113ストライク 打算的な…
「おい、シルビア。ケルモウだかカルモウだか知らんけど、時間がないから早くスーザンの家に……」
「何言ってるの、ソフィア!今、窮地に立ってる大商人ってあのケルモウ氏なのよ!」
いったい、こいつは何を言っているのだ。
鼻息を荒くして笑っているシルビアに対して、俺は怪訝な顔を向けた。
まったく……なんでそんなに自信に満ち溢れているんだ。ほんとに空気読めないやつだな、こいつは。
俺はそう感じて大きなため息をつき、彼女へ歩み寄る。
「ケルモウ?よくわかんが、今は一大事だぞ?襲われてる人の情報も大事だけど、まずはジルベルトに連絡しないと……」
そう諭す様に伝えたみたが、シルビアは気にする様子もなく、突然俺の肩に腕を回して体を引き寄せるとコソコソと耳打ちを始めたのだ。
「いいから聞きなさい。ケルモウって言ったら超のつく大商人よ。手がける事業は数多に及び、現在の帝国内の様々な市場を席巻してる。そして、そんな彼に関する次の話題は……彼、ベスボルへの参入も検討していると噂されているの。」
「そ……それは……すごいやり手の事業家なんだな。」
俺があまり興味なさげに視線を逸らしてそう答えると、シルビアは呆れた様に小さくため息をつく。
「あんた、ベスボル以外の事だとほんと察しが悪いわね。いい?襲われているのが大商人でベスボル参入を検討している超のつく金持ち実業家。ここまで揃ってたらやる事は1つでしょうが……」
「あ……」
その瞬間、俺はシルビアが言いたい事に気がついた。
「そういう事か……そうか。俺が助ければ、もしかすると……いろいろと……なぁ!」
「そういう事よ。わかればいいの。ただ、相手が未知の魔物であるのなら、念の為ジルベルトにも伝えておいた方がいいでしょうね。それは私がやっとくから。」
打算的な笑みを浮かべる俺を見たシルビアは、鼻で笑うと俺の肩から腕を放し、そのまま冒険者たちの間をすり抜ける様に消えていった。それを見送った俺は、エマさんへ振り返って笑顔を向ける。
「エマさん、ジルベルトへの連絡は仲間がしてくれる事になったから、現地には一足先に俺が向かうよ。」
「え?それはありがたい話です。ソフィアさんも高ランク冒険者ですし、何よりイクシード家の方ですから。ですが、本当に大丈夫ですか?相手は未知の魔物ですし……」
心配そうに視線を落とすエマに対して、俺はサムズアップしてみせる。
「大丈夫大丈夫!ジルベルトたちにも連絡は行くし、無茶はしないよ。とりあえず、襲われてる商隊の人たちだけでも助けないとな。」
俺がそう伝えると、エマは納得した様に頷いた。
彼女もギルドのベテラン受付嬢であり、クエスト委託における采配のプロだ。その慧眼はお飾りではなく、冒険者の力量を測る目に間違いはない。
「では改めて……冒険者ソフィア=イクシードさん。あなたには緊急クエストとして、大街道で未知の魔物に襲われている商隊の保護。それと可能であれば魔物の討伐を依頼させていただきます。」
「そうこなくっちゃ!承った!」
エマの言葉に笑顔で応え、俺は意気揚々と駆け出した。
その後ろでは、他の冒険者たちへ俺のサポートを依頼しているエマの声が響いていた。
◆
「さてと……」
ギルドから飛び出した俺がまず考えたのは、魔物の討伐に使用する武器の調達だった。
魔物と戦うには武器がいる。
冒険者の中には素手で戦う者もいるにはいるが、やはり武器を持って対峙する事が多い。
かく言う俺も武器派であったが、ベスボル選手を目指して家を出たので最近は狩りをする事がほとんどなかった為、俺の得物はスーザンの家においたままだった。
もちろん、使い慣れている武器を持っていく方がいいので取りに帰ってもよかったが、襲われている人たちの事を考えると事態は一刻を争うかもしれない。
ならば、大街道へ行く途中にある武器工房に寄るのが一番手間が省けるはずだと考えたのだ。
走りながらそう判断した俺は、両脚に魔力を一気に注ぎ込んでいく。
使う魔力は炎と雷。
炎属性は身体能力を活性化させるだけでなく、強化する事もできるし、雷属性はその強化された体に瞬発力を与えてくれるから、自身の素早さを格段に向上させる事ができるからだ。
狩りの時、俺は常にこのスキルを使用して移動と戦闘を行っている。最初は無意識に使っていたんだが、アルからイメージしやすい様に名前をつけたら良いと助言を受け、悩んだ末にスキル名を「疾風迅雷・炎( えん )」と名付ける事にした。
"疾風迅雷"とはその言葉の如く、炎( えん )とは基礎的な身体強化スキルである事を象徴したネーミングだ。
ちなみに、身体強化系では炎以外に「流( りゅう )」と名付けたスキルもあるが、時間もないのでそのお披露目はまた後でにしておこう。
それにしても、改めて思うが魔力っていうのは本当にすごい。
魔力を消費してこんな風に身体能力を強化できたり、攻撃など物理的手段として使える反面、媒介として使用すればスーザンが開発した魔道具の様に便利な道具の一部に早替わりもする。
(新しい属性も手に入れたんだし、またいろいろと実験できるな。)
ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、俺は「疾風迅雷・炎」を発動させ、地面の一部が弾けたかと思うほどの勢いで颯爽とその場を駆け出した。
全く打算的な……
ですが、これで上手くいけば資金ゲットか?
チーム登録の目標に光明が!!
未知の魔物をぶっ倒せ!!