表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/178

140ストライク 試合の結果

 自分が放ったボールが打たれた瞬間、ルディは反射的に振り返っていた。想像したとおり、空高く舞い上がったボールはその勢いを衰えさせる事なく突き進んでいく。



「やればできるじゃん……」



 打たれたはずなのになぜか心地が良い。

 ルディはそんな満足感を胸に抱いたまま、無駄だとわかっていてもボールの行方を追いかけてくれるベータに内心で感謝した。


 ボールはそのままゆっくりと場外へ消えていく。残ったのは、その行く末を立ったまま無言で見つめる選手たちと1人座って頷くケルモウ、そして、ホームランの判定を下すSゾーンのブザー音だけ。


 俺はそんな中で、1人ゆっくりとベースを回っていく。



「本当に回るんだな。あの時はわざとやってるのかと思ったけど……それってなんかのまじないか?」



 その様子をマウンド上で見ていたルディが、俺にそう問いかける。ホームランの余韻に浸っていた俺はそれにはすぐに答えず、一周回ってホームベースを踏んでからルディへと向き直った。



「これがホームランの醍醐味なんだよ。」


「そうなのか?ベースを周るってのは今まで聞いた事がないけど……だけど、なんとなくわかったよ。それは勝者の印なんだろうね。」



 理解はできないが納得はしてくれた様で、ルディはくつくつと苦笑いを浮かべている。その様子に、俺は何となく違和感を感じた。

 まだ勝負がついた訳ではないのに、その悲壮感漂う表情を浮かべているのはいったいどういうつもりなのだろうか。まるで負けを認めた様な彼の雰囲気に苛立ちが募っていく。



「おい!まだ勝負は終わってないだろ!何だよ、その顔は!」



 だが、そう告げる俺に対してルディは肩をすくめてこう告げた。



「いや……終わりだよ。この勝負は君の……君たちの勝ちだ。」


「はっ……?!なんでそうなる!まだそっちの攻撃が残ってんだろ!」



 ルディが言っている意味がよくわからず、俺は声を荒げて彼を否定した。ミアもオーウェンも何が起きたのかよくわからず、それぞれの位置で俺とルディを交互に見直している。

 しかし、彼は無言で首を振るだけでそれ以上は何も言わない。その態度に我慢できずにケルモウへと鋭い視線を向けると、彼は何かを納得した様に頷きながらゆっくりと立ち上がり、こちらへと歩み寄った。



「この勝負はルディくんの言うとおり、これで終わりです。」


「どういう事だよ。これはどっちが正式にあんたの事業を担うのかを決める試合だろ?まだ勝負は終わってねーじゃん!」



 ケルモウまでもがルディと同じ事を言い出すなんて、やっぱり訳がわからず怒りが収まらない。むしろ、どんどん怒りが込み上げてくる。

 だが、それに気づいたのだろうか。すぐにミアがそばに走ってきて、俺を宥める様に声をかけてくれた。



「ソフィア、落ち着くんだにゃ。何か理由があるなら、それを聞いてからでも怒るのは遅くないにゃよ。」



 その言葉を聞いたら、なんだか怒りがスゥーっと引いていった。ミアの言葉は心を優しく包み込む様に俺の中に広がっていく。



「……ごめん。冷静じゃなかったな。」


「いいにゃ!熱いのもソフィアの一部だからにゃ!」



 満面の笑みでそう告げるミアを見て、俺にも笑顔が溢れた。そのうち、オーウェンも近くにやってきて、俺たちは3人でケルモウたちの神威を聞く事にする。

 立ち話もなんだから、とケルモウに促されてシャワーを浴びた後、俺たちは再びケルモウの書斎へと集まった。




「まずは先にお詫びを……」



 そう切り出したケルモウは深々と頭を下げた。俺がそれを無言で受け入れると、ケルモウは苦笑いを浮かべて今回の事について説明をし始めた。



「そもそもは、私があなたに助けて頂いた時から考えておりました。」



 そう切り出したケルモウは少し申し訳なさそうだったが、その目には謝罪よりも野心の様なものが垣間見れる。

 彼の話によれば、森で俺に助けられた時に確信したのだそうだ。この俺が秘めた可能性について。


 それからは、まず俺に感謝の意を伝えようと招待状を送り、そこで今回の事業の話を持ちかける予定だったらしいが、ケルモウも予想していなかった先客が現れた。それがルディだった。



「彼は私を訪ねて来ましたが、なぜかあなたの事を知っていました。彼についてお心当たりは?」



 その問いかけに俺は頭を横に振った。

 申し訳ないが、正直ルディの事はまったく知らない。彼とは会った事はないはずだし、どこの誰なのかは知る由もない。そもそも、ケルモウの横に座る彼自身もそうだろうといった表情を浮かべて頷いているし。



「とりあえずは話の続きを……彼は私を訪ね、そこで自分の事について教えてくれました。その上で、ソフィア殿に試験を与えるべきだとも。」


「俺に……?」



 別にそれは構わなかった。チームを作るにはには大金が必要だった訳で、ケルモウ氏にお金だけ出してもらうのも気が引ける。それなら試してもらい、納得した上で出資してもらった方が俺としては良かったのだから。

 だが、なぜルディがそれをケルモウへ進言したのかについては、やっぱりわからない。そもそも、彼はいったい何者なんだろうか。


 俺がそんな疑問を抱きながらルディを見ると、彼は大きく深呼吸をした後にこう告げた。



「ソフィア、君に皇帝陛下から言伝を預かってるよ。」



 と。

試合結果は想像の通り。

ですが、ルディの言葉が気になります!

最後に渡された手紙の内容とはいったい!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ