新人生の崩壊
1. アタビルス
説明:先祖再帰を引き起こす原因となる極限環境耐性ウイルス。龍生島で初めて発見された。同島火山の地中奥深くに生息していたと考えられる。アタビルスは摂食のみによって感染すると考えられ、2~3週間の潜伏期間を経て先祖再帰を引き起こす(補足:T教授の実験によって解明された。本土のハシボソガラス(Corvus corone)に龍生島で捕獲されたげっ歯類を捕食させたところ、後に先祖再帰を引き起こしていることが分かった。また同じ空間にいても、げっ歯類を捕食しなかった個体は感染しなかった。※本土の鳥類に摂食感染させないためにも、島から持ち帰った全ての動植物は■■■において、厳重に隔離・保管されている)。先祖再帰を起こした鳥類は骨格レベルの変化が生じ、恐竜に似た容姿になる。確認されたものはヴェロキラプトル(Velociraptor mongoliensis)、ティラノサウルス(Tyrannosaurus rex)があるが、この二種に必ず再帰するかは不明である。なお、確認された二種はいづれも獣脚類である。
現在の鳥類のもつソレとは比べ物にならないほどの凶暴性を持ち、容易に人間を襲う。皮膚が硬いことや、体格が大きく急所への攻撃が厳しいことが考えられるが、銃等の武器では殺傷することが厳しい。
2.龍生島での音声記録
環境省の調査でのボイスレコーダー記録(調査は映像記録を残さないことが条件だった)から、本件と関連する部分を文字に起こした。
2.1 島長との会話
龍生島島長A氏(以下、島長と記載)と環境省自然環境局野生生物課のY課長(以下、Y氏と記載)の会話である。
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〈録音開始〉
Y氏:この度は、調査を承諾していただきありがとうございました。その、これからキャンピングカーをおろして調査を開始したいのですが、よろしいでしょうか。
(5秒の沈黙)
A氏:一つ・・・お尋ねしたいことがありまする。皆さまは・・・神を信じまするでしょうか。
Y氏:神様ですか・・・?
A氏:それは、信じられないという顔ですね。やはり、帰っていただきたい。神を軽んじるものは、この島から生きては帰れぬ。・・・皆、祟られる。
〈省略〉
A氏:この島には、古くから神が一緒に住んでいるのです。神が住んでいる領域には島民も手を出すことができませぬ。それだけは約束をお願いしまする。それが、調査を行う上の約束です。
Y氏:神域というのは、以前教えていただいた、龍生山(※龍生島中心にある大きな活火山)とその周辺でしょうか。その点でしたら、この度の調査はその範囲を外して・・・」
〈以下省略〉
〈録音終了〉
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補足:A氏はいまだに発見されていない。島で恐竜に捕食されたものと考えられる。
2.2 医者との会話
龍生島に唯一の医者B氏(以下、医者と記載)と環境省自然環境局野生生物課のY課長(以下、Y氏と記載)の会話である。
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〈録音開始〉
Y氏:先に島長様が話していらっしゃいました、祟りについて詳しくお伺いしたいのですが・・・。
〈省略〉
B氏:神域に立ち入ると祟られたり、神隠しにあったりするという伝説が、古来より言い伝えられているんです。島で自給自足の暮らしをする人々も、神域には一切関わらないようにしているんですが・・・しかし、最近の若い島人はそれを軽視するものもいまして・・・ばれないようにこっそりと神域で食料を集める若者も多くいるようで、先月にあった収穫祭でも・・・
〈省略〉
B氏:この島には古くからイザナミ伝説というのが言い伝えられています。実は龍生島の中央にそびえたつ山――龍生山は、イザナミの厠だったという変な伝説が言い伝えられているんです。龍生山(イザナミの厠)にはイザナミの糞尿があり、そこからは今でも神が生まれてくると言われていて、また、神は龍という仮の姿で、神域に暮らしているという話なのですが・・・だから、つまり、その、神の住処である神域には、人間が立ち入ってはならない。ましてや、神域の恵みには手を出してはならないと島では強く言い伝えられていたのですが、その若者はその神域に足を踏み入れたらしく・・・
〈省略〉
B氏:・・・その傷というのも、服の上からスパッと切り裂かれた50㎝にわたった傷。まるで切れ味の良い鎌で切り付けられたような傷が、背中に二本。そして、足首にも噛み跡のようなものが付いており、大量に血が滴っていまして・・・
〈省略〉
B氏:・・・医学を学ぶ身としては祟りを信じるわけにはいきませんが、とても普通の動物に襲われたものにも見えなくて・・・
〈以下省略〉
〈録音終了〉
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補足:B氏もいまだに発見されていない。
2.3 救出隊の会話
龍生島民救出作戦における、救出船上での救出隊であるC氏とD氏の会話の音声記録である。
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〈録音開始〉
C氏:早くここから離れるんだ!!!
D氏:どうしたんだよ、そんな真っ青な顔をして・・・
C氏:いいから出発するぞ!やばいんだよこの場所は!!!
D氏:いやだって、島民の救出任務が・・・
C氏:いいから行くぞ!
〈省略〉
C氏:それがさ・・・誰もいなかったんだ。民家が立ち並ぶところだったんだけどな、人間の気配が無いんだ。事態も事態だったから、一軒ずつ中に入ったんだけど、どこも空き家。ネズミしか見つからなかった・・・。多分な、みんなあの怪物に食われちまったんだよ・・・。
(ゴンという何かがぶつかる音)
E氏:ん、なんだ?
D氏:あいつだ!早く早く早く早く・・・
(銃声)
不明:ぎゃあああああああああああああああああああああああ
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補足:C氏、D氏は後にバラバラな状態で発見された。
ワクチンはいまだに開発されておらず、ウイルスの隔離が最も有効な手段だと考えられる。
もし本土の鳥類が感染したら日本中に恐竜が蔓延る事態が予想される。決して島の動植物を本土に持ち帰ってはならないのである・・・。
追記:2.4 海上調査船での映像記録
環境省自然環境局野生生物課の調査員E氏が調査時に隠し持っていたスマートフォンから、新たに映像記録が発見され、それを文字に起こした。同課調査員F氏との会話である。
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〈録画開始〉
E氏:はい、これが唯一採れた生物です。
(体長40㎝程の魚類が映し出される)
F氏:あれ、録画は禁止されていましたよね?
E氏:いいんだよ、バレなきゃ・・・てかさ、お前料理得意か?
F氏:え、まあ、人並み程度には・・・
E氏:だったらさ、この魚さばいてよ
F氏:えええええええ!さすがにまずいですよ。課長にバレたりなんかしたらクビに・・・
E氏:いいからやれ!
F氏:はい・・・
(魚類をさばくF氏が映し出される。)
E氏:・・・やばい、課長が来た!向こうで食べよう。
〈録画終了〉
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E氏とF氏は無事生還した。その身勝手な行動から、ふたりの処分が検討されている。
追々記:救出から二か月が経過した現在、E氏・F氏とは連絡が取れてない。
なんとか完結させました。
読んでいただき、ありがとうございました。