102ストライク みんな個性がある
「なるほどね。要するに、ミアちゃんは魔属性の魔力を持っていて、それが邪魔してスキルを発動できないんだね?」
話を詳しく聞いたオーウェンは顎に手を置いて頷いた。
その様子に俺は内心でため息をつく。どうやらこいつはミアの事になると協力的になるらしい。想像とおりだし、ミアの事が好きなんだから当たり前かもしれないけど、打算的過ぎて逆に笑えてくる。
それに、なんだかこいつを見ていると中学生くらいの時の恋愛感を思い出す。好きな子の為に率先して何かをする男子の可愛らしさ。俺にもそんな時期があったっけ……
そんな感傷に浸っていた俺に対し、オーウェンが意味のわからないポーズを向けてくる。
「ふむ……とにかく、ミアちゃんの状態を一度確認してもいいかな?」
「あ……あぁ、もちろんだよ。なぁ、ミア!」
「う……うん。お願いしますにゃ。」
自分の事をカッコいいと思っているオーウェンと、それが理解できずに若干引き気味のミア。
そんな二人を見ていると、精神年齢的にはおじさんである俺はこれまた中学生の恋愛に対する男女の温度差を感じで苦笑した。
「なら、ミアちゃん。まずは魔力を練ってみてくれる?」
「わ……わかったにゃ。え〜っと……」
言われたとおりにミアは集中力を上げる。俺も念の為と思い神眼でその様子を確認していると、オーウェンが突然スキルを発動した。
「ダークネス・アイズ!!」
右目を右手で隠し、左手は後ろへ大きく広げたままのポーズを見て、拓実のやつに見せてもらった厨二病系アニメの主人公を思い出す。
(これが厨二病ってやつか……?でも、ここは日本じゃないしなぁ。こいつの性格なんだろうか……)
昔、中学校でこんな奴がいた記憶がある。
よくわからない単語を駆使しながらポーズするその姿は当時の俺には異様な存在として映ったものだが、今考えれば本物のスキルが出ないだけ可愛いものしれない。
ある意味、オーウェンの場合は単なる拗らせではなく、本物の厨二病なのかも……
そう感心していると、オーウェンが自慢げに口を開いた。
「あ〜なるほどね。ミアちゃん、本当に魔属性持ちなんだ。しかも、かなり個性強めだね。」
「個性……?魔力に個性なんてあるのか?」
その言葉に疑問が浮かび問いかけてみると、オーウェンは呆れたようにため息をつく。
「あるさ。魔力にもちゃんと個性がね。君はそんな事も知らないのかい?」
いや、知るわけねぇだろ。
……とツッコミかけたが、こいつの機嫌を損ねるとまた時間がかかると思ってその言葉をなんとか飲み込んだ。
しかし、魔力に個性か。アルやスーザンからは教わらなかったけど、そんな考え方もあるとは驚きだ。それが概念的なものなのか、それとも本当にそういう事実があるのかについては今確認はできないが、まずはやるべき事を先にやらなくちゃな。
「まぁ、その話は置いておくとして、ミアの魔力についてはどうなんだ?解決できるのか?」
俺からの問いかけに少し考え込むように目を瞑るオーウェンを見て、ミア、スーザン、シルビアはごくりと唾を飲み込む。
そうして少しの間をおいたオーウェンは、意味不明なポーズとともにこう口にする。
「僕に不可能はない!ミアちゃんの事は僕が救うのだ!」
「そうか!よかったな、ミア!」
「うんだにゃ!」
ミアも嬉しそうに笑っていて、それを見たらなんだかほっとした。スーザンもシルビアも俺と同じ気持ちのようで、二人とも胸を撫で下ろす様にひと息ついている。
とりあえず、改善できるって事がわかった訳だし善は急げだよな。
「じゃあ、さっそくミアの体質を改善してくれよ!俺たちは早くベスボルがしたいんだ。」
「ん?今ここでか?それは無理だ。」
一瞬、オーウェンが言っている事が理解できずに俺は眉を顰めた。
「はぁ……?!なんでだよ!お前、今治せるって言ったばかりじゃないか。」
「勘違いするな!僕は治せるとは言っていない。不可能はないと言ったんだ!」
「意味わからん!言葉遊びなんかしている暇ないんだ。さっさと改善方法を教えろよ!」
「だから!今は無理だと言っている。そもそも改善方法なんか僕は知らないんだからな!」
それを聞いた俺は呆れてしまい、言葉を失った。
そして、段々と心の内からこのバカに対する怒りの炎が燃え上がってきた。
「やっぱりこいつ、ギルドに突き出そう。シルビア、いいよな?せっかく探してくれたチームメイトだけど!」
「私は構わないわよ。あんたのチームには普通の奴じゃ物足りないと思って探し出した人材だったし……あんたが決めなさいな。」
「ちょ……ちょっと待て!待て待て待て待て……待ってくれって!」
俺の剣幕を見て焦りを感じたらしく、オーウェンは両手を振って抗議し始める。
「確かに僕は知らない!その事実は認めるよ!だけど、解決の糸口を握っている奴を知ってるんだ。今からそいつのところに行って僕が頼めば、必ず解決方法を教えてくれるはずだから!だから、ギルドに突き出すのだけはやめて!」
「だめだ!信用ならん。やっぱり悪人なんて仲間にするもんじゃないって事がよくわかった。スーザン、縄!!」
俺の指示でオーウェンを即座に縛り上げるスーザンの慣れた手つきにはちょっと関心してしまったが、泣きそうになりながら必死に嘆願してくるオーウェンを見ると再び怒りが込み上げてくる。
だが、そんな俺たちを諭すようにミアが提案を挙げる。
「わたし、その人に会ってみたいにゃ。彼の処分はそれからでも遅くないと思うにゃ。」
「ミ……ミアちゃ~ん……」
女神の慈愛に感動するオーウェンを尻目に、俺はミアに問う。
「ミア……いいのか?俺はこいつの事、あまり信用できないと思うぞ。こんな事言って逃げるかもしれないし。」
「でも、そのために契約書を書いてもらったんじゃないかにゃ。」
「確かにそうだが……」
ミアがそう言うなら、俺はそれを尊重するだけか。
俺はそう思って大きなため息をついた。
そして、オーウェンを睨みつける。
「ミアを裏切るなよ。」
オーウェンはいつにも増して頭を縦に振り続けていた。
やっぱりか……
期待とおりに期待を裏切るオーウェンです。
なんかアストラといい、シルビアといい、オーウェンといい、ソフィアの周りってろくな奴が集まらない気がする……
しかし、解決の糸口を知る人物とは一体……?