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加賀国編・第三話

 加賀国編・第三話更新します。


 今回も内政中心。ただ将来の事を見据えての計画等もあります。


 ところで何度やっても、段落の頭が一文字スペース取れない時があるんだけど、何ででしょうね?今回も醤油の所とか、何度やっても反映されないんですよ。開き直って放りだしましたがw

永禄二年(1559年)九月、加賀国、金沢城城下町、井伊邸、井伊藤吉郎―



 加賀守(武田信親)様から指示を受けた俺は、その日の内に人員を編成。仕事を効率よく行う為の体制を整えた。

 まず農村を担当する者達。こちらは検地担当者四名と、用水路や竹林の為の周辺情報の把握を担当する一名、合計五名編成になる。これを水源に近い村から各農村に一部隊ずつ送って調べていくのだ。更にこれを都合五部隊編成して、情報収集を最初に終わらせておく。

 ちなみに周辺情報把握担当者は、村の戸籍作りも同時進行で行わせていく。仕事は無駄なく効率的に行わねばならんからな。


 一方で土木工事専門である林部隊の用水路作成担当者達は、調査の終わった村から用水路作成に入る。材料は浜松と同じローマン・コンクリート。これを少し高い場所に作って、田畑に水を引きやすくする。用水路への水の引き込みは揚水水車になるが、それの出番はまだ先。用水路作成が完成してからになる。基本的な指示さえあれば連中は現場で何とかしてしまう。それだけ経験が豊富なのだ。 

 用水路は幼子の転落による事故死を防ぐ為、二つほど工夫を施す予定でいる。 


一つ目は高さだ。用水路を高くするのは、田畑へ簡単に水を引き込みやすくする為もあるのだが、単純に幼子が落ちにくい、という理由もある。

二つ目は用水路は直線ではなく、所々を曲げていくつもりだ。直線だと落水した時に、遥か先まで流れ続けてしまうからだ。だから、万が一流されても、助かる事が出来るような行き止まりを用意しようと考えた。

 俺も子供が生まれたばかり、幼子が死ぬのを見たくないのだ。

 これらの作業中、必ず百姓達から質問が飛んでくる。当たり前の事だが、これにも対応せねばならない。俺も弟の小一郎も大忙しだ。


 その一方で、塩作りの試験設備建築も進んでいる。まだ大工や竈作りの経験のある連中を募って設計図を描いている段階だ。それが終ったら場所の選定。それから建築。まだ時間は掛かるだろうから、それまでの間に検地を進めておく。

 あとは産業担当の山と製造専門の雷については報告書の確認だ。


  「まず山から確認するか。シイタケ栽培に適した場所を確認。許可が下り次第、栽培拠点の建築に取り掛かる、か。よし、これは問題ない。資金を準備して実行開始だ」

 シイタケの報告書を脇に置き、次に目を通す。


  「澄酒についてだな。駿河から醸造職人が来てくれる、か。これは有難いな。しかし製造を一部の店で独占というのも不満が溜まる気がする。加賀守様に相談するか。職人や店に好きに作らせ、売り上げの一割程度を税として納める酒税という方式を導入できないか?と。そして定期的に美味しい酒を決定し、それを献上酒として扱えないだろうか?武田家全体にも関わる事だ、俺の勝手な判断では出来ん。これは要・相談と」

 澄酒の報告書には、端っこにレ点を打っておく。これは後で二郎様に報告が必要な案件と言う意味だ。


「醤油製造もそうしたい所だが、これは武田家以外では作っていない。下手に公開すると、瞬く間に広まるだろうな。それに加賀守様から伝えられた魚醤の件もある……やはりここは加賀守様が仰せになられた通り、魚醤だけは民に広めるか。醤油は高級品として武田家で作り続けるとしよう。少なくとも暫くは。いずれは製法を公開して代わりに税を得るべきだろうが、今は独占で利を得る方が良いだろう」

醤油は製造場所を確保するだけだ、特に許可を得るべき事も無い。故にこちらは問題ないと判断して、何も印を付けずに机の端へ置く。


 「次は……漆を発見?それも群生しているだと?これは新たな産業になるじゃないか!これは必ず報告しないといかん!」

これは端に◎を付けておく。漆器は高級食器として流通している。だがここは薄利多売で行くべきだろうな。民の冬の生活を安定させる事が目的なのだから、まず売れなくては話にならん。幸い、隣国である能登には漆塗りを生業とする者達がいると聞く。職人達を招聘すれば、新たな産業として活用は可能だろう。そして職人達が育てば、その時は高級漆器として大々的に売り出すのだ。その事も併せて御提案するべきだろうな。


  「次は雷からか。まずは硝石。うむ、これは問題ない。遠江から硝石土を運搬して、ここで作るだけだ。場所の選定をしないといかんな。これは忘れぬよう、最後にもう一度確認するか」

文を一番下に再移動。これで一番最後に、もう一度目を通す事になる。

迂闊にも忘れるという事はない。


  「次は玻璃作成。場所だが、これは加賀守様と相談したいな。竈の排熱、何かに利用できんか?例えば塩作りの傍で行って、煙を利用するとか。確か玻璃の材料には塩水を吸って成長する植物の灰が必要だと雷が言っていた気がするが。場所が近いのは都合が良いしな。これも相談だ」

 これはレ点。塩製造の設計図に手を加える必要もあり得る。

 だが、上手く言えば海沿いの村々では製塩と玻璃作成が村の生業となるだろう。

 間違いなく、海沿いの村は発展するな。


  「よし、では報告に向かうか。小一郎、小六殿、加賀守様の所へ報告に行ってくる!済まぬが留守を頼む!」

 離れた所にいた二人が手を振ってくる。

 俺は早足で金沢城へと向かった。

 まだ暑さが残っている為に、すぐに額に汗が浮かんでくる。それを手の甲で拭っていると、ガキの時分にかか様と畑仕事をしていた時の事を思い出した。


 「早くかか様を呼んで、一緒に暮らしたい物だ。そうだな、虎殿に連れてきてもらうか。後で文を出そう」

 基本的に城下町の中では馬への騎乗は禁じられているのだ。二郎様曰く、城下町を馬で走ったら死人が出ると。

 俺もそう思う。だから歩いて登城する事に不満は無い。

 城門をくぐり、そこで大柄な背中を見つけた。


 「柴田様、ご苦労様です」

 「おお。井伊殿か。二郎様への報告か?」

 「はい、現状の検地と用水路、あとは山と雷の報告です」

 「……よくもまあ、それだけ同時に仕事が出来るな。感心するわ」

 柴田権六勝家様。元は尾張末森城の織田勘十郎(織田信勝)殿に仕えていたが、主が実兄の弾正忠(織田信長)様に殺された後は屋敷に引き籠もり、これからどうするか考えていたそうだ。そこに加賀守様の使者―恐らくは風が声を掛け、長島攻めで手柄を挙げた結果として、今は家老を務められている。

 柴田様と言えば猛将、勇猛という言葉が良く似合う。だが意外な事に、実は政にも適性があるそうだ。何でも末森城にいた頃は、その手の御役目もこなしていたそうである。


  「かくいう柴田様もお忙しいのでは御座いませぬか?能登の一向一揆勢に対して、防衛の為に国境の砦に入られる御予定、と伺っておりますが」

  「まあそういう事だ。能登・越中は危険だからな。幸い、ここには火部隊がおるし、万が一があってもなんとかなる」

  「国境の守りは重要ですからな。そういえばここまでの道のりは、やはり荒れておりましたか?」

俺の問い掛けに、柴田様は顎を撫でながら考え込まれた。

 恐らくは、行軍の時の事を思い出されているのだろう。


  「確かに行軍には不向きであったな。普通ならそれでも良いだろうが、加賀守様は望むまいよ。お主の仕事が増えそうだな」

 「真に御尤もで御座います。道を整備すれば、加賀国はますます栄えるでしょう。十年後、二十年後が楽しみで御座います」

 林は用水路作りに回っているが、道の普請も出来る。間違いなく、俺にお鉢が回ってくるだろう。

 本当に仕事は山程ある。人手は幾らあっても足りることは無い。


  「それにしても、真に恐ろしいのは加賀守様です。俺は林山雷だけですが、甲斐時代のあの御方は風火陰まで含めて一人で六部隊を統括していたと聞き及んでおります。ゆき殿の働きもあったでしょうが、仕事の処理能力が尋常では御座いませぬ」

 「全くよ。これで盲目というのが信じられんわ。もし目が見えておったら、今以上に活躍されたであろうな」

 本当にとんでもない御方だ。武田の荀彧、王佐の才という評価に偽りはない。

 俺は本当に運が良かった。加賀守様の眼鏡に叶う事が出来たからだ。

 加兵衛(松下之綱)様といい、加賀守様と言い、俺の実力を認めてくれる御方に出会えたのだ。俺は主に恵まれる運があるのかもしれんな。


  「あの御方の統治された地は、どこも恵まれた地になりつつあります。甲斐にしろ遠江にしろ、領地に望む御方が多いと聞きます。それに三河の松平様、信濃の真田様は加賀守様のやり方を取り入れ、時に助言を受けておられるとも」

 「そういえば松平様は加賀守様に弟のように可愛がられていたという話を聞いた事があるな。それに加賀守様は三河味噌が好みらしくてな、定期的に松平様が贈り物として届けているとも聞いている」

 「繋がりが強う御座いますな」

 確かに加賀守様は面倒見の良い御方だ。俺を引き立ててもくれたし、味方には親身になって下さる。身分や出自にも煩い事は無い。寧ろ、もう少し拘っても問題ないのでは?と思う程だ。

これほどお仕え甲斐のある主はいない。特に俺のように、出自に難のある者であればある程、加賀守様は素晴らしい主と思うだろう。


 「そういえば、柴田様。今日は随分と静かでは御座いませんか?いつもなら明智殿の種子島の調練の音が響いている筈なのに」

 「……何かあったか?井伊殿、念の為に加賀守様の下に急ぐぞ」

 柴田様の後に続くように俺は走る。城内におかしなところは無い、いつも通り……おや?


 「源五郎殿!源五郎殿ではございませぬか!」

 「藤吉郎殿!それに柴田殿も!」

 「おお。源五郎殿か。丁度いい、明智殿の種子島の音が聞こえぬが、何か有ったのか?」

源五郎殿が駆け寄ってくる。もうすぐ信濃の真田様の下に帰るらしい事は聞いている。初めて会った頃と比べると、すっかり大きくなってしまったわ。

 あと数年すれば、俺より大きくなるであろうな。

 きっと皆に褒め称えられるような、若武者として名を馳せるのだろう。


 「明智殿なら加賀守様と話をされております。竹中殿とゆき様も御一緒で御座います」

 「ほう?一体、何を話しておられるのか、聞いておるか?」

 「なんでも新しい形の迎撃拠点だとかで。明智殿が仰るには殺し間がどうとか」

 また物騒極まりない言葉が出てきたわ。加賀守様は面倒見は良いが甘くはない。特に敵対者については老若男女の別なく皆殺しを旨としている。能登や越中の一向一揆勢が加賀へ急襲してこないのも、加賀守様の事を警戒しているからだろう。

 加賀守様の悪名は、敵対者にとっては強烈極まりない武器でもあるのだ。


 「加賀守様!柴田殿と藤吉郎殿がいらっしゃいました!」

 「おお、入ってくれ。済まぬな、二人とも、また時間が出来たら意見を聞かせてくれ」

 「はは!」

 明智殿竹中殿が左右に控える。ゆき殿はいつも通り、加賀守様を補佐する為、加賀守様の脇に移動なされた。

 俺は現状の報告と改善の提案を、柴田様は砦の補修費用の見積もりの報告をササッと済ませる。


 「ところで、何やら相談しておられたようですが、お伺いしても宜しゅう御座いますか?」

 「あくまでも将来的な事だがな。いつかは越後とぶつかる時がくるやもしれん。その時の為に、軍神の攻勢を食い止めるための防御を考えておったのよ。まあ無駄になるのが一番だがな。今は相互不可侵であるし」

 越後の軍神とはぶつかりたくはない物だ。尋常な被害では済まぬだろう。

 長尾も武田も強い。国力という意味では武田が圧倒的に上だが、それでも軍神に采配された越後兵と正面からぶつかるのは御免被るという所だ。


 「源五郎、祐筆に伝えてくれ。京の御爺様宛に浄土真宗の坊主を、加賀へ派遣してほしいと。目的は一向門徒を浄土真宗の他の宗派に切り替えさせることだ。こちらからの条件としては、政に口を挟まぬ事。これ一つだけ。問題なければ寺は用意しておく、とな」

 「はい、伝えます!それでは失礼致します。」

 「うむ、頼んだぞ。それから藤吉郎、其方に仕事を一つ追加だ。伊勢の村正がな、弟子が加賀で独立したいという文を寄こしてきた。済まぬが候補地を幾つか用意してやってくれ。雷の国友出身者に訊けば、鍛冶師の望む詳しい条件について教えてくれるだろう」

 加賀守様の仰せに『はは』と頭を下げる。一方で柴田様は『おお!』と満面の笑みだ。余程村正の太刀が気に入っていたのだろう。

 実際、俺も一振り頂いたのだが、切れ味が尋常では無かった。あれは危険過ぎる、素直にそう思った。

 荒事に慣れ親しんでいる、小六殿や将右衛門(前野長康)殿も村正を愛用しているらしい。治めていた所領が伊勢に近かった為、手に入れる機会には困らなかったのだろう。


 「それとゆき、風の長次郎を呼んでくれ」

 ゆき殿が呼びに行く、暫くすると長次郎殿が来られた。

 風祭長次郎為好。それが彼の名であり、ゆき殿達と同じ、最初期の孤児出身者だ。今は風の副将を務めている。


 「長次郎。其方を風の大将にする。今までは俺が大将、其方が副将だったが、本日より変更だ。風の運営、其方に任せる」

 「あ、有難き幸せ!」

 「それと浜松で造らせていた船も其方に任せる。米の転売で銭を稼げ。港は暫くは越前を使え。加賀に出来たら移動だ」

 「はは!」

 長次郎殿は本当に嬉しそうだ。今までの働きを認められたという事なのだ。喜びもひとしおだろう。

 これで加賀守様は火と陰だけを直接管理する訳か。


 「加賀守様、質問しても宜しゅうございますか?」 

 「どうした藤吉郎」

 「何故、急に仕事をお任せに?某も長次郎殿も、仕事を任せられるのはとても嬉しく思います。しかしながら、あまりにも急な御話で御座います。何か理由が御有りなのでは?と思いまして」

 明智殿と竹中殿は俺と同じ事を思ったのだろう。頷きつつ加賀守様へと顔を向ける。

 柴田様は感情は表に出さず、無言のまま。

 ゆき殿は沈黙を保ったまま、少し俯き加減だ。


  「藤吉郎の申す通りよ。俺は俺で直接やらねばならん事がある。その分、負担を減らす必要が出来たのだ」

 「そういう事で御座いましたか。質問にお答えいただき、真に忝う御座います」

 「よい。それと長次郎、風から十名ほど俺に回せ。少し働いてもらう事がある」

 


永禄二年(1559年)九月、加賀国、金沢城、ゆき―



 私の目の前で、月は大人しく眠っている。ついさっき、私の乳を飲んで満足したのだろう。この子は本当に大人しい良い子だ。

 不思議な事だ、いつまで経っても見飽きるという事が無い。

 そういえば、本来なら乳をあげるのは乳母の役目。だが、二郎様は私に直接、乳をあげるように仰せになられたのだ。

 『乳母の役目は重要だ、それは俺も認める。ただな、出来る事なら赤子には母の乳をくれてやりたいのだ。頼めるか?』

 そんな事があり、今は私自ら月に乳をあげている。

 こうして月を見ていると、本当に幸せだと思う。


 「ゆき、入るぞ」

 「二郎様、お出迎えもせずに申し訳ございません」

 「気にするな。それと源五郎は隣で控えておれ」

 源五郎殿は素直に隣室へ移動する。これからの会話は聞いてはいけない物だと分かっているのだろう。本当に賢い子だ。


 「ゆき、其方の下に文は届いておるか?連中についていった者達だ」

 「……よくお分かりですね。こちらになりますが、どうして来ていると分かったのですか?」

 「俺が帝の娘婿になるからな。正式に縁組する前に動くだろうと読んだだけだ。それに今の加賀は落ち着ききっていない。加えて武田本家は越前支配に夢中。俺が連中なら、今から雪融けまでの間を狙うな。そして俺が死ねば、加賀は草刈り場となり、武田家の後背が無防備になる」

 差し出された文を顔にくっつける程に近付けて目を通される。届いていた文は二通。

 どちらも越前からの文であった。


 「やはり、な。それにしても情けない。危機管理意識が無さ過ぎる。当主自ら屋敷を留守にして遠出をするとは。疑ってくれと言わんばかりだな。」

 「どうなさるおつもりでしょうか?」

 「最初に決めた通りだ。敵は潰す、家は残す」

 約束さえ守って頂けるなら、何も問題は無い。

 それに私は大切な人を害されそうになって、許せるほど人間が出来てはいないのだ。

 ましてや月と言う娘から、父親を奪おうとする輩。許せる筈もない。


 「しかし、頭が痛いわ。未だに汚れ役を任せられる知恵者がいないという事がな。俺が直接指揮をとらねばならん」

 「明智殿では?」

 「駄目だ。あいつには軍配者という役目を期待している」

 溜め息を吐きながら、首を左右に振られる二郎様。

 文はその場で燃やされた。残しておく必要が無いという事だろう。まず有り得ない事だが、奪い返された日には彼女達の命が危うい。


 「夕餉はまた一緒に取ろう。その前に仕事を済ませてくる」

 「はい。月とお待ちしております」

 「ああ、頼んだぞ」



永禄二年(1559年)十月、近江国、堅田、杉谷善住坊―



 文に書かれた約束の寺。そこに俺は来ている。

 というのも、石山本願寺のさる坊官より密命を受けたからだ。

 『加賀武田家当主、加賀守信親を暗殺せよ。協力者と堅田の寺で待ち合わせだ』と。


 種子島と見破られぬよう布で包み、約束の寺に到着したのは三日ほど前。

住職は『罰当たりを地獄へ落とす御手伝いが出来るとは光栄な事』と俺に般若湯を振舞って来た。

 殺しを生業とする俺が言うのもおかしな話かもしれぬが、本当に罰当たりなのはどちらなのかと、心の中で首を傾げてしまったわ。


 「お待たせ致した。杉谷殿」

 住職に案内されて入室してきたのは、顔を隠した武士だ。

 ドサッと音を立てて腰を下ろす。かなりの重さを感じる音だ。それなりに体を鍛えているのだろう。

 それに声の落ち着きからすると、それなりの年に思える。

 僅かに覗く目元には、微かな皺。やはりそれなりの年だな。

 

 「杉谷と申す。それで加賀守信親を殺せ。御間違いないかな?」

 「そうだ。奴は今、尾山御坊にいる。本願寺ならば、地の利にも詳しかろう。あの小僧は晩秋になれば年始の評定に参加する為に越前に来るが、守りが厚い。そこを狙うのは酷だろう」

 「……まあ、一向宗の寺に聞けば、詳しい事は教えて貰えるだろうな」

俺は畿内が活動範囲だ。加賀になんて、一度も向かったことは無い。そもそも畿内は戦が多い上に、種子島の鍛錬にも時間を割かねばならない。そうそう意味も無く、遠出なんてしている暇は無いのだ。

 だから知らぬのは当たり前なのだが、相手はそうは思っていなかったようだ。

 心底、不思議そうに問い掛けてきた。


 「同じ本願寺なのだろう?知っているのではないのか?」

 「それはそうだが、俺は加賀には初めて向かうのだ。尾山御坊になんて出入りした事すら無い。まあ、引き受けたからには、仕事はしっかり終えてみせる」

 「そうか、ならばよい。あの盲の小僧を確実に始末するのだ。成功したら、この寺に使者を出せ。そうすれば儂に報告が届く。対価はその時に、ここの住職から貰ってくれ」

 「心得た」

 男はすぐにここを立ち去った。あまり長居は出来ない立場という事か。

 間違いなく、あの男は武田家の者なのだろう。

 堅田に長居は出来ず、加賀守を盲の小僧と吐き捨てる。更には加賀守が評定に出るという行動予定も知っていたからな。

嫉妬、或いは逆恨みと言った所か。

 そして本願寺と秘密裏に手を結んだ。


 「……愚かな男だな。今回の件を利用して、自分が脅されるような事態を考えておらんとはな」

 今頃、本願寺の手の者が後をつけている事だろう。どこの誰か、正確な情報が分かれば幾らでも利用できる。

 戦の最中に裏切らせて、武田家当主を背後から襲わせる事も可能だろう。

 こうも簡単に弱みを握らせるような隙を晒すとは、武田家も大したことは無いという事か。

 いや、有能と無能の差が激しいだけかもしれんな。まあ、俺には関係ない事だ。

 

 障子を開けると、少し涼しい風が吹き込んできた。

 出来れば雪が降る前に片を付けたい所だ。あまりに遅くなると、成功しても雪のせいで逃げられなくなるかもしれん。かと言って春を待つために加賀で冬を越していると、玉薬が湿気る可能性が有る。

 加賀守は年始の評定の為に、雪が降る前に越前へ来る。しかし、警護の兵が多いのは間違いない。だが問題は草の存在だ。その目を掻い潜って狙うのは、確かに厳しそうだ。


 まずは加賀へ向かってみるか。狙えそうな機があれば狙う。

 もし無ければ、不本意ではあるが加賀で越冬も視野に入れるか。ただ加賀に一向宗の寺が残っていれば、の話だがな。破壊されていても不思議はないからな。

 その場合は、能登か越中の適当な寺に転がり込むとしよう。飯と寝床ぐらいは何とかなるだろう。


 そうと決まれば、行動だ。

 なるべく船で北上して少しでも時間を稼ぐ。そこからは馬だな。幸い、武田領は関が無いお陰で、見咎められることは無い。

 「住職!済まないが船の手配を頼む!今から出るぞ!」


 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 とりあえず平定の終った加賀では、内政モードに移っております。

 基本は藤吉郎が馬車馬のように働く訳ですがw藤吉郎の役割は内政面における前線最高指揮官のような物なので、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。

 防衛に関しては、能登方面は柴田勢。こちらは前田利家&佐々成政コンビがついてます。

 金沢城火部隊は、虎盛さんに三郎太。ここに明智や竹中がいます。

 越中方面は、消去法で残り一人。小畠家の当主殿になります。


 その一方で、主人公は対軍神を想定しての基本骨子案の相談。加えて一向衆勢力を搦め手から弱める為に、穏便に宗旨変えを目論んだりしています。

  

 乳母に関しては、現代日本の価値観や知識が炸裂してます。

 珍しく感情優先な主人公。ただ乳母という存在自体に価値を見出していない訳では無いので、状況に応じて対応していくという考えです。

 もしゆきが母乳の出ない体質であったら、間違いなく乳母を探しておりました。


 そしてその裏で進む暗殺計画。

 主人公陣営:当主自ら暗殺頼みに屋敷を不在?マジか?

 本願寺陣営:カモがネギ背負ってやってきやがった!しゃぶりつくしてやるぞ!

 挑戦者陣営:やる事やったし、あとは果報は寝て待てだ!

 S谷Z住坊:もうちっとマシな情報寄こせよ。上からの命令だし、やるしかねえか。


 貧乏籤はS谷さん。上司が碌なもんじゃねえw


 ちなみに史実における彼の信長暗殺事件は、約20mほどの距離からの狙撃だったそうです。割と近距離だったんですね。多分、撃ったら成功したか確認せずに一目散に逃走したのでしょう。そうしないと確実に捕縛されるしね。

 それを考えると、シモ・ヘイヘがいかに化け物だったのか、よく分かります。

 スコープ無しで300m頭部ピンポイント狙撃、450m狙撃ですからね。

 弾丸の形状による命中補正を考慮しても、狂っているとしか思えません。


 それでは、また次回も宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  段落のスペースが取れないとのお話。もしかして、改行になっていないからではありませんでしょうか。
[一言] 史実では「今川傘下の人間に仕えていた新参の成り上がり者なのに妙に信長に気に入られているよく判らん奴」だったから警戒と不快の念を抱いていた権六殿ですが、 この世界ではそもそも藤吉郎の方が先に信…
[良い点] 勝家と藤吉郎が仲良しな事。 [気になる点] 当主自ら暗殺頼みに屋敷を不在 ・頼みにいける人が他にいないのでは? [一言] S谷Z住坊をヘッドハンティングしませんか? 読む限りチャレンジャー…
感想一覧
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