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22ストライク 父の決意、娘の決意

 俺は5歳の誕生日を迎えた。

 この世界に来て約2年が経った訳で、俺自身もだいぶこの世界での生活に慣れてきたと思う。


 今、この世界は冬を迎えている。

 窓の外は真っ白で、家の中でも吐く息が白く舞うほどに寒い。この世界では、暖房設備は暖炉しかないから、日本にいた時のように部屋中が温まるようなことはない。

 まぁ、俺にとっては我慢できないほどでもないが。

 初めは、この世界にも日本と同じように四季があることには驚いたものだが、それももう2回目。

 俺は窓の外を見て小さく息を吐くと、窓の一部が白く曇った。

 俺は今、スーザンの家にいる。

 その理由を説明しようと思う。




 スーザンの家で起きた一件の後、家に帰った俺はジルベルトといろんな事を話し合った。もちろん、ニーナ、アル、ジーナを交えての家族会議で、だ。

 その議題は俺の魔力とこの"眼'について…

 なぜならスーザン曰く、俺の眼は特別かもしれないとのことだったからだ。

 俺は偏属者で無属性……要は魔力を感じ取ることができない体質だが、決してゼロと言うわけではなく、俺の中にはちゃんと魔力が眠っているらしい。

 そして、それを使うための鍵となるのが俺の眼であり、スーザンは一緒に住みながら、俺の体質を改善する方法を考えようと提案してくれた。

 だから、この眼の事も含めて、俺と家族は今後どうするべきかを話し合ったと言う訳だ。

 

 だが、会議の結果を話す前に一つ、ある属性について話しておこうと思う。これも大切な話だからな。

 生来、生き物は全て、身を置く環境や種族、血筋などによってその属性が決まる。これは前にも学んだ事だけど、その中には非常に稀だが特定の種族などに受け継がれてきた属性が存在し、そう言った代々受け継がれている属性の事を、この世界では"血継属性"と呼ぶそうだ。

 血継属性の場合、希少な属性を持つ事が多く、併せて体の一部に何かしらの特徴が現れる。そして、どうやら父ジルベルトの家系であるイクシード家と、母ニーナの家系であるジャスティス家が、その血継属性に当たるらしく、両家ではその特徴が瞳の色として現れるそうだ。

 イクシード家は、赤と橙と黄色が混ざり合った本物の炎のような輝きを放つ"赤雷色"と呼ばれる瞳を持つ。

 それとは対照的に、ジャスティス家は透き通った水色と深い群青が混ざり合う"青雲色"と呼ばれる瞳を持っている。

 赤雷色は"炎"の証。

 炎属性は火属性よりもかなり希少で、赤雷色は"強き不動の心を宿す瞳"と呼ばれている。

 青雲色は"空"の証。

 別の名を"強き意志を宿す瞳"と呼ばれ、地域によっては聖者の印である"神眼"としても崇拝されているようだ。

 それを聞くと、ニーナの一族についてかなり気になるところだが、その話はまた別の機会にするとしよう。


 という事で、細かい話は割愛するが、アルやジーナがジャスティス家の青く澄んだ瞳を有しているのに対し、俺はイクシード家の瞳を色濃く継いでいる。ジルベルトと同じ"赤雷色"を持っているのが何よりの証拠だ。

 だが…



「ソフィア…お前の瞳は赤いが、知っての通り、イクシード家の魔力は受け継いでないぞ。ついでにジャスティス家もだな。」



 アネモスから帰る前に、スーザンは笑いながら俺にこう告げた。わかっていた事だが、改めて言われるとけっこうショックだった。

 だが、落ち込む俺に対して、スーザンはこうも言っていた。魔力が暴走した時、俺の瞳には赤い炎と青い炎が宿っていた、と。

 そして、それこそが、俺が魔力を使うために重要な要素となり得るのだ、と。

 それを心の支えに、俺は一度サウスの家へと帰ってきた。



「俺は反対だ!ソフィアはまだ4歳だぞ!いくら姉さんの所だからと言っても…」



 家に着き、家族会議を始めると、いの一番にジルベルトはそう声を荒げてテーブルを叩いた。



「でも父さん、このままだとソフィアは魔力が使えないんだよね…スーザンはそれを解決してくれるかもしれないんでしょ?」



 ジーナの冷静な言葉に、ジルベルトは悔しそうな顔を浮かべる。



「ジル…私も不安だけど……でも、ソフィアのためを思うのなら、スーザンに任せてもいいんじゃない?」



 ニーナがそう告げ、アルも同意するように頷いている。

 しかし、ジルベルトはまだ悩んでいるようだった。愛しい娘に悲しい出来事が起きた上に、その娘が自分の手元から離れていくかもしれない。

 彼の気持ちはとてもよく理解できた。

 娘が結婚する時の父親の気持ちってこんな感じなのかな…なんて思っても見たが、ジルベルトの顔を見てふざける気持ちは吹き飛んでしまった。

 今、当事者である俺が口を出すのは良くない。ジルベルトを余計に逆撫でしてしまうだろう。こういう時は流れに身を任せるしかない。

 そう思い、静かに成り行きを見守っていると、再びニーナが口を開いた。



「ジル…私はソフィアが大切よ。もちろん、アルもジーナも……自分の子供たちには幸せになってほしいの。」


「……それは俺だって同じ気持ちだ。」



 ジルベルトはニーナの顔を見る事なく、俯いたまま小さく呟いたが、ニーナは気丈な態度で言葉を綴る。



「魔力がこの世界でとても大切な事は、あなたが一番よく知っている事でしょう。なくては就けない仕事も多いし、魔物に対抗もできないわ。このままだと、ソフィアは一人で生きていくことはできなくなるのよ。」



 ニーナの言葉に歯を食いしばり、再び悔しげな表情を浮かべるジルベルトの横で、その話を聞いていた俺は、自分の置かれている状況を改めて理解した。

 そして、自分の属性の事を軽く考えていたのかもしれないと深く反省した。このままでは、俺はイクシード家にとって足手まといにしかならない…

 そう考えた瞬間、肩を壊した時の記憶が蘇る。

 チームに迎えられた直後に肩を壊し、俺は投手としての人生を終えた。小さい時から無理をしてきたツケが回ってきたのだ。

 その後に待っていたのは打者への転向…そして、試合に出ることすらなく、ただ費用だけを貪る金食い虫としての人生だった。周りの選手たちからは、陰で疎まれていた事も知っている。そんな状況を打破しようと、必死に努力もした。

 だが、結局俺に待ち受けていたのは、チームからの戦力外通告だった。



(もう、あんな思いは懲り懲りだ…何もできずにただ終わりを待つなんて……今度はあんな思い、絶対にしてたまるか!)



 そう思い、自分の意思を伝えようと口を開こうとしたが…



「わかっているさ…俺だって。」



 ジルベルトが力なくそう呟いた。

 それを聞いた俺は、開きかけていた口をそっと閉じる。

 彼もわかっているのだ。自分ではどうしようもできない事を。スーザンに任せる他ないという事を。



「なら、親としてソフィアの為にできる事は一つよ。」



 ニーナが静かにそう告げると、ジルベルトはため息をついて俺に向き直った。

 自然と、ジルベルトと目が合う。

 その瞳には悲しさが浮かんでいる。だが、その奥には、決意の炎が小さくだが燃えているのが見えた。

 


「ソフィア…お前はどうしたい?」



 俺の答えなんてわかっているだろうに…

 俺はジルベルトの問いかけを聞いてそう感じた。みんなには悪いが、俺は確実にスーザンの家に行く事を選ぶ。これからの俺の人生に、魔力は絶対に欠かせないからだ。

 だが、これはジルベルトなりの親としてのメッセージなのだろう…とも感じた。自分の道は自分で切り開くこと…その一歩は親の言葉ではなく、自分の足で…意志で踏み出さなければならない…そう言われているようだった。

 俺はジルベルトの顔を見直して告げる。



「ソフィア…スーザン叔母さんの所に行く……行きたい。行って、必ず魔力を使えるようになる!」



 そう強く告げる俺に、ジルベルトは小さく頷いた。



「……わかった。お前の意思を尊重しよう。」



 ジルベルトはそう言って立ち上がると、部屋を後にする。その横には彼を支えるようにニーナも付き添ってた。

 そんな二人の背中を静かに見つめている俺の下へ、アルとジーナが駆け寄り、嬉しさと寂しさを共有するように抱きしめてくれた。

 あの頑固なジルベルトが許してくれたんだ。とりあえず、前には進めたと思う。次はスーザンの所で…

 アルとジーナの体温を感じつつ、決意を固める俺だったが、ふと大事な事を思い出した。


 しまった!今の流れでベスボルの事についても、言質を取っておけばよかったかも!

さて、ソフィア(二郎)自身のことが少しずつわかってきたところで、今度は家族会議。まだ幼い娘が自分の元を離れていくなんて、父親としてなんとももどかしい気持ちです。

ニーナの説得もあってなんとか前に進むことができたソフィア(二郎)。

スーザンと住むことになったようですが、どうなることやら。

次回は、例のあの人の番です笑

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