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160ストライク ある提案

「サイモン協会長、本部から通信が入っています。」


「そうですか。部屋で受けるのでつないでください。」



 シャロンの言葉に対して、サイモンは普段と変わりない落ち着いた表情で応えた。

 だが、内心では違った。もう一人のサイモンが小躍りして飛んで喜んでいる。もちろん、シャロンにそんな姿は決して見せられないが、これから起こるであろう事を想像すれば可笑しくて笑いが止まらなかった。

 ゆっくりと、それでいて急ぎ足で自室への戻ると、サイモンはテーブルに置いてある通信用の魔道具を手に取る。そして、「つないでくれ。」と一言伝えると、相手からの応答を待った。



(くくく……本部からの回答が楽しみだ。やつらに目にモノを見せてくれる!)



 そう意気込みつつ、鳴っているコール音に耳を傾けていると、カチャリと音がして通信機の先から声が聞こえてきた。ついつい姿勢を正して相手からの言葉を待っていると、聞き覚えのある声が静かに聞こえてきた。



「サイモン協会長かな?」


「は……はい!」



 その声はとても落ち着いていて静かな声だが、同時に威厳を感じさせるものでもあり、通信機を持つ自分の手が無意識に震えている事に気づく。てっきりマチルダから連絡が来ると思っていたので、まさかの通話相手に言葉が詰まってしまった。相手は名乗りはしなかったが、サイモン自身通信機の先にいる相手がいったい誰なのか、一瞬で理解させられた事を痛感する。



「なにやら問題があったようだが、貴殿の報告にまずは感謝しよう。で、その者たちは今そちらにいるのかな?」


「い……いえ、まだ国内にはいるかと思いますが、身柄の確保までは……」


「そうか。まぁ、それについては特に問題はないよ。ところで報告書の内容なんだが……」


「はい!」



 サイモンはさらに姿勢を正して待ってましたとばかりに返事をした。報告書を書いたのはシャロンだが、それにいろいろと肉付けしたのは自分であるからなおさらだ。ここで上手く皇帝へ内容を伝え、あの生意気な小娘たちに絶対に後悔させてやる。そう内心で笑みをこぼしながら通信機に耳を傾け、皇帝からの言葉を待っていると驚くべき内容が告げられた。



「いろいろと面白い内容だった。まるで短い物語でも読んでいるような気分にさせられたよ。で、その者たちの処分の話だが、保留という事にさせてもらう。」


「な……」



 期待していた内容と違った事に別の意味で言葉が詰まる。込み上げてきたのは怒りだったが、相手が相手なだけになんとか気持ちを抑えて静かにその真意を尋ねてみる。



「な……なぜでしょうか。彼らは協会の規定に違反しております。それ相応の処分が下ると思っておりましたが……」


「なぁに、それについては大したことではないさ。規定なんてものは1つの指標に過ぎないのだからね。それよりも我々はもっと先の事に目を向けるべきだ。そうは思わないか?」



 皇帝は飄々とした声色でそう告げたが、サイモンは納得がいかなかった。

 規定違反は本来厳罰に処すべきもの。でなければ、他の選手に示しがつかない。ルールとは秩序を保つものであり、守られるべきものであるはずなのだ。

 だが、それはあくまでも建前であり、本音は自分が辱められた事が許せなかった。この協会長という席に着くまでにどれだけの苦労があったと思っているのか、あんな小娘たちにわかるはずもない。プライドを投げ捨て、やりたくない事をたくさんこなして、やっとの事で掴んだ権威。その全てを馬鹿にされたのだから、許されるはずなどないのである。



「ですが陛下……僭越ながら申し上げますが、我が国は選手を引き抜かれようとしているのです。ベスボル界において選手とは宝のようなもの。それを勝手に引き抜くのは国の資産を盗むと同義。これは単純な違反ではなく、国家間の問題に発展しかねない事です。その辺はいかにお考えなのでしょうか。」



 これは正論であり、いくら皇帝でもそれをねじ伏せる事はできないと、サイモンはそう思っていた。

 ベスボル協会という組織は、国家間の関係性に囚われずベスボルの発展に寄与する事を目的として発足した組織だが、なんだかんだ言ってもやはりそこには政治が絡む。いくらクレス帝国の皇帝が世界的に大きな権力を持つとは言え、その点を無視すれば国として少なからず損害は被るわけで、それは彼の望むところではないはずだとサイモンは踏んだのだ。

 そして、その予想は当たるわけだが、彼にとっての誤算はその先にあった。



「ははは……君のそういうところ、意外と好きだね。本音と建前を上手く混ぜ込んで、もっともらしく表現するところが。まぁ、君の言うとおり、国同士で争うのは僕も望んでないからね。そこで、ここは1つ提案をしたいのさ。」


「て……提案……ですか?」



 サイモンはその言葉に対して怪訝な表情を浮かべた。処分について意見を曲げるつもりはないが、皇帝がいったい何を考えているのか、何を提案しようと言うのかが読めなかったからだ。

 だが、それを止める術は思いつかない。ここは相手の出方を待つべきかと思案していたところで、通信機越しに皇帝が口を開く。

 


「今回の件は試合で解決しようと思うんだがどうだろう。規定にもそういった場合は双方協議によって決める事と定めがあるわけだし。帝国所属のイクシードと宗国所属のプリベイル。それぞれチームを組んで勝負し、負けた方が相手のチームに入る、という条件でどうかな?」

 


 それを聞いたサイモンはしてやられたと後悔する。この提案は断れない……断る理由がないのだ。全ての面から平和的に解決できる提案だと、そう瞬時に判断した。

 それが悔しくて仕方なかった。

サイモンの嘘はやっはり見破られていたようですね。

これは悔しいサイモン協会長。

ソフィアの予想は的中したみたい……と思いきや,予想してなかった提案が!!


どうなる!ソフィアとユリア!

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