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33ストライク 強みの構想


 俺の名前はトンビ。

 この街で鍛冶屋『トン・チン・カン』を営む父マハンと母ナヅチの長男坊で、キチンとカンツという二人の弟たちの兄貴でもある。


 うちは鍛冶屋だから親父は職人気質で気難しいし、お袋も筋が通らないことには厳しい人だから、長男の俺はいつも怒られてばっかりだ。弟たちも怒られることはあるけど、やっぱり長男の俺がよく怒られる。俺だって仕事や家の手伝いを頑張ってるんだから、少しくらい優しくしてくれたっていいじゃないかって思うこともある。

 でも、俺たち三兄弟にも親父とお袋に感謝していた事があった。それはこの街にあるベスボルのリトルチームに入る許可をくれた事。親父は鍛冶屋を継ぐための体力づくりという名目で、期限付きで許可を出してくれたようだが、俺たちにとってはそれだけでも十分だった。俺たちは親父たちに本当に感謝していた。


 この街はベスボルの発祥の地だし、プロリーグもここを中心に行われているから、子供たちは自ずとベスボルに魅せられる。将来の夢はと聞かれれば、ベスボル選手だと言う奴だって出てくるくらい子供たちの中でもその人気は高く、毎年発表される子供向けの人気職業ランキングでは常に上位に位置するほど。俺も弟たちも、そんなベスボルに魅せられた子供たちの中の一人だった。

 もちろん、ベスボルの人気は子供たちだけに収まらない。リーグ戦の期間中は毎日行われる試合の様子が中継され、大人たちもその熱気に興奮する。貴族などお金持ちの家では、魔道具である映写機を購入して毎日のように観戦パーティーを行っているようだが、そんな高価なものは庶民には買えないので、俺たちはプロリーグの試合を家で観戦することは出来なかった。

 しかし、幸いにも図書館や学校などの公共施設を初め、大衆向けにベスボル中継を流す映写機が街のいろんな施設に設置されている。お袋が言うには、これは皇帝さまが考えた国策で、ベスボルを広く知らしめるためだとかなんだとか……まぁ、俺にはよくわからないけど、子供たちにとっては願ったり叶ったりという訳で、俺たち兄弟を初め、子供たちは皆暇さえあれば家の外で試合を観戦していたんだ。

 スキルを使った選手たちのプレーは時に激しく、時に情緒的であり、俺たちの感情を大きく揺さぶった。それほどまでに、プロ選手たちのプレーはとても魅力的で、俺たちが彼らと同じようにありたいと思うまでに、そう長い時間はかからなかった。


 そうして、親父たちの許可を得て入ったリトルチームの練習初日。晴れてチームの一員となった俺たち三兄弟は、自信に満ち溢れていた。鍛冶屋の仕事は体力がものを言う。それを毎日手伝ってきた俺たちだから、そこらの同年代に比べれば体力は負けないという自信があった。

 リトルリーグでは魔力の使用は許可されていないから、純粋な運動能力だけがチームでの指標になる。それならば、俺たちはチームで主力になれるはずだと、そう期待して参加した練習初日……





 そこは才能に塗れていた。

 俺たちのように体力に自慢がある事など当たり前。そんなものは前提条件であり、チームの奴らはそれを踏まえた上で自分の得意な属性やスキルに基づき、身体能力の向上を目指すためにこのチームに入ってきている。趣味、遊びではなく、プロを目指すために自分に足りない部分をどう補い、そして、どう磨いていくかを自分なりに考えてプレーしている奴らばっかりだった。

 単なる興味で入った俺らは少数派。そういう奴らは万年補欠か、辞めていくかのどちらかだったが、それでも最初のうちは俺たちにも自信があった。俺たちだってやれる……こんな奴らになんか負けないという根拠のない自信が……

 でも、練習に参加すればするほど、俺たち三人は現実を見せつけられていった。

 今まで脚の速さで負けたことがなかった次男のキチンはチームの走力テストで最下位で、その後も全く勝てなかったし、物を投げさせれば百発百中、右に出るものはいなかった三男カンツは投手陣のトライアルに参加したが、さすがにエンドレスで同じところに当て続ける集中力はなかった。

 そして、俺はと言うと……

 打者の試験で全弾ホームランを叩き込んでやった。もともと力には自信があったし、あの程度の球筋なら街の連中となんら大差はないから、ホームランを打つ事など容易かった。兄弟たちが不甲斐ない結果に終わった今、俺だけでも頑張らないと示しがつかなかったし。

 だが、結果を見た監督が告げた言葉に、俺は驚愕した。



「君はなぜ全てホームランにしたんだ?野手の動きや現時点の点差など、試合の状況を瞬時に判断し、適切に打ち分ける試験だという事が、なぜ理解できなかったんだ。」



 俺には監督の言葉が、全く理解ができなかった。

 ベスボルはホームランを打てば良いんじゃないのか?俺たちがやっていたベスボルはそうだったのに……なんで打ち分けなんかしなきゃならないんだ。

 そう疑問ばかりが浮かんで、苛立ちを抑えられなかった。だが、よく見れば他の連中は何かを考えながら話し合っており、そこには推測から結論を得た上で打席に臨む彼らの姿があったのだ。


ーーーこいつら、頭がおかしいのか……


 そう感じた時点で、俺は負けていたんだと思う。その時は気づかなかったが、今になってわかるんだ。あいつらは選ばれた奴らなんだと……

 何か……俺たちの考えも寄らない存在に選ばれてここに居るんだと……皆、化け物クラスの才能を持っていて、しかも、努力を惜しまない奴らばっかりだったけど、そこに行き着くまでのスタートラインが俺たちとは元々違うんだ。

 そうして、レギュラー入りを諦め、その憂さ晴らしに弱い奴を虐めて過ごしていた俺たちの前に、なんの因果か知らないが、ベスボルの神様に選ばれた人間が再び立ちはだかっている。



「あれれ?お兄ちゃんたち、ソフィアのボールを打てないの?」



 目の前にいる小さな金髪の少女は、笑いながら恐ろしく速いボールを投げてくる。しかも、見たことがない変化を加えて、だ。

 こんなボール…リトルチームの奴らだって投げられないだろうし、それにこれはプロリーグの試合で見るスキルとは全然違う……たぶんだけど、そもそもこいつはスキルなんて使っていない。

 こいつが投げるボールは、掴みどころがないという表現が当てはまると思う。真っ直ぐ飛んできたはずなのに、気づいたらバットの届かないところにあったり、自分の体に向かってきたと思って咄嗟に避けたら、目の前で急激に曲がってSゾーンに食い込んでくるんだ。のらりくらりとかわされている感覚……ニヤニヤと笑みを浮かべる小さな少女に、俺たちは手も足も出ないでいる。


ーーーこいつもまた、選ばれた奴なんだ……


 俺の心の中で燻っている火が、また少しだけ燃え上がった。





 三兄弟が辟易する様子を見ながら、俺は満足感の他に一つの確信を得ていた。

 今、俺はこの投球中にスキルなど一切使っていないのだが、彼らは一球たりともバットに当てることができていない。そもそも、今の俺は魔力を操作できないのでスキルを使えない訳だし、この勝負においてはスキルは勝手に行使してはいけないというルールを、ちゃんと守っているのだが……

 だって、俺がスキル使ってもいいよって言ったら、あっちの方が驚いて断ってきたくらいだしな。さすがはお上のお膝元!指導が行き届いているな。


 と、冗談はさておき、俺が一体何をしているのか種明かしをしよう。まぁ、種明かしというと少し大袈裟かもしれないが、俺はただ単に変化球を投げているだけ。野球における投手は、ボールの握り方や腕の振りなどによって、いくつもの球種を投げ分けて打者を打ち取る事は当たり前の事だが、どうやらこの世界……いや、ベスボルにはその考え方はないらしい。俺が投げる変化球に対して、あのものすごく驚いた顔がその証拠だろう。

 彼らのバッティングフォームを見れば、経験者である事はすぐにわかった。ならば、変化球に対してあんな反応をするという事は、見たことがないからと言う他ない。

 アルに教わった時も変化球について言及はなかったし……

 こうなると、今度は別の疑問が浮かんでくる。

 それは……


ーーープロリーグでは、スキルのみでボールを変化させているのではないか。


 という事である。

 もしこれが事実なら、俺なりの武器の習得が可能かもしれないし、上手くいけばそれはかなり強力な武器になるのではないだろうか。

 そう考えると、ワクワクが止まらない。



「これにスキルを掛け合わせたら……!!」


 

 歓喜の声と共に、最後の一球をSゾーン目掛けて思いっきり放れば、最後の挑戦者である三兄弟の長男坊が大きく空振りしてその場に沈む姿が見えた。

 ガッツポーズする俺を見て、口をあんぐりと開けているラルについては無視します。


 だが……

 物陰でその勝負を見守っていたある人影については、さすがの俺も気づく事はできなかった。

年上の三兄弟をただ負かすだけではなく、変化球を使って相手を圧倒するソフィア(二郎)。

何やら、自分だけの武器を考えついた様子です。魔力を使える様になるのが楽しみです。


しかし、ソフィアに向けられた不穏な視線が一つ…

この視線はいったい誰のものなのでしょうか。


次回もお楽しみに。

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