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加賀国編・第十一話

 加賀国編・第十一話更新します。


 今回は浅井家独立の動きと、加賀での内政の一コマ。


 新キャラも登場します。

永禄三年(1560年)四月、近江国、大津、武田信親――



 三好、六角との交渉に始まり、信虎御祖父様や典侍様春齢様母子への御挨拶。

 色々と大変ではあったが、得る物も多くあった。

 特に典侍様との会話で気づいた事には、大きな価値があったと言えるだろう。

 何故なら、予定外の事態に対応する事が出来たからだ。


 『武田加賀守信親様。某の主が直接、御話したい事がある為、どうか竹生島、宝厳寺までお越し頂きたく』

 帰路の際、大津で船の準備を待っている間に、何者からかの使いが俺を訪ねてきたのだ。あとでゆきに教えて貰ったのだが、この使いは単身で俺を訪ねてきたのだそうだ。

 年の頃は四十代半ば。

 当然の如く、不審者に対して激昂しつつゆきが誰何する。まあ当然と言えば当然だ。

 どう考えても、招きいれて息の根を止めようとする事を目論んでいるようにしか見えんからな。


 「何をふざけた事を!名乗る事すらせぬ輩を信用せよと申すのか!」

 「今は周囲に知られる訳には参らぬのです」

 男は腰の物を投げ捨てたらしい。地面に落ちる騒がしい音が聞こえてくる。そして『どうかお願い致します』と繰り返してきた。


 「名乗りすらせぬ者を、おいそれと信じる訳にはいかんだろう。それはともかくとして、何故こんな真似をしたのだ。俺は少し前に一向衆に殺されかけたばかりだぞ?どう考えても望む通りに行く訳があるまい。其方の主は、何を考えてこのような事をせよ、と命じたのだ?」

 「仰せの通りに御座います。加賀守様が命を狙われた事は、主より伺いました。某も断られるだけに御座います、と申し上げたのですが、主は問題ないと仰せになりました。加賀守様、いや今荀彧と謳われる御方であれば、必ず武田家を守る盾をお買い上げになられる、と」

 「盾?」

 何かの比喩か?

 武田家を守る?武田家を守るという事は、武田家の敵から守るという意味だな。まあ当たり前の事だが。

 そして武田家の敵と言えば、現時点では一向衆、一色、山名といったところ。判断するには情報が足りんな。


 「ゆき。この者、旅で衣服が薄汚れておるか?あとは荷物の量だ」

 「いえ、奇麗な物で御座います。荷物は手ぶらで御座います」

 「……どうして俺がここにいる事を知った?」

 「主の草が、加賀守様が京に滞在されておられる事を報告して参りました。であれば、大津から船で御帰りになられるだろう、と」

 大津で適当な宿を使っていたのであれば、遠方から来ていたとしても判断は出来んな。荷物だって宿に置いて来れば問題はない。

 これが船で日帰りなら、まだ推測する事も出来たんだが。

 ……ま、これしかないよな。


 「すまないが、確信が持てぬ以上、危ない橋を渡る訳にはいかぬ。其方の主に伝えよ。用があるなら一乗谷まで来るがよい。だが俺も領内の仕置で多忙なのでな、すぐに加賀へ戻る事になるが」

 「いえ。こちらも無理を申し上げている事は重々承知いたして御座います。主にはそのように伝えさせて戴きます」

 男はごねる事無く、その場から立ち去ったようだ。

 多分、この対応なら『白』だったのだろう。だがこちらとしては、不用意に危険を冒す訳にはいかないんだ。悪く思わないでくれ。



永禄三年(1560年)四月、近江国、竹生島、宝厳寺、赤尾清綱――



 「主命を果たせないままの帰還、申し訳御座いませぬ」

 主命故に致し方なくお訪ねしたのだが、やはり儂の予想通り断られてしまった。

 せめて名乗る事さえ許されれば、話は違っていたのかもしれないが。

 

 「良い、美作守(赤尾清綱)は俺の命に従っただけだ。気にすることは無い」

 「しかし、お連れできなかった事が無念に御座います。これでは浅井家をお守りする事が叶いませぬ」

 「気にするな。其方は十分に役目を果たした。白湯を用意してある。まずは一息つくがよい」

 殿のお気遣いには感謝しかない。殿はまだ十五とお若いが、人質生活で御苦労を為されてきただけの事はあり、こうして労って下さる御方なのだ。

 白湯の温かさが、湖上の風で冷えた体を温めてくれる。まさに甘露と言うべきか。


 「さて、とりあえず一刻ほど待ってみるとするか」

 「殿?」

 「俺の考えが当たっていれば、加賀守様はここへ来られる。まあノンビリ待つとしよう。たまにはそういう時間があっても良いだろう」

 加賀守様がここへ?それはどういう意味だ?

 訊ねてみても、殿は答えて下さらない。

 『考えが外れたら恥ずかしいだろう?』と返されては、こちらとしても何も申し上げられないからだ。

 そして半刻程した頃だろうか。

 家臣の一人が報告に駆けつけてきた。


 「申し上げます!武田加賀守信親様が御越しになられております!」

 「なんと!?」

 「やはりお越しになられたな。美作守、其方の後をつけさせて安全を確認されておられたのだろう。そして俺の素性に気づかれたから、話を聞く気になられたのだろう」

 そういう事だったのか。つまり儂の真の役目は撒き餌であったという事か。

 それならそうと、御申しつけ下さればよい物を。

 やがて、御側室のゆき殿に手を取られて、加賀守様が姿を見せられた。


 「こうして会うのは初めてだな。知っているとは思うが、武田加賀守信親だ」

 「お初に御目にかかります。某、浅井家当主、浅井新九郎賢政と申します」

 「確か、左京大夫(六角義賢)殿の娘婿であった筈だな?まあ話があるというのなら、聞くだけは聞くとしよう。その上で判断させて貰うが?」

 「構いませぬ。まず某の目的は浅井家という御家の存続。並びに六角家からの独立。その後の武田家の後ろ盾をお願い申し上げます」

 やはりそうであったか。

 だが、単に独立するだけでは浅井家は怒り狂う六角家によって潰されるだけ。それを防ぐには、浅井家を攻めさせないだけの後ろ盾が必要になる。それが武田家という事か。


 「某が六角家からの独立を願った理由。それは六角家が潰れる為です。現当主である左京大夫様は良くできた御方です。某も一個人として大変、尊敬しております。時には、左京大夫様に手ずから教えを受けた事も御座いました」

 「左京大夫殿は敬意を払うに値する御方であるからな」

 「仰せの通りで御座います。しかし次代は違います。右衛門督義治。あの男の代で六角家は滅亡する。某は生まれた時から六角家で人質生活を強いられて参りました。故に、あの男がどんな男なのか。その事を某は嫌と言うほど知り尽くして御座います」

 六角家の現当主・左京大夫様は良くできた御仁と聞く。政にも熱心で、民草の声に耳を傾ける仁愛の心の持ち主である、と。

 ただ問題は跡取りだ。

 殿が人質時代に、右衛門督から受けた仕打ちの数々。それを知った時、儂は殿の代わりに馬鹿息子を縊り殺してやろうかと思ったほどであった。

 あの左京大夫様の胤とは思えぬほどの愚かぶり。天はどうしてこのような悪戯をなされたのか、理解に苦しむわ。


 「故に、浅井家は六角を離れ、武田家を後ろ盾と致したいので御座います。代わりに対価として、浅井家は武田家の盾として励ませて戴きます」

 「確かに北近江という地の利は有難い。だが武田家と六角家は付き合いがある。それを理解して申しておるのか?」

 「重々、承知致しております。それだけの価値が浅井家にある事を証明致します」

 加賀守様が『ほう?』と面白そうに口の端を吊り上げられた。

 どうやらご興味を惹かれたらしい。

 しかし、殿は何をもって証明されるのだろうか?


 「浅井家は武田家の助力を受けずに、六角家より独立致します。それを以て、浅井家には武田家が後ろ盾となるだけの価値がある事を御認め戴きたい」

 「それなら六角家が潰れるまで待つべきであろう?急いでも碌な事にはならんと思うがな」

 「それでは浅井家という御家を、武田家に高く売りつける事が叶いませぬ。浅井家は役に立つ。浅井家には力がある。それを認めさせてこそ、浅井家はより強く、より大きくなる事が叶うので御座います」

 確かに殿の仰る通りだ。本領安堵かつ独立を望むなら、六角家が潰れるまで待つのが正解なのは間違いない。

 だが、それでは駄目なのだ。

 この乱世を生き延びるには、少しでも強く、少しでも大きくならねば生きてはいけないのだ。


 「某は強欲なので御座います。御家存続だけでは物足りませぬ。もっと浅井家を強く、大きくしたい。祖父が勝ち取った所領以上に!その為には、ここが勝負の時と判断致しました」

 「……武田家としても『今の』六角家を敵に回したくはない。当面の間は浅井家が独立した際、仲裁の仲立ちを務める程度の間柄にしておく。所領拡大を望むなら、手柄を挙げてみせよ。結果には応える」

 「必ずや御期待に応えてみせます!」

 どうやら上手くいかれたようだ。まあ問題は、六角家からの独立という難題が残っているという事なのだが。

 それも武田家の後ろ盾無しで。あくまでも独立は、浅井家の独力で成し遂げねばならない。浅井家には、それだけの力があるという事を示す為だ。

 そして一刻ほど加賀守様は殿と話をされた後、竹生島から立ち去られた。


 「美作守、小谷へ帰るぞ。これから三ヶ月が勝負の時だ。独立を勝ち取るまで、死に物狂いで励んで貰うぞ!」

 「仰せのままに」

 


永禄三年(1560年)四月、加賀国、金沢城、武田信親――



 やっと帰ってこられた。想定外の浅井家からの接触というアクシデントもあったが、まあまあ満足できる結果であったと言える。

 後は信玄パパや義信兄ちゃんの仕事だ。俺は裏方に回る。本家に灰吹法のやり方を教える為だ。俺が灰吹法を使用して、私腹を肥やしていると誤解されない為でもある。

 

 しかし気になるのは、六角家だ。

 浅井家に見限られるほどに、右衛門督(六角義治)は人望が無い事が今回の件でよく理解出来た。

 間違いなく南近江は大騒ぎになる。 


 そして肝心の浅井の動きだ。

 一応、越前に報告はしたが、一体どうなる事やら。しかしどう考えても、浅井では六角に勝てぬとしか思えないのだが。

 確かに可能性として考えられる事はある。その可能性を最大限に活用するとすれば……

 少し、裏で動くか。いや、それは駄目だ。

 浅井家が武田家にとって、本当に役に立つ御家なのか?それを見極める為にも、浅井家の御手並みを拝見させて貰う。

 駄目であれば、素知らぬ顔をして見捨てるまで。我ながら気分は悪いが、それぐらいの決断は必要だ。


 それに浅井家から入手した情報にも非常に価値がある。

 帰路の途中で立ち寄った一乗谷城で、信繁叔父さんと義信兄ちゃんに報告しておいたからな。叔父さんなら上手い事、立ち回ってくれるだろう。

 そして俺の役目は、連絡を受けた上で動く事だ。


 「二郎様、ほうじ茶です」

 「ああ、ありがとう」

 ゆきが手ずから淹れてくれたほうじ茶で一息つく。目の不自由な俺にとって、鼻をくすぐる香りと舌で感じる香ばしさ、掌に伝わる温かさがほうじ茶という存在を俺に知覚させてくれる。

 一応は三月。春の筈だが、まだ寒さが残っている。早く暖かくなってほしいな。

 

 「そういえば越中の一向一揆だが、何か連絡はあったか?」

 「神保殿が戦準備を始めているとの事です」

 「それならこちらも準備を進めながら様子見だな。その間に能登への調略と流言工作を進めておくぞ」

 越中は越後を刺激しない程度を目安とする。まずは一向衆の支配下にある加賀――越中――飛騨を繋ぐ街道を確保する。この程度で我慢しておけば、目くじらを立てる事も無いだろう。

 能登の併呑は三年後を目途に終えたい所だ。

 そういえば、ふと思い出したことがあった。藤吉郎の弟、小一郎。史実における羽柴秀長の事だ。


 「ゆき、藤吉郎に弟がいたな?独り身か?」

 「確か、その通りだった筈ですが。藤吉郎殿から身内の祝言で暇を願われた記憶は御座いませんし」

 「ならば嫁を斡旋してやろうか。小一郎もそれなりの立場であろうしな」

 恐らく、足軽大将辺りだろう。侍大将にするには、藤吉郎の部将の俸禄ではちと厳しいだろうしな。小六(蜂須賀正勝)に将右衛門(前野長康)もいるし。

 そういえば姉の旦那にも声をかけてみるとか言っていたよな?

 意外に家臣が多いな。そのおかげで加賀の内政は進んでいるのだから、俺としては感謝しかないのだが。


 「足軽大将に見合う嫁……まあ同格ぐらいだろう。そうだ、勝家の常備兵に尾張出身の者達は大勢いたな。ゆき、常備兵の名簿はあるか?できれば家族名もあるのが良い」

 「少々、お待ちくださいませ」

 よし、これで昔の懸案が片付く。北政所ことねねさんの処遇だ。

 確か、姓は木下か浅野だったと思ったな。あとはねね、お寧辺りで調べていけばなんとかなるだろう。

 常備兵は多いが、それでも姓でかなり絞る事は出来る。あとは虱潰しに調べていけば良いだけだ。

 

 結果としては、該当者は三名。うち二名は嫁に行った後だ。残りは一人、確定ではないが、まあ良いだろう。俺の自己満足だしな。

 足軽大将、浅野長勝の養女。長勝の妻の姪というのが本来の関係らしい。


 「ゆき、この浅野長勝の養女、お寧について風に調べさせてくれ。問題がある娘を小一郎に押し付けたくは無いからな」

 「心得ました。十日ほどお時間を頂きたく」

 あとは待ちだな。それと小一郎の生活を苦しくさせる訳にはいかんからな。藤吉郎経由で俸禄を少し融通してやらんと。それが理由で結婚していないのかもしれんしな。


 「そういえば藤吉郎には妹もいたな……あとで話を聞いてみるか。藤吉郎も留守の間の報告があるだろうしな」

 茶を飲みつつ、ゆきと雑談しながら仕事を進める。その内に、藤吉郎が姿を見せた。

 留守の間の報告に耳を傾ける。特に新たな製塩の試験結果には満足した。一年を通じての生産量は従来八割増しを期待できる。冬の生産量がこちらの想定以下なのは残念であったが、まあ許容範囲と言えるだろう。やはり藤吉郎に任せて正解だった。


 「藤吉郎、話は変わるが、其方の弟妹の事だ。結婚はしておるのか?」

 「いえ。まだどちらも独り身で御座います」

 「なら、本人が望むなら伴侶を紹介しよう。生活面で苦しまぬよう、其方経由で俸禄を増やしてやる。適当な口実をつけて渡してやれ」

 「ありがとうございます!そこまでお気を使って下さるとは!」

 いや、お前も小一郎も本当に頑張っているからだよ。その働きに対する正当な報酬だ。

 これからも頼りにさせて貰うからな。


 「すぐに紹介とはいかぬぞ?まず小一郎の相手だが、娘に問題が無いか調べておらんのでな。調べ終ったら改めて声を掛けよう」

 「はは、お待ちしております!」

 「それから妹の方だが、年は幾つだ?」

 「十七になります」

 この時代としては、少し適齢期越えという所か。

 だが実兄が俺の片腕という立場があれば、結婚相手にも見返りはある。

 ……まて、丁度良い相手がいるじゃないか!あとで確認するか。


 「妹の相手にも心当たりがある。まずは先方に確認してみるとしよう。それから虎殿や母君はどうだ?そろそろ来る頃なのだろう?」

 「はい。四月頃に向こうを立つ予定との事でした。舅殿は向こうに残る予定らしいですが」

 直盛殿か。出来ればこちらへ来てほしい所だな。

 遠江は安全地帯だ。武田家その物が傾かない限り、攻め込まれるという事はまず無いと言える。それなら経験豊富な直盛殿には、藤吉郎を支えて貰いたい所だ。


 「藤吉郎、直盛殿の代役を派遣するという事で、こちらへ来てもらう事は出来そうか?無理強いはせぬが、其方も安心して働く事が出来よう」

 「宜しいのですか?」

 「俺が御屋形様と大御屋形様の許可を戴く。井伊谷の地は、いずれは其方と虎殿の血を継ぐ者が受け継ぐのだ。その辺りは任せよ」

 これで藤吉郎がますます励んでくれれば、それは結果として加賀に益を齎してくれるのだ。この程度の気配りは大した問題でもない。

 俺の言葉に藤吉郎は嬉しそうに頷いてくれた。


 「心得ました。すぐに舅殿に文を書きます」

 「ああ、頼んだぞ。他に報告が無ければ下がってよいぞ」

 藤吉郎が下がる。

 すると、それと入れ替わるように前田利久の来訪が告げられた。 

 利久も留守中の報告かな?とりあえず聞くとするか。

 ……おかしいな。足音がいつもと違う。付き添いはいつもの奥村ではないのか?


 「加賀守様、蔵人(前田利久)に御座います」

 「うむ、留守中は御苦労だったな。ところで今日は奥村ではなさそうだな。足音がいつもより重い感じがしたのだが」

 「ご明察に御座います。本日は息子利益を紹介する為に、お伺い致しました」

 ……それって前田慶次の事か?マジで?

 史実の前田慶次は漫画ほど巨体じゃないのは知っている。それでも戦場で暴れていた猛者だ。一軍の将は難しいかもしれんが、切り込み隊長みたいな役目なら実力発揮できるだろう。

 いかんいかん、そんな事を考える前に、する事がある。頭の中を切り替えんと。


 「お初にお目にかかります。前田慶次郎利益と申します」

 「覇気のある声だな。其方の顔を見たい、ここまで来てくれ」

 扇子の先で、膝先を示す。本当に至近距離だ。さて、どう出る?


 「失礼致します」

 すげえ。間髪入れずに接近してきたわ。息がかかる。

 「其方の顔、見させてもらうぞ?」

 「どうぞ、御随意に」

 ……年は俺と同じぐらいか?それに体もしっかり鍛えられているようだ。筋肉が凄いわ。腕なんて、文字通り丸太じゃないか。

 全身フルプレート着込んで敵陣突っ込ませたら、凄い事になるぞ。マジで。


 「力自慢のようだな。戦は得意かな?」

 「自信もあれば愛してもおります。戦場こそが、俺にとっての生き甲斐なのです」

 「なるほどな。ところで槍と太刀、どちらが得意だ?」

 「両方得意ですが、槍が好みですな」

 なるほど。ならば決まりかな。


 「蔵人。来月になったらもう一度、慶次郎とともに来てくれ。この偉丈夫に似合う槍を作らせておこう」

 「ま、真に御座いますか!?」

 「俺が作るのではないからな。命じるだけなのだから気楽な物よ。鍛冶師を向かわせるから、其方の理想とする槍を誂えて貰うがよい」

 「こ、これ、利益!礼を申さぬか!」

 利久、苦労しているな。きっと可愛いヤンチャ坊主なのだろう。

 俺の記憶が確かなら、跡取り息子の筈だからな。しかも自分と違って槍働き特化。そりゃあ期待もするだろう。


 「感謝申し上げます、加賀守様。ところで、一つ、お尋ねしたい事があるのですが」

 「何かな?俺に答えられる事なら答えるが」

 「俺をこれほど近づけて宜しかったのですか?」

 あーあ。利久が絶句したような感じがする。って、ゆき、おちつけ!


 「まずはゆき、落ち着け。懐の短刀から手を放せ。ヤンチャ坊主の挑発に乗るな。それから慶次郎、其方も周りを挑発するな。その気も無い癖に。そうであろう?」

 「どうして、そう思われましたか?」

 「理由は一つ。其方の気性だ。其方は不意打ちで盲を殺して満足できる男なのか?」

 瞬間、大笑が轟いた。ああ、前田慶次らしい。

 こういう気持ちの良い豪快さは、好ましく感じるな。


 「真に申し訳御座いませんでした、加賀守様」

 「その手の冗談は、ほどほどにな。それより其方、内政ばかりではつまらなくはないか?」

 「はい。正直に申しますと、暇を見つけては熊退治等で憂さを晴らしております」

 だろうなあ。俺としても、この男に戦の経験を積ませたいな。いずれは軍神とぶつかる時を考えて。

 将としての力量には期待していない。ここぞという時に、切り札として投入できる戦力として役立ってもらおう。


 「蔵人、慶次郎を俺に預けて貰えぬか?」

 「加賀守様?」

 「慶次郎は内政よりは荒事に向いておろう。俺から御屋形様に、建前として陣借をお願いする。そして慶次郎は手柄を立ててくると良い。戦功に見合った褒美を俺がやろう」

 『おお!』と慶次郎が喜びの声を上げた。やっぱりヤンチャ坊主だな、この人。戦働きしてこその前田慶次か。


 「戦が終ったら、適当な時期に帰ってくれば良い。まっすぐ帰ってくるも良し、見聞を広めつつ帰ってくるも良し、京で遊んでくるも良し、好きにせよ。どうだ?」

 「是非とも!是非ともお願いいたします!」

 「分かった。段取りはつけておこう。そうなると槍作りは間に合わぬな、繋ぎとしてこれをくれてやる。伊勢の刀匠村正が俺に献上した太刀だ。俺が振るうことは無いからな、代わりに次の戦場に持っていけ」

 ゆきに命じて佩刀を持ってこさせる。それを躊躇う事無く慶次郎に手渡した。


 「村正が申していた。刀は使わなければ意味がない。故に使い潰して構わんぞ?」

 「有難く頂戴いたす!」

 「うむ。では明日にでも使いを越前へ送る。数日したら発つと良かろう。それと蔵人の屋敷に道中の費用として幾らか送っておく。好きに使え」

 前田慶次、感謝しまくっていたな。やっぱり鬱憤が溜まっていたんだろう。それでも父親が大事だから、我慢していたという所か。

 傾奇者で暴れん坊。でも父親思いの孝行息子。

 良いじゃないか。そういう奴は嫌いじゃない。


 「最後に慶次郎に伝えておく。いずれ大戦を体験させてやる。だから逸って死ぬなよ?それだけ肝に銘じておけ」

 「心得ました!」

 前田父子の面会は騒がしいながらも無事に終わった。それにしても前田慶次が潜伏していたとは気づかんかったわ。というか、気づくべきだった。我ながら間抜けすぎる。

 そうだ!よい事を思いついた!


 「ゆき、勝家が来る予定はあるか?」

 「予定では、今月中には来る筈ですが」

 「よし、なら丁度良いな。それと光秀と重元が城内にいたら、暇な時に来るように伝えてくれ。思いついた事があるから、意見を聞きたい、と。それから長次郎(風祭為好)も呼んでくれ」

 これで良し。あとは思い付きを煮詰めるだけだ。


 「加賀守様。風祭為好、参りました」

 「おお、来てくれたか。ちょっと訊ねたい事があってな。其方は独り身か?」

 「はい、妻はおりませぬが」

 なら丁度良いかもしれんな。長治郎の出自は百姓だ。藤吉郎に対しても偏見は持っていない事も知っている。


 「藤吉郎の妹、朝日と所帯を持つつもりはないか?今年で十七。妻とするには聊か遅れ気味かもしれんが、武田の尾張侵攻以来、色々あって相手を探す事も出来なかったようでな」

 「某は問題ありませぬが、肝心の朝日殿は宜しいので御座いますか?」

 「いや、これから藤吉郎を通じて話をするつもりだ。俺としては将来的な事を考えていてな、其方には藤吉郎と親戚になっておいてほしかったのだ」

 あくまでも将来的な事を見越して、の考えだ。

 長治郎が現状維持を望むのであれば、無理に結婚する必要は無い。

 だがいずれは一国一城の主に、と考えているのであれば必ず必要になる。


 「いずれ其方が所領を持つようになれば、己で差配を行わねばならん。その時、身内に藤吉郎がおれば、気軽に相談も出来るし、藤吉郎の家臣を借り受ける、という事も出来るであろう?」

 「そこまでお考えになられていたので御座いますか。加賀守様、朝日殿さえ宜しければ、是非、話を進めて戴きたく願います」

 「分かった。話が決まったら、また伝えよう。用件は以上だ。下がってよい」 

 長次郎は素直に下がったが、足音がいつもより若干、軽いような気がしたな。

 あいつはいつも俺の仕事で多忙だからな。嫁を探す余裕も無ければ、紹介してくれるような伝手も無かったのかもしれん。まあ出自を考えれば、それも納得だが。

 まあ良い。まずは藤吉郎に話をしないとな。


 その後『思い付き』について光秀や重元にも相談し、前向きな評価を受け取ってから数日後。勝家が挨拶の為に金沢城へとやってきた。

 「加賀守様にはご機嫌麗しく。何か良い事でも御座いましたか?」

 「なに、勝家の好みに合いそうなことを思いついたのよ。それで勝家も参加してみぬかと思ってな」

 「御命令とあらば」

 堅苦しいな。だが内容を聞けば、率先して参加したがるだろう。

 その真面目一辺倒な態度を思いっきり崩してやろう。


 「加賀でな、個人としての武勇を競う催しを開こうと思うのだ。まずは太刀・槍・弓・相撲といった所か。勿論、成績の良い者には褒美を出す」

 「おお!それに某を!?」

 「まあな。あくまでも個人の武勇だが。そして褒美以外にも、見所のある者がおれば召し抱えようとも考えている。兵を率いるに不向きなら切込み役で、向いているのであれば将として、と言った所か。だが北の防衛もあるのでな。勝家の所からも代わりの留守役を置く事で出て貰う事になると思う。前田も佐々も参加したがるであろう?」

 『勿論に御座います!』と同意する勝家。やはり乗り気になったか。ただ城にいるだけでは詰まらんだろうしな。

 普段から鍛えている武技を、強者相手に振るう。

 無骨物の勝家なら、必ず乗ってくると思っていたよ。


 「開催時期は秋の刈り入れ直前……待てよ?どうせなら……よし。今の内に越前や京、他にもいろいろな所に高札を立てさせて貰おうか。商人経由で広めるも良し。楽しい仕事になりそうだ」


 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは浅井家独立について。

 まだ浅井家独立の詳細については秘密です。でも独立の理由が『義治じゃあ六角家が潰れるから』。浅井家においても義治君は大人気です。パパへの尊敬の念をかき消すほどに大人気!赤尾さんなんて、直接握手を望むほどに慕われておりますw


 加賀内政について。

 まずは結婚相手周旋の御話。

 小一郎にはねねさん、長次郎には朝日を御紹介。

 朝日は史実だとすでに結婚していますが、武田家の尾張侵攻時の避難から始まるドタバタ騒ぎにより、未だに独身という事にしました。

 最初は半兵衛の妻に、と言うのも考えましたが、それは却下。ガチ武家だと、朝日には荷が重いよな。少し前まで純正百姓だし、と考えて変更。長治郎に嫁ぐ事になりました。


 そして新キャラ前田慶次登場。ただし登場と同時にドッキリ仕掛ける悪戯小僧w彼の今後については設定だけは練ってあるので、今後は徐々に登場が増えていくと思います。


 最後は天下一武闘会開催フラグw今回は四部門。新規召し抱え云々と言っておりますが、真の狙いはまだ秘密です。


 それでは、また次回も宜しくお願い致します。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ワシの許しも無しに天下一をうたうとは何ごとぞ」 と喚く方が現れそうな。
[気になる点] 格下の浅井ならば格上の武田のいる大津に出向くのが当然だと思いますが、六角に知られたくないとはいえ竹生島に呼びつけることには違和感が大きいです。 せめて宝厳寺ではなく、尾行して竹生島に着…
[一言] 浅井の言い分は、武家としてはとても常識的なんだけれど、全てが武家の都合、自分達の欲なんですよね。 そこに民の存在が欠けている。 豊かで実り多い近江が故ですかねぇ。 武田の盾として売り込みして…
感想一覧
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