表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/178

39ストライク はやとちりエルフさん


「わたしの条件は一つよ!あなたのチームとこの子をベスボルの公平なルールの上で勝負させる事!!」



 その言葉に俺もスーザンも、そして、ムースでさえも言葉を失った。

 な……なんでそうなるんだ……せっかくこっちが優位に立ってるんだから、ここはもっとこう……なんて言うかさ!他にあるじゃん?例えば、今後金輪際、俺らの前には現れるなとか、逆に賠償請求するとかさ!なんでわざわざそんな条件をつけんだよ!

 心の中でそんなツッコミを入れながらスーザンをちらりと見れば、さすがの彼女も同じ事を思っている様だ。それに、焦っていたムースですら、蓑虫女の提案には困惑の色を浮かべている。

 まさに、彼女の言葉はその場の時を止めたのだ。

 まさかこの人、◯タンド使いなのか!?そして、時は動き出す……なんちゃって。

 だが、ふざける俺をよそに、当の本人はどこか勝ち誇った様子で話を続ける。



「もちろん、ルールはこちらで決めさせてもらうし、勝負がついた時の条件も、後で揉めない様に双方で決めておきましょう!」


「じょ……条件だと?」



 焦りを隠せずにいるムース。

 その顔には、彼女の言葉が理解できないというよりも、その真意を図りかねている……そんな感じが見てとれる。

 一方、蓑虫女はムースの態度に少し呆れている様だった。



「あなた、それは演技なの?もしかして、ここまで言ってもわからないのかしら。いいわ……ちゃんと説明した方がいいならそうしてあげる。」


「……」



 黙り込むムースを見て、蓑虫女は大きくため息をついた。



「そもそもだけど、その子が帝都内で決まりを破った事実は消せないわ。今の皇帝は歴代の中で特に規律に厳しい方だからすでに事はバレているだろうし、遅かれ早かれ、帝都から調査が必ず入るでしょう。それほどまでにベスボルの規定違反は重い罪だし、厳しく罰せられる……ベスボルに携わっているあなたなら、それくらい知っているでしょう?」



 俺は彼女の言葉に驚いた。

 それが事実なら、ムースの奴が協会へ告げ口してもしなくても結果は同じで、俺は帝国に処罰されるって事じゃん……こいつ、それを隠して脅してきてたって事か。やってくれんな……

 ムース自身、蓑虫女の言葉にたじろいでいる様子からすれば、今の話は間違いないんだろう。自身の嘘を見破られ、気まずいといった感じが見てとれるからな。



「だから、こちら側が勝った場合の条件は一つよ。この子が帝都で行った事は、あなたのチームも承認していた事であって、規律を違反した訳ではないと協会へ証言してもらうわ。悔しいけど、あなたのチームがそう言えば、協会も深くは疑わないでしょうからね。」



 そこまで告げると、蓑虫女はムースからの返答を待つ様に口を閉じた。

 対してムースはというと、隠していた事実を暴かれた事に対して、少しの間だけ困惑と焦りを浮かべていたが、小さくため息をつくと冷静さを取り戻した様だ。顎を手を置いて悩む様に考え込み、自分の中で一人納得する様に数度頷くと、再び笑みを取り戻した。



「……いいでしょう。その勝負、乗りましょう。で、こちらからの条件はこちらで決めても……?」


「もちろんよ。そっちが勝てばそちらの条件に従うわ。誓約書にも誓いを立てましょう。そうすれば、あなたも安心でしょう。どうかしら……?」


「ふむ……わかりました。…で、勝負の日時と場所はいかに?」



 蓑虫女が「そうね……」と呟き、少し考え込み、そして、思いついた様にこう告げた。



「今日から2週間後の正午、それが限界だろうし……場所はこの街の外れにある広場でどうかしら?」


「2週間後……いいでしょう。承りました。では、こちらが提示する条件は追ってお知らせするとしましょう。誓約書はあなたがご準備されるのでしょうからお任せしますが、それでよろしいですかな?」



 蓑虫女が「もちろんよ。」と自信満々に返事を返すと、それを確認したムースはいやらしい笑みを俺に向けた。



「クフフ……2週間後が楽しみですね、お嬢さん。」



 気持ちの悪い笑み……何もかもが自分の思い通りになると思っているその顔に、俺は嫌悪感を露わにする。

 だが、彼はそれ以上は何もいう事なく「またお会いましょう。」とだけ告げて、路地の暗闇へと消えて行った。俺とスーザンはその背中を無言で見送り、蓑虫女は勝ち誇った様にその暗闇を見つめていた。





「まったく……不愉快です。」



 ムースは面倒臭そうにそう呟くと、大通りに用意されていた馬車へと乗り込み、ドカッと音を立てて座席へと座り込んだ。



「まさか、あんな蓑虫女にアドバンテージを取られるとは……私とした事が。」



 そこまで言うと、彼は怒りを露わにして拳を座席に叩きつける。だが、すぐに冷静さを取り戻してネクタイを正す。



「ふぅ……まったく、怒りが収まりませんね。あの女もそうですが、あのガキのあの眼が気に食わない。自信に……夢に満ち溢れたあの瞳。本当にムカつきます。」



 ムースは再び窓の外へ視線を向けた。

 陽は落ちてはいるが、アネモスの街にはまだ活気がある。馬車の窓からは街灯や店の明かりが入り込んで、自分の顔を静かに照らしていく。その一つ一つの光を眺めながら、ムースは小さくため息をついた。



「まぁ、いいでしょう。2週間後、あの瞳が絶望に歪むのは確実です。あれは容姿も才能も逸材ですし、上手くいけば物好きな変態貴族にスポンサーとなって頂ける事でしょう。そうすれば、我がチームには莫大な資金が……ククク……笑いが止まりませんね。」



 彼は我慢できず、その表情を醜悪な笑みで歪ませた。



「我がチームに……いや、私に楯突いた事、必ず後悔させて差し上げますよ。あの蓑虫女がどんなルールで来ようとも、我がチームの精鋭を相手にして勝てるはずもない。今から、あのガキの泣いて謝る姿が目に浮かびますね。ククク……クハハハハハ!!!」



 響き渡る高い笑い声を乗せて、その馬車はアネモスの街を後にした。





 俺は訪れた沈黙の中で、最後にムースが見せたあの自信に満ち溢れた顔を思い返していた。

 あの顔……おそらく、奴には何か思惑があるんだろう。勝てるという絶対的な自信と、それを裏付ける理由……仮にも名門と言われるチームなんだし、才能に溢れた奴らが所属している事は自明の理。そいつらと俺を比較して、絶対に負ける事はないと踏んでいるんだろうな。

 だが、それを考える前に一つだけ疑問が残っている。



「で、お前は誰なんだ?」



 俺の疑問を代弁する様に、スーザンが静かな空気をスパッと切り裂いた。

 そうなんだよ。この人はいったい何者なんだ?蓑虫みたいな見た目だけど、ホームレスではなさそうだし……そもそも、勝手に勝負するとかって決めちゃってさ。

 俺はスーザンとともに、蓑虫女に疑いの目を向ける。だが、彼女は気にする様子もなく、待ってましたとばかりに振り返って腰に手を置く。



「フフフ……よくぞ聞いてくれたわ。」



 彼女はそう言うと、体に巻き付けられた布を外し始めた。足元からゆっくりと剥がれ落ちていく布の内側から、スーツの様な服が姿を現していく。全体的に汚れが目立つのでそうは見えないが、想像するにシンプルな黒のスーツで身を固めたキャリアウーマンと言ったところだろうか。

 そして、最後に頭に巻かれていた布が取り除かれると、白髪の長い髪が姿を現した。服と同様に汚れは目立つが、それでも俺の目にはその美しさが眩しく映し出される。

 ふぉぉぉぉぉぉ!!白髪……!?しかも、あの耳の形はエルフさんじゃね?!知ってるよぉ〜!!野球漬けだった俺でも、子供の頃はファンタジーとか憧れたんだからさぁ!!美人なエルフのお姉さんとか、俺、異世界実感ワクワクしちゃうじゃんね!!

 興奮し過ぎて自分でもよくわからない事を考えている俺と、その横で訝しむスーザンに対して、エルフのお姉さんは自信満々にこう告げた。



「私はシルビア=アンダリエラ=ララノア。誇り高きエルフ族ララノアの子であり、王都ヘラクに拠点を置く『ベスボル・フィロソフィア』と言う会社で、広報を担当しているわ。以後、お見知りおきを。」


「ベスボル……フィロソフィア……?」



 首を傾げる俺の横で、その名を聞いて何かに気づいたスーザンがシルビアへと問いかける。



「ベスボル・フィロソフィアと言えば、ベスボル用品を取り扱っている帝都の企業だろ?そんな組織がいったいこの子に何の用だ。それにお前、こちらに確認もせずに勝手に勝負なんか取り付けて……」



 ふ〜む、ベスボル用品を取り扱う企業の人なのか。確かに、そんな人がなんであんな格好をしてこんな所に居たのかは疑問だな……

 だが、俺の疑問をまるで感じ取った様に、シルビアは話を続ける。



「私にもいろいろ事情があるの。それに勝手に勝負を取り付けてしまった事も謝罪します。奴の思惑を砕き、この子を処罰から逃れさせるためには、ああする他なかった事はあなたも理解できるでしょう?」



 その言葉にはスーザンも悔しそうに頷いた。仕方ない事だと理解している様で、シルビアの言葉を否定はしない。



「だが、私はこの勝負、絶対に勝てると考えているわ。『インフィニティーズ』の現状は理解しているつもりだし、それを差し引いてもあんな規格外のホームランを打つこの子が負ける道理はないもの!」



 一瞬、俺の頭に不安がよぎった。

 この人、あのホームランの事をなんで知ってるんだ?あれについては、ジルベルトがダンカンに頼んで箝口令を敷いたはずだが……



「……何を根拠に言っているんだ?それに、その話をどこで聞いた。」



 スーザンも驚いた様子で聞き返す。すると、彼女は目を輝かせてこう告げたのだ。



「そんな事は大した問題ではないわ!この子の魔力があれば……あの規格外のホームランを打つ才能とスキルがあれば、奴らのチームなど敵ではない!それが重要なのよ!」



 俺を指差してそう豪語するシルビアを見て、俺はなぜだか内心で気の毒に感じてしまった。

 その想いを代弁する様にスーザンがため息をつく。



「はぁ……何を言い出すかと思えば……この子は今、魔力もスキルも使えないぞ。」


「ふ〜ん、そうなのね………………………はぁ!?」



 さすがにそれには驚いた様で、今まで自信満々だった顔がみるみると青くなる様子は、ちょっと面白かった。

ついに正体を現した蓑虫さん!

まぁ、もうわかっていましたよね笑

ポンコツ具合、ここでも発揮しまくってましたけど…試合とかソフィア(二郎)はまだ魔力が使えないのに…


いったいどうなることやら…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ