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47ストライク 久々の再会


「誰がアストラなんかと結婚を!!……あ…あれ?!」



 焦りながらそう叫んで目を開けると、見知らぬ部屋のベッドの上に居ることに気づく。しかも、なぜだが体も二郎のものに戻っている事にも驚いた。

 混乱の最中で周りを見渡してみると、真っ白な壁には様々なポスターがぎっしりと貼り付けられていて、その様子は一言で言えばキモい。

 その中の一つに、見覚えのある記事を見つけたところで、突然別の方向から声をかけられた。



「お兄ちゃん!」



 懐かしく聞き覚えのある声に顔を向ければ、小さな少女が俺に笑みを向けている。



「あれ……?ソフィ……ア…なんでここに……」



 驚きはしたが、俺の下まで走ってきて膝の中に飛び込み、愛くるしい笑顔を向けてくるソフィアを見て、心がほっこりしてしまった。もう会えないと思っていただけに、なんとも言えない感情が胸に溢れてくる。こんなところで泣く訳にはいかない。そう必死に感情を抑えようとしたが、ソフィアの頭を撫でているとつい目に涙が浮かんでしまう。

 だが、もう一つの聞き覚えのある声が、せっかくの俺の心情を簡単にぶち壊してくれた。



「久しぶりだな。」



 聞いた瞬間に、今度は怒りが湧いてきた。

 偏属とかいう訳のわからない体質の事もそうだし、さらに言えば無属性の事も……散々振り回された事を考えると、本当に怒りしかない。大事な事は何一つ教えなかったこいつには、文句を言うだけでは気が済まない。

 そう考えて、不機嫌を顔に浮かべながら振り返る。

 だが……



「アストラ!お前には言いたい事が山ほどあ……お……前、誰だ?」



 目の前には、見た事のない女性が仰々しいイスに胡座をかいて座っており、牛乳瓶の底を二つ付けたような眼鏡をかけて笑っている。

 確かにアストラと同じく金色の髪をしているが、どうやったらこんな風になるのかと思うほどにその髪はボサボサで、さらに言えば、口元で浮かべている笑みは心が病んでいるように見えて少し気持ちが悪い。



「あ〜そうか……この姿を君に見せるのは初めてだったな。」


「ま……まじでお前……アストラ……なのか?」


「そうだよ!アストラさまで間違いないよ!」



 ソフィアが俺の膝下で笑ってそう告げるが、俺にはどうにも信じられなかった。

 ソフィアはなんで普通にしていられるんだ?あの時と比べれば、同じ人物とは到底思えない……全くの別人に思えるんだが……

 そう困惑の色を浮かべながら、目の前のオタクを改めて見る。転生する前に出会ったアストラは、美しくて凛々しくて……確かに性格には難ありーーー簡単に言えばアホーーーだとは思うが、外見だけで言えば絶世の美女と言っても過言ではなかったはず。

 だが、壁に貼られたアニメやゲームのポスター、それにテーブルの上に並んでいる数々のフィギアたち、さの存在も相まって、今のこいつの姿格好は完全にアニメオタクにしか見えなかった。

 愕然としつつも、今の状況を把握するためにアストラへと問いかける。



「で、この状況は何なんだ?さっきの夢もかなりリアルだったけど……あれもお前が見せたんだろ?」


「ご名答だ。」



 偉そうにそう笑うアストラを見て、さらに腹が立つ。



「何が"ご名答"だ。突然あんな夢なんか見せて……意味わかんないし、最後はお前に求婚するところで終わったぞ。一体何がしたいんだよ!」


「え!きゅ……求婚!?そんなとこまで流しちゃってた?!」



 俺の言葉に焦り始めたアストラは、何かを確認するようにマウスとキーボードを叩き始め、最後には額に手を当てる。



「しまった……余計なところまで観せちゃってんじゃん!マジ恥ずっ!やばっ!」



 やっぱりアホだな……こいつ……

 俺の膝の上でちょこんと座るソフィアの頭を撫でながら、椅子の上で頬を赤くしてあたふたとするアストラの様子を見て大きなため息が無意識に吐き出された。



「で、もう一回聞くけど、これはいったいどういう状況なんだ?ちゃんと説明してくれ。」



 設定がどうだとかこうだとか、よくわからない事をブツブツと呟きながらキーボードを叩いていたアストラは、俺の言葉に気づいて気を取り直すように咳払いをする。

 


「オ…オホンッ……じ…実はソフィアが、どうしても君に会いたいと言って聞かなくてな。」


「え…ソフィアが……?」



 驚いてソフィアを見下ろすと、その背中から恥ずかしそうな様子が感じられた。



「法の執行者に気づかれずに君とソフィアを会わせるには、任意の夢の中に君の意識を導くしかなかったんだよ。私が観せられるのは"あれ"しかなくてな……突然すまなかった。」



 ソフィアは未だに下を向いて、モジモジと体を捩らせている。その様子を愛くるしく感じていると、彼女は振り向く事なく、蚊が鳴くような声を吐き出した。



「お兄ちゃん……頑張ってるのに、私の体質のせいでとても苦労してて……だから…応援したくて……」



ーーーなんといういじらしさだろうか……


 俺はソフィアの態度に感動を覚えてしまう。

 確かにソフィアは見た目に反して大人っぽいところがある。それは初めて会って話した時からわかってはいた事だが、まさかここまで相手への気遣いができるなんて……どんだけ良い子なんだよ。こんな良い子が大怪我をして、しかも、俺みたいなおっさんに体を譲り渡さないといけなかったなんて、今考えても本当に理不尽な世界だ。

 ソフィアの頭をポンポンと撫でながら、そのもどかしい気持ちに再び涙が溢れてきた。

 だが、それに比べてこっちはと言うと……

 俺は涙を指で拭いつつ、間抜けな顔をしているアストラへと冷たい視線を送った。



「ソフィア、気にしなくて大丈夫だからな。確かに解決するには大変な問題だったが、神眼……いや、蒼い眼の方は使えるようになったんだ。まだスキルは使えないけど、俺はどうにかなると思ってるよ。だから、心配するな。」



 安心させたくて優しい声色でそう伝えると、俺の気持ちが伝わったのか、彼女は小さくこくりと頷いた。

 


「ところで、せっかくだからお前に聞きたい事があるんだが……」



 ソフィアに対するそれとは全く真逆の声色を、俺はアストラへと向ける。



「な……なんだか私には…冷たくないか?」


「あ?気のせいだろ。で、聞きたい事ってのは神眼の機能についてだ。あれは確かに魔力が"視える"……もちろん自分のもな。だが、今のところそれだけだ。それはなぜか……それ以外にできることはないのか?」



 淡々と綴られる言葉に対して、やっぱり冷たいよなぁ……などと不満を露わにしているが、俺の目を見て誤魔化せないと理解したアストラは、観念したように大きなため息をついた。

 


「眼を使って魔力を感じる事ができたんだろ?なら、理論的に魔道具も使えるって事だ。ベスボルの道具は魔力を通しやすい素材で作られているから、明日にでも試してみるといいさ。だが、あくまで君のは無属性だからな。」


「それはどういう意味だ?」


「簡単な事さ。属性が無いんだから、魔力を込めても君が期待しているような現象は起きないよ。例えば、バットに炎を纏うとか……まぁ強いて言うなら、道具を強化する事くらいはできるってところかな。」



 白々しく腕を組んで頷いているアストラのその態度には、やっぱりイラッとする。

 やっぱりぶん殴ろうかな……



「まぁいい……道具が強化できるなら、それで相手のスキルも跳ね返す事は可能……その理解は合ってるか?」



 アストラが小さく頷く様子に、俺は内心で安堵した。それだけでも、今度の試合で戦うための策を立てるには十分だろうと踏んだからだ。

 この世界の人間は"変化球"の事は知らないらしく、その投球は全てスキルに頼っている。なら、俺はこの眼を以てそのスキルを解析し、そのデータを打撃にトレースするだけで打ち返せるはず……そう睨んでいる。すでに、投げる方ではあの三人組で実証済みだしな。

 ただし、それにはこの左眼と自分の魔力を使いこなせるようになる事が大前提である。いくら相手の魔力が視えて解析できたとしても、魔力を使いこなせなければなんの意味もない。魔力がなければ、おそらく相手の動きにすらついていけないだろう。

 2週間なんてあっという間に過ぎてしまう……だけど、俺はそれを会得しないといけないし、もちろん、やり遂げる自信はある。

 とりあえず、問題は一つ解決したんだ。あとは一番重要なあの件について……



「もう一つ……紅い瞳についてなんだが……」


「紅い眼……?なんだそれは……私は知らないな。」



 先ほどとは打って変わって、アストラは素っ気なくそう返し、そのままイスを反転させて画面へ向き直った。

 こちらに見向きもせず、キーボードを叩くその姿は完全に怪しい……何か隠しているのがすぐにわかる。その証拠に、アストラは何度もキーボードを打ち間違えている。



「嘘をつくな。お前、なんか知ってるん……」


「おぉぉっと!そろそろ時間だな!これ以上、君をここに居させると我々が危ない!では、さらばだ!」



 突然、アストラが付けてもいない腕時計を確認する仕草をしてそう告げる。

 その態度は完全に何か知ってると言っている様なものだと、疑いの目を彼女に向ける。



「はぁ……?何を言って……」



 だが、そこまで言ったところでひどい眠気が突然襲いかかってきた。瞼が重くて目を開いていられず、意思に反して意識が霞んでいく。これは確実にアストラの仕業だろう。相変わらず自分勝手な奴だ。

 薄っすらとぼやけた視界の先で、ソフィアが心配そうにこちらを見ているのがわかった。


 そんな顔しないでくれ。必ず約束は守るから……

 なんとか手を動かして彼女の頭に乗せると、小さく笑う笑顔が見えた。

 しかし……

 


「そうだ、言い忘れるところだった。あの手記はちゃんと消しとくように!」



 その瞬間、俺の意識はそこで途絶えた。

再び、ソフィア(二郎)の前に現れたアストラ。

幼げなソフィアのために一肌脱いだ事には関心ですが…


肝心なことは何も教えてもらえなかったソフィア(二郎)は、アストラを殴ると改めて心に決めるのでした。


紅い眼の秘密!なんなんでしょうか!

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