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雷鳴編・第二話

 雷鳴編・第二話、更新します。


 今回は摂津国(堺)が舞台になります。


 本当は暴嵐編のラストにすべきかどうか迷ってました。

永禄九年(1566年)七月、摂津国、堺、納屋、今井宗久――



 『出汁の素、売ってるんだろ!?』

 『私は三袋!』

 『俺は五袋だ!早く売ってくれよ!』

 吉日であった昨日。私の納屋を筆頭に売り出した、格安の出汁の素。

 天王寺屋より二割ほど安い価格。加えて堺では天王寺屋しか販売していなかったおかげで、値を下げ、私に就いた全ての店で一斉に売り出したのが功を奏しましたね。

 店の者に確認させましたが、天王寺屋からは客が消えていた、という事。つまり品薄状態の天王寺屋に、客は見切りをつけたと言う事になります。


 ……心に染みわたる、一服の茶。

 何と美味しい茶である事か。これほどに美味しい茶、生涯を通じて初めてのように思えます。いや、間違いなく初めてでしょう。

 天王寺屋は先代(津田宗達)は会合衆全てを犠牲に、自分の事ばかりを考えた身勝手な男でした。当代(津田宗久)は実力不足の若造。何せ日向守(三好長逸)様の御命令、その裏に隠されていた真実に気づく事なく、今に至るのですから。


 出汁の素に対して、懸念が無かった訳では無いですけどね。

 一つは材料である昆布の入手手段。納屋は武田領の湊から締め出されていますからね。そこで私は最初に、番頭を務めていた源一郎さんに独立させ、納屋ではないという建前で蝦夷地と交易して急場を凌ぎました。そして時を経て新たに得た船で、今度は堂々と納屋の船として蝦夷地と交易を開始。

 ただし、こちらは南回り。北の海は長門国から越中国まで武田領。湊を使わずに、なんて不可能ですから。ですが南なら話は違います。紀伊国から相模国まで。北の海よりは遥かに距離が近いという利も有ります。加えて日向守様は、小田原北条家を御気にかけておられますからね。そういう意味でも重要なのです。


 「……確かに嵐に遭いやすい危険は有りますけど」

 それでも勝算は有り。私はそう判断しました。

 南蛮の船は、荒れ狂う海を乗り越えて日ノ本にまで来ているのです。あの盲は、その船を真似、更に和船の技を組み合わせた。つまりは南蛮船以上の船である。そう判断して間違いはありません。

 であるのなら、幾ら嵐に遭い易いと言っても、乗り越える事は叶うでしょう。それに日ノ本の嵐が、南蛮から日ノ本までの間に遭うであろう嵐よりも、遥かに強いとは思えませんからね……おっと、ついつい考え込んでしまって、茶を飲み干していた事に気づきませんでした。すぐに茶を点てねば……


 シャカシャカという茶筅の音。この音も実に素晴らしい。心が洗われるようです。

 再び茶を口に運ぼうとし、何となく茶室から外を見やりました。

 方向は北西。それは第二の懸念を私に思い起こさせました。


 「……まさか本当に二度目。それも『狗追物』と称して……」

 正直に認めるしかありません。私も二度目の焼き討ちまでは考えていました。

 ですが現実はそれを超えてきたのです。ええ、認めましょう。まさか逃げ惑う人間を、種子島の練度を上げる為に使うとは。

 それも騎馬武者に種子島を使わせる、という考えもしなかった方法で。何でも『竜騎兵』と称されているようですが、この話は三好家にも動揺を齎しました。


 三好家の当主派は純粋に感嘆していたとの事。特に騎馬武者に種子島を持たせる、というのが考えもしなかった、と。特に弾正(松永久秀)様は『亡き聚光院様の面目も保たれた』と喜ばれていたとか。

 ……そうなんですよねえ。御山(比叡山)の坊主は、民草からの寄進で建て直せ、という沙汰を無視したのですから。今更ですが、武田家と三好家、双方に喧嘩を売ってしまった事に、遅ればせながら気づかされましたよ。私も酒食に溺れている事を口実に、とは考えていましたが……

 自分の見立ての甘さ。それを苦々しく思いながら、茶に口をつけます。きっと今の私の眉間は、皺が寄っているでしょうね。

 

 そして日向守様を始めとする反当主派は、天台座主様を撃ち殺した盲(武田信親)の蛮行を許してはならぬという者と、今は抑えるべきであるという者とに分かれて紛糾。結果として万里小路家を動かして、朝廷に非道を訴えるという手段に出ました。

 朝廷も揉めに揉めていると聞きますが、あの盲は主上のお気に入り。朝廷がどう転ぶかは判断が難しい所です。

 加えて盲の御正室(御春の方)様は腹に子がいるとの事。ここで呼び出すような真似、主上が御認めになられる訳がありません。やるとしても暮れになるでしょう。あの盲、毎年、暮れになると目々典侍様に御挨拶に来るのですから。そこで問い質す、というのが一番の手段でしょうね。


 「何としてでも武田家の勢いを弱めねばなりません。そういう意味でも、万里小路家には励んで戴かねば。東宮殿下が次代の主上となれば、武田家に対する朝廷の姿勢も、今よりは厳しい物になる筈。そうなれば三好家はますます重用される」

 納屋としては、今後も万里小路家を支援。朝廷内で万里小路家寄りの勢力を拡大して戴きたい所です。

 邪魔になるのは武田家寄りの一条家、三条家、飛鳥井家辺りでしょうか。名跡復活の御話のある鷹司家は武田家寄りの太閤(近衛稙家)殿下と上杉家寄りの関白(近衛前久)殿下の近衛家と繋がりがあります。

 となれば、太閤殿下がいなくなれば近衛家は上杉家寄り。少なくとも武田家寄りでは無いと言えます。となれば鷹司家に婿入りする御方を、万里小路家側から選び出すように仕向ける事で、鷹司家を万里小路家側にする事が叶います。


 「これは日向守様や権大納言(万里小路惟房)様に御知恵を絞って戴きたいですね。武田家寄りは最悪ですが、九条家から、となるとそれはそれで面倒な事になるでしょうし……私からも権大納言様に御目通りをした際には、それとなく欲を刺激させて戴きましょうか。あの御方は欲深い。狙い通りに動いて下さるでしょう」

 九条家。五摂家の一つであり、今は落ちぶれている御家。

 問題は、九条家は三好家当主派である事。何せ今の御当主(三好義重)の母親は、九条家の出なのですから。

 ここで鷹司家が九条に染まるのは、最悪ではありませんが、次の事も考えねばならなくなります。日向守様が決起なされた時に、九条家が鷹司家とともに朝廷内で日向守様の非を鳴らす事になるでしょう。


 ……さて、もう一服……

 再び茶を点てようとした時でした。

 店の者が急報を告げに来たのです。



永禄九年(1566年)七月、摂津国、堺、天王寺屋、田中与四郎――



 「……それにしても大した御方だ、ここまで全て絵図面通りなのであろうな」

 「さあ、何の事やら」

 「……腹芸も加賀仕込みか」

 ギロッと睨んでやった先には、素直には認めたくない男――富士屋長次郎の姿が有った。

 武家の癖に商人の真似をしている、加賀の草。俺の嫌味を平然と受け流し、笑いかけてくる余裕を見せる程の胆力を持つ男でもある。

 そんな小憎らしい男は、俺の肩を軽く叩いてきたのだ。


 「さて、そろそろ手伝いに入りましょうか。ただ見ているだけ、では芸が無い」

 「まあ良いだろう。天王寺屋だけでは人手不足だからな。あまりにも客が多すぎる。というか、何かやったな?」

 「勿論。だからここまで客が押しかけて来ているんですよ」

 腕まくりしながら、天王寺屋の売り場に出ていく富士屋。その後ろに俺も続く。それに気づいた神輿(津田宗久)が『師匠!?』と驚いていたようだが、富士屋は『手伝おう』と言って平然と客対応を始めたのだ。

 富士屋が自分の店を放っておいてまで堺に居たのは、全て段取りをつけてあったから。店の者に任せて大丈夫だ、と。それはそうだろう、富士屋の担当は北陸なのだ。向こうには太宰大弐(武田信親)様もおられるし、他の草もいる。人手に困る事は無いのだ。

 俺の方も似たような物だ。俺の担当は摂津国以外の畿内。この策を聞いてから、しっかりと準備は進めておいた。というか、俺の体は一つしかないのだから、俺がいなくても大丈夫なように計画を立てる以外に無かった、というのが真実。故に俺は、こうして堺にいられたのだ。


 『アサリ味をくれ!』

 『シジミの奴、二袋くれよ!』

 『海老を頂戴な。数は三つで!』

 『山鳥も有るんだって?それくれよ!』

 ……そう、太宰大弐様は出汁の素に『味の違い』を付け加えられていたのだ。まずは四種類から開始。更に種類を追加していく予定だとか。

 御話によれば鯛・鰹・鹿も試しに作らせているとか。出来れば蟹も実行したい、とか仰せになられていたな。確か若狭の海で蟹が獲れるとか何とか。

 純粋に食べてみたくもあるが、一人の商人としても有難い限り。とと屋としても、武田家に寄ったのは間違いなかったわ。


 ……天王寺屋は気づいていないようだが、摂津国だけの利と、他四国の合計した利は後者の方が利が大きい。そして太宰大弐様は前者を天王寺屋、後者をとと屋の担当とお決めになられた。

 それは天王寺屋は最終的に、武田家よりも三好家を取る、と御判断なされておられると言う事だろう。故に天王寺屋には、あまり利を得させたくないのでは?俺はそう考えている。

 ……口に出すつもりは無いがな。忠告する程の義理は無いし、富士屋が言わぬのだから俺にも義務は無い。何より、太宰大弐様の御怒りを買うような無能ではないのだ、俺はな。


 額に汗を流して商いを手伝う事、半刻ほど。

 何気なく外を見ると、そこには見知った顔が。

 思わず笑いだしてしまった!ざまあみろ、その顔が見たかったんだ!


 「とと屋さん、どうしました?」

 「富士屋、外だ外」

 「……おやおや、珍しい物見がいたな」

 瞬間、富士屋も笑い出した。それも腹を押さえて大爆笑。

 それはそうだろうな、何せ外に居たのは納屋(今井宗久)だったのだから。それも顔を真っ赤にして、だ。

 そうだろうなあ。昨日の出汁の素の販売開始で、客を全て奪う事に成功した、と天狗になっていたのだろう。それが、この有様となればなあ?お前の気持ち、分かるぞ?だから、もっとお前を嬲ってやろう。


 「さあさあ、焦らないで!商品は沢山あるよ!値段は据え置き!今まで通りのお値段で、好きな味を選べるよ!」

 客の大歓声。だろうなあ、俺も客だったら、間違いなく喜んでいた。

 客の対応をしながら、つくづく太宰大弐様は敵に回してはならぬ、と強く心に刻み込む。

 わざと遅れて、新しい商品を値段据え置きで販売を始める。納屋がこの意味を本当に理解しているかどうかが、とても気になる所だ。


 それから更に一刻程。客が少し減った所で、やっと店に入って来た納屋。顔だけでなく、袖から覗いている手足まで、怒りと羞恥でタコのように真っ赤。

 ここまで来ると、笑いを堪える方が無理というもの。いや、抑えるつもりなど欠片も無かったから、わざと指を指して大笑いしてやった。

 納屋はギリギリと歯軋りしながら、それでも堪えている。だが、まだだ。お前も俺の感じた、太宰大弐様に対する恐怖を味わうべきなのだ。


 「……どういう事だ、富士屋長次郎!」

 「どういう事も何も、新しい商品を売り出しただけの事。それの何が悪いのかな?偶然にも、そちらに一日遅れで売り出しただけ。そうでしょう?」

 「そうか、こちらが値を下げて売り出す。そこまで読み切っていたと言う事か!」

 怒髪天の納屋。周囲の客は後ずさっている有様。

 普通に考えれば商いの邪魔なのだが、ここはわざと見逃す。納屋には多くの者達に醜態を晒して貰い、それを見物人に噂として広めて貰う為だ。

 それも只の醜態ではない。商人として、屈辱以外の何物でもない醜態を。太宰大弐様の怒りの策謀、その恐ろしさを実感させる為に。


 「問題は無いでしょう。私達は新しい商品を売る。そちらは真似した従来の商品を売る。ただ、それだけ。今後も仲良く棲み分けていきたい物ですね」

 「どういう意味だ!」 

 「分かりませんか?こちらの値段が据え置きなら、そちらは絶対に値上げ出来ないでしょう?」

 愕然とする納屋。離れた所で小さく笑う神輿。再度、わざとらしく指を指して大笑いしてやる俺。

 そうなのだ。値段が近づき過ぎれば、向こうの客が減ってしまう。値がほとんど同じなら、より良い物を買うのが客なのだ。

 故に向こうは値上げ出来ない。やれば商品が売れなくなってしまう。


 「値段に差が有れば、銭を出しにくい人は全てそちらで買うでしょう。こちらで買う為の銭を惜しむからです。だから棲み分けと言ったんですよ」

 「……もしや、こちらに押し付けると言う事か!」

 「御名答。あの御方は本当に恐ろしい御方ですよ。利の大きい御客はこちらに。小さい御客はそちらに。そして我々は御礼として矢銭を納めさせて戴く。それがあの御方の利。その為に、わざと材料を明記するように命じられたのです。私が今後も仲良く棲み分けていきたい、と言った理由が分かるでしょう?」

 これを初めて聞いた時、大笑いしかけた事を思い出すわ。

 要は貧しい客は納屋にくれてやれ、という悪辣極まりない策であったのだ。その為にも、納屋はわざと潰さぬ必要がある、と。そして欲を刺激してやる必要もある、と。

 だが、それだけではない。それだけでは済まなかったのだ。


 「確かに客数自体は減るでしょうね。それは認めます。ですが日ノ本全体で判断すれば、見方が甘いと言わざるをえません。出汁の素は昨年から売り始めましたが、まだまだ、存在その物を知らない方も多々います。そういう御客を囲い込む為にも、会合衆には励んで戴きたい物です」

 「まさか、会合衆に日ノ本全てに店を出せ、と?」

 「出さずとも構いませんよ。それなら我々が従来品も取り扱うだけ。ですが、取り扱わないと会合衆側が苦しむ事になる」

 まさに悪鬼のような策謀。太宰大弐様の御知恵は、あまりにも悪辣すぎた。

 今まで堺の出汁の素で得られた利は、天王寺屋が独占していた。それを今回の件で会合衆側が削った訳だが、そこに落とし穴が掘られていたのだ。

 仮に会合衆側が半分の利を奪ったとしよう。ではその利を、誰かが独り占めできるのか?それとも山分けするのか?あの御方は、そこまで考えておられたのだ。


 前者なら、下に就いた店が反乱を起こす。故に心配はいらぬ、と。

 後者なら、実際に手元に残る利が少なすぎる、と不満に思うと。それはそうだろう。山分けと言えば聞こえは良いが、一人当たりの利は減るのだ。

 納屋に頭を下げて、必死に励んでこれだけか?と。ではどうするべきか?答えは一つ。堺の外で販売を始めるしかない。


 ただ、店を出すにしても銭がかかる。

 その銭を工面したとしても、かかった銭を回収し終えるのに、どれほどの月日がかかる?

 その辺りを考慮すれば、日ノ本全土は諦める。畿内の国々と丹波国辺りが落とし処になるだろう。向こうは会合衆として名を列ねる店が多いからな。適当に出してしまうと共食いになりかねない、という危険もある。つまり会合衆同士でも棲み分けが必要なのだ。


 「まあ、お互いに商いに励みましょう。こちらはともかく、そちらは更に苦しむ事になるでしょうから」

 「……何を、言っている?」

 「あの御方は気づかれておりますよ。納屋さんが別の名前で店を起して、北の海を使っている事を。そして新しい船で、南の海経由で蝦夷から昆布を取り寄せている事を」

 ギョッとしたような納屋。気づかれているとは思ってもいなかったのだろう。まさに脇が甘い。太宰大弐様は、子飼いの草がいる事でも有名だ。加えて武田家には伊賀甲賀が与しているという話もある。

 つまり調べようと思えば、幾らでも調べられたのだ。それどころか、あの御方は知恵者でもある。納屋が別の名前で店を出す、というのは最初から想定しておられたのかもしれぬ。もしそうなら、手ぐすね引いて待ち構えていただろう。

 しかし、気になるのは新しい船、という言葉。こちらの神輿が頭を丸めた経緯については聞いていたが、やはりこうなると三好家の日向守様と手を組んでいた、という事であろうな。


 「嵐の時季に南の海を湊を使わずに強行突破。無茶をした物ですね。あの御方の口癖を教えて差し上げましょう。人こそ宝である、と」

 「何を、言いたいのだ!」

 「熟練した水主は、そう簡単に補充が出来ません。故に人こそ宝。加賀の御方と、友野屋さんから聞きましたよ。何でも伊豆に流れ着いた数人の水主の話を。新しい船が、嵐に遭って沈んでしまった。他の船も嵐の中でどうなったか分からん、と」

 ああ、やっぱりだ。俺の考えは間違っていなかった。

 あの時に下賜された絵図面の入った箱。恐らく、絵図面その物に罠が仕掛けられていたのだ。

 十中八九、普通に使うには問題無いが、嵐に遭えば致命傷となるような罠が。だから武田家から買え、と仰せになられたのだ。そして天王寺屋が無罪放免となったのも当然だ。何せ、新しい船は『三好家水軍』にも伝わっているのだから。つまり全ての戦船が置き換わってしまえば、嵐の時季に全滅する事になりかねぬ。あの御方にしてみれば、笑いが止まらなくて仕方なかっただろうな。


 納屋は……今度こそ、愕然としていた。かろうじて己の足で立っていたが、それも気力だけ、という感じだ。周りで見ていた客達が、つい同情してしまいたくなる程の哀れさだ。

 沈んだ船が何艘かは分からぬが、相当な損害になるのは間違いない。

 同時に、改めて太宰大弐様の恐ろしさを思い知らされてしまった。


 納屋は潰れぬ。別名義での北の海が残っているからだ。

 故にそちらを使って生き延びる事を模索するだろう。そうすればかろうじて、店の存続が叶うからだ。

 だが、運ばれてくる昆布は減ってしまう。それは材料費が嵩む事と同義。にも拘らず値上げは出来ぬ。ならば利を減らして同額のまま売るしかない。それはより、苦しむ事を意味しているのだ。納屋に与した店からの突き上げも、今まで以上に厳しくなるだろう。まさに生き地獄。文字通り、生かさず殺さず出汁の素漬けと言った所か。


 仮に取り扱うのを止めたらどうなるか?

 今回の損害の穴埋めに、いつまでかかるのか?それが分からぬ上に、堺の町衆からの不満が一気に納屋に向かうだろう。俺達の期待を裏切るのか、と。

 他の会合衆も納屋に愛想をつかすだろう。いや、潰れてしまう店も出てくる筈だ。となれば、遅ればせながらに裏切る者達も出てくるだろうし、納屋は会合衆から追放という憂き目に遭うだろう。


 ……ああ、いつかどこかで聞いた話を思い出してしまった。国を舞台にして、今荀彧に勝てる者はいない、と。

 納屋はあの御方の用意していた舞台に姿を見せてしまっていたのだ。故に負けた。いや、骨の髄までしゃぶられる為に、無理矢理生かされたのだ。

 貧しい民草にまで出汁の素を広める為の『道具』として。


 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは摂津国(堺)。今井宗久視点より。


 【品薄状態】

 今まで堺では天王寺屋だけが販売していたので、品薄状態になるのは当然ですね。そこに二割引きで同じ商品が出て来ればどうなるか?御客の流れが一気に変わる事になります。

 という訳でホクホク顔の宗久さんでした。


 【南回り】

 戦国時代にはほとんど使われていなかったルート。理由は嵐で沈没するから。

 なので湊から湊へは必須条件。

 だけど、と考えたのが宗久さん。まあ当時の日本人にしてみれば、南蛮船は頑丈その物でしょうからね。船足も早いし。


 【三好家】

 長慶さんの三回忌を前に、本格的に分裂してきた感じです。

 特に長逸さんにしてみれば、新しい船を手に入れて、納屋経由で大筒を輸入して、これで武田家ぶっ潰したる!と天狗状態。


 次も摂津国(堺)が舞台。田中与四郎視点より。


 【味の違い】

 現代人知識があれば、改良するなら、こうなるよね?という感じです。

 貝は身を乾燥させてから粉末に。

 海老は身も粉にするけど、殻も粉末に。ちなみに殻はオーブンで焼いて粉末にすると、料理の隠し味に使えるそうです。

 山鳥は肉は乾燥させて粉末。骨は砕いて煮だして、煮詰めて、粉末に。


 【ざまあみろ】

 という訳で久しぶりのざまあ展開。以下、ネタ晴らしが続きます。


 【罠】

 これのネタ晴らしは、次回の予定。

 加賀で主人公に解説させます。


 【嵐の時季に全滅】

 それ以前に、瀬戸内海だと鳴門の渦潮に堪えられるのかなあ?と……日本の瀬戸内海って、世界レベルで見ても、異様な程に難度の高い海域だそうです。

 そこを小舟で行きかっている姿を見た外国人(多分、明治維新前後)は、ドンびいたらしいです。


 【道具】

 殺しはしない。だって武田領じゃないし、攻め込めないし。

 だから宣言通り、銭の力で堺を降すね?を実行した主人公でした。


 それでは、また次回も宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
「日本の瀬戸内海って、世界レベルで見ても、異様な程に難度の高い海域だそうです」 だからこそ村上水軍他の海賊衆が関銭の代わりに案内料を取る水先案内として活躍できたそうです。
随分前の話の謎がようやく解消されましたね。納屋も主人公や武田家を敵に回したのを今更ながら、死ぬ程後悔してそうですよね。 というか、納屋は何故、主人公や武田家を死ぬ程、目の敵にしてたんでしたっけ? …
 欠陥設計図を敵に与える策の悪辣さよ。船大工に知見があれば、建造中に修正するんだろうが、そこまでの船大工は居なかったようだな。それも計算のうちか。凄いなぁ。せっかく訓練した貴重な水夫を失い、莫大な建造…
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