を防ぐ手立てはないかな?」


「それなら、私に任せなさい。“ホーリーゾーン”……」



 ニーナは目を瞑ってそう唱え、俺に向かってスキルを一つ付与してくれた。

 今までに見たこともないくらい綺麗は蒼い輝きが俺の体を包んでいく。暖かくて優しくて、まるで母の愛を想像させるような感覚に心が落ち着いていくのがわかる。



「これでこの試合中、マルクスは下手な事はできないわ。」


「ありがとう……母さん。」

 


 ニーナの笑顔に、俺も笑顔で返す。

 マルクスたちの思惑が何なのか知らないが、これでユリアとの勝負に集中できそうだ。そう気を取り直して、俺はベンチを後にした。





「くそ!!なぜ失敗したのだ!!」


「わかりません。何か強いスキルの様なものに阻まれたようですが……」


「……このタイミングでタイムを取ったという事は、奴はこちらの妨害に気づいたという事か。」


「おそらくは……」



 無表情でそう告げるエルフの言葉に、マルクスはベンチを蹴りつけて怒りをぶつける。



「運のいいガキめ!!まったく、なんでこうも上手くいかないのだ!!」


「旦那さま、もう一度試してみますか?」


「いや、これ以上は皇帝陛下に気づかれる可能性があるからな。別の策を練るしか……」


 

 考え込むマルクスだが、そんな彼に対して一部始終を黙認していたゲイリーが痺れを切らしたように声をかける。



「これ以上はやめておいてはどうだろう。未知なる相手に対して、ユリア様も殻を破ろうとしている。だから、ここからはユリア様の力を信じて任せてみては……」


「ユリアに任せるだと……!?何を腑抜けた事を!!そもそもお前が役に立たないからこうなったのではないか!」



 マルクスの言葉にゲイリーは言い返す事ができず、口を閉じた。それを横で見ていた緑髪のエルフがニヤリと笑い、マルクスにある事を進言する。



「では、ユリア様ご自身に例のスキルをおかけするのはいかがでしょう。」



 エルフの言葉を聞いてマルクスは少し渋った様子を見せたが、少し考えた後にため息をついて静かに頷いた。それを確認したエルフは小さくだが笑みを深くしたところで、ユリアがベンチに戻ってきた。



「お父様、次は必ずホームランを打ちます。ですから、この試合最後までよろしくお願いします……って、あなたメフィアじゃない……なぜあなたがベンチに?遠征中だったのでは……」


「ご無沙汰しておりますね、お嬢様。実はお嬢様が大変な事態だと伺いまして、旦那さまに呼ばれて馳せ参じた次第ですの。」


「そ……そう。でも、その心配ももう無用よ。これからサヨナラの場面なの。確実にあの庶民のボールを打ち返してこの試合勝ってみせる。だから、あなたの出番はないから安心して。」


「えぇ、そうでございますね。お嬢様のお力、私も信じておりますわ。」



 メフィアと呼んだ使用人のエルフの言葉に、ユリアは小さく頷くとソフィアのベンチに視線を向ける。

 さっきのボール……よく考えてみれば、あいつはなぜあんなに甘いコースに投げてきたのだろうか。これまでの意地が悪いとも言える配球から考えれば、わざとであるとは考えにくい。それに投げる瞬間、何かに気を取られてバランスを崩したようにも見えた。そして、ベンチに戻ってみれば父の右腕であるメフィアがここにいる。

 なぜだかきな臭さを感じてしまう。そう考えて、再びメフィアへ視線を向けようとした瞬間だった。

 


「お嬢様は深く考えなくていいのですよ。」


「え……?」



 甘い声色が耳元で響いたかと思えば、ユリアの意識はそこで途絶えた。

マルクス以上に、使用人が悪いやつなのか!?

ソフィアを守った力も気になるし、ユリアがメフィアに何をされたのかも気になるところです。


タイムの取り方は……

すみません!!笑

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