120ストライク 炎華爛漫
「とりあえず、俺があいつを討伐する。おっさんはみんなにこれを。」
俺は持ってきたいくつかのポーションを全てアントスへ手渡し、自分の髪の毛を一本の棒で纏め上げていく。俺自身は元が男なので、髪の毛を留めたり結ったりする事に初めは抵抗があったが、今は手慣れたものだ。狩りの途中で解けない様にしっかりと留まっている事を確認すると、アントスとケルモウに笑顔を向けた。
「そんなに時間はかからないはずだから、ここでみんなの治療をしててね。」
「……わかった。だが気をつけろよ。奴はギルドにも未登録の魔物だ。どんなスキルを隠し持っているかわからないからな。」
その言葉にサムズアップで応えると、彼らの視線を背に受けながらいまだに警戒を緩めていない魔物の元へと向かった。
再び高く跳躍して背の高い木の上に飛び移り、そこから魔物の様子を窺ってみると、やつもこちらの気配に気づいたらしく、俺に視線を送りながら激しい唸り声を上げる。
「……あいつもバカじゃないな。やっぱり普通より知能が高そうだし、同じ攻撃は何度も通用しないかもな。」
魔物は確かに狡猾だが、基本的に知能が高い訳ではない。奴らは本能のままに獲物を追い、仕留めるためなら何でもするズル賢い生き物だ。
だが、こいつは奴らとは少し違う様だ。
さっきの魔力操作の"ロス"の件もそうだが、普通の魔物なら自身の"ロス"を改善する事など絶対にあり得ない。追い込まれたネズミは猫をも噛むが、そこに関しては無意識だろうと絶対にあり得ない事。
これまでたくさんの魔物と対峙してきたからこそ、俺はそれを知っている。
「魔力操作の精度も上がったと考えておこう。なら、それを上回るスピードで翻弄するしかないよな。」
これからの戦いにおける方針を決めた俺は、使うスキルを炎と雷、そして水属性に限定する。身体強化をより高める為には、他の属性操作に気を取られる訳にはいかないからだ。
魔属性についてもう少し試したかったけど、今回は緊急を要するから遊んでばかりはいられない。
「あの翼も飾りじゃないだろうしな。あとは尻尾の蛇に要注意っと……」
そう呟いた俺は魔物との距離を一気に詰めてみせる。
高い木の上から落下する加速度を利用する事でスピードを上乗せし、魔物の目の前に一瞬で到達したところで雷を纏わせた双剣により奴の顔に二連撃を浴びせる。
奴は斬られた痛みで顔を仰け反らせて咆哮を上げるが、付け入る隙を与えまいとガラ空きの首筋へさらに二連撃を追加し、そのまま流れる様に胴体まで斬りつけ続けていく。
「さすがにこのスピードにはついてこれられないか。でも、残念だけど優しく保護するって訳にもいかないんだよね。」
臀部辺りまで斬りつけたところで双剣をしまい、今度は追撃すべく振り返って弓と矢を構えた。もちろん、尻尾の蛇を落とす為だ。
……が、その瞬間、目の前に迫る奴の尻尾の存在に驚いた。
「はっ!?」
尻尾の先端についた蛇の頭が、大きく牙を剥いて俺の喉元めがけて襲いかかってきている。
タイミングが絶妙過ぎるだろ。いったいどうして……こんなの尻尾自体に意思がないと絶対にできない攻撃だぞ。
そう考えたところで、この攻撃は避けられない。それに見た感じだとあの牙には毒がある。振り撒く唾液の色がそれを物語っているほどに毒々しい。
このままだと本当に首元に噛みつかれてジ・エンドだ。
「シャァァァァァ!!!!!!!」
そんな事を考えている間に、蛇の頭が俺の喉に噛みついた。それを見た獅子の顔はしてやったりという表情を浮かべており、そのままぐったりとする俺を見て勝ちを確信したのだろう。蛇に噛み付かせたまま俺の体を自分の目の前に寄せ、小さく喉を鳴らして俺の状態を眺めている。
その様子まるで喜んでいる様に見えた。
だが、次の瞬間、奴の顔に驚愕の色が広がった。
ぐったりとしていた俺の体がまるで煙の様に霧散して消えてしまったからだ。噛みついた蛇も魔物の本体である獅子も、突然の事に動揺を隠せずに辺りをキョロキョロと窺って必死に俺を探している。
その様子を俺は木の上から満足げに眺めていた。
今のは「疾風迅雷・流」というスキルの応用だ。高めた身体能力と水属性を掛け合わせ、自分の分身を作るスキルで、今の様に意表をつく為によく使っている。
「尻尾の蛇はやっぱり意志を持ってんだな。」
ふむふむと顎に手を置いて少しばかり奴を観察する。
やっぱりあれは拓実に聞いた魔物で間違いない。そして今、俺はその名前を思い出した。
あれの名は"キメラ"。
ファンタジーの世界では当たり前の魔物らしく、合成獣と書いてキメラと呼ぶそうだ。確かギリシャ神話のキマイラという怪物から由来するそうだけど、それとはちょっと姿形が違う。キマイラは獅子の顔に山羊の胴体、そして蛇の尻尾だったはずだけど、あいつは翼を持っていて胴体が山羊ではない。
「まぁ、細かく考えても俺にはよくわからんし、とりあえず速攻で叩くかね。」
弓を構え、矢を番える。
そこに炎属性を流し込んでいくと、矢が真紅のオーラを纏う。それと同時に俺の周りに揺らめいていたオーラが、いくつもの炎の矢を形取っていく。
そして、無数の炎の矢が俺の周りに浮かび終えたところで、俺はそのスキルの名を呟いて立てていた人差し指をキメラへと向けた。
「空挺炎撃・炎華爛漫( えんからんまん )」
同時に、浮かんでいた無数の矢がキメラを目掛けて射出された。
楽しそうに戦うソフィア。
かなり余裕の様子です。そして、「流」というスキルも発動して一方的に攻撃していきます。
これなら余裕そうです!!
早く金づるを!