↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/324

謀略編・第三十七話

 謀略編・第三十七話、更新します。


 今回は加賀が舞台になります。


 あとオリキャラ登場回。縁の下の力持ち的な役回りです。

永禄五年(1562年)七月、加賀国、金沢城、河田長親――


 

 「長きにわたる任務、両名共に御苦労であった。二人の働きには、本当に感謝している。すでに聞いておるだろうが、両名共に部将として遇する事になった。今後も励んで貰いたい」

 加賀守様の言葉に、風祭様も竹中様も頭を下げられた。特に竹中様は密命の最中に御父君を亡くされている。色々と感慨深いものがあるのだろう。

 だが大変なのはこれからだ。

 一人の武将として以外にも、御家の当主としても励まねばならないのだから。


 「だがまずは体を休めてくると良い。其方達は十分すぎるほどに働いてきてくれた。特に半兵衛(竹中重親)は道祐(竹中重元)の葬儀も行う必要がある。二人揃って一月ぐらい、休みを与えよう」

 「感謝致します。父の葬儀を執り行える事、息子として孝行の極みに存じます。しかしながら亡父の遺言を果たす為にお時間を戴けぬでしょうか?」

 「申してみよ」

 「軍神の手の内。分かった事について全てを報告させて戴きたいのです。父は最期の時まで加賀守様から御受けした御恩を返しきれない事を悔やみながら没しました。父はせめて御役目については一日も早く伝える事を某に厳命したのです」

 竹中道祐重元様。弓騎兵隊を束ねておられた方であり、軍配者である明智様とは昵懇の間柄であった事は聞いた事がある。

 私とはそれほど関りの深い御方では無かったが、非常に有能な御方であったとも聞いている。特に弓騎兵部隊を率いて柔軟に戦局に対応する能力は、当時軍配者を務めていた山城守(小畠虎盛)様が手放しに褒め称えた程であったそうだ。

 そういえば、その山城守様もかなりの御高齢。寝込む事も増えたと聞いている。

 たまに加賀守様自ら、山城守様の下へ月姫様とともに足を運んで見舞いをしていると聞いている。とは言う物の御齢が御齢だ。加賀守様が辛そうにされているのを見ると、居た堪れなくなってしまう。

 ……いかんな、今は御役目の最中であった。気を引き締めねば。


 「ならば聴こう。手の内について報告せよ」

 「忝う御座います。まず軍神の得手は平地戦。特に平地における遭遇戦は軍神にとって最良の戦場であると感じました。攻城戦は並よりは上。山岳戦も同様に御座います。この理由は地形故に騎馬の運用に制限がかかる点であると存じます。以上の点から、物見を活用し、軍神の接近を事前に把握する事が最重要。加えて軍神の得手の基盤である足の速さを封殺する事が要になると存じます」

 「なるほど。であれば城砦を用いた防衛戦や、馬防柵が重要となるな。これは色々と考えておくべき事がありそうだ」

 加賀守様の御言葉に、竹中様も頷かれる。

 隣にいた風祭様も同じように頷かれていた。此度の御役目で、越後勢の戦いぶりを目撃する機に恵まれていてもおかしくない。という事は、竹中様と話し合い、その考えに納得されたという事か。


 「特に軍神は『車懸かりの陣』と呼ばれる戦法を得意としており、平地、特に遭遇戦で使われると敗北を喫する事は請け合いです。その車懸かりの陣についてですが、騎馬兵を多陣に分けて用意し、第一陣が敵陣に突撃。その際、足を止めずに敵を斬りつけながら左右へ駆け去ります。直後に第二陣が同様に襲い掛かります。守備側は第一陣を追いかけようとすれば背後を第二陣に突かれる事になります。以後は第三第四と続けていき、第一陣は敵陣離脱後に味方陣営の最後尾に戻り、再突撃に備えます」

 「それは厄介な戦術だな。攻撃は最大の防御と言うが、それを具現化したような戦術ではないか。足止めが無ければ、太刀打ちは難しいだろうな」

 「仰る通りに御座います。故に足を封じる事が最重要となります」

 話している内容は、実に頭が痛くなる内容だ。軍神率いる越後勢の精強さは、日ノ本でも指折りの物。

 だから騎馬の足を止めろ、という事は理解出来る。

 現に加賀守様の顔に憂いは無い。すでに対抗策が出来上がっているという事だろう。恐らくは越中に築城されているという二つの城。それが要なのだろう。

 だが、それは越後勢が馬鹿正直に二つの城に攻め込んできた場合。そもそも足止めだけなら、あの二つの城ではなく、普通の城でも構わない筈。となると、私は何か考え違いをしているという事か?それとも、何か見落としが?


 「だが常に最悪の事態は想定しておく必要があるな。半兵衛、其方に宿題だ。万が一、物見の目を掻い潜って遭遇戦に陥った場合の対抗策を一つで良い、献策してみよ。猶予は一月後だ。ただ体を休めるだけでは、其方のように賢い者にとっては暇で仕方ないだろう?」

 「心得ました。では翌月までゆっくり思案して参ります」

 「うむ。それと其方には道祐の弓騎兵部隊を引き継いでもらう。その事も伝えておく。では役目の話はここまでだ。ここからは此度の密命の褒美を与えるとしようか」

 褒美を受け取られた御二人は、ホッとしたのか笑みを浮かべながら退席された。直後、加賀守様は私に声を掛けられてきた。


 「長親よ、半兵衛に出した宿題、其方ならどう答えを出す?」

 「某でしたら、武者ではなく馬の脚を狙って攻撃する事により、馬を転倒させます。さすれば後続の騎馬隊もそう無暗に突撃はしてこれなくなるでしょう」

 「それも有りだな。幸い、弓騎兵隊の爆裂筒を足元に打ち込んでやれば、馬は足を止めるだろうしな」

 その手があったか。爆裂筒は加賀武田家だけが有する武器。本家ですら持ってない代物だ。一応作り方や扱い方は報告しているそうだが、好んで使う者はいないそうである。

 私にしてみれば、非常に使いやすいと思えるのだが。


 『好きにすればよい。世の中、結果が全てだからな』

 鎧を纏わぬ軽装。騎馬兵ゆえの足の速さを活かした一撃離脱遠距離攻撃。周囲を巻き込んでの爆発。

 これほどの精兵を、加賀守様は強制しようとはしない。きっと何かお考えがあるのだろう。

 

 「まあ良い。来月を楽しみにしておこう。ところで長親、能登と越中からの報告は来ているか?」

 「来ております、まず能登では畠山家による国人衆討伐が始まりました。しかしながら同時に起きた一揆により、畠山が思うように百姓兵を集める事が出来ずに苦戦中との事。越中についてですが、椎名家と神保家の間で小競り合いが発生。神保家が優勢との事に御座います」

 「まあ想定通りだな。能登は温井・三宅による流言工作により、畠山家から国人衆や民の心が離れ始めている。越中は神保に一向衆の領地を食わせたからな、地力で椎名を上回るのは当然の事。ここまでは想定通り……長親、築城中の十兵衛を呼び出せ。能登を攻める時が来た、と。六角承禎殿の姫君を御救いする」

 「はっ」

 そうか、百姓兵が集まらないという事は、当主の御命も危ないという緊急事態と言う事になる。それは御正室――六角家承禎様の姫君の御命も危ないという事だ。だからこそ、姫君救出という大義名分が成り立つのだ。

 それを口実に、能登国を支配下に置く。


 「あくまでも御正室救出を大義名分とする。故に能登畠山家は『敵ではない』と言う事になる。それを大々的に発しながら進軍すれば、御正室救出を目的として加賀に御味方するという降伏宣言もしやすくなるだろう」

 「そこまでお考えに……申し訳ありませぬ、使いを走らせて参ります」

 秘書方として指示を出して、今は越中で築城作業中の明智様にお報せする。馬を駆けて戻ってこられるのは、最低でも五日は見ておくべきだろう。

 その間に補給網の確立や、領内の治安に出ている常備兵の招集といった出陣の準備を進められるのだろうな。

 冷たい見方をすれば、姫君を助けられれば能登を吸収しつつ六角家に恩を売れる、助けられなくても最善は尽くした、仇は討ったとして能登を吸収する、という所だろう。

 武田は能登畠山家の為に無償で働く義理は無いのだから。


 「長親。文を書く、準備を頼む」

 「はは!少しお待ちください」

 自ら筆を取られるとは、御相手は何方なのだろうか?

準備を終えた事を報告すると、加賀守様はすぐに文を認められた。


 「これを近江の観音寺城へ送ってくれ」

 「はは!加賀守様、この文は御自筆で御座いますが、祐筆でないのは礼儀としてで御座いますか?」

 「それもあるが、六角家の警戒心を和らげる為でもある。美濃国の件もあるからな、今の武田家は警戒されて当たり前。だから小さな事でもこまめに連絡を取っておくべきなのだ。その際、出来る事なら相手を安堵させる内容を書くべき。此度であれば、これから御息女の救出に動く、というようにな」

 本来なら同盟国とは言え、兵の動向をあからさまに教えるべきではないだろう。世の中には裏切り、という行為も存在するのだから。

 だが加賀と近江の間には越前と飛騨が存在している。そこを強行突破して加賀へ攻め込むなど不可能な事。だからこそ、加賀守様は正直に教えられたのかもしれない。

 

 「他の理由もあるが、それについては自分で考えてみると良い。俺が武田家筆頭軍師として、常に武田家の利を追及している、という事を条件とすれば答えに辿り着く事は可能であろう」

 「ははっ!」

 そこへ『執務中、失礼致します』という落ち着いた声が聞こえてきた。

 振り向いてみれば、そこにおられたのは母衣衆の一人である、冨田(冨田景政)様の姿があった。

 冨田様が剣豪であり、なおかつ私が話に夢中であったとは言え、近づいてくる足音を聞き逃してしまうとは。これではいざと言う時に、加賀守様をお守りする事も出来ぬ。油断大敵とは、まさにこの事だ。


 「冨田に御座います。以前、白粉の件でお望みになられていた医師で御座いますが、二人ほど加賀守様の呼びかけに応じて参りました。明日にでも御目通りを願っているとの事で御座いますが、宜しゅう御座いましょうか?」

 「分かった。ならば明日の辰の刻に参るように伝えてくれ。幾らか涼しい内に話をした方がお互いに都合が良かろう」

 「はは!では先方に伝えます」

 冨田様は静かに立ち去られた。

 やはり足音は聞こえない。剣の腕の差と言う物を、まざまざと見せつけられたような気になってしまう。

 もっと、剣の鍛錬を増やすべきだろうか?



永禄五年(1562年)七月、加賀国、金沢城、冨田景政――



 加賀守様から、かつての縁故を頼って医師を連れてくるように命じられて、約三月。やっと来てくれた、と安堵する事が出来た。

 向こうも患者を抱える身。そうそう気軽に患者を放置して、金沢にまで来られる立場では無いのだ。それでも来てくれただけ、御の字という物。

 そう思っていたのだが、来てくれたのはまだ年若い男。見てくれからすれば、まだ二十を超えたばかりと言う所か。

 更にその内の一人は坊主。しかも浄土真宗だと言う。

 それを知った時、思わず愕然としてしまった。

 明らかに弟子を寄こされているのだ。それも明らかに経験不足である事が一目で分かるほど。しかも加賀守様に思う所があっても、おかしくはない浄土真宗の坊主。加賀守様が激昂しなければ良いのだが、と不安に感じると同時に胃が痛くなる。

 

 これでもかつては越前朝倉家で剣術指南役を務めた身。

 その俺の要請に、このような仕打ちをしてくるとは……だが、今更加賀守様に理由を説明して目通りを無かった事にする?馬鹿な、有り得ないわ!

 こうなれば覚悟を決めるしかあるまい。最悪、俺が腹を切れば済む事だ!


 言うまでもない事だが、目通りの為に二人を案内する俺に対する視線は、どう考えても厳しい物だ。

 ああ、口に出されずとも良く分かる。

 だが、こうなったからには開き直るしかない!


 「よく来てくれた。俺が武田加賀守信親だ。まずは其方らの名を聞かせてくれ」

 「はは!某は大月右衛門尉景道と申します」

 「拙僧は真宗の坊主で誠照と申します。右衛門尉(大月景道)とともに、谷野様の下で薬と針について学ばせて戴いておりました」

 思わず目を剥いた。

 大月はまだ良い。

 だが坊主。よくもまあ一向衆から第六天魔王呼ばわりされている加賀守様相手に、堂々と浄土真宗の坊主です、なんて言えた物だな。その度胸だけは認めてやるわ。

 秘書方の一人である河田(河田長親)殿が、利き手を柄に伸ばしたまま呆気に取られておる。剣を教えている身としては叱責するべきなのだろうが、気持ちは分からんでもない。

 だが当の加賀守様はと言えば、全く気にしておらぬようだ。目元こそ眼帯に隠されて分からぬが、口元は明らかに笑っておられるのだから。


 「まず二人に訊ねたい。谷野、という名の御仁が二人の師である事は理解した。だが、俺はその谷野がどのような人物であるのか?それを知らぬ。まずはそこから聞かせて貰いたい」

 「心得ました。では某から説明致します。我が師、谷野一栢様は大和国の出、若い頃に明へ渡って医術を学ばれました。そして今から三十年程前、当時の越前朝倉家当主、弾正左衛門尉孝景様に招かれて御座います。我が師が記された『勿聴子俗解八十一難経』は、明国における最新の医術に、師が更に手を加えた物。主に刀傷の治療に優れて御座います」

 「確か、大月と申したな。其方に質問だ。針治療は刻を要する物。それは人の体が持つ、傷病を治そうとする力を刺激する事を目的としているからだ。なのに急を要する刀傷に効果を発揮するのか?」

 「血止め等については、針以外を用います。針は命を取り留めた後の出番に御座います。針で血を止めよう、等とは考えておりませぬ」

 加賀守様は『それなら納得できるな』と頷かれた。

 そういえば、加賀守様は医術にも相応の見識があった筈だ。軍配者の明智殿がたまに読まれている衛生指南書。俺も読ませて戴いた事があるのだが、俺が知っている医術とは食い違う部分もあった為、面食らった事を覚えている。

 

 「重ねて問おう。傷口に泥を塗れば、最悪、そりの病を発症する。だが其方達の医術には馬糞を傷口に塗り込む物が存在している。其方達にとって、馬糞は薬なのか?」

 「我ら二人。そうは考えておりませぬ!我々がこちらへ来る事になったのは、その点について兄弟弟子達と争った為に御座います!」

 いきなりの怒声に、つい体に緊張を走らせてしまった。

 しかし、この者の申す事が事実だとすれば、この二人は追い出された、という事か?

 何気なく周囲を見回してみる。すると先ほどまでの厳しい視線は、幾らか和らいでいるようにも感じられた。あくまでも『幾らか』なのだが。


 「戦場では傷口を酒や尿で洗い流すのは当然で御座います!なのに馬糞?どう考えてもおかしゅう御座います!馬糞で傷が治るというのなら、どうして人のクソで傷を治す事が叶わぬのですか!」

 「大月に代わり拙僧が謝罪致します。誠に申し訳御座いませぬ。しかしながら、大月の申した事は、我ら二人の赤心に御座います。馬糞を塗り込まれた患者の中には、明らかに体調を崩す者がおりました。運悪く、命を落とす者も。逆に怪我から持ち直す者の方が少ない始末……我ら二人、兄弟弟子相手に何度も話し合ったのですが……言葉が届く事は御座いませんでした」

 「なるほどな。まあ糞を塗り込んでは、傷を悪化させるのは当り前だ。細菌……ではなかった、体に害を為す小さな虫が大量におるのだからな」

 加賀守様は頭を左右に振りながら『分かるぞ』と言わんばかりだ。

 だが、目の前の二人は明らかに目を剥いている。

 

 「加賀守様、誠に失礼ながら質問をお許し下さい。拙僧は今、糞の中に害を為す小さな虫がいると聞きました。そのような話、拙僧は我が師からも聞いた事は御座いませぬが」

 「……俺も師である飛梅先生から教わった知識に過ぎぬ。それを直に見せてやる事は叶わぬのだ。今は、な」

 「どうか、どうか御教授をお願い致します!我ら二人、苦しむ者達を救いたいので御座います!」

 医の道を歩む二人が、己の知らない医の知識を求める気持ち。それが理解出来ない訳では無い。

 だが、この場は加賀守様がお訊ねなさる場なのだ。

 これは割って入るべきか。そう考えて動こうとした所へ、加賀守様の声が届いた。


 「教える事自体は構わぬ。だがそちらにかまけてしまっては、俺の求める事は叶わぬ。分かっておるか?」

 「話に聞いた白粉の代わりの品で御座いますな?それならば、是非、我ら二人にお命じ下さい!医の道も研鑽しつつ、命を果させて戴きます!」

 「やる気があるのは結構。それに思ったより、思考も柔軟なようだ。歳は若いようだが、老いて己の知識と誇りに凝り固まっているよりは遥かにマシと言う物。藤吉郎」

 下座に控えていた、家老の井伊(井伊藤吉郎)殿が『ははっ』と応えられた。

 母衣衆である俺とは縁が薄い御仁であるが、その名と実績については嫌と言うほど耳にしている。

 俺の弟子の中にも、政について井伊殿に師事している者もいるほどだ。将来、所領を賜った時に困らぬよう、学んでいるのだという。

 文武両道、大いに結構と言う物だ。


 「二人の働く場である研究施設と、寝起きする屋敷に案内するのだ。二人は侍大将として遇する。それと俺の記した衛生指南書も一冊ずつ渡しておくように」

 「ははっ!」

 「「有難き幸せ!」」

 仰りようから判断するに、加賀守様は二人の医師としての実力ではなく、自身が学び、実践してきた医術に疑いを持った点を評価された、と見るべきであろうな。

 考えてみれば、従来の医術に拘る輩であれば間違いなく『質の良い鉛白は無害で御座います!』と力説するであろう。

 それでは加賀守様の思惑は先へ進まない。

 ……もしかしたら、これは災い転じて福となす、という奴かもしれんな。


 「白粉の進捗についての報告は、三月に一度程度で構わん。進捗が無くとも責めはせぬので気楽に取り掛かれ。それから研究用に必要な物があるのなら藤吉郎を通じて申請するように。それと白粉の試作品の毒性については、こちらで用意した物で毒性の有無を判断する」

 「心得ました。その毒性の有無については、具体的にどのように判断なされるのか、お伺いしても宜しゅう御座いますか?」

 「メダカ、と呼ばれる小さな魚を使う。そこらの川や池で獲れるから、数については気にする必要は無い。だが、其方達には白粉作りと並行して、もう一つやって貰いたい」

 白粉作り以外にも、やって貰いたい事とは。

 二人は何を申し付けられるのか?と緊張気味。この場に居合わせた者達も、固唾をのんで加賀守様の御言葉を待っておられる。


 「白粉、ひいては鉛白の毒は、母親の腹にいる赤子にも悪い影響を及ぼす。俺はそれを先生から学んだ知識として理解しているし、それが真実である事も断言できる。だが、だ。世の中には、どうしてもそれを受け入れられぬ者達もいる。故に、其方達には鉛白の毒の恐ろしさを、誰の目にも分かるようにして貰う」

 「誰の目にも、で御座いますか?」

 「メダカを使うのだ。適当に鉛白を水に溶かしては、メダカはすぐに死ぬであろう。故に、一番最初にメダカが死なない鉛白の量を見定める。ここまでは良いか?」

 二人は真剣に頷いていた。

 その真剣さに、周囲は言葉を挟む事も出来ない。それは俺もそうだ。


 「次に、それより少ない量の鉛白を水に溶かして、メダカが鉛の毒を少しずつ取り込み、だが死なせないように生かし続ける。言葉は悪いが、生かさず殺さず鉛漬け、という所だ。その状態がずっと続けば、やがて雄と雌の間に卵が産まれる」

 「はい、それは分かります」

 「俺の目論見は、産まれてくる次の世代のメダカ。そのメダカに異形のメダカが産まれてくる事を立証する事にある。その異形のメダカは、健康なメダカと比較して、どのように異形なのか?体の内部がどのように異形なのか?異形のメダカが産まれてくる割合はどれぐらいなのか?不幸にも卵から孵らぬメダカはどれぐらいいるのか?更に孫の世代、曾孫の世代となったらどのように変化していくのか?思いつく限りの事を調べ上げ、それら全てを書物に記し、鉛の毒の恐ろしさを立証するのだ。鉛を甘く見ていると、この恐怖がお前達に襲い掛かるのだぞ?とな」

 トントン、と己の眼帯を突きながら加賀守様が口にされた言葉。

 その意味が何を意味するのか?分からぬ者は、この場にいない。

 加賀守様の御生母様が、どれだけ苦しまれたのか?その元凶に対する、報復の一手でもあるのかもしれんな。

 この御方の深謀遠慮。俺には見通せぬわ。

 

 「此度の目論見は、医術の発達にも利用できるだろう。従来の薬の毒性について調べる事にも使えるからな。例えば馬糞。メダカに軽く傷をつけて、馬糞を塗り込んで放置。その後に死ぬであろうメダカと、健康なメダカを比べる、とかな。もしメダカの肉が腐っていたら、それは毒の存在を立証する事に繋がるとは思わぬか?」

 「是非、お任せ下さい!」

 「加賀守様に絶対の忠誠を誓わせて戴きます!拙僧も大月も、死ぬまでこの御役目に励みたく存じます!」

 この熱意……二人とも本気だな。

 それにしても、加賀守様の人心掌握術。大したものだ。

 二人は医師。白粉作りは決して本望とは言えなかったかもしれん。だが医師として、新しく進む事の出来る道を示す事で、御役目に本気で取り組むように誘導なされたのだ。

 それも自分達を追い出した同門の兄弟弟子に対して、自分達の主張が正しかったと証明できる、という余禄つき。

 俺が二人の立場だったら……間違いなく喜び勇んでお仕えするわ。

 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは加賀国。長親君視点より。


 【半兵衛&長次郎帰国】

 長らく関東に単身赴任中だった二人が帰国しました。

 名もなき風がどれだけ落命したのか……黙祷……


 【虎盛さん】

 戦国時代としては長寿に入る部類です。そろそろ、という感じなので最近は横になっている事が多い感じ。


 【車懸かりの陣】

 軍神様必勝の戦術。これは他作品と同じだと思います。想像出来ない方は、銀〇伝でライ〇ハルトがヤ〇相手に、多層陣でヤ〇の攻撃を食い止める事を、重ねた紙の上にワインを垂らして説明してましたが、あれの攻撃版だと思ってください。


 【軍神様の相性】

 攻城戦・山岳戦は超一流には届かない一流という感じ。

 機動力活かし放題な平地戦、咄嗟の判断力が必要な遭遇戦は適正Sです。


 【築城中の二つの城の真意】

 勝家さんと昌盛さんが入る予定の、越中に築城中の二つの城。

 対軍神の為に、攻城戦に持ち込んで機動力を削ぐ必要が有る。それだけなら、別に星形要塞である必要はありません。

 馬防柵と空堀、対騎兵用のランス設置による多層構造防衛陣で間に合いますしね。

 二つの城の真意、是非、考えてみて下さい。答え合わせは軍神様の上洛の時に書く予定です。


 【爆裂筒不人気】

 命中性が軽んじられる⇒弓の鍛錬の意味が無い、みたいな感じで不人気です。

 弓が武芸の筆頭である事を考えれば、その気持ちも分からんでもありません。日々の努力が無駄に感じてしまうと、どうしても気分的にね?

 逆に弓騎兵隊は出自が武士じゃないので、そこまで深く考えてませんw


 【近江への文】

 主人公的には、まだまだ六角家の事を考えてますよ、と言外にアピールしてます。

 つまりは六角家を利用するつもり。当初は御家騒動勃発を狙っておりましたが『承禎さん、決断しちゃったか。失敗したな』という所。


 【剣の鍛錬】

 長親君、真面目過ぎて勘違い。

 主人公は、長親君にそんな事は期待してませんよw


 次は冨田景政視点より。


 【史実における越前のお医者さんの系譜】

 一番有名なのが谷野一栢さん。生没年不詳。拙作の設定は史実流用。

 大月景秀さんは、史実だと朝倉家滅亡後、万金丹という産前産後の薬で名を馳せた人。以後、大月家は医術を生業としたとの事。

 他には半井や丹波という方もいたそうですが、資料が見つかりませんでした。

 拙作の谷野さんは、最近まで生きていた、という設定です。現時点では亡くなってます。なので兄弟子による弟弟子苛めが放置されてました。


 【大月景道】

 オリキャラ。大月家の妾腹という生まれ。大月家は朝倉家に仕官してましたけど、朝倉家は滅亡。大月家も所領を失い、景道さんは生きていく為に谷野さんに弟子入り。そこで人を助ける事に目覚めた、という感じです。


 【誠照】

 オリキャラ。景道さんとは幼馴染。ただしこちらは出家している。

 谷野さんに弟子入り(谷野さんは坊主でもある)して僧侶の道を行く筈が、医術で人を助けるのも仏の道と考え、そちらに邁進しました、という感じ。


 【勿聴子俗解八十一難経】

 ふっちょうしぞっかいはちじゅういちなんぎょう。はい、テストに出ますw

 本来、このタイトルで明で熊宗立という方が出版した物です。

 谷野さんは、朝倉孝景の命で校訂を加えて、同じタイトルで出版wせめて少しぐらいタイトル変えようよw


 【追い出された二人】

 というか左遷ですねw加賀で募集しているみたいだから、押し付けてやれ!みたいな感じ。

 二人にとっても白粉作りは人命救助にはなるけど、理想とはちょっと違うような……みたいな感じでしたが……


 【細菌】

 ついポロリしちゃいましたw転生系なら、無意識の内にやってもおかしくないミスですw


 【比較実験】

 科学の素人が、科学を発展させようとしたら、どうするだろうか?

 作者の答えは『比較』です。

 ようはモルモットを用意して、健康体と異常体を比べる事。これがスタートになると考えました。

 メダカなのは、日本にはモルモットが居ない為(モルモットは南米の家畜)。野良鼠だと衛生的に問題大あり。なのでメダカにしました。

 ちなみにモルモット。本来の目的は『食用』だそうです。


 【鉛毒の証明】

 ある意味、この時代のベストセラーになりそうな予感のする書物w

 鉛毒の有毒性の証明だけに留まらず、医師を中心にメダカをモルモットとした実験が始まり、医学の発達を促す事にもなると思います。

 従来の薬の見直し。新たな毒物の発見と、そこから薬効成分を見出しつつ、安全性の確認に使うとか。


 それでは、また次回も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 名もなき勇士たちに、黙祷。
[気になる点] メダカが死なないの鉛白の量を は メダカが死なない鉛白の量を が正当だと思いました。 違いましたらすみません。
[気になる点] 医療知識詳しくないですが疑問があります。 毒や薬ならメダカでだいたい大丈夫だと思いますが でも、傷に関しては小さすぎて厳しいと思います。 鯉とかならいけるかも? でも、哺乳類と魚類で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。