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謀略編・第十九話

 謀略編・第十九話更新します。


 今回は十七話の騒動の余波(後編)、近江と越前が舞台になります。手直ししてたら、かなりボリューム増えました。

 あとは熱狂的ファンのいる義治君が久しぶりに登場します。チョイ役ですけどw

永禄四年(1561年)十二月、近江国、観音寺城、蒲生定秀――



 師走。雪が舞い降りる中、京から急使が届いた。

 届けてきたのは権大納言(山科言継)様。御隠居(六角承禎)様と文の遣り取りをなされている御方だ。

 そして急遽、御隠居様、御屋形(六角義治)様、次郎(六角義定)様、六人衆が集まる事になったのである。


 「皆、暮れに向けて忙しい中、済まぬな。京で一騒動が起きた」

 「京で、で御座いますか?三好家が公方様に何か?」

 「三好では無い。武田の加賀守(武田信親)殿が、御所巻を行ったのだ」

 『御所巻!?』と数名から驚愕の叫びが放たれた。

 まさか?そんな訳があるまい。加賀守殿は、そんな事をする愚か者では無い筈だ。

 そう考えながら御隠居様を注視する……ん?何故、額が赤いのだ?風邪でもお召しになられたのだろうか?


 「それでは謀反では御座いませぬか!」

 「落ち着け、右衛門督(六角義治)。まだ話は終わっておらぬ」

 それにしても御屋形様の武田嫌い、いや加賀守殿嫌いは骨の髄まで滲み込んでおるようだ。此度もしっかり考えずに、激昂されるという有様。

 こんな姿を見せられては、将来に不安しか感じぬわ。


 「父上、何かの間違いでは御座いませぬか?」

 「うむ。次郎の申す通りだ。正確には、加賀守殿が一計を用いて、御所巻を装っただけらしい。公方様は洛中の民を兵と見誤って誤解なされたそうだ」

 そして御隠居様から説明された、今回の顛末。

 情報源は主に加賀守殿の祖父、左京大夫(武田信虎)殿。此度の騒動において、加賀守殿の真横で一部始終を見届けたそうだ。

 その内容に、御屋形様は苦々し気な表情を。次郎様は呆気に取られたのか唖然としておられる。

 ここに御隠居様が居なければ、遠慮なく大笑いしていたわ!


 だが今は堪えねばならん。チラッと視線を向ければ、六人衆達は皆、笑いを堪える為に全力を費やしていた。

 それにしても、あの生真面目な但馬守(後藤賢豊)殿ですら笑いそうになるとはな。儂と同じように必死で脇腹を抓って堪えている。

 それに目聡く気付いたのだろう。他の六人衆も真似をし始めた。


 「重要なのはここからだ。此度の一件、間違いなく三好家の耳にも届いておるだろう。三好家に敵対する本願寺・紀伊畠山、加えて今は大人しいが丹波の国人衆。これら相手に有利に事を進めるなら、三好家は此度の騒動を噂として流すであろう。そうだな、対馬守(三雲賢持)」

 「はは、仰せの通りで御座います。噂として流すには、非常に使い勝手が宜しゅう御座います」

 「となれば、自然と三好はそちらに力を割く事になる。ならば我ら六角家としても、美濃相手に今まで以上に力を振り向ける好機であるとも言えるな?」

 なるほど、そう言う事か。

 互いに背中を預けあうなら、背後を気にする必要は無い。六角家としても、此度の騒動は好機と言える。

 美濃の完全掌握を行うには、今ほど、都合の良い時は無いのだ。


 「北近江も心配はいらぬ。武田は春に美作攻めを行うだろう。加賀守殿は美作に浅井を移封させると申していた。ならば、浅井を美作攻めに使っても不思議はない」

 「では、今度こそ美濃を!」

 「そう言う事だ。詳しい事は年明けの戦評定で決める。総大将は其方だ、右衛門督」

 「お任せ下さい!美濃の百姓兵如き、必ず俺が倒してみせます!」

 御屋形様は意気軒高だ。だが、戦とはそう甘くはない。

 敵を軽んじては、百害あって一利なし、だ。家臣の身としては、御忠告申し上げるべきだろう。

 だが、到底その気になれぬ。心のどこかで、儂はその事を願っておるのかもしれんな。

 六角家当主の座は、次郎様にこそ相応しいのだ、と。

 

 そっと周りを見やれば、誰もが顔を俯け気味だ。

 御隠居様の御意向に従うのを旨とされている但馬守殿ですら、何も言おうとはされぬようだ。

 このような事は考えたくはないが、御隠居様亡き後、御屋形様では御家を保つことは難しいと見ているのだろう。

 

 「御隠居様」

 「どうした、下野守(蒲生定秀)」

 「次郎様もそろそろ初陣の頃合いではないかと存じます。此度の美濃攻め、次郎様に初陣を飾らせるのは如何で御座いましょうか?」

 儂の発言に、皆が『それは宜しゅう御座います』と賛同の声が挙がる。

 次郎様も年が明ければ十五になる。初陣としては、まずまずの年だ。


 「それも良いかもしれんな。一思案するとしよう」

 「父上!有難き幸せに御座います!」

 「うむ」

 これで良い。儂の狙いは二つ。

 一つは御屋形様が前線に出ていく事。御屋形様は派手な御活躍を好まれる方。自身が総大将なら本陣で構えるだろうが、御隠居様が来るのなら、次郎様の世話を御隠居様に委ねて御自身は前線に出て指揮を執ろうとされるだろう。


 二つ目は六人衆の思惑だ。

 六人衆は皆が御屋形様の短慮を諫める事を諦め、次郎様の初陣には賛同した。

 これが意味する所。それは当主の座には次郎様こそが相応しいと、心の奥底で考えている可能性が高いという事だ。

 少なくとも御屋形様には何を言っても無駄だと考えているのは間違いない。

 

 これならば策が成功する可能性は高い。

 そして取り込むなら、相手は唯一人。三雲対馬守賢持殿。

 先代の諫死の件で、対馬守殿には息子として思う所があるのは当然だ。同時に、御屋形様を危うんでいる事も容易に分かる。

 こちらにつけるなら、最有力候補と言った所か。


 あとは……もう一つ、手を打っておくとするか。次郎様に御屋形様になって戴く為にも、今の御屋形様では厳しいという事を御隠居様に御理解して戴けなければならぬからな。

 評定の後で、内密に進言させて戴くとするか。

 この戦における百姓兵の招集は、御屋形様が行う事。これまでは御隠居様が行われていたが、六角家御当主としてやらねばならぬ事である、と。その一方で御隠居様は次郎様に初陣の心得等について諭される事を御提案すれば、きっと受け入れられるだろう。 



永禄四年(1561年)十二月、越前国、一乗谷城、武田信玄――



 師走も半分ほど過ぎた頃、加賀の二郎がやっと顔を見せた。

 京で目々典侍様への御挨拶があった事は知っているが、それでも雪で足止めを食らってはおらぬか?と心配していたのだ。

 幸い、雪が積もる前に到着してくれて安心したわ。

 その安堵が、他ならぬ二郎によって木っ端微塵に粉砕されるとは!


 儂は上座に座っていたのだが、気づいたら横に倒れていた。恐らく苦しくなって、態勢を崩したのだろう。

 無理矢理顔を挙げてみれば、下座は散々な有様であった。

 儂と同じように笑い転げて横倒れになってるのは十名。必死に笑いを堪えているのが五名。唖然としておるのが八名か。

 しかし、あの生真面目な民部少輔(馬場信房)が笑い転げる姿を見るとはな。


 「あ、兄上。本当に宜しかったので御座いますか?」

 「何も心配はいらぬぞ、四郎(諏訪勝頼)。あの誇りだけは一人前な公方が、己の恥を晒してまで私の非を追求するだけの覚悟を持っていると思うか?野次馬として集まった民草を、武田の兵と誤認した事まで大々的に宣言する事になるのだぞ?」

 「まあ良いわ。其方がそこまでしたからには、単なる意趣返しで終わらせる訳もあるまいしな。何をするつもりだ?」

 二郎の返答は美作攻略への支援。すなわち三郎(武田信之)率いる兵が到着するまでの時間稼ぎに利用してもらう事。

 備前・浦上家の宇喜多某とやらが持ってきた策と組み合わせれば、面白い事になりそうではあるな。

 まあ良しとするか。実行に移して損は無い。


 「ところで二郎。此度の一件、公方は其方を詰問する為に呼び出した事は儂も理解した。その上で問う。公方は誰に、能登の事を聞いたのだ?」

 「これはあくまでも某の推測に御座います。大友・尼子・本願寺の内のどれか。恐らくは尼子か本願寺と睨んでおります。能登の状況を某の策と捉えるのならば、客観的に判断できる立ち位置が必要。それには能登の外の方が見極め易いと存じます」

 「能登国内では無いと見ているか。少なくとも能登畠山が持ち込んだ訳ではない、と」

 能登畠山が持ち込んだ訳ではない。これは容易に理解出来る。もしそうなら、あの公方が鬼の首でも獲ったかのように盛大に宣言している筈だからだ。

 被害者である能登畠山家と、加害者である加賀武田家。そして公方が能登畠山家を救い、公方としての権威をもって加賀武田家を断罪する。あの公方が如何にも思いつきそうな考えだ。

 

 「大友家では遠すぎます。毛利は内心では公方に反感を持っている。越後の長尾、関東の北条はお互いに目を向け合っていて、能登に目を向ける余裕は御座いません。六角は能登畠山と縁戚ですので情報入手は容易でしょうが、承禎入道(六角義賢)殿には武田家を敵に回す理由がない。三好は武田家を越後に対する盾として使える限りは、下手に敵に回そうとは考えぬでしょう。となれば残るは武田と直接敵対関係のある尼子・本願寺となります」

 「ならば本願寺の方が可能性は高いであろうな。尼子なら能登を対象にせず、但馬や因幡侵攻を槍玉として挙げてくるだろう。そうでなければ領地を守る為に利用する事が出来んからな」

 「仰せの通りかと。特に本願寺は、某個人を憎んでいる、という点も御座います」

 それもあったな。となれば告げ口したのは本願寺、か。

 本願寺は北陸に一大勢力を築いていた。ならば北陸の事情にもある程度は通じていてもおかしくない。他家よりは判断材料を多く抱えていて当然だ。


 「あとは西国同盟よな。二郎、其方の存念を儂に聞かせよ」

 「毛利を悪用致します」

 「ほう?詳しく申せ」

 そのように言われてしまっては、興味を引き付けられるではないか。

 今度は何を思いついたのやら、実に楽しみでならん。


 「毛利は西国同盟に渋々参加という立場で御座います。西国同盟に参加すれば、負け戦を余儀なくされる事を自覚している為です。かと言って、参加を拒めば懐で一向一揆、大友と尼子に挟み打ちという内憂外患の事態に陥ります。ですが、ここで毛利を追い込んでしまうと、毛利は生き延びる為に選択を強制される。それがこちらに降るという選択肢であれば問題は御座いませぬが、毒を食らわば皿までの精神で徹底抗戦を選ばれると面倒な事になります」

 「確かにな。美作を獲って山陽に道筋を作っても、山陽に毛利の死兵が出現してはこちらの被害は甚大よな」

 「故に某は毛利に決断させぬ事を進言いたします。これの利は二つ。一つは毛利が本気になって襲い掛かってこない事。もう一つは交易路の確保で御座います」

 交易路?つまりは湊の事だな?

 ……そうか!そういう事か!


 「堺までの航路だな?」

 「仰せの通りに御座います。現在、文字通り敵対しているのは尼子家のみ。つまり伯耆・出雲・石見の湊は、武田家としては使えない状況で御座います。今は武田家と付き合いのある商人の船も御目こぼしされているでしょうが、尼子家が今以上に追い込まれれば、それも禁止となるでしょう。そこにもし、毛利領である長門・周防・安芸・備後が加われば」

 「船の行き来が不可能になるな。伯耆から石見までなら港に立ち寄らずに強行もできるだろうが、さすがに山陽まで加わっては無理がある。それに瀬戸内には村上水軍がおったな。確か毛利と関係が深いと聞いた覚えがあるわ」

 堺で利益を出す為に、武田家は蝦夷との交易で得た商品や、加賀で作った絹や磁器、瑠璃を持ち込んでいる。その為には、船で運ぶのが最も都合が良いのだ。

 その船を止められてしまっては、武田にとって非常に都合が悪い。

 仮に何とかできても、瀬戸内に入れば村上水軍が手ぐすね引いて待ち構えているのだ。これでは武田が利を得るのは不可能だな。

 

 「故に、今は毛利を本気で敵対させる訳には参りませぬ。ですが武田家としては、不本意とはいえ、西国同盟に加担して武田家と敵対した毛利に対して、ケジメをつけねばならぬのも事実。いずれは落とし所が必要となりましょう」

 「それは当然よ。だが当面は、毛利が本気になる事態を避けられればそれで構わんという事は分かった」

 「はい。出来る事なら毛利に降伏を選択させたい所で御座います。ですが落とし所について毛利と交渉を始めれば、毛利は武田も譲る気がある、と判断して降伏を選択肢から外す事も考えられます。今は直接矛は交えず、だが圧をかける。その為に尼子・本願寺を潰し、山陽に進出致します。これを策として提言致します」

 本願寺は三好に任せておけばよい。武田は尼子を担当する。要は今まで通りと言う訳だ。

 毛利の先代当主、毛利陸奥守元就。一国人衆から、ここまで御家を大きくした苦労人だ。一時の感情に流されて、短慮に走るとも思えん。

 ならば二郎が申したように、圧こそが最大の武器となるだろう。

 

 「次に毛利が早々と西国同盟に本気になった際、武田家が困らぬ為の予備の策を、予め実行しておく事を献策致します。京への荷は全て、堺への荷は三割ほどを対象と致します。それらの荷は敢えて、敦賀から淡海乃海を経て京へ、さらに堺へと陸路に変更する事で御座います。その情報が尼子や毛利の御用商人を通じて伝われば、両家も商人を止めるべきかどうか悩みましょう。武田は陸路でも堺に荷を運んでいる。それでも商人を止めて不満を募らせてまで、船を止める必要が有るのか?武田は全ての荷を陸路に変えるのでは?と」

 「止めなければ今まで通り。止められても、焦る必要は無いという事だな。利は減るだろうが、それは仕方あるまい」

 「あくまでも山陰山陽が落ち着くまでの仮の処置で御座います。落ち着けば、元通り全ての荷を船に戻せば良いだけ。他にも尼子や毛利の御用商人の船がこちらに来た際には、同じ処置を行うという方法も御座います」

 いきなりの事態に慌てる事無く対応するのも重要な事。それに尼子や毛利が武田には陸路もあると判断すれば、船を止める事自体しなくなるだろう。強いてあげれば、湊の利用料の値上げをしてくる程度か。

 早速、春先から手を打っておくとしよう。

 これも毛利が圧と感じれば、下手な事は考えまい。

 

 「またこの策は領内の治安の向上にも繋げる事が叶います。加賀には能登から逃げてきた民がおりますが、それらの者達の中には食い扶持に困っている者もおります。御屋形様、越前や若狭にも、丹波辺りから逃げてきた民はおりませぬか?」

 「報告は受けておる。今は三好家が畿内を制しておるが、それでも反三好を掲げる国人衆との争いは何度も起きておる。結果として、戦に巻き込まれたくない民の中には、武田領へ逃げてくる者もおる」

 「仰せの通りに御座います。恐らくでは御座いますが、美濃周辺の飛騨・尾張・信濃・近江も似たような状況で御座いましょう。その辺りは弾正(真田幸隆)殿なら良く御存知の筈」

 話の矛先を向けられた弾正が、素直に頷いた。

 武田は戦をしているが、戦場に出るのは常備兵のみ。百姓は出さぬという方針を貫き、それが周辺諸国にも広まっている。

 だからこそ、そういう者達にとって武田領は逃げる先としては都合が良いのだろう。

 特に美濃は数年前に二郎の発案による塩攻めで徹底的に痛めつけられた。その記憶を強く持つ者の中には、もう嫌だと逃げ出す者がいても不思議はない。


 「弾正殿。逃げてきた流民ですが、大人しくしておりますか?」

 「大半は従順で御座います。田畑を与えてはおりますが、どうしても田畑に居着かぬ者がいるというのが悩みですが」

 「加賀も同じです。だからこそ、そう言う者達を人足として雇います。加賀・越前から堺までの荷運びには人手が必要で御座います」

 なるほどな。田畑に居着かぬのであれば、人足として雇うのも有りか。そういう輩は、力だけは有り余っておるからな。力仕事には向いておろう。

 そんな事を考えていると、四郎が『兄上』と声を上げた。


 「人足が逃げ出した場合は如何するのですか?」

 「別に構わぬよ。四郎、其方に訊ねる。其方が考える逃げ出す人足は、どこで逃げ出すと思う?」

 「普通に考えれば、京や堺ではありませぬか?加賀で雇ってもらい、堺や京で銭を手に入れて逐電する」

 まあ、普通に考えてそうなるだろうな。

 楽に銭を稼ぎたい。そう考える輩であれば、商人が多く住む堺や、歴史ある京へ向かおうとするだろう。だが元手が無ければ行動出来ん。

 そういう輩が堺までの人足を募集していると聞けば、行きだけ人足として働きつつ飯を食わせて貰い、銭を稼いだら堺で逃げる、と言うのはいかにもありそうだ。


 「その手の問題児はな、どこにいても足を引っ張るものだ。故にこう考えよ。堺で捨ててくる、とな」

 「その場合、武田領からその手の輩はいなくなる。結果として治安の向上に繋がる、という訳ですか?」

 「そういう事だ。そのまま戻ってこなければ捨てたまま。心を入れ替えて戻ってくるのなら、人足として再度雇う。どちらに転んでも武田家にとっては利しかない。それにな、食い詰めた連中が堺で問題を起しても、堺の連中が片をつけてくれる。武田家が手を汚す必要すらない。武田家はあくまでも雇った人足に裏切られた、哀れな犠牲者という立場を貫くのだ」

 ブフウッと、下座に座っていた勘助が噴き出しおったわ。

 流民は使い方ひとつでいかようにも化ける。だが、どうしても問題しか起こさぬ者もいるのが現実。

 そんな問題児を篩にかけて、最後の機会を与えるのが二郎の慈悲なのだろうな。篩から落ちた者を待っているのは『死』。だが武田家を裏切った者達に対する罰なのだ。それも有りと言えば有りよな。


 「これにより武田領に、真の意味で武田家に忠誠を誓うであろう民草を残すのだ。そういう者達が多くなれば多くなるほど、武田家は盤石となる。幼い頃にな、亡き朝倉宗滴殿に政の基本とは何であるか?と訊ねた事がある」

 「どのような答えだったのでしょうか?」

 「民の忠誠心。それが第一に来ると教えて下さった。私の国を富ます、という考えとは違った物であったよ。だが宗滴殿は実に柔軟な思考の持ち主であった。状況に応じて、忠誠心よりも国を富ます方が上にくる場合もある、と。田畑が少なければ新田開発、治水に難があれば治水作業、と言ったようにな。私にとっても良き経験になった」

 越前朝倉家の名将・朝倉宗滴。その教えは二郎の中に息づいておる、か。

 そして二郎の考えは、学び舎を通じて家臣達に。或いはこうして四郎に教えるようにして広がっていく。

 武田家の将来が楽しみだわ。


 「話を戻します。此度の荷運び。それだけで終わらせはしませぬ。賊に対する護衛として、経験の浅い常備兵をつけます」

 「賊を相手に経験を積ませるのだな?」

 「はい。兵に自信をつけさせる事にも繋がります。役目の為に手薄になった分は、逃げてきた民の中から、希望者を常備兵として雇います」

 良いではないか。流民にも選ぶ事が出来るのだ。

 田畑を耕すか、人足となるか、常備兵となるか。

 どれでも好きな物を選べばよい。


 「ところで二郎。陸路の荷運びはいずれは海路に戻すと申していたな。その時の腹案はあるのか?」

 「御座います。私の直属部隊には力仕事や作事を専門とする部隊がおります。そこであれば、そのまま経験を活かせます。もし商売人として才覚があれば、富士屋に配置する事も可能で御座います」

 「ならば常備兵に限らず、人足であっても真面目に仕えれば武士として取り立てる事も明言してやれば良かろう。他の才があれば、そちらの道であっても構わぬ、とな」

 これなら少しは篩に残る者も増えるかもしれん。

 儂にかけられる慈悲はここまで、と言った所だな。あとは本人次第よ。


 「そういえば、今更ではあるのだが、謁見の前まで弾正(真田幸隆)と何か話しておったようだが、何かあったか?」

 「はは。先に弾正殿に通しておきたい話が御座いました」

 二郎によると、通しておいた話は二つ。一つ目は越中から真田家に対して塩を卸し、帰りに火山灰を買い取る隊商の派遣について。

 これは弾正にとっては有難い話であろうな。二郎にとっても加賀の差配に火山灰は必須。そして加賀は武田家全体の食糧庫の役目を担う。となれば、本家・加賀・真田の三者全てが利を得る事が叶う。

 そしてもう一つと言うのが弾正の三男についてであった。


 「弾正殿の三男、喜兵衛殿についてで御座います。現在、加賀の学び舎に通っている喜兵衛殿が来年に学び舎を出たら、大御屋形様に近習として推挙しても良いかどうか、確認を取らせて戴きました」

 「ほう?人材収集に関しては貪欲な其方が、そこまで評価するか」

 これには同席していた者達、全てが驚いたようだ。

 二郎が高く評価をする人材は少ない。だが、逆に言えば二郎が評価したという事は、相応の才覚を有するという事でもある。

 これは興味を惹かれるのは当然よ。勘助も面白そうに笑っておる。

 よくよく考えてみれば、勘助は学び舎の一年目を担当している。もしかしたら勘助も喜兵衛の才覚に気づいたのかもしれんな。

 

 「無論、まだ学び舎通いの身。才は有れど、伸びるかどうかはまだ断言出来ませぬ。しかし注視しておくだけの価値は御座います」

 「ならば少し見てやるとしようか。だが二郎、どうして其方が抱えなかったのだ?」

 「嫁を紹介しようと思いましたが、加賀には丁度良い相手がおりませんでした」

 そこから始まった二郎の説明と思惑。

 周囲からは『気が長すぎませぬか?』とか『何十年先ですか』と色々な言葉が笑い声とともに上がってくる。


 だが、もし優秀なのであれば、嫁を紹介するぐらいは大した手間では無い。寧ろ、率先して行うだけの価値はある。

 それに、この場で提案した事にも理由は有るのだろう。

 この場にいる者達は、武田家中でも重きをなす者達。その者達が真田喜兵衛という若者は、武田家筆頭軍師が才を認めた男と認識したのだ。加えて喜兵衛に子が生まれたら、二郎は自分の子と婚儀を挙げさせるつもりである事も認識された。


 であれば、この者達が一族から喜兵衛に嫁を、と考えても不思議はない。そしてそれらの中から、儂や二郎が選びに選び抜いた女子を嫁として紹介する。

 真田家にとっても光栄な話であろう。

 武田本家は有能な人材を抱える事が出来る。まさしく全員が利を得る話だ。

 まあ、それも喜兵衛が有能である事を証明してからになるのだが。ただ期待ぐらいはしても罰は当たらんだろう。


 「良かろう。儂の眼鏡に叶う事を期待しておるぞ?」

 「そうである事を、某も期待しております」

 「うむ。話は変わるが、此度は案内役がゆきではないな?ゆきの出産が近いというのは聞いていたが、問題は起きておらぬだろうな?」

 儂も気になっていたのだ。

 暮れになると、評定に参加する二郎と一緒に、可愛い孫娘がやってくるのだ。今年も可愛がってやれると期待しておったのだが、その孫娘が来ておらぬ。何でも母であるゆきが心配で加賀での留守番を望んだ、との事。

 ゆきの身に、何も問題が無ければよいのだが。


 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは近江国、蒲生定秀さん視点より。


 【承禎さんの額が真っ赤】

 御所巻もどきの顛末を聞いて、自室で悶絶していました。額を畳とかに押し付けた為に、真っ赤になってました。


 【義治君激昂】

 蒲生さんは不安しか感じてません。というか、義治君脊椎反射で発言してますw


 【真相暴露】

 公方に思う所のある人達(六人衆)は笑いを堪えるのに必死。義治君は主人公嫌いなのでツマンネエ!義定君は大丈夫なの?という所。


 【みんなで脇腹抓りましょう】

 六人衆は仲良しw


 【美濃攻め】

 六角家としては好機です。潜在的な敵である三好家・浅井家が近江から離れますから。

 それなら守りを気にせず、全力投入出来ますしね。


 【六人衆】

 諫言を諦めました。それの意味する所を、義治君は理解しておりません。


 【蒲生定秀蠢動】

 史実においては六角氏式目を主導したのは蒲生さんらしいです。となれば、上が頼りないと判断すれば、遠慮なく動くのが蒲生さんのキャラなんだろうな、と考えました。

 なので義治君追い落としの為に、ついに蒲生さんが動きます。


 【ターゲット、ロックオン】

 蒲生さん、狙いをつけました。実際、一番可能性が高いですしね。

 お前のせいで親父は腹切ったんだ!恨み骨髄は当然です。

 

 次は越前、信玄パパ視点より。


 【パパ悶絶】

 武田家上層部、半壊してます。パパが笑い死んでいるから、遠慮しない人達多数w


 【告げ口したのは本願寺】

 消去法ですね。


 【毛利に対するスタンス】

 今は糾弾しない、交戦もしない、ただ圧をかけ続ける、と言う物。山陰山陽が落ち着くまで、どれぐらいかかるか未知数。加えて当時の交易の常識として、日本海側は瀬戸内海を通って堺へ向かいます。となると武田の交易船は山陰山陽の湊が必須。そこが敵になると大問題です。

 伯耆・出雲・石見は東西の距離が越後と同じぐらい。なので湊に寄らない強行突破は可能ではありますが、そこに瀬戸内海が加わると終わりです。


 【保険として陸路】

 陸路での交易も開始。利は減りますが、リスクを考えた結果です。

 

 【陸路の活用】

 災い転じて福となす。流民の一部を運搬業に従事させる、という物。いわゆるスラム対策。スラム構成員が消えれば治安は良くなります。

 その構成員も仕事を与えるという形で消す訳ですから、問題はありません。


 【逃げ出す連中】

 そういう連中はどうしようもないから『堺に捨ててくるわ』宣言。主人公としては、甘い顔をするつもりはねえよ、と言う所。

 真面目に働くなら仕事をくれてやる。

 その気が無いのなら堺で逃亡と言う名の追放な。


 【朝倉宗滴の教え】

 政に対する宗滴さんの考えは、主人公の中に根付いています。

 民の忠誠心第一、というのは信玄パパの『人は城~』にも通じる物があります。


 【弾正さんとの話】

 藤吉郎の隊商の話と、喜兵衛の近習推挙の件。

 事前工作(根回し)は大切です。

 

 【圧こそ最大の武器】

 無言の降伏勧告。仮に交渉になっても、毛利から持ち掛けてくれば、交渉は武田有利に進みます。その為にも、毛利にかける圧は必須です。


 【喜兵衛優良物件化】

 と言う訳で、史実のように信玄パパの近習フラグが立ちました。

 信玄パパの両目と呼ばれるようになるかどうかまでは不明ですがw


 【最後にゆきの件】

 次回、ゆきの気苦労と月が留守番志願した理由について説明します。


 今回もお読み下さり、ありがとうございました。


 また次回も宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忙しい暮れとはいえ、他の季節ほどの刺激がない季節に、捨て身アイドルが笑いを提供しているようで何より♪ この時期脇腹や腿に内出血の跡がついた人はどれだけいることやらwww
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] そうなんですよね。 伯耆・出雲・石見の東西と越後は同じくらい…。 金沢から新潟競馬場と金沢から我が家までがほぼ同じ距離(約500km)で驚きました。 新潟は長…
[良い点] この世界の現代の人は腹筋鍛えられてそうだなぁ…
感想一覧
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