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164ストライク 証明してあげる

 受け取った手紙を握り締め、俺は仲間達とともにファイス宗国のベスボル協会へと向かった。入り口の扉を開けると受付にはいつもと同じくシャロンが立っており、俺たちの顔を見るや否や怪訝な表情を浮かべる。



「シャロンさん、こんにちは。」


「……こんにちは。」



 視線だけをこちらに向けて小さくそうこぼす。挨拶はちゃんと返してくれるので本当は良い人なんだろうけど、あんな事があった後なのでこの対応は仕方がないか。



「サイモン協会長はいますか?」


「協会長はただいま別のご来客中です。少しお時間がかかりそうですので、またあとでお越しくださいますか?」


「そうか。なら、どうしようかな……」



 予想していなかった先客。

 だが、協会長ともなれば来客なんて日常茶飯事だろうから仕方がない。空いた時間をどう潰そうかと思案していると、見兼ねたシャロンが書類を整えながら不服そうにも1つ提案してくれた。



「はぁ……時間があるのでしたら、こちらの選手名簿でも眺めたらどうですか?今日は手紙の件で来られたのでしょう?」



 どうやら、彼女も俺たちの目的を理解しているらしい。今回の試合でユリアはファイス宗国所属選手から2名を選出しないといけない。故にさっさと登録者の中から目星でもつけておけという事なんだろう。

 俺もどんな選手がいるのか気になるのでユリアへ笑顔を向けてみると、ユリアはそんな俺を見て大きくため息をついた。



「はいはい、見るわよ。見ればいいんでしょ。」



 手渡された名簿をユリアが受付カウンターの上で開こうとすると、シャロンが少し苛立った様子で口を開く。



「あちらの待合スペースで見てもらえますか?」



 彼女の顔には、「ここでは邪魔だからあっちへいけ」とちゃんと書いてある。確かにこの大人数で受付を占拠するのは問題だろう。シャロンも協会受付として忙しいだろうし。



「シャロンさん、ありがとう。ゆっくりと見させてもらいますね。」


「……」



 俺が笑顔でそう伝えるとシャロンは一度こちらをチラリと見るも、何も言わずにすぐに書類に視線を戻した。そんなシャロンを背に俺たち一行は待合スペースに向かい、膝程度の高さのテーブルを囲む6席のソファーにそれぞれが腰を下ろす。



「そしたら、協会長を待つ間にファイス宗国の選手名簿を確認しようじゃないか。」


「なんであなたが偉そうにしているのよ。わ・た・し・のチームメンバーを選ぶんだから!」



 ユリアは呆れたようにそう告げると、静かに名簿を開いた。丁寧に1枚ずつ捲られる選手名簿を全員がのぞき込む。

 ゆっくりと捲られていくページには、登録選手の情報が一人ひとり書かれている。名前、性別、利き手や得意なポジションの他にも、スキルなど選手のストロングポイントや癖、懸念事項など協会が判断した評価まで詳細に、具体的に記されていて、その情報量は決して少なくなかった。

 だが、ユリア自身は淡々とページ捲っていく。1ページにかける時間はものの数秒で、本当に読んでいるのか疑わしくなるレベルで。



「ユリア、読んでる?」


「えぇ、もちろん。」



 ふと疑問を投げかけると彼女はすぐさま応えてくれたが、その答えが本当かどうかはいまだに疑わしい。

 まもなく、名簿の最後に到達するかしないかといったところで、俺はもう一度尋ねることにする。



「ユリア、いくらなんでも読むのが速すぎやしないか?」


「そうかしら?ちゃんと読んでいるわよ。」


「そうか?でも、けっこうな量が書かれてるし、そのペースでよく読めるね。」



 俺の言葉に同意したのか、ミアたちもユリアの回答を息を飲んで待つ。

 だが、ユリアは再び呆れた様にため息をつき、最後のページを読み終えて名簿を閉じながら全員を見渡した。



「そもそも、名前とか生い立ちとかどうでもいいのよ!要は使える選手かどうかが大切でしょ?」


「それはそうだけど……でも、チームメイトになるんならその人の人となりとかさ……」


「必要ないわ!」



 ユリアは俺の言葉をそう言って突っぱねた。

 どうやらユリアはスキルなどのストロングポイントしか見てなかったらしい。ユリアらしいというかなんというか……。

 まぁ、気持ちはわからなくもないが、今回の勝負はお互い監督としてチームを勝たせるために動かなければならない訳で、言うなれば俺とユリアのマネジメント力が試される訳だ。そうなると、チームメイトとの相性はかなり大切になってくるのは間違いないんだけど、案の定ユリアは我が道を突き進もうとしているようだ。



「ユリア、チームメイトは駒じゃないぞ。相手の事を理解しないと試合に勝つなんて無理だと思うけど。」


「ふん!わたしは絶対あなたになんか負けないわ!見てなさい!今度の試合では、わたしが監督としてもあなたより上だって事、ちゃんと証明してあげるんだから!」



 彼女の目を見て、監督としてお互いにチームを勝たせるために競い合うってのも、まんざらじゃないかもしれないと感じてしまう。


 立ち上がり、俺を指差してそう告げるユリアに対して、俺は顔には出さないが内心でワクワクしている自分がいる事に俺は気づいたのだった。

ご愛読くださっている皆様。

いつもありがとうございます。


今年の投稿は今日の分で終わり、次は年明けの1/5から再開しようと思います。


1年間ご愛読いただきありがとうございます。

みなさま、良いお年をお迎えください。

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