堕天編・第一話
堕天編・第一話、更新します。
今回は摂津と加賀が舞台になります。
あと章のタイトルは堕天使の堕天からとりました。
永禄五年(1562年)九月、摂津国、石山本願寺門前町、杉谷善住坊――
石山に戻って、まもなく一年。
名もなき一足軽として槍を手に奉公に励んでいる内に、あっという間に月日は過ぎ去っていた。
法主様をお守りする為とはいえ、俺がやっている事は裏切り行為だ。破門どころか、磔の上に火炙りにされても文句は言えぬ鬼畜の所業。いずれ死した後には、その愚かな行為を閻魔によって裁かれ、地獄落ちとなるのは間違いない。
小さくため息を吐いてしまう。
ふと視線を右手に向ける。そこにはすっかり馴染んでしまった片手槍が握られていた。
未だに下間様にお預けしたままの種子島を取り戻すには至っていない。
……何と心細い事か。後ろめたい事をしているという自覚もあるせいだろう、何時になく弱気である事に気づいてしまった。
「……もう秋か」
そう呟きながら、今住んでいる長屋の戸を開ける。
当然だが、帰りを待っているような物好きがいる訳もない。
齢三十を超えながら、最下級の一足軽。そんな奴の所に嫁に来るような馬鹿がいる訳も無いのだ。一向宗の坊主は妻帯を許されているが……まあ裏切り者だと分かれば、嫁に迷惑をかける事になる。独り身でいるのが正解と言えば正解か。
俺の塒は出入り口に煮炊き用の竈。入ってすぐに四畳半ほどの、囲炉裏がある板敷の部屋。寝る時はこの部屋で横になるだけ。布団のような贅沢品は無い。
かつては普通に使っていた物が使えなくなる。何とも不便さを感じた物だが、それでも一年も経てば慣れてしまうという物だ。
飲み水を蓄えている甕に柄杓を突っ込み、渇きを癒す。
柄杓から零れ落ちた水が、服を伝って土間に染みを作るが今更知った事ではない。
今の俺には法主様を守る事。それだけが全てなのだ。それさえ叶えば、この身が病で朽ち果てたとしても、何も後悔はしないだろう。
そんな事を考えていると、外から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「善住さんよ、帰ってるかい?」
「ああ、いるぞ。勝手に入ってくれ」
「おお、入らせて貰うからな」
入って来たのは、初めて見る顔だ。
年の頃は二十は超えているが、三十には届いていないだろう。少し痩せ気味で、だが佇まいからそれなりに武を身に着けている事は理解出来た。
咄嗟に右手に握っていた片手槍を構えたが、何となく降ろしてしまった。
今更、我が身を惜しんでどうするというのか。法主様をお守りする。ただそれだけ……いや、俺は今、それすらも……?
「善住さんの知り合いって奴から届けるように頼まれてな。遠江の焙じ茶だってよ」
「!……上がってくれ」
「はいよ。それじゃあ失礼するぜ?」
男は足音も立てずに部屋に上がった。
間違いない。こいつ、忍びの心得がある。そして遠江の焙じ茶。
恐らくは武田加賀守信親の草だろう。遠江はあの男がかつて差配し、ほうじ茶は遠江の名物として作り上げた代物だからな。
「俺が頼まれたのは昼間でな」
男は俺が何も聞いていないのに、いきなり語りだした。
同時に懐から文と包みを取り出し、俺に押し付けてくる。要は、読め、と言う事だろう。
男が一方的に喋り続ける中、俺は文に目を通し、そして男に向かって頷いた。
「飯時に長居しちまって悪かったな。それじゃあ、な?」
男の背中を見ながら、俺は文を焼いていた。そして文面を思い出す。
ここ一年の俺のやってきた事は、石山の内部情報。特に石山のどの辺りに何があるのか?という石山全体の間取り図を作るのに必要な情報を流す事だった。
だがそんな重要情報、ちょくちょく会って渡していては間違いなく露見する。故に加賀の軍配者、明智某とやらはこう言ってきたのだ。
『石山の間取りの情報は、其方の家の水甕の後ろに忍ばせておけ。其方が役目で留守にしている時に、毎月五のつく日に、盗みに入らせる。何かあれば、代わりに指示を書いた文を置いておく』と。
それ故に露見する事無くここまで来たのだが、まさかの行動。
その理由が先ほどの文。確実に俺に渡す必要があったのだ。
文の内容から、確かに必要だと分かった。今回ばかりは、包みもあるのだから確実に手渡しておきたかったという事だろう。
ただ、気になる事がある。
それは文に書かれていた内容の、ある一部分だった。
(……法主様が戦場に出そうになったら何としてでも止めよ、とはな)
確かに一足軽でしかない俺の耳にも、戦の話は届いている。
相手は畿内の覇者である三好家。対する石山本願寺は、西国の有力大名家と同盟を組み、その支援を受けて三好家打倒の為に立ち上がろうとしていると。
俺も戦場を潜り抜けてきた身だ。今の石山が戦を起こそうとしている雰囲気は肌で理解出来る。間違いなく秋の収穫の後で、戦が起きるだろう。
間近に迫った戦の気配。石山は一向宗の総本山。法主様が呼びかければ、相応に門徒兵は集まるだろう。
数が増えれば増えるほど、法主様は危険から遠ざかる事が叶う。ならば問題無いではないか。何を心配する必要が有るというのか。
囲炉裏の鍋に、適当に稗と粟、野菜くずに味噌と水を放り込んで火にかける。
グツグツ煮えてきた所で、乱暴にかき混ぜながら、ふと気づいてしまった。
(何故だ?何故、武田家が法主様の討ち死を防ごうとするのだ?)
武田家にしてみれば、その方が都合は良い筈だ。
俺は純朴な田舎者ではない。加賀守(武田信親)が法主様の助命を約束したとはいえ、それを律義に守るとは欠片ほどにも思っておらん。
それでも従っているのは、僅かな望みに賭けているからだ。
腹の虫が鳴る。
同時に右手が匙に伸び、それに気づいて思わず苦笑してしまう。
これほど俺は悩み、生きる事に徒労感を感じているというのに、胃の腑は素直なのだ。早く飯を食わせろと大声でがなり立ててくる。
やれやれと思いながら、それでも食欲には勝てん。
食い慣れた飯をかき込んでいると、胃の腑に溜まっていくにつれて、武田の意図が再び脳裏に浮かび上がってくる。
「何を悩む事がある。俺は法主様をお守りできればそれで良い」
法主様が戦場に出ないようにする。それは俺にとっても目的に叶う。
ならば素直に受け入れれば良い。下間様に動いて戴けばよい。
あとは口実だが。
「三好家は先々代当主、元長を一向衆によって失っている。その恨みの念は積もり積もっている。その恨みの念を甘く見るべきではない。我ら一向衆の、皆殺しの信親に対する恨みの念を考えれば……」
その辺りだろうか?
さすがにそこまで伝えれば、法主様自ら戦場に立たれる事は無いだろう。
あとは俺が陰から守るだけだ。
少し不安が消えたような気がする。
少し明るいが、明日も早い。今日はもう寝るとするか。
永禄五年(1562年)九月、加賀国、金沢城、武田信親――
九月。季節は秋。
だが、まだまだ暑さが厳しい時季だ。こればかりは正直、いかんともしがたい。それこそ生まれ変わる前なら扇風機やらエアコンやらがあるのだが、この時代では扇子で仰ぐか、足を水を張った盥につけるか、まあその程度しか涼をとる方法はない。
とはいうものの、暑い中、汗をかきながら集まってくれた家臣の前で、俺一人だけでそんな真似が出来る訳もない。そんな些細な事で、妙な事を考えられても困るからだ。
「皆、暑い中すまぬな。暑さが厳しい故、涼を取れる物を用意しておいた。適当に使って涼んでくれ」
「はは!忝う御座います!」
用意させたのは、井戸水で濡らした手拭いを固く絞った物。それを人数分。首筋に当てているだけでも、かなり楽にはなるだろう。
ただなあ、ちゃんと返事をしてくれた昌盛(小畠昌盛)さんなんだが、こう言っても『家臣たる身としては』とお堅い事を考えていそうではある。
「うむ。では孫次郎。まずは其方が一番槍を挙げるのだ。しっかり涼をとるようにな」
「加賀守様!?」
「其方とはどれだけの付き合いがあると思っておるのだ。あの虎盛に厳しく鍛えられた猛者だろうに。色々と小難しい事を考えて、間違いなく使わんだろう?温くなる前に、素直に使うがよい」
黙り込む昌盛さん。どうやら図星だったらしい。
しばらく躊躇っていたようだが『えいやあ!』と威勢の鬨の声をあげながら、手拭いで涼を取ったようだ。さりげなくゆきが教えてくれたから、間違いはないだろう。
しかし、涼を取るのにそこまで覚悟を決めるとは。虎盛さん、どれだけ糞真面目に育ててんだよ。
「という訳だ。皆も遠慮するな」
「「「ははっ!」」」
「気を楽にしながら聞いてくれ。先日、本家の勘助から文が届いたのだ。内容はいつもより早く越前へ来て欲しい、というものであった。故に、俺は十一月前には越前へ向かう予定だ。当然、俺は留守にする訳だが、留守の間にやっておいて貰いたい事について説明しておく」
来年は越後の上杉政虎さんによる上洛が行われる。
武田家は全面的に協力するのだが、ただ協力するだけではない。ちゃんと相応の見返りを手に入れなければならない。
その為に必要な物――ハード的な物は準備を済ませているが、出来ればソフトの方もより質を向上させたい。それを進めておいて貰おうと考えたのだ。
「まず孫次郎と権六(柴田勝家)。二人は預けている常備兵を更に鍛えておくように。加賀武田家は戦から少し離れている。肉体的な部分では問題ないだろうが、心の方に油断が生じていないとも限らない。特に軍神と呼ばれるほどの男であれば、そこに気づくだろう。だからこそ、練兵をしっかり行ってくれ」
「「はは!」」
「それから孫次郎。虎盛宛てに文を用意している。城へ帰ったら虎盛に渡してくれ。ゆき」
ゆきから手紙を受け取ったのだろう。孫次郎が『確かにお預かり致しました!』と返してくる。
虎盛も歳だ。出来れば余生は息子や孫達と暮らさせてあげたいと考えていたのだが、どうしても今回は俺の我が儘を聞いて貰いたかったのだ。
ただ俺は虎盛相手に威張るつもりは無い。だから虎盛には命令ではなく、お願いという形で書かせて貰った。断っても構わない、と明言した上で、だ。
ある意味、圧力として取られるかもしれないが、一番古株の虎盛なら、俺がそんな事を考えない事ぐらいは分かってくれるだろう。それぐらいには虎盛を信じたい所だ。
「次は十兵衛(明智光秀)と半兵衛(竹中重親)だ。二人には石山本願寺を攻め落とす戦術の思案をやって貰う。言うまでもないが、開発中の大筒を使う事が前提だ」
「心得まして御座います。しかしながら加賀守様。大筒の性能を直に確認致したく」
「分かった。雷には俺から指示をしておく」
試作品の木製大筒については、驚いた事に僅か三ヶ月で完成してしまったのだ。
何故、そんな事が起きたのか?それは種子島を作っている鍛冶師のおかげだ。
彼等も仕事とは言え、規格や寸法が同じ物ばかり作っていると飽きを感じるのだろう。だから気晴らし代わりに、大筒作成を手伝ったらしい。
何というか、こんな所で日本人技術者のオタクぶりを再確認する事になるとは思わなかった。幾ら何でも気晴らしに関わるような物でも無いだろうに。
「それから大筒に関する情報は、あればあるだけ有難い。どの角度ならどれぐらい飛ぶのか?何発撃ったら壊れるのか?とにかく手当たり次第に情報を集めてくれ」
「「はは!」」
正直、同盟相手とは言え、敵に回ったら厄介な三好家に見せるのは、決して利口とは言えないだろう。
だが、実戦で得た情報というものにはそれ以上の価値があるのも事実。
手の内を晒す事になったとしても、それ以上のリターンを意地でも入手してやる。
その為にも場を整える必要が有る。信玄パパに文を送って、長慶さんに話を通しておいて貰わないとな。三好家にも利は有るんだ。断られる事は無いだろう。
「半兵衛」
「はっ!」
「石山攻めの総大将は其方にするつもりだ。時季は次の春。そのつもりでしっかりと準備を行う事を改めて命じておく」
『有難き幸せ!』と気合の入った声が鼓膜を叩く。
史実において今孔明と呼ばれた男の、本当の意味での初陣。今までは親父と一緒だったが、石山では一人で全てを担う事になる。
期待しているぞ?
「次は蔵人(前田利久)だ。其方には鉄の調達を頼む。量は百五十人分の鎧具足一式を作るのに必要な分だ」
「心得まして御座います。武器用の鉄は良質の玉鋼で御座いましょうか?」
「可能なら、な?無理を言うつもりは無い。そこで、だ。鉄の使い途について説明しておこう。皆も噂には聞いておるかもしれんが、母衣衆を筆頭に体を鍛えている者達、通称益荒男衆についてだ」
利久さんが緊張したのがハッキリと分かってしまった。
それはそうだろうな。母衣衆筆頭は、可愛い我が子なのだから。
「春になったら、益荒男衆の装備一式を作り直す。今から半年、特に冬場は絶好の機会だろうから、徹底的に鍛錬を積んでおくのだ。後で鎧を作り直さんでも良いようにな」
「「はは!」」
「以前話した、各母衣衆で色を統一する事も実行に移す。加えて、もう一つ考えている事がある。各母衣衆毎に、共通の武器を持たせようと思ってな」
『おお!』と面白そうに声を挙げたのは、武田家の誇る問題児だ。
こういう話をすれば、絶対に乗ってくると思っていたよ。楽しい事、大好きだもんな。
「例えば、の話だぞ?治部左衛門(冨田景政)の率いる二十騎に、背丈よりでかい斬馬刀を持たせるとか。鑰之介(川崎時貞)の率いる二十騎に、背丈と同じぐらいの鬼の金棒を持たせるとか」
「それは面白そうですな。戦場では間違いなく目立ちましょう」
「だろう?しかも肉体を異常なほどに鍛えた其方達が身に着ける。敵にとっては悪夢以外の何者でもないだろう。故に母衣衆は体を鍛えながら、どんな武器を作るか決めておくのだ。春になったら作らせる。それから慶次郎は、他の母衣衆とは違う武器を作るようにな。母衣衆筆頭の特権と思っておけ」
直後、歓声が沸き上がった。
いや、喜んでくれるのは構わないんだけど、さすがにボルテージが上がり過ぎじゃないかと思うんだけど?
まあ良い。それに話はこれで終わりではない。
「ゆき。賄い方に命じておいた物を皆に」
「はい、心得ました。暫しお待ちを」
少し経つと、城で働く女性陣が炊き立ての飯とともに、俺が作らせた物を手にして入ってきた。
皆、不審がっている。それはそうだろうな。どこの世界に、会議中に飯を食いだす事があるというのか。それも封建主義真っただ中の戦国時代に。
「慶次郎。能登で俺が言ったことを覚えているか?肉や魚の代わりになり、調達しやすい料理の事を」
「覚えておりますとも!ではこれが!?」
「少々臭いはきついがな。納豆という物だ。魚醤をかけ、少し混ぜてから飯に乗せて食べてみると良い」
そう、俺が作らせたのは納豆だ。
後で知った事だが、俺の知る納豆は南北朝時代には作られていたらしい。何でも北朝の初代天皇である光厳天皇が出家した後に作り方を民に教えたのだそうだ。俺は納豆は加藤清正が偶然作ったという話を信じていたんだが、もしかしたらデマだったのかもしれない。
本音を言おう。
俺は『日本で初めて納豆を作った人間として歴史に名を遺せるかも?』と期待していたんだ。
だが、その夢は敢え無く絶たれてしまったよ。残念だ。
話を戻すが、作り方も俺の知っているのと同じ。お湯で消毒した藁で煮た豆を包んでおくと言う物。立派な糸を引く納豆だ。
ちなみに魚醤を使ったのは、単純に俺の好みだ。
納豆には醤油ではなく、素麺とかで使うつゆの素を使っていた。だから出汁の利いた物が良いだろうと考えて、魚醤を使おうと思ったのだ。
「騙されたと思って食うてみると良い。なかなか旨いぞ?」
「では遠慮なく!」
父親が止めるのも聞かずに豪快にかき込む慶次郎。俺は見る事が出来んが、もし見る事が出来ればさぞや気持ちが良くなるほどの健啖ぶりだろうな。
……用意しておいて何だが、よく納豆の臭いに臆することなく口に入れる気になったな?
納豆は人によっては好き嫌いが激しく分かれる料理だ。少しぐらいは疑われるかと思っていたんだが。
「これは旨い!」
「気に入って貰えたなら何よりだ。作り方が知りたかったら、賄い方に訊ねると良い。かなり簡単に作れるぞ」
「ならば帰りに聞いて参ります!」
お世辞抜きで気に入ったみたいだな。
慶次郎の反応に安堵したのか、口をつける者が出始めた。恐らく、彼らは臭いで躊躇していたのだろう。
確かに慣れないときついからな。俺は納豆が好きだが、だからと言って納豆を嫌う連中を責めるつもりは無い。あの臭い、子供の頃は苦手だったからな。
「納豆程には効果が出ぬが、こちらを食べるという手もある。ゆき」
「はい。皆様、別の小鉢に野菜を混ぜてある、豆腐を崩したような物で御座います。卯の花、という料理になります」
「おお、では早速!」
またもや一番槍は慶次郎。本当にこいつは躊躇うという言葉が無いらしい。
だが皆の反応を聞く限り、納豆よりも間違いなく反応は良い。
……納豆は好きだが、卯の花はあまり好きじゃない俺には複雑なものがあるが。
「加賀守様!これも豆が材料なのですか!?」
「当たらずとも遠からず、だな。それは豆腐を作る際に出る、おからと呼ばれる物を使っている。おから単体では味が薄いし、更には豆腐を作った後に残る、絞り粕が正体だ。あまり喜ばれはしないが、納豆よりは食べやすいかもしれんと思ってな。ただ、本命は次だ」
「おお、まだあるので御座いますか!」
益荒男衆が、歓喜の声を上げた。
最早、礼儀作法などどこ吹く風。本気で体育会系のノリだよ。
だからこそ、本命には喜んでくれるだろうが。
ゆきに命じて手渡したのは、医師が薬を処方する際、粉薬を包んでおく紙だ。
勿論、中に入っているのが本命である。
「それはおからを火で炒って、水気を飛ばして粉になるまで砕いた物だ。重さで言うなら、おおよそ三割ほどにまで軽くなっている。それ一服で、小鉢一杯分の卯の花を食べた効果がある事になるな」
「何と!まさに薬で御座いますな!」
「そう言う事だ。白湯やほうじ茶で流し込むも良いし、味噌汁に溶かすのも良いだろう。各々で好きなように飲むと良い」
そう。これが俺の考えた戦国版プロテインだ。
生のおから百グラム当たり、七十五グラムが水分。タンパク質は六グラムしかない。
だが水分を飛ばせばどうなるか?
乾燥したおから百グラムあたり、二十四グラムがタンパク質になる。そして材料費は安い、というか無料だ。
文字通り、錬金術と言っても良いだろう。
「加賀守様。お訊ねしたき儀が御座います。この肉をつける薬、他国に漏らす訳には参らぬと存じますが」
「安心しろ、十兵衛。この薬はな、ただ摂っても意味が無い。しっかり体を鍛えねば、肉は肉でも贅肉に変わるだけ。楽して強くなれる薬では無いのだ。それこそ髀肉之嘆の故事に出て来る、劉玄徳の太腿のようになるだろう」
知恵者の光秀さんなら、分かってくれると思った通りだ。俺の説明に『それなら安心で御座いますな』と納得したように返してくれたからだ。
実際、プロテインは肥満の原因にもなったりすのだ。
プロテインを痩せ薬と勘違いしている人達がいるが、プロテインだってカロリーがあるのだ。ただ飲むだけではカロリーを余分に摂取するだけ。全く意味が無い。
「十兵衛、半兵衛」
「「ははっ!」」
「おからだがな、脳にも力を与えてくれる。毎日摂っていれば、記憶力を強くしてくれるという効果もあるぞ」
ちゃんと脳筋だけでなく、れっきとした頭脳派に対する策も用意しておいた。
実際、おからは記憶力を強化してくれる効果がある事が、マウスを使った実験で証明されているのだ。
「無理しない程度に食していれば、知恵働きにも役に立つだろう」
「「忝う御座います!」」
「いずれはこれを用いて、南蛮の菓子とかも作ってみたい所だな。幼子達も菓子と聞けば喜んで食ってくれるだろう」
実際、乾燥したおから――おからパウダーを小麦粉の代わりに使ったお菓子は存在していたのだ。ケーキとかクッキーとかな。
牛乳はあるからバターは作れる。砂糖も黒砂糖ならある。
砂糖のおかげで価格は高くなるが、その辺りは何とかしたい所だ。栽培方法を研究中の甜菜から砂糖が作れれば、生産量を増やす事で安い砂糖を作る事も出来る。
あくまでも理屈の上では、だけどな。
「この薬は加賀武田家で生産する予定でいる。欲しい者は賄い方に頼むようにな。今月の二十日から作る予定だ」
「「「忝う御座います!」」」
偉く気合の入った声が評定の間に轟いた。
……ひょっとして、俺、開いてはいけないパンドラの箱を開いてしまったのかもしれんな。
今回もお読み下さり、ありがとうございます。
まずは摂津国。杉谷善住坊視点より。
【一足軽】
かつては鉄砲使いとして名を馳せた杉谷さんですが、今は一足軽の身。知り合いの下間さんがコッソリ経済的に支援している事も有り、長屋で暮らせる程度の生活は確保しています。一足軽なのは、手柄を挙げる機会が無かった為。
【善住】
偽名。
善住坊だと、どこでバレるか分からん、という理由。今は坊主頭でも無いので、名前が似ていても気づかれてはおりません。
【精神的疲労が……】
顕如を守る。武田に内通。その矛盾する立場と罪悪感。愛用の種子島が無い不安感。その辺りが複雑に絡み合って、生きるのに疲れを感じつつある、という感じです。
ちょっぴり病んでるとも言えますw
【盗みに入る】
杉谷さんが、監視されている可能性も考えた上での処置です。
直接接触すれば監視の目に止まりますが、留守宅を監視する奴は、まずいないだろうという思惑から、光秀さんは指示しました。
【顕如の出陣を止めろ】
武田の狙いは何でしょうか?
次は加賀国が舞台。主人公視点より。
【鬨の声】
虎盛によって糞真面目に育てられた結果ですw
もう少し、丸くても良いと思うんです。
【大筒】
攻城戦の鉄板です。
別にこれで顕如を殺そうとは思っていません。顕如の出陣止めろ!とは無関係ですw
【益荒男衆】
別名:筋トレ同好会。名付け親:主人公w
メンバーは母衣衆に加えて、長兄弟とか長親君とか勝家さんとか三郎太とか……
【母衣衆装備改良】
色分けとか、専用武器とか作らせます。
武器の条件は【重い】事。怪力を用いるなら、質量も攻撃力に転化すべきですから。
春になったら、いよいよ丸目さんが登場予定なんだけど、何というか出遅れそうですw
【納豆】
納豆の起源には諸説あります。
①弥生時代:床に敷いていた藁に煮豆が落ちて、自然と納豆化。
②前九年の役:源義家が行軍中に煮豆を藁に包んで運んでいたら、自然と納豆に(義家の行軍ルートに沿って納豆の逸話が残っている、という物)。その為、北関東で食べられている。
③光厳天皇(出家していたので法皇)の場合は、民が煮豆を藁に包んで献上→喜んで少しずつ食べる→日が経つと煮豆から糸が!→勿体ないから食べる!→旨いやん!→民に教える、という流れ。
④加藤清正:②と同じ、行軍中に、という物。
拙作では②もありましたが、③によって畿内に広まっていた、としました。ただ主人公は知りませんでしたw納豆の生みの親、という名声は手に入れられず仕舞い……
【つゆの素】
これは作者の経験。子供の頃、納豆のパックには辛子しか入っていなかった時。
醤油で食べるのが飽きたので、つゆの素を使って食べてましたwそれから数年して、納豆のパックに出し入りのタレがつきました。
【戦国プロテイン】
謀略編三十九話の時点では無理だろうな、と思っていたんですが、乾燥おから=おからパウダーの自作方法(火で炒る)と汎用性の広い使い道を知って、実用化できるなと判断しました。
火で炒ると水分が飛んで保存性アップ。あとはしまっておく間は消石灰を乾燥材として利用すれば、カビとか防げるな、とも判断。実に使い勝手が良くなりましたw
【洋菓子作成フラグ】
材料、揃ってるねwという事に今更気づく作者。
本気でここまで気づいていませんでしたw小麦粉はほうとう鍋の材料としか見ていませんでしたよw
【パンドラの箱】
開かれた箱の中身が表に出るのは、翌年の秋(予定)。
それでは、また次回も宜しくお願い致します。




