加賀国編・第八話
加賀国編・第八話更新します。
今回は新年の評定(表)になります。信玄パパ視点の御話です。
※武田家人員配置図については現在、纏め中です。もうしばらくお待ちください。
永禄三年(1560年)一月、越前国、一乗谷城、武田信玄―
新たな年。一門や家臣達から新年の挨拶を受ける毎年恒例の行事。しかし不思議な事だ。十年以上前は甲斐の山奥におったのに、今では京が目と鼻の先というのは。
若狭の掌握は順調だ。同じ武田でも、我ら相手に牙を剥く度胸は無いらしい。民にしてみれば税も安くなるのだから喜んでいる者が大半なのだが。
さて、新年初めての評定だが、今年からは変更する事に決めた。
まず俺は基本的に見届け役だ。太郎(武田義信)と二郎(武田信親)に任せる。三郎(武田信之)と四郎(諏訪勝頼)は俺の傍で待機。とにかく見て聞いて学べと言った所だ。
「では新年の評定を開始する。加賀守(武田信親)、まず武田家としての基本方針を説明せよ!」
「心得まして御座います。まず今年は丹後国を獲ります。名分は丹後を領する権利を持つ若狭武田と一つになった武田本家には丹後を領する権利がある、という物です。そして目的は山名への足掛かりを作る事。ですが山名も馬鹿ではないでしょう。必ず丹後に対して支援に入る筈。そして隣国である丹波は三好にくれてやります」
ざわめいたな。気付いていそうなのは、信繁に勘助、弾正(真田幸隆)といった辺りか。頼もしい知恵者よ。
「何故か。丹波は毒饅頭。食らえば腹を壊します」
「それは如何なる事か、説明を願えますか?」
「理由は三つ。一つ目は地の利。丹波を支配する波多野家に対して圧倒的に有利な地の利。攻めるとしたらかなりの損害を覚悟して攻める必要があります。二つ目は国人衆を始めとして『親足利家』の者が多い土地である事になります。三つ目は三好の不興を買わぬ為。丹波には三好家家臣、内藤備前守を中心とした軍勢が度々攻勢をかけております。にも拘わらず丹波を獲れば、後々、厄介な事になりましょう」
そういう事だ。三郎や四郎は納得できたようだな。武田は形式的には足利公方に仕える立場だからな。大義名分は必須よ。
「故に、三好と分かち合う。三好は丹波、武田は丹後。時期を合わせて同時侵攻を仕掛けます、さすれば山名もそう簡単には援軍を送れなくなります。送ったとしても、数は減るでしょう。油断だけは出来ませんが」
「加賀守、何か気懸かりでもあるのか?」
「私が山名の立場なら、波多野には時間稼ぎに専念してもらいます。その上で全軍を投入して丹後を支援する。背後の尼子は一年限定の相互不可侵を約する。そして丹後を助けた後に丹波へ向かう」
丹波の地の利か。確かに籠もられると三好と言えども手間は掛かる。その間に武田を、か。山名も守護職だ、それなりに力はあろうな。
皆も納得しておるわ。戦力の集中。敵にやられると本当にやりづらいわ。
「更に丹波には手練れの忍びが潜んでおります。名は村雲党。伊賀甲賀に匹敵する忍び衆であり、波多野家に忠誠を誓っているとの事。丹波を攻めれば、間違いなく敵に回る。ならば丹波は三好に任せ、滅ぼして貰う。しかし滅びる前に、こっそり裏から手を回して恩を売るのです。若狭か丹後に一族が暮らしていける程度の土地を用意してやれば宜しいでしょう」
「丹波の代わりに村雲党を獲る、か」
「畿内から西は村雲党に調べさせるのが良いと判断しました。そして武田忍びは東を調べさせます」
良い案だ。しかし東に目を向けるとは、何かあるのか?
皆も同じ思いらしい。勘助達も同じだな。二郎だけが何かに気付いたか?
「割って入らせて貰うぞ。加賀守、東で騒乱が起きそうなのか?」
「大御屋形様、あくまでも可能性で御座います。まず現在、公方は京におります。が、不満はあるでしょう。実権を三好家に握られ、傀儡を強制されているのですから」
確かにそうだ。力が無いのだから、仕方ない事。それを理解出来ないのだから、つける薬が無い……それか!?
「昔から公方は文で三好討伐の為に立ち上がれ、と周囲を焚きつけております。であれば、そろそろ病が再発してもおかしくは御座いませぬ。それに武田は領土が東西に伸びております。気軽に端から端へ援軍を送れ、とはいきませぬ」
「……狙うとすれば、どこだ?」
「某ならば、甲斐か駿河を狙います。あの公方にとっては成功するかどうかは関係ない。そして重要なのは、北条は強かだという点。北条家には北条幻庵と風魔衆がおります。やりようは幾らでも御座います」
それなら二郎が東へ忍びを送りたがる理由がよく分かる。大火になる前に小火で済ませたい、と言う事だろう。
それには情報が必要不可欠だ。
相手は風魔衆。油断など出来る相手ではない。
「風魔が得手とするのは付け火と流言と聞きます。三郎、注意するのだぞ?」
「心得ました、兄上!」
うむ。それで良い。だが伯耆守(秋山虎繁)と源五郎(高坂虎綱)がついておれば、万が一もあるまい。
特に源五郎は慎重な男だからな。
二郎のように、情報を集めている男だ。任せておいても問題は無いだろう。
「しかしながら、そこで一手、先んじて手を打つ事を御屋形様に御提案致します。越後長尾家との相互不可侵を発展させ同盟にさせます」
「加賀守、その目的は?」
「信濃、越中方面の長尾兵を関東侵攻へ利用させ、北条家にぶつける。結果、両者は力を削がれる」
その手があったか!これは儂も見落としていたわ。
確かに長尾家の信濃・村上家に対する支援。越中・椎名家に対する支援。この二つの為に兵を割かざるを得ないのが現実だ。
だが武田家と同盟になれば、どうなるか?
村上、椎名には関東侵攻の間は静かにするように。武田は攻めてこないから内政に注力しろ、と言いつけて支援兵力を関東方面へ回す事が出来る。
そうなれば、越後兵の数は増える。
結果として、北条家との争いはますます激化し、両家ともに疲弊を余儀なくされる。
「現在の長尾景虎は『関東管領』に就任して御座います。これは公方も認めている事です」
「つまり武田が攻めてこないという保障があれば、長尾景虎は関東管領として全力で責務を果たせる。こういう考えで良いのか」
「然様に御座います。ですが武田から申し出ては疑われます。しかもこの事が北条に伝われば、北条と武田は全面戦争になります。北条にとって武田は裏切り者になりますからな。故に、武田は『命じられて同盟を受け容れる』という体裁を取ります」
何名かは気付いたようだな。武田が渋々受け入れる存在が一人だけいる。
まさか、こんな所で利用する事になるとはな。
「公方を利用致します。細川兵部大輔殿を動かし、関東管領殿に責務を果たさせるには、背後の安全が必要不可欠。それを為せば関東管領殿を上洛させる事も可能になる。故に武田と長尾の間で、相互不可侵の代わりに同盟を結ばせるべき、と具申させるので御座います。後は交渉で同盟期間は三年程度に致します。いや、多分それぐらいになる筈で御座います」
「何故だ?」
「公方は武田の力も削ぎたいからです。その為には長尾を武田にぶつけるのが確実。それには現状の相互不可侵が続いたり、長期的な同盟を結ぶと公方の目的には反してしまう。だから年数限定にするのでございます」
二郎の言葉に、太郎が重々しく頷く。
さすがに人の良い太郎でも、公方の欠点は認めるしかなかったようだな。
しかし、公方も愚かだわ。公方に仕えて戦えば戦う程、国が疲弊して御家が傾くような事になれば、誰もが足利家を見限る、という事を理解しておらんのだからな。
それに潰し合いを促進させるだけでは、日ノ本の乱世は未来永劫終わることは無い。
やはり、折を見て公方の排除も考えなければならんかもしれんな。
「長尾が関東へ進出し、疲弊した力を回復させるには三年は見た方が良いでしょう。細川はそう動かします。だが公方としては、武田の現状が面白くない以上、必ずチョッカイをかけてくると見ております。例えばで御座いますが、関東管領の権限には『甲斐』も含まれる。故に甲斐も平定せよ、等と抜かす事も無いとは言い切れません」
「そうか、甲斐は関東に含まれておったな」
「御屋形様の仰せの通りに御座います」
そうだな。甲斐云々はともかくとして、間違いなく公方は動くだろう。同盟が切れた辺りで、長尾と武田をぶつける事も不可能ではなくなるからだ。
公方としては、武田も目の上のたん瘤の筈だからな。
「具体的な手段として、まずは武田・長尾の関係を自然と消滅させる。それには三年の同盟が終われば良い。これは相互不可侵の代わりが同盟である為です。結果として武田・長尾の関係が無くなる事になります。そこに付け込む為に長尾を上洛させ、内密に武田討伐を命じる」
「そうなると長尾と争う事になるのか」
「すぐに、では御座いませぬが。武田が誠意ある対応を取る限り、長尾景虎という男は動かぬでしょう。そして時間を稼ぎつつ、いつでも戦えるように牙を研いでおきます。武田としても、いずれは長尾と争わねばなりませぬ。ただ今は時期尚早です」
そうだな。まずは山陰へと攻め込む。こちらは三好と協力しつつ事を進めるのだ。そして、二郎は越中へ楔を打ち込むつもりだろう。長尾の心配が無い間に、一向一揆を潰して領地にしておく。三年もあれば十分に越中侵攻が出来るだろうな。
「ここで重要なのが、公方の思惑を外す事。公方は武田と長尾をぶつけたい。だから武田はその思惑を躱す」
「どうされる御積もりなのか、伺っても宜しゅう御座いますかな?」
「勘助、上洛を手伝ってやるのよ、全面的にな。公方の臣下として、当然の義務であろう?どこにおかしな点がある?」
勘助、幸隆、信繁が笑いだしたわ。確かにこれは有効だ。武田は長尾に道を貸してやるだけだ。関東管領が公方に謁見したい。ならば領内を通って良し、と許可を出せばよい。長尾にしてみれば、武田は公方の命に忠実に従っていると判断する。そして長尾景虎は馬鹿ではない。武田の領内で暴れるような事はしないだろう。
結果、武田は力を温存し、公方は長尾を己の刃として武田にぶつける事が出来なくなる。
「これによって公方に残された逆転の一手による、三好・武田の壊滅を未然に防ぐ事も叶います」
「……待て待て、加賀守、それはどういう意味だ?」
「大御屋形様。公方にとって、三好とそれに与する者達は目の上のたん瘤。それを排除する最も効果的な方法とは何か?それは本願寺・尼子・山名・長尾・北条による武田・三好包囲網を築き上げる事。これにより武田は長尾・北条から全力で攻められる。被害は甚大となりましょう」
まあ儂も考えてはおったがな。二郎も考えておったか。可能性は低いとはいえ、無視できる事ではない。寧ろ、用心して対策を講じておくべき問題ではあったな。
「これを為すには、長尾・北条間の敵対意識が我慢できる程度である事、長尾が北条や蘆名を無視して全力を武田へ投入できる事、加えて武田が不忠の家であると長尾景虎が確信する事が前提条件になると某は考えます」
「それを関東侵攻によって潰す訳か」
「然り。自領を荒らされては、北条も面白くはないでしょう。加えて、その侵攻が『公方』によって認められた『関東管領』による物だとすれば?北条は余程の好条件でなければ手を結びはしないでしょうな。そして甲斐を武田が支配する限り、その気になれば長尾の背後を突けます。結果、北条は武田を敵に回せなくなる。そして先ほど申し上げた長尾景虎が武田を敵として見ない限りは、長尾も武田の敵に回らなくなる。自然と長尾と北条は争いを続ける事になりましょう」
よくもまあ考えた物だ。ここまでの考えがあれば、敢えて長尾の上洛を邪魔する者は武田家中にはおらぬであろうな。
「何か問いたい事のある方はおられるかな?」
「兄上、宜しいですか?」
おや、四郎か。どうしたのだ?
「兄上は公方様に忠義を誓っておらぬのですか?そのように聞こえたのですが」
「正にその通りだ。俺にとって公方は利用すべき対象であり、役に立たなくなったら捨てるだけの存在に過ぎん」
四郎め、絶句しとるな。さすがに二郎の冷酷な一面は衝撃が強かったか?だがこれも良い経験だ。しっかり学ぶと良い。
「四郎。其方に質問だ。武家の基本、主従の関係とは何だ?」
「えっと……」
「御恩と奉公だ。よく覚えておくのだ。家臣は主に忠義を誓う。だがそれは無償の奉仕ではない。御恩、すなわち手柄に対して褒美――領地が与えられるから、家臣は主に忠義を尽くす。それはある意味取引と言うべき物であり、鎌倉以来の関係性なのだ」
本当に二郎は現実をしっかり把握する男だ。
褒美無くして忠誠は得られぬ。その事をよく分かっておる。
「その鎌倉は元寇で褒美を与えられず、弱体化して滅びを迎えた。その後の南朝――後醍醐帝による建武の新政が僅か二年で終わったのも、後醍醐帝が褒美をケチった事が原因なのだ。故に足利尊氏公は多くの不満を持つ武士達の支持を受け、征夷大将軍となった。さて、そこで四郎に質問だ。武田は上洛に協力したが、十分な御恩を得られた、と思うか?」
「いえ、思いませぬ」
「そうだ。公方には御恩を与えるだけの力が無いのだ。故に奉公を受ける資格も持たぬ。公方の傍にいる者達も、実際には三好家から禄を恵まれている立場だ。それなのに文句を口にする。正に無能と評すべきよ」
二郎、もう少し歯に衣を着せよ。家臣の半分ほどが顔を引き攣らせておるぞ。
「更に質問だ。俺は御恩という物を領地から多額の俸禄に切り替えた。この理由は分かるか?これは鎌倉滅亡にも繋がっている」
「鎌倉滅亡は御恩を与えられなかった事。御恩とは領地……土地が無い?」
「半分正解だ。領地を分け与えるのは構わない。だがな、ここで問題がある。武士と言えど人の親だ。我が子は可愛い。そして子が大きくなれば、領地を分け与えたくなる。例え、領地が細かくなったとしてもな。つまりどれだけ大身であっても、力が衰えてしまうという結果に結びついてしまうのだ。良い例が分家だ。俺は加賀武田という分家だが、この分家を作る為に、武田本家は加賀を手放した。それだけ領地が減った事を意味するのだ。ここまでは分かるか?」
四郎が頷く。三郎もしっかり聞いているようだな。うむ、何よりだ。二郎の言葉、己の血肉とするのだ。
それにしても、まさか評定でこのような機会を得られるとは思わなんだわ。
間違いなく、二人にとっては大きな経験となるだろう。
「だから俺は考えたのだ。鎌倉は俺が言った状況下で元寇を受けて滅んだ。それならどうするべきか?存在しない領地を、どうやって与えれば良いのか?俺の答えは御恩は領地という考えを切り替える事だと考えた。つまりは俸禄よ。俺の元には与力以外にも家臣――本家から見れば陪臣がいるが、基本的には俸禄だけだ。家老職の柴田勝家も年四千貫文払っているしな」
『四千!?』という驚きの声が上がった。それはまあ驚くだろうよ。四千貫文といえば、朝廷の献金を余裕で払える額だ。領地など無くても、それだけあれば満足しかない。
特に武田家の場合、俸禄を受ける者は常備兵を預けられるからな。つまりは寄親寄子制の例外なのだ。故に、自分と直属家臣の雇用だけで済むのだから、生活はかなり楽な筈だ。
「同時に、俺は家臣の中から内政専門家を養成して、加賀領内全ての産業振興を行っている。これは俺が直轄しているからこそ、加賀全体で計画的な内政を行えるのだ。良い例が用水路だな。そして、それがあるからこそ家臣達は戦働きや練兵、外交や治安業務等に専念できるという一面もある」
「それでは領地に拘る家臣はどうしているのですか?」
「城主になれば、領地を与える事にしている。基本方針さえ実行すれば、俺の手間が減って楽になるからな。問題は、城主になっても誰一人として領地を望まん事だ!内政が面倒臭い、自分には難しい、何をどう指導すれば良いか分からない、教えてやるから自分で仕事をしやがれというんだ!」
二郎め、鬱憤が溜まっておったか。皆は……おい、顔を伏せた奴、今すぐ顔を上げろ。俺自ら内政のイロハを叩きこんでくれるわ!どれだけ俺や二郎が頭を使っていると思っておるのだ!
「藤吉郎、小一郎、小六、利久、奥村がいなかったら俺の負担が大き過ぎだ!幾ら俺でも、この目では出来る事に限りがあるわ!」
「兄上、御苦労されているのですね」
「甲斐に遠江とやってきたお陰で経験だけは豊富になったわ。話を戻すが、俺が公方に敬意を払わぬ理由は分かって貰えたと思う。三郎、四郎、公方の有様を己の将来とせぬよう心掛けるのだ。良いな?」
「「はい!」」
良き返事だ。主たるもの、家臣の忠誠を当たり前と感じてはならぬ。家臣にも心があるのだ。不満を貯めれば、いつかは爆発する。
そういう意味では、二郎は稀有な奴よ。特に孤児出身者達は主従というより同胞に近い関係性だからな。素直に羨ましく思うわ。
二郎が健在な限り、加賀が落ちることは無いであろうな。
「最後に、御屋形様」
「うむ。皆に報告する事が四つ。まず一つ目だが弟、四郎の初陣だ。先ほど出てきた丹後攻めにおいて初陣を飾らせる。四郎、父上が傍に付いていて下さる。焦る事無く武功を挙げるのだ」
「はい!」
うむ。徐々に経験を積ませ、諏訪を、ひいては信濃の差配だな。いずれは遠江も任せたい所だが。そうなると真田だが、どこを任せるか。山陰、山陽に所領を増やしたい所だ。
「二つ目だが、昨年の秋だったか。加賀守が懇意にしている神屋が、知り合いの商人から気になる情報を聞いたというのだ。畿内で米の価格が上がりだしている。これ自体はおかしい事ではない。我ら武田家もそれに一役買っているからだ。だが気になるのは、北近江で米の買い入れが始まっているという話であった事だ」
「北近江、と申しますと確か浅井家でしたな。当主は久政。六角家に与していると聞いた覚えがありますが」
「それよ。加賀守が更に調べてくれたのだが、かなりきな臭いらしい。まさかとは思うが、北近江はこの越前の隣国だ。万が一があるやもしれん。油断だけはせぬように。良いな?」
皆が声を合わせて応じる。すぐ喉元で騒ぎが起きようとしているのであれば、武田も無縁ではいられぬからだ。
「三つ目は交易だ。蝦夷地との交易を開始するよう加賀守より献策があった。武田家による蝦夷地との交易は武田本家の独占とする。だがこれは将来的な変更もあり得る」
うむ。本家で利益を独占し、それを家臣に御恩として分け与える事で忠誠を強くする。それが二郎の真の狙い。新しく入ってきた新参の者達を武田から離れられなくする事が狙いなのだ。
それにしても、よくもまあ考え付いた物だわ。
こんな方法、俺は考えもしなかった。勘助や信繁も呆気に取られていたからな。
だが二郎によれば、これは応用が利くというのだ。
蝦夷だけではない。越前の三国湊や若狭の小浜湊で明の商人を相手に交易を行って利益を稼ぐ。南蛮商人を相手に、同じように交易をする。そして得られた利を家臣に俸禄として与える。正に蝦夷相手に行う事と全く同じだ。
それだけではない。
湊に補給の為に立ち寄る商人達は、湊の利用料を払わなければならない。それを逆手にとって、領内に店を出して税を納めれば、湊の利用料をタダにする――例えば越前に店を出せば、三国湊の利用料は無料――という方策を出してきたのだ。
特に武田領は加賀・越前・若狭と東西に広い。それだけ船が立ち寄りやすい、という事だ。加えて、将来的に能登・越中・丹後から山陰へと伸ばしていけば、交易船は嫌でも武田領の湊を使わざるを得なくなる。
そうなれば商人達は、その都度、新たな店を出店する事になるのだ。結果、武田家に納められる税の総額も増えていく事になる。
視点を南に向ければ、駿河・遠江・三河・尾張・北伊勢とこちらも東西に広い。となれば、自然とこちらも同じ事が可能になる。
実に良き案だと感心したわ。
単純に考えて、港の利用料>税であれば、商人達は挙って店を出すだろう。その方が安上がりだからだ。多少、足が出たとしても、湊を二度三度と使えば、必ず元は取れる。
そうなれば商人達は、ここぞとばかりに武田の支配下にある国に店を出し、交易船を出して取引に励むだろう。その結果、交易船を持つ商人と取引を望む、領内の商人の数も増える。それは新たな商人が増える事であり、納税額が増える事でもあるのだ。
これは何があっても、湊は死守しなければならん。必要に応じて、城を築く事もしなければならんだろう。
「四つ目は学び舎の件だ。幸い、加賀の学び舎も建築が終えられるそうだ。故に三月まで信濃で学んだ者達は、加賀へと移動になる。その旨、皆も心得ておくように」
これからの武田家を支えていく若武者達の為の学びの場。
いよいよ政について学ぶべき場所が出来たのだ。実に感慨深い。十年ほど前は、民を食わせる事で精一杯で、このような事をしているだけの余裕が無かった。
それが、今の武田家ならば十分に可能になったのだ。
『やっとここまで来た』という想いと『まだまだここからだ、気を引き締め直せ』という想いとがある。
民を飢えさせぬ今荀彧。その知識を少しでも良い、身につけて貰いたい物だ。
今回もお読み下さり、ありがとうございます。
まずは本家の基本方針として丹後攻め。丹波は三好に任せて同時侵攻しようね、という計画。
そして本命は村雲党の強奪w主人公的には村雲党>丹波国という感じです。
一方で武田家を守る為、対公方、対長尾を想定して長期的視点による防衛計画の稼働開始。簡単に言えば敵同士で潰しあわせよう、という物です。そして武田家が責められぬ為に、公方をスケープゴートに。
対三好・武田包囲網。これは織田信長包囲網を知っているからこその発案でもあります。強大な敵を相手に連合軍を組むというのは定石ですからね。合従軍みたいに。
四郎君を生徒とした、主人公による簡単な歴史教育(御恩と奉公編)。
そして溜まった鬱憤が噴火w信玄パパも内心では不満を貯めております。
怪しい動きを見せる北近江浅井家。
主人公は野良田の戦いを知識として知らないので、まだ警戒レベルです。
再び内政に戻って、今度は蝦夷との交易。そして交易から港の利用料を逆手にとる計画。今風に言うなら、武田領内に支店を増やせば、法人税を減らすよ?みたいな感じです。
話は変わって次回です。
次回は新年の評定(裏)になります。
ヒントは甲斐時代。八話に伏線が敷かれております。良かったら想像してみてください。答え合わせは次回の話で、各自で確認お願いします。感想として書かれても、ネタばらしになるので答えられませんからw
それでは、また次回も宜しくお願い致します。




