121ストライク 試してみよう
俺の周りから射出された無数の矢たちが、目の前を踊り狂う様に飛び交っていく。まるでその1つ1つに意思があるかの様に木々を避け、キメラめがけて風を切る。
奴自身は混乱と痛みでもがき続けているだけ。
まぁ、敵の姿が見えなくなったと思ったら、突然あらゆる方向から炎の矢が飛んできて、自分の体に撃ち込まれていくのだからそうなるのも仕方がないだろう。
魔力を練る暇すら与えるつもりはないし、いくつかの矢を翼にも矢を撃ち込んでやったから、もはや飛んで逃げる事は叶わないはずだ。
ただし、これで仕留められるとは思っていない。
あくまで俺の予想ではあるが、奴の強さは推定Aランクであり、この程度で力尽きる事はないと考えている。
そして、俺自身はあれだけ強くてでかい魔物にトドメを刺せるほどの強力なスキルは持ち合わせていないので、最後の一撃は普段どおり双剣で行わざるを得ない。
「……少し余裕ができたから、やっぱりちょっと試してみるか。」
弓と交換に背中のホルダーから抜いた双剣に魔力を注いでいく。魔属性のみをありったけ注ぎ込んだ双剣は、紫というよりもほとんど漆黒のオーラを纏っており、自分でもその禍々しさが見てとれた。
「さっきは炎と混ぜてみたけど今度は単独で……さてさて、どんな事ができるかな。」
今の俺が有している属性は炎、水、風、雷、聖、そしてこの魔属性の6種類であり、これらを駆使してスキルを発現させる訳だが、それぞれの属性にはそれぞれの強みや良さがある。
例えば、炎属性はあらゆる力を強めてくれる万能型だ。『疾風迅雷・炎』の様に基本的な身体強化を行うだけではなく、実はそれぞれの属性の力も増幅させてくれる優れものでかなり重宝している。
それに水属性だってそうだ。全てを映し出す鏡の様な透き通った魔力は相手を惑わせるスキルと相性がいいので、さっきの様に狩りの時にはよく使っている属性の1つだ。
他にも風属性には風属性の、雷属性には雷属性の良さがあって、使用者がそれを把握しているのとしていないのではスキルの効果に大きな違いが生まれてくるのである。
だから、俺は新しい属性を手に入れる度にその特性を確認する様にしている。魔物と相対している最中に余裕ぶっている様に見えるかもしれないが、魔力の扱いに関してはけっこう真面目に取り組んでいるので、勘違いはしないで欲しい。
という事で、最近得たばかりの魔属性。
こいつはどんな事ができるのか、どんなスキルと相性がいいのかなどなど、今からそれを確認していくとしよう。
「しっかし、無属性で偏属だった俺が、まさかこれだけの数の属性を使える様になるなんてな。」
少し感慨深くなり一人で小さく笑いつつ、魔属性で発動するスキルはどんなものがいいかと想像する。
オーウェンから聞いた話だと魔属性は扱いづらい分、使いこなせるとかなり万能だと言っていた。その事が魔人族の強さにもつながっているらしい。
確かに言われてみれば、さっきのスキルはかなり強力だった。永遠に燃え続けるイメージをしただけなのに、雨でも消えない黒い炎が本当に発動したのだから。
「あれは黒炎と名付けよう。だけど、基本は封印だな。」
強力なスキルは、使い所を間違えば周りに危害を与えてしまうので注意する事。
これはジルベルトから教わった狩人としての心得の1つである。それを体現するかの如く、彼は大技と呼べるスキルを基本的に使わない。唯一使うとすれば、イクシード家に代々伝わる『空挺炎撃』くらいだが、これも範囲や力を押さえて使用している様だったから、師という立場に立つ者としてそこはさすがだなと思う。
そして、そんな教えもあって俺自身も大技と呼べるほどのスキルは今まで使ってこなかった。まぁ、最近はベスボルで使える用にいろいろと考案中ではあるけど。
そんな事を胸の内で考えつつ、双剣へ注ぎ込んだ魔属性に対して魔力操作で問いかける様にイメージを伝える。
ーーーお前は何ができて、何がしたいんだ?
属性と対話しようとするなんて馬鹿げた話だと思うだろうが、これがけっこう効果的に属性の特性を知る事ができる。
こうやって語りかけるように魔力操作を行うと、何かしらの反応を見せてくれるので、俺はその小さな反応を見逃さず、彼らが何をしたいのか見極めている。
しかし……
「う〜ん、相変わらず反応薄いな。お前の言う事なんか聞くもんかって言われてる感じだ。」
さっきから魔力操作でいくつかのイメージを伝えてみてはいるが、魔属性の魔力は一向に反応を示す事はない。扱いづらいっていう意味が少し分かった気がするな。
確かに魔属性は魔人族しか持たない属性で他種族が扱う事は困難とされているが、ヒルモネに教えてもらった魔力共生によってこいつの手綱は握れているはず。
じゃあ、何が悪いのだろうか。
「あんまり時間かけられないんだよな。『炎華爛漫( えんからんまん )』もそろそろ効果が切れるし……」
ちらりとキメラの方に視線を向けてみると、飛び交っていた炎の矢の大半は奴の体に突き刺さっており、間もなくスキルによる攻撃が終わる事が推測できた。
キメラも今は痛みと炎に苦しんで悶えているが、時間が経てばすぐに起き上がって反撃してくるはずだ。そうなる前に方は付けておきたい。
本当はちゃんと対話したいところだけど、言う事を聞いてくれないなら仕方がない。
俺はそう考え直すとため息をついた後、口元でニヤリと大きな笑みを浮かべた。
「なら、力づくで言う事を聞かせるしかないよな。魔属性さんよ。」
その瞬間、双剣だけに纏っていた紫色のオーラが俺自身まで包み込む。その様子は俺の意思に対して抵抗し、暴れているかの様に思えるほどだ。
だが、それを俺は魔力操作によって力づくで押さえ込んでいく。そして、全身を纏っていた紫色のオーラが再び双剣へと収束していくと同時に、俺はこの瞬間に思いついたスキル名を呟いた。
「魔爆演舞……まずは俺と一緒にフラストレーションを発散させようぜ!」
その瞬間、俺は黒紫に輝く双剣を携え、キメラへと飛びかかった。
えげつないスキルでキメラを翻弄するソフィア。
ですが、魔属性も試す様です。
名前的にもっとえげつなさそうなスキルですがどんなものなのか。
次回はキメラ戦決着です!