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165ストライク 再登場

「それでは…そのように。」



 サイモンがそう告げると、対面で座っていた客人が立ち上がった。それに合わせてサイモンも立ち上がり、応接室の出口まで相手を案内する。ドアノブに手を掛けてドアを開けると、その客人はゆらりと応接室を出た。



「頼みますよ。マルクス様はお嬢様がクレス帝国で活動される事を望んではおられません。」



 部屋を出る間際に小さくそう呟くエルフの女は、外套のフードを深々と被ると静かに協会の出口へと向かう。その後ろを追うように歩きながら、サイモンは彼女の背中を見て猜疑深い表情を浮かべていた。

 突然協会に現れて、このエルフは自分はクレス帝国公爵家の使用人だと告げた。その際に渡された手紙には確かにあの有名なプリベイル公爵のサインがあり、それが事実なのだと理解はしたが、この女がいったい何者なのかはまるでわからない。本人は使用人だと言っているが、会話の節々に感じさせる佇まいはもはやメイドのそれではなく、時々感じる視線も闇を彷彿とさせるような冷たさがある。

 そして、今目の前で歩く彼女の足音がまったくと言っていいほど聞こえない事が、サイモンの猜疑心を大きくしていった。


 協会のロビーに出ると、ふと待合スペースで話している奴らの姿を見つけた。

 確かに通知を送ったので今日ここに来るとは思っていたが、それにしてもふてぶてしい奴らだと苛立ちが沸き起こる。

 そんなサイモンの姿を見つけたシャロンが近づいてきて言う。



「サイモン協会長、例の彼らが来ています。」


「あぁ、そのようだ。」


「あそこで待つように伝えております。それで、来客は終わられたんですか?」


「筒がなくな。これから御仁を出口までお送りするところだ。」


「そうですか。で、そのお客様はどちらへ……おトイレでしょうか。」


「ん?いやそこに……」



 シャロンの言葉に疑問を持ち、振り返ったところでエルフの姿がないことに気づいた。来る時も突然だったが帰る時もこうだとは、まったく得体の知れない人物だと感じざるを得ない。

 だが、なんにせよ彼女からの指示を適切に遂行せねばならない事は理解しているつもりだ。公爵家はユリア=プリベイルが帝国に戻る事を望んでいない。それはファイス宗国としても願ってもない事である。


 サイモンは元々、ユリアを宗国の選手として活躍させるつもりであったが、唯一の懸念はプリベイル公爵家の動向だった。当主マルクスがユリアを連れ戻そうとすれば、それは簡単に為されてしまう。それほどまでに彼の、公爵家の力は強いからだ。

 その為、今回公爵家の意向がわかった事はかなりの収穫なのである。マルクスはユリアを帝国に戻すつもりはない。それならば、残りの課題は今回開催されるソフィアという小娘との勝負だけとなるのだから。


 ソフィアは試合に勝ってユリアを帝国へ連れ帰ろうとしているが、サイモンとしては帝国領にユリアを行かせたくはないし、それを公爵家も望んでいる。それ故に、自分がやる事はソフィアに勝たせない事。協会長の権力を使ってユリアのチームが優位に立つように仕向ける事だ。

 正直に言えば、本部長である皇帝がどう考えているかは想像し難く1番の不安要素と言っても過言ではないが、幸いにもソフィアとユリアはマネジメントに徹する為に今回選手として試合に出る事はない。

 となれば、ユリアの勝算を上げるための要素は選ぶチームメンバーによる所が大きい。試合に出ない本人たちの技量は関係ないので、ユリアのチームメンバーに才能ある選手を加えれば勝率はかなり高いものとなるだろう。



「まぁよい。あの方はご多忙な方なようだからな。」



 サイモンはそう言って、再びソフィアたちがいる方へと向き直る。

 今はあのメフィアというエルフの事などどうでもいい。まずやるべき事はユリアへの提案である。彼女の性格上、簡単に受け入れるとは思わないが、それについては考えがあるから問題はないだろう。


 彼はニヤリと口元に笑みを浮かべると、ゆっくりとソフィアたち一行が待つ待合スペースへと向かった。



「やぁ、みなさん。お待たせしてしまいましたね。」



 そう声をかけると、こちらに気づいたソフィアが笑顔を向けてくる。



「協会長、お忙しいところすみませんね。」



 それに対して、サイモンは笑顔で返した。

 とは言え、内心では腑が煮えくり返る思いであった。たかが小娘のくせに。昨日、あんな事があったばかりだというのに白々しい笑顔を向けてくるものだ、と。

 だが、大人であるサイモンは冷静にそれに返す。



「いえいえ……で、本日は例の件でお越しになられたという事でいいですかな?」


「もちろん。試合の条件は理解したんだけど細かい部分は確認しないといけないだろうと思ってね。」


「それはそれは。本来ならこちらから伺うべきでしたのにご足労おかけしてしまったようですな。」



 サイモンが笑うとソフィアも笑う。

 それは完全に表面上での笑い合いだった。



「オホンッ……試合の事に関する具体的な内容については、協会本部の方から通達が届くはずですのでしばしお待ちください。それよりも今日はユリア様に大切なお話がございます。」


「ユリアに?」


「えぇ、今回の試合はファイス宗国の代表として参加していただきますから、チームメンバーもファイス宗国の協会としてしっかりと厳選させていただこうかと思っております。」



 その言葉にユリアが眉を顰める様子が窺えたが、ここで彼女に口を開かれると話がややこしくなる事は目に見えている。それを想定していたサイモンは、ユリアが話す前に先手を取った。



「実は我が国の協会に出資してくれている貴族がおりましてね。その方に今回の試合についてお伝えしたところ、ぜひユリア様のチームメンバーに加えたい選手がいるとおっしゃられてるんですよ。」



 その瞬間、ユリアの顔色が変わった。

 サイモンはその表情の意味をすぐに理解して小さく笑みを浮かべた。

新春の候、いかがお過ごしでしょうか。

今年も更新を頑張っていきたいです。どうぞよろしくお願いします!


そして、再び登場のサイモン協会長!出資者って誰やぁぁぁ!

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