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21ストライク 女神の加護


「とりあえずは、よかった、と言うべきだな。」



 スーザンは倒れた椅子を立ててそれに座り、そうため息をついた。ジルベルトもその言葉に大きく頷いているが、彼の横で俺は小さく縮こまっていた。


 なぜかって?だって見てくださいよ、この部屋の惨状を…こんなん、すぐに片付けられるレベルじゃないし!

 それどころか、棚は倒れて食器は割れ、窓もところどころヒビが入っているんですよ!スーザンはああは言ってくれたけど、俺としては非常に気まずいんですよ!

 

 俺のせいで、スーザンの家はめちゃくちゃにだったが、彼女はそれを咎めることはせず、「こんなもん、すぐに直る。」とだけ告げただけ。

 その優しさが、逆に俺の良心をブスブスと突き刺しているのだ。シンプルに怒ってくれた方が気が楽だったかも…なんて思ってしまう。

 だが、スーザンはすぐに俺自身の事に話を戻した。



「今回の事で、ソフィアの体質が少しわかった気がするな。」



 俺は落としていた視線を彼女へと向けた。ジルベルトも真剣な眼差しで姉の言葉を待っている。

 それもそうだろう。愛娘の置かれている状況がどんなものなのか、親としての心配は計り知れないだろうからな。

 しかし、俺自身の体質か…魔力に関する事なんだろうけど、いったいどんなものなのか。俺自身も些か心配ではある。

 そんな事を考えていると、スーザンがジルベルトを見てニヤリと笑った。



「ジル…あの物語を覚えているか?」


「ん?あれと言うと…『女神の加護』の話か?」


「あぁ、そうだ。」


「俺たちも、小さい時によく母さんに話してもらったの覚えてはいるが…あれは子供向けの物語だろ?」



 女神の加護?子供向けの物語か…それが俺にどんな繋がりがあると言うのだろう。



「確かにそうだが…私は前に一度、あの内容について調べた事があってな。」


「調べた?あの作り話をか?」


「あぁ、ちょっと気になる事があってな。帝国立図書館に1ヶ月ほど籠ったんだ。」



 ジルベルトはその言葉に呆れ顔を浮かべた。



「相変わらず、気になったことにはトコトンだな。だが、わざわざ姉さんがそうしてまで調べたってことは…」



 スーザンはその言葉にいっそうと笑みを深めた。

 だが、俺には何の話だかさっぱりだ。その物語のことも知らないし…そもそも俺のことなんだから、俺にちゃんとわかるように説明してくれ。



「その……物語って、どんなお話しなの?」


「何…?ソフィアは知らないのか。」


「あぁ…うちではあの物語は話してないんだよ。物語は他にもたくさんあるしな。」



 スーザンは「そうか…」と呟くと、何かを考えるように顎に手を置いた。そして、小さく笑みをこぼした後、すぐに俺に向き直ってゆっくりと語り始めた。



「よし!私が話してやろう。これは、クレス帝国で古くから語り継がれてきた物語…まだ、クレス帝国が国を成す前……遠い昔の物語だ。」




 とある小さな村に才気鋭く、活力に満ち溢れた若者がいました。

 彼は真面目で、そしてとても努力家でした。毎日、与えられた仕事をこなし、与えられた命を慈しみ、与えられた出来事に寛容であり、とても誠実に過ごていました。


 しかし、そんな彼にも一つだけ欠点がありました。

 この世界では、生きるもの全ては魔力を持っていましたが、彼にはそれがなかったのです。

 村の者たちはそんな彼を嘲笑い、馬鹿にして蔑みましたが、彼はそんな事は気にすることなく、毎日を誠実に過ごしていました。


 そんな彼には妹がいました。

 彼女は幼い頃から病弱で、何をするにも兄の手を借りなければなりませんでしたが、彼はそんな妹を親身に支え、二人で仲良く暮らしていました。


 ある時、村が魔物に襲われてしまいます。

 村人たちはなんとか逃げ切れましたが、男とその妹は逃げ遅れてしまい、命からがらに自分の家の納屋に逃げ込みました。

 しかし、扉が壊される事は時間の問題です。

 そして、魔力を持たない男には、この危機を乗り越える術がありませんでした。


 男は神に祈りました。

 自分はどうなってもいいから、妹だけはお助けください。そして、どうか彼女が一人で生きていける力をお貸しください、と。


 するとどうでしょうか。

 空から一筋の光が落ちてきて、二人の目の前に美しくも勇ましい女神が現れたのです。


 女神は男に言いました。

 お前は誠実な男だ。そして、妹の為に命を惜しまない勇気がある。そんなお前にはこれを与えよう、と。

 そう告げた女神が指を一振りすると、男の目に光が灯りました。そして、気づけば自分の中の魔力を感じる事ができるようになっていたのです。


 女神はさらに告げます。

 お前は魔力がないわけではない。感じ取れなかっただけだ。しかし、その力があれば、もうその心配もない。それで妹を助けなさい。そして、これからも二人仲良く暮らしなさい、と。


 男は女神に心から礼を伝え、すぐに瞳に力を込めました。光の灯ったその目はさらに輝きを増し、いつしか男の体からは膨大な魔力が溢れ始めたのです。


 男は自分の魔力を利用して魔物を見事に打ち倒し、妹と無事に生還したのでした。


 村人たちは男に謝罪を伝えました。自分達は魔力を使える身でありながら、二人を助けなかった事を。

 しかし、男は全てを許しました。そして、村の皆にこう告げたのです。

 自分は魔力のお陰で助かったのではない。小さな勇気を示せたからこそ妹を守れたのだ、と。

 その言葉に村人たちは感心し、男に対する態度を改めたのです。


 天界でそれを見ていた女神は、こう呟きました。

 "真の強さとは力を持つ事ではない。心の強さを持ち、勇気を示すことだ"と…

 そう微笑みながら、女神はいつまで二人を見守り続けたのです。




「……と言った感じだな。」



 スーザンはそう告げて一息ついた。

 なかなか面白い話だったなと感じる俺の横で、ジルベルトは未だに難しい顔を浮かべている。



「…姉さんが言いたい事はわかるが、これは物語であって実話じゃないだろ?」


「お前、本当に…そう思うのか?」



 ジルベルトはその問いかけに、さらに悩ましげな表情を浮かべた。

 物語の内容からすると、スーザンが言いたいのは魔力を持たない男と俺が似ていると言う事なんだろうが……よくわからんな。

 …と言うか、また俺抜きに話してんじゃん。俺の事なんだから俺を混ぜろよ。



「う〜ん…よくわからない。今の話とソフィアの体質に、いったいどんな関係があるの?」


「あ〜ごめんごめん。ソフィアにも、ちゃんと説明しないとな。」



 俺が少し不満げにそう尋ねると、そうだったと言わんばかりにスーザンは謝罪し、俺にもわかるように説明してくれた。



「要するに、この物語の主人公である男はソフィアと同じ境遇で、魔力を感じ得ない体質だった。しかし、女神から授かった"何か"によって、自身の魔力を操作できるようになった。私はその"何か"が気になってな。目に光が灯ったという事をヒントに、帝国立図書館で調べてみたんだよ。」



 なるほど…じゃあ、その"何か"について知る事ができれば、俺にも魔力を感じ取れるかもしれないと言う事か。

 これは…期待できるんじゃないか?



「な…なら、スーザンお…姉ちゃんはその"何か"について知ってるって事!?」



 少し興奮して立ち上がる俺を見て、スーザンは小さく笑みをこぼした。

 この展開は…!いいぞいいぞスーザン叔母さん!期待できるんだな!していいんだな!そうなんだな!



「教えて!ソフィア、魔力使えるようになるなら、何でもするよ!」


「お…おい、ソフィア。勝手に決めるな。」



 ジルベルトが俺を諌めるように声をかけてきたが、俺の耳には届いていない。鼻息を荒くしながらスーザンに身を寄せて、彼女の顔を覗き込む。


 だが…



「いや…すまんが、それはわからんかった!」



 キッパリとそう告げる彼女の言葉が、俺の期待を打ち破った。一発KO…ハートブレイクショット…試合を終えるゴングが頭の中で鳴り響いている。そう膝から崩れ落ちる俺を見て、ジルベルトが慌てて駆け寄ってきた。

 父ちゃん…もういいんだ俺…真っ白に燃え尽きちゃったからさ。

 だが、ふとスーザンへと目を向けると、なぜか彼女は肩を震わせ目を輝かせて笑っている。



「だがな……一つ気になる事はあるんだ…」


「気になる事…?それはなぁに……?」

 


 寄り添ってくれているジルベルトと共に、俺は倒れ込んだまま訝しげな顔を彼女へ向けた。すると、スーザンは立ち上がり、興奮気味にこう告げたのだ。



「それはお前の瞳だよ、ソフィア。お前の瞳も、物語の主人公と同様に光が灯っていたんだ。」

子供向けのおとぎ話なのでしょうか。

でも、スーザンはそうは思っていない様子です。


それに、やはりソフィア(二郎)の目について、スーザンは気づいていたようです。


ソフィア(二郎)の能力は何なのか。

次回は7月26日火曜日に更新です。


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